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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻5号

2022年05月発行

雑誌目次

特集 直腸癌局所再発に挑む—最新の治療戦略と手術手技

ページ範囲:P.503 - P.503

 近年,高齢化に伴い直腸癌が増加している.他癌腫と比べても,外科的切除の効果が高い大腸癌であるが,直腸癌手術においては,術後局所再発という大きな問題点を抱えている領域でもある.ひとたび局所再発を起こすと,他の遠隔転移と比べても著しく患者のQOLを損なう場合が多く,そのマネジメントは外科医にとって必要不可欠である.一般に外科的切除のみでの治療成績は悪く,集学的治療が必要となる場合も多いが,一概に局所再発と言っても,再発部位や前治療の影響など多種多様で,その治療方針の選択に難渋することが多い.最近では薬物療法の進歩や重粒子線治療症例の蓄積など,外科的切除以外の治療モダリティの効果やメリット・デメリットについての知識も,外科医がアップデートしておく必要がある.

総論

直腸癌局所再発の疫学

著者: 塚田祐一郎 ,   伊藤雅昭 ,   池田公治 ,   寺村紘一 ,   長谷川寛 ,   北口大地 ,   西澤祐吏

ページ範囲:P.504 - P.509

【ポイント】
◆直腸癌術後の局所再発率は依然として低くない.
◆直腸癌局所再発術後の局所再再発の抑制が重要である.
◆JCOG1801を含む3つのランダム化比較試験が世界で進行中である.

直腸癌局所再発の画像診断

著者: 桑原宏文

ページ範囲:P.511 - P.513

【ポイント】
◆直腸癌術後の局所再発に対しては早期発見が肝要であり,正確な画像診断による評価が求められる.
◆造影CT検査だけでは不十分であり,定期的な経過観察にMRI検査の追加を検討する必要がある.
◆PET/CT検査も再発診断の一助となるが,検査費用や放射線被曝の問題がある.

局所再発直腸癌の治療方針—臓器温存手術や遠隔転移併存症例の手術適応も含めて

著者: 村田悠記 ,   上原圭 ,   小倉淳司 ,   杉田静紀 ,   渡辺伸元 ,   砂川真輝 ,   尾上俊介 ,   宮田一志 ,   山口淳平 ,   水野隆史 ,   伊神剛 ,   國料俊男 ,   横山幸浩 ,   江畑智希

ページ範囲:P.514 - P.519

【ポイント】
◆局所再発直腸癌の治療ではR0切除がきわめて重要であり,R0達成のためには拡大切除を躊躇すべきでない.
◆尿路機能温存のためには,少なくとも片側の骨盤神経を温存する.また膀胱後屈を避けるため,腸管再建や骨盤充塡術の施行が望ましい.
◆切除可能同時性遠隔転移を伴う症例も手術適応としている.ただし,切除の順序やタイミングは慎重に考慮すべきである.

直腸癌局所再発に対する薬物療法

著者: 西村在 ,   山崎健太郎

ページ範囲:P.520 - P.523

【ポイント】
◆切除可能な直腸癌局所再発に対する標準治療は外科切除である.欧米では周術期治療として術前化学放射線療法(CRT)や術後薬物療法が標準的に行われているが,明確なエビデンスはない.本邦で術前CRTの有用性を検証する第Ⅲ相試験が進行中である.
◆切除不能例であっても腫瘍縮小によりR0切除が期待できる場合には,局所制御効果が期待できるCRTは治療オプションとなり得る.
◆切除不能例に対しては,切除不能大腸癌に準じた全身薬物療法が行われる.

直腸癌局所再発に対する重粒子線治療

著者: 瀧山博年 ,   山田滋

ページ範囲:P.524 - P.528

【ポイント】
◆2022年4月より,「手術による根治的な治療法が困難である局所大腸癌(手術後に再発したものに限る.)」について保険収載されることとなった.
◆局所制御効果に優れ,X線治療の既往がある症例にも治療可能である.
◆従来,消化管近接例は治療対象外としていたが,吸収性組織スペーサー留置術が保険適用となりより多くの症例に対して治療可能となった.

直腸癌術後局所再発に対する陽子線治療

著者: 村上昌雄

ページ範囲:P.530 - P.535

【ポイント】
◆直腸癌術後局所再発に対する陽子線治療は2022年4月から保険診療化された.
◆陽子線治療はX線治療と比較して,有害事象を増加させることなく治療効果に優越性がある.
◆腫瘍が消化管・膀胱に隣接している場合,スペーサ手術後の陽子線治療が有効である.

直腸癌局所再発に対する緩和医療

著者: 蓮尾英明

ページ範囲:P.537 - P.540

【ポイント】
◆直腸癌局所再発時は早期からの緩和ケアを検討し,苦痛への対処,先を見据えたケア,コーピング(対処)に取り組む.
◆癌陰部神経痛などによる会陰部痛は難治性に移行する可能性があり,タペンタドール,メサドンなどのオピオイド鎮痛薬を用いて,早期から鎮痛を図る.
◆直腸テネスムスに確立した治療法はないが,原因に対する治療,薬物療法,多職種によるケアにて症状緩和を図る.

手術各論

開腹骨盤内臓全摘術

著者: 日野仁嗣 ,   塩見明生 ,   賀川弘康

ページ範囲:P.541 - P.546

【ポイント】
◆術前画像検査に基づいて過不足なくR0切除を達成できる術式を立案することが最も重要である.
◆術中解剖におけるメルクマールを確認しながら手術を進めることが重要である.
◆安全な手術のためには,骨盤内出血コントロールの技術習得が必須である.

腹腔鏡下骨盤内臓全摘術

著者: 木村慶 ,   池田正孝 ,   竹中雄也 ,   宋智亨 ,   馬場谷彰仁 ,   片岡幸三 ,   別府直仁 ,   内野基 ,   池内浩基

ページ範囲:P.547 - P.555

【ポイント】
◆骨盤内臓全摘は患者に高い侵襲を与えるため,R0切除可能かの判断と手術計画が患者のQOL,予後を左右する最も重要なポイントである.
◆腹腔鏡下で骨盤内臓全摘を行う準備として,側方リンパ節郭清術の際に内腸骨血管,坐骨神経,内閉鎖筋,肛門挙筋,Alcock管などの骨盤解剖を意識した手術を積み重ねていく訓練が必要である.
◆高齢など,全身状態に不安のある患者では側方リンパ節郭清を省略し,内腸骨血管の臓側枝の処理のみを行うことで術後合併症の軽減を図っている.
◆再発手術における骨盤内臓全摘では会陰の剝離の受けを作り,確実な側方マージン確保のためにtaTMEが有用である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年5月末まで)。

taTMEの手技を用いた骨盤内臓全摘術

著者: 野中隆 ,   富永哲郎 ,   石井光寿 ,   小山正三朗 ,   森山正章 ,   澤井照光 ,   永安武

ページ範囲:P.556 - P.564

【ポイント】
◆経肛門アプローチの利点を活かした直腸癌拡大手術の実際を紹介する.
◆経肛門的全骨盤内臓全摘術(taTPE)では尿道,DVCの処理を最適な距離で施行でき,出血量を減らし手術時間を短縮しうる.
◆経肛門的後方骨盤内臓全摘術(taPPE)では腟管の離断を経腟操作にて行い,傍腟組織の処理が容易になる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年5月末まで)。

ロボット支援下骨盤内臓全摘術

著者: 岩田乃理子 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.565 - P.571

【ポイント】
◆膀胱前腔でのdorsal vein complex(DVC)処理など狭い空間での結紮や止血操作が必要な術式であり,ロボット支援下の特徴である多関節機能や術野の安定性が有効である.
◆難易度が高くかつ患者のQOLを大きく左右する術式であり,患者の耐術能評価や腫瘍の進展状況を見極め,術式が適切かを慎重に判断すべきである.
◆術者/チームとしての習熟度に応じた症例の選択と,必要に応じて躊躇なく開腹手術へ移行する心構えが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年5月末まで)。

仙骨合併切除を伴う骨盤内臓全摘術

著者: 山田一隆 ,   佐伯泰愼 ,   高野正太 ,   福永光子 ,   田中正文 ,   中村寧 ,   濵田博隆 ,   伊禮靖苗 ,   桑原大作 ,   玉岡滉平 ,   辻順行 ,   高野正博

ページ範囲:P.572 - P.578

【ポイント】
◆直腸癌局所再発の浸潤形式は,限局型(前方再発)・仙骨浸潤型(後方再発)・側方浸潤型(側方再発)に分類される.
◆局所再発に対するTPES(TPE with sacral resection)は,限局型で9例(19.6%),仙骨浸潤型で19例(65.5%),側方浸潤型で4例(33.3%)に行われた.
◆治癒切除例の5年生存率は限局型(44例)で45.9%,仙骨浸潤型(23例)で27.7%,側方浸潤型(1例)で0%であった.

側方リンパ節再発に対する側方郭清

著者: 須藤剛 ,   林啓一 ,   佐藤敏彦 ,   飯澤肇

ページ範囲:P.579 - P.586

【ポイント】
◆直腸癌の側方郭清適応症例では約20%に側方リンパ節転移を認めており,主要な転移経路の1つである.
◆直腸癌局所再発はR0手術が予後に寄与するが,側方リンパ節再発はR0となる直腸間膜切除断端(CRM)を最も確保しにくいため,術前化学放射線療法(CRT)などによる集学的治療も考慮しながら,CRM確保の可否について詳細に手術立案することが重要である.
◆側方リンパ節再発に対する側方郭清は,自律神経や血管合併切除を伴う拡大側方リンパ節郭清が必要な症例もあり,骨盤内の血管・神経・筋肉などの解剖を理解し,手術手技の向上を目指す必要がある.

重粒子線治療後の予防的小腸切除術

著者: 松山貴俊

ページ範囲:P.587 - P.589

【ポイント】
◆重粒子線治療の際に標的病変と腸管が接していると,被曝による穿孔や瘻孔形成が問題となる.
◆重粒子線治療前のスペーサ留置は,異物の感染など手術の合併症により重粒子線治療が遅れるリスクがある.
◆重粒子線治療後の予防的被曝腸管切除は,重粒子線治療を早期かつ確実に施行できるメリットがある.

病院めぐり

公益財団法人慈愛会今村総合病院外科

著者: 帆北修一 ,   上之園芳一

ページ範囲:P.590 - P.590

 公益財団法人慈愛会今村総合病院は,前身の今村病院分院が1984年,76床で慈愛会として鹿児島市内での2番目の急性期病院として開設されたことが始まりです.その後,内科系を中心に増床・増科(287床)してきましたが,外科が2014年に今村病院から移動した後,2017年に病棟の新増築に伴い今村総合病院と名称を変更しました.2022年2月現在,428床で32の診療科を標榜しています.病院全体で断らない医療の提供を心がけており,365日24時間体制のER・脳卒中センターを中心とする救急医療,手術・抗がん剤治療(外来化学療法室20床)・放射線治療(トモセラピー)を用いた集学的な癌診療(鹿児島県がん診療指定病院)および高度医療を提供する専門医療を大きな柱としています.臨床研修病院として初期研修医の教育や看護師特定行為研修センターでスタッフの教育を行っています.2020年以降の新型コロナウイルス感染症に対しては,感染確認者の受け入れ,発熱外来,ワクチン接種(院内での地域住民や企業を対象,大規模接種会場への派遣)等を積極的に行っています.
 外科・消化器外科の診療の基本は,鏡視下手術とがん治療を中心にした丁寧で安全・安心な高度医療の提供です.副院長兼外科・消化器外科主任部長の上之園を中心に,院長の帆北を含めて6名の常勤医で消化器を中心として甲状腺・一般外科の診療を担当しています.いずれも鹿児島大学消化器外科(旧第一外科)の教室員で,医局の連携講座となっています.

FOCUS

外科医が知っておきたい在宅医療

著者: 間嶋崇

ページ範囲:P.591 - P.594

 もともと消化器外科医であった私は,現在埼玉県所沢市を中心に在宅医療のクリニックや介護保険の事業所をいくつか運営しながら,地域のかかりつけ医の一人として毎日を過ごしています.
 最近でこそ「地域医療」という名目で研修医が「在宅医療」に接する機会が徐々に増えているものの,現在外科の主力として働いている先生方には,在宅医療はあまり馴染みのない領域でしょう.私も外科医として外来と病棟で働き,手術と検査に腕を磨いていたときは,医学的な関心事で頭がいっぱいで,患者さんを病気や治療の対象のみならず一人の人間として,その人の家での生活やご家族などの背景にまで関心を向けることはほとんどなかったと記憶しています.その後,在宅医療に関わるようになり,病院の外科の先生方にもある程度在宅医療の知識をもっていただいたほうが,患者さんのメリットになると思うような場面に多く出くわしました.現在,かなりの数の患者さんがすでに在宅医療を選択しており,また今後も確実に増え続けるであろう在宅医療について,外科医と在宅医療の両者を経験した医師の一人として,現役の外科医の先生方に在宅医療をわかりやすく説明させていただければと思います.

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・5

上縦隔腹側2—左反回神経周囲の小血管,神経小枝の処理

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.595 - P.601

食道腹側の気管支動脈と交感神経
 今回はいよいよ上縦隔での食道全周の剝離を仕上げる段階となった.臓器鞘に沿った剝離操作は食道左側および腹側に残されている.術野奥の大動脈弓内側には左反回神経と交感神経心臓枝(1本だけではない)を連絡する神経の小枝のほか,症例によってはかなり太い気管支動脈が互いに絡み合うようにみられる(図1).反回神経の近くなのでエネルギーデバイスを使いづらい一方で,動脈が絡むためシザーズでコールドカットするとたちまち血だらけの術野となってしまう.本稿での手技は,左反回神経への副損傷を避けながら,臓器鞘を貫いて入ってくる血管を確実にシールカットする,ということが重要となる.

手術器具・手術材料—私のこだわり・5

鏡視下手術用縫合器具(エンドクローズ)の応用

著者: 藤井正一

ページ範囲:P.602 - P.606

 鏡視下手術の普及により,鏡視下手術用の様々な器具が開発されてきた.その一つに,手術創の閉鎖を補助する器具としてエンドクローズTMがある.この器具はおもに12 mmポート孔の筋膜閉鎖や,腹腔鏡下腹壁ヘルニア修復術時のメッシュに固定した糸の牽引などに用いられることが多いが,筆者はこれ以外に大腸手術での視野確保に使用しており,Reduced port surgery施行時には欠かせない器具となっている.本稿では,その使用法の実際を紹介する.

臨床報告

急性虫垂炎に合併した上腸間膜静脈血栓症の1例

著者: 勝谷亮太郎 ,   鹿野敏雄 ,   山田裕宜 ,   服部圭祐 ,   丸山浩高 ,   蜂須賀丈博

ページ範囲:P.607 - P.611

要旨
症例は64歳男性.数日前からの右下腹部痛を主訴に近医受診.急性虫垂炎と診断され,抗菌薬による保存的治療を行ったが改善乏しく,当院紹介となった.腹部造影CT検査で穿孔性虫垂炎と上腸間膜静脈血栓症を認めたため,まず虫垂炎の治療として回盲部切除を行った.術後11日目のCTで上腸間膜静脈血栓が残存していたため,ワルファリン内服を開始した.術後40日目のCTで血栓の消失を認めたため,ワルファリンを中止した.その後も血栓の再発はない.上腸間膜静脈血栓症はまれな疾患だが,虫垂炎に併発することがある.その際は炎症制御目的の虫垂切除と,血栓に対する抗凝固療法が重要だと考えられる.

4年間の経過観察後に切除した盲腸炎症性偽腫瘍の1例

著者: 野々垣彰 ,   東松由羽子 ,   渡邉卓哉 ,   岩田尚宏 ,   梶川真樹 ,   渡邊和子

ページ範囲:P.612 - P.616

要旨
症例は84歳男性で,大腸ポリープに対して4年前から,2年ごとに下部消化管内視鏡検査とCTが行われていた.当時から虫垂開口部に隆起性病変を指摘され,CTで虫垂根部付近に糞石を認めていた.隆起性病変の生検結果はGroup 1であった.4年後,虫垂開口部隆起性病変の生検結果は同様にGroup 1であったが,増大傾向で,悪性腫瘍の可能性を考慮し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.切除標本では,盲腸に直径約20 mmの隆起性病変を認め,虫垂開口部は閉塞していた.病理組織学的検査で,炎症性偽腫瘍と診断した.大腸の炎症性偽腫瘍は比較的まれである.糞石の停滞による慢性炎症が原因となった可能性もあると考えられたため,文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下に整復手術を行ったISR術後の再建腸管脱の1例

著者: 小泉範明 ,   松本辰也 ,   荻野真平 ,   鎌田陽介 ,   藤木博 ,   阪倉長平

ページ範囲:P.617 - P.620

要旨
症例は76歳,女性.他院で直腸癌に対して腹腔鏡下括約筋間直腸切除術(ISR)を施行され,その7か月後に排便時の脱出感を自覚したため,当院を紹介受診された.腸管脱の診断で腹腔鏡下固定術を施行.腹腔内癒着はごく軽度で,再建腸管周囲を十分に肛門側まで剝離し,再建腸管を吊り上げてその腸間膜を仙骨前面にタッキングして固定した.メッシュは用いなかった.術後経過は良好で3日目に軽快退院となった.術後QOLは改善し,術後1年以上再発なく経過している.直腸脱に対する腹腔鏡下直腸固定術は再発率が低いとされており,これまで経会陰的手術の報告のみであったISR術後の腸管脱に対しても,腹腔鏡手術は有用な治療法の1つと考えられた.

書評

—辻本哲郎(著)—これで解決! みんなの臨床研究・論文作成

著者: 家研也

ページ範囲:P.510 - P.510

 臨床研究や論文執筆に取り組む上で,避けて通れない「壁」がある.この壁はさまざまな場面で,姿かたちを変えて繰り返し出没してわれわれの心を折ろうとする.私自身,研究に取り組み始めた当初から,数えきれない壁を経験した.研究テーマ探し,文献検索,研究計画書作成,データ収集,統計解析,論文の書き方,投稿先探し,rejectに心が折れる経験,意地悪な査読の対処,そもそも忙しくて研究が進まない! など,多岐にわたる.思い返すと,それらの場面で壁を乗り越える手助けを常に誰かがしてくれた.それは指導医・メンターに限らず,仲間,後輩,時に書籍であったりもした.このように,初心者が臨床研究を論文化するまでは手取り足取りの指導が必要な場面だらけである.
 本書は臨床医でありながら50編近くの原著論文を筆頭著者として世に送り出し,さらに多くの後輩の研究を指導してきた辻本哲郎先生による,気持ちがいいまでの「実践の書」である.臨床研究デザインや統計解析,論文作成に関する本は多数存在するが,本書の特徴を端的に表すと「身近で面倒見の良い先輩」である.研究初心者がつまずく壁一つひとつについて,具体的にステップを示してくれる.特にコラムが秀逸で,臨床研究の現場のリアルがそこにある.臨床現場の一隅で隙間時間に取り組む研究の場で,面倒見の良い先輩が失敗談やコツを共有し,曖昧だった概念の理解を助け,次に何をしたら良いか具体的に示してくれる,そんな頼れる先輩を常に座右に置いておけるような一冊である.

—下瀬川 徹,渡辺 守(監修) 木下芳一,金子周一,樫田博史,他(編)—専門医のための消化器病学 第3版

著者: 寺野彰

ページ範囲:P.536 - P.536

 『専門医のための消化器病学 第3版』が,2021年11月に上梓された.8年ぶりの改訂である.2005年4月に,小俣政男教授,千葉勉教授によって編さんされた本書は,「専門医」を対象にしたものであったから,初めからかなり高度な内容をめざしていた.その初心は,第2版そして今回の第3版へと受け継がれ,いわば消化器病学論文の集大成とでもいうべき記述で構成されている.
 執筆者も若手消化器病学者を核として,われわれのようないわば高齢消化器病学者の名はほとんどみられず,新鮮な雰囲気を醸し出している.構成も,通常みられる全体としての総論,各論ではなく,いきなり食道疾患から入っている.そのいわば各論の中で,総論と各論を論じており,ある意味でわかりやすいと言える.内容も通常の記述に加えて,「Topics」や「専門医のポイント」などが挿入され,先に述べたような論文的な要素も加えてある.これらは本書の1つの特色ともいえる部分である.

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目次

ページ範囲:P.500 - P.501

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.555 - P.555

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.624 - P.624

次号予告

ページ範囲:P.625 - P.625

あとがき

著者: 絹笠祐介

ページ範囲:P.626 - P.626

 今回の特集は直腸癌術後局所再発についてでした.局所再発を起こさないことが最も大事なことで,研修医時代の恩師の「手術するからには局所再発を起こさないようにする」という言葉を,今でも肝に銘じて手術にあたっていますが,道は険しく,いまだに修行の毎日です.局所再発を起こさない手術と同様に,局所再発の手術は,どの分野の外科医においても,最も難しい領域ではないでしょうか?

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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