icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻7号

2022年07月発行

雑誌目次

特集 徹底解説! 食道胃接合部癌《最新版》

フリーアクセス

ページ範囲:P.765 - P.765

 食道胃接合部癌が関心を集め久しい.しかしながら,いまだに学会のたびに話題として取り上げられ,診断,治療について議論されている.それは,診断法,治療法が確立されていないことを意味している.本特集ではあらためて,一般外科医向けに,最新の診断法や各種治療法を概説し,さらに術式についても解説していただいた.術式では,適応を含め論じていただき,動画も多用していただいた.

総論

食道胃接合部とは

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.766 - P.770

【ポイント】
◆食道胃接合部は陰圧の胸腔と陽圧の腹腔を境界するきわめて特殊な部位である.
◆栄養のスムースな運搬と逆流防止が主たる役割となっている.
◆逆流防止するために複雑,多様な機構があり,それらを機能させるために4 cm程度の領域が必要と考えられている.
◆食道や胃には存在しない噴門腺が狭い領域に存在しており,同腺由来の癌が真の食道胃接合部癌の可能性がある.

食道胃接合部癌の疫学

著者: 山下裕玄

ページ範囲:P.772 - P.775

【ポイント】
◆ヘリコバクターピロリ感染率の低下に伴い,これまでわが国で罹患数が多かった胃癌が減少傾向にある.
◆食道胃接合部の腺癌はヘリコバクターピロリ未感染であっても発生し,欧米では急速に増加,わが国でも増加傾向にある.
◆肥満および逆流性食道炎は下部食道から食道胃接合部の腺癌の危険因子である.

食道胃接合部癌の特性

著者: 阿部浩幸 ,   牛久哲男

ページ範囲:P.776 - P.779

【ポイント】
◆食道胃接合部の腺癌にはBarrett腺癌と噴門部に発生する胃癌が含まれる.
Helicobacter pyloriH. pylori)感染率が低く,組織型は分化型が多く,粘液形質は胃型が多いなど,接合部以外の胃癌と異なる特性を有する.
◆分子生物学的サブタイプはchromosomal instability(CIN)が多く,治療標的分子であるHER2やPD-L1の陽性率も高い.

食道胃接合部癌の診断

著者: 久田泉 ,   吉永繁高 ,   小田一郎

ページ範囲:P.780 - P.784

【ポイント】
◆食道胃接合部癌はBarrett食道癌と胃噴門部癌に分けられ,本邦のBarrett食道癌はSSBE(short segment Barrett's esophagus)に由来するものが多い.
◆SSBEの好発する食道胃接合部(EGJ)の0〜3時方向を中心に,注意深い観察が必要である.
◆食道胃接合部癌の深達度診断は難しい場合があり,EUSなどを加えた総合的な診断が重要である.

食道胃接合部癌に対する内視鏡治療

著者: 谷泰弘 ,   石原立

ページ範囲:P.786 - P.789

【ポイント】
◆内視鏡治療適応を判断するうえで術前の深達度診断は重要であるが,食道胃接合部(EGJ)領域における診断精度は十分ではない.
◆本邦における多施設共同研究の結果から,リスク因子(脈管侵襲陽性,低分化型癌成分の混在,腫瘍径>30 mm)のない深達度SM 500 μmまでの食道腺癌は,内視鏡治療後の経過観察が許容される可能性がある.
◆粘膜内癌か粘膜下層浸潤癌かで悩む食道胃接合部腺癌は,診断的な内視鏡的切除が許容されると考える.

食道胃接合部腺癌の薬物療法

著者: 中田晃暢 ,   室圭

ページ範囲:P.790 - P.798

【ポイント】
◆食道胃接合部腺癌の薬物療法は,通常の胃体部腺癌に準じて実施されている.
◆進行胃腺癌・食道胃接合部腺癌の一次治療として,免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが保険適用拡大となり,ニボルマブ併用化学療法が新たな標準治療となった.
◆自験例では,食道胃接合部腺癌と胃体部腺癌において,全身化学療法の生存期間に違いを認めなかった.

食道胃接合部癌に対する放射線療法

著者: 秋元哲夫

ページ範囲:P.799 - P.802

【ポイント】
◆放射線治療は食道胃接合部癌に対する集学的治療の選択肢の1つである.
◆術前化学放射線療法を加えることで,食道胃接合部癌では治療成績向上が得られることがわかってきている.
◆術前化学放射線療法を加えることで,手術合併症は手術単独に比較して有意に増強しない.
◆強度変調放射線治療(IMRT)などの高精度照射技術導入も今後の課題である.

食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清

著者: 黒川幸典 ,   高橋剛 ,   西塔拓郎 ,   山本和義 ,   江口英利 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.803 - P.806

【ポイント】
◆食道胃接合部癌における胃遠位リンパ節への転移はまれであるため,郭清のための胃全摘は不要と考えられる.
◆食道浸潤長が2 cm超の食道胃接合部癌であれば,下縦隔No. 110のリンパ節郭清が必要と考えられる.
◆食道浸潤長が4 cm超の食道胃接合部癌であれば,上・中・下縦隔のリンパ節郭清が必要と考えられる.

各論

食道切除—胸腔・腹腔アプローチ

著者: 野間和広 ,   田辺俊介 ,   藤原俊義

ページ範囲:P.807 - P.813

【ポイント】
◆食道浸潤を有する食道胃接合部癌に対する下縦隔郭清術は,腹臥位胸腔鏡下を用いると非常に術視野が良好である.安全かつen blocに設定した領域を郭清することができる.
◆腹腔鏡下に食道裂孔を開放し,経裂孔的に縦隔内で食道残胃再建術を行う.その際に下縦隔での術視野を得るために,fan retractorやorgan retractorは非常に有用である.
◆縦隔内観音開き法再建も,基本的には腹腔内での観音開き法再建と同じ手法で行う.縦隔内であるために偽胃底部をさらに食道壁口側に固定すること,また食道裂孔ヘルニア防止に胃前壁と裂孔を縫合閉鎖する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月末まで)。

食道切除—胸腔・腹腔アプローチ—ロボット支援下手術による食道胃接合部癌に対する全縦隔リンパ節郭清

著者: 小熊潤也 ,   石山廣志朗 ,   栗田大資 ,   大幸宏幸

ページ範囲:P.815 - P.820

【ポイント】
◆Siewert Ⅱ型の食道胃接合部癌において,cT以深では約20%程度の上縦隔リンパ節転移を認める.
◆食道胃接合部癌に対する全縦隔リンパ節郭清は,胸部食道癌に対して行っている定型化したロボット支援下食道切除術の手術手技を踏襲している.
◆今後は集学的治療のなかの外科治療として,エビデンスに基づいた個別化治療の確立が望まれる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月末まで)。

食道切除—縦隔・腹腔アプローチ

著者: 藤原斉 ,   塩崎敦 ,   小西博貴 ,   大橋拓馬 ,   窪田健 ,   大辻英吾

ページ範囲:P.821 - P.826

【ポイント】
◆縦隔アプローチを用いることで,食道胃接合部癌の特徴に応じた合理的なリンパ節郭清が可能である.
◆経裂孔再建が適さない症例に対して,縦隔アプローチによる頸部胃管再建は有用である.
◆食道胃接合部癌は確実に増加しており,縦隔アプローチの重要性は,今後ますます高まることが予想される.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月末まで)。

食道切除—縦隔・腹腔アプローチ(ロボット支援)

著者: 八木浩一 ,   谷島翔 ,   三輪快之 ,   浦辺雅之 ,   吉村俊太郎 ,   李基成 ,   奥村康弘 ,   野村幸世 ,   愛甲丞 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.828 - P.835

【ポイント】
◆食道胃接合部癌に対してロボット支援縦隔鏡下食道切除を積極的に施行している.
◆中下縦隔操作にロボットを用いることで,より安全で確実な中下縦隔操作が可能になると考える.
◆血圧低下など,ロボット使用に伴う注意事項に留意する必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月末まで)。

噴門側胃切除—腹腔鏡下—食道胃接合部癌に対する腹腔鏡下噴門側胃切除

著者: 木下敬弘

ページ範囲:P.836 - P.840

【ポイント】
◆再建法には逆流防止機能を付加した食道残胃吻合と空腸間置にて逆流を防止する方法(ダブルトラクト法など)の2種類があり,それぞれ特徴がある.
◆確実な再建を行うためには下縦隔内の視野と空間確保がポイントとなる.横隔膜脚の筋束の切離,針糸での牽引などで対処する.
◆ダブルトラクト再建で食道空腸吻合を行う場合は,吻合部に緊張のかからない空腸脚を準備することが必須である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月末まで)。

ロボット支援腹腔鏡下噴門側胃切除術—食道残胃吻合—23 mm circular staplerを用いたsingle-flap法

著者: 大森健 ,   原尚志 ,   新野直樹 ,   山本昌明 ,   宮田博志

ページ範囲:P.841 - P.848

【ポイント】
◆頭側アプローチによるロボット手術について解説する.
◆Single flap法による食道残胃吻合は,逆流防止効果が高い.
◆23 mm circular staplerは食道アンビル挿入が容易でシャフトが細く,安全にロボット手術で施行可能である.

FOCUS

周術期血糖管理における人工膵臓の有用性—生体肝移植手術における使用経験を踏まえて

著者: 今村一歩 ,   曽山明彦 ,   足立智彦 ,   田中貴之 ,   松島肇 ,   𠮷野恭平 ,   福本将之 ,   松隈国仁 ,   原貴信 ,   濵田隆志 ,   日高匡章 ,   江口晋

ページ範囲:P.849 - P.854

はじめに
 消化器外科手術を始めとする急性期の侵襲下では,生理学的ストレスにより惹起されたインスリン抵抗性の増大による高血糖状態が頻繁に生じる.このストレス性高血糖の原因となるインスリン抵抗性の増大には,平滑筋の糖の取り込み障害および利用障害,肝臓での糖新生の増加,グリコーゲン産生の減少,遊離脂肪酸の増加の4因子が主として関わっているとされる1〜3).また,ステロイド投与,高カロリー輸液,カテコラミン投与などの急性期治療も高血糖を惹起する(医原性高血糖)1,4).これら急性期の高血糖は,患者重症化に伴うストレス性高血糖と治療に伴う医原性高血糖が相加的に働いて生じるとされる5)
 これら侵襲下の高血糖状態に対し,2001年に強化インスリン療法(intensive insulin therapy:IIT,目標血糖値80〜110 mg/dL)の有効性を検討した単施設RCTの報告では,(Leuven I study)6),IITは従来型血糖管理(目標血糖値180〜215 mg/dL)と比較して,有意にICU死亡率を低下させたことが報告された(IIT vs. 従来型;4.6% vs. 8.0%, p<0.04).また,40 mg/dL以下の低血糖の発生率が従来群と比較して約6倍に増加するものの7),大半のICUで可能な血糖測定とインスリン投与で,患者死亡率を減少させうることが示された.
 しかしながらその後,集中治療患者における血糖降下療法を検討する無作為化比較試験のうち,最も大規模なRCT研究であるNICE-SUGAR trial8)においては,IIT(目標血糖値80〜108 mg/dL,平均血糖値115 mg/dL)の90日死亡率に対する効果を通常血糖管理群(目標血糖値144〜180 mg/dL,平均血糖値144 mg/dL)と比較した結果,90日死亡率が有意差をもって2.6%上昇したと報告された(27.5% vs. 24.9%,p=0.02).また,これまでに低血糖の重症度は患者死亡と有意に相関し,軽度の低血糖を生じた患者であっても,低血糖を起こさない患者と比較すると有意に死亡率が高かったと報告されている9).低血糖発症自体の臨床的な問題点は言及されていないものの10),低血糖発症のイベントは回避することが望ましく,そのためVan den BerghらはICUでの血糖管理について,実際の血糖値に基づいて血糖値を一定のレベルに維持できる,いわゆるclosed-loop control systemを有する血糖管理・測定装置を用いることが望ましいと言及している11)
 本邦における人工膵臓を用いた消化器外科周術期の血糖管理については,これまでに花崎ら12,13)により報告がなされているが,肝移植手術の周術期における使用経験の報告は少なく,周術期の血糖管理がその術後経過に及ぼす影響については明らかではなかった.当科では肝移植周術期の血糖管理法として,日機装社製の人工膵臓(STG-55)を麻酔導入から24時間経過時点まで使用するプロトコルでの管理を導入し,従来法(スライディングスケール法)と比較することで,血糖値推移と術後細菌感染症の発症率低下に関する人工膵臓の有用性についての検討を行った14).日機装社製のSTG-55は,実際の血糖値に基づいて血糖値を一定のレベルに維持できる,いわゆるclosed-loop control systemを有する世界唯一の人工膵臓である(図1)15).解析の結果,血糖値の平均値は人工膵臓群で有意に低値を示し,人工膵臓群と従来群で術後細菌感染症の発症頻度を比較したところ,人工膵臓使用群では,術後の細菌感染率が低い傾向にあり,多変量解析で有意な危険因子として同定されたことを報告した.今回われわれは,肝移植周術期における血糖管理の実際を提示するとともに,人工膵臓の有用性や今後の展望について報告する.

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・6

中縦隔の解剖,食道腹側の操作

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.855 - P.864

中縦隔腹側の解剖
 中縦隔では迷走神経が食道を左右の側方から面状に固定している.左右の迷走神経はそれぞれ主気管支膜様部と密接だが,癌の浸潤がある場合を除いて,神経と気管気管支との剝離は実は容易である.むしろ,神経と食道の結合は強固なので,気管気管支と食道の分離の際には,神経を食道の左右に広がる翼状の平面構造とみなして気管気管支より授動するとよい(図1).
 ただし,この平面構造は肺門をまたいで下縦隔まで続くため,尾側ではやや複雑となる.中下縦隔では縦隔胸膜は左右とも肺門と肺間膜の部分で途切れるので,いわば食道と肺実質が胸膜を介さずに食道への支持組織を介して接する部分が生じるのである.連載第3回で解説した図(2022年3月号344ページ,図12)を再掲する(図2).図のように食道を包む臓器鞘(食道周囲筋膜)は左右ともその辺縁が肺間膜および縦隔胸膜に結合しているため,食道は左右に扁平となる.この結合は左側では平滑筋を含んでおり,胸膜食道筋と呼ばれる.右側でも肺門近くで同様の平滑筋もしくは靱帯様の構造が迷走神経とともに食道の右縁に観察されるが,肺門より尾側では食道周囲筋膜の背側は右縦隔胸膜と直に接するようになる.

病院めぐり

鳥取赤十字病院外科

著者: 齊藤博昭

ページ範囲:P.865 - P.865

 鳥取赤十字病院は日本赤十字社鳥取県支部が設置する鳥取県東部の中核病院の一つで,1915年(大正4年)に創立された,鳥取市内で最も歴史のある病院です.鳥取県庁に隣接する鳥取市の中心部に位置しており,総病床数は350床,診療科は25科です.2019年に新病棟が完成し,地域の皆さんの生命と健康を守れるように新たな環境のもとで診療を行っています.
 外科に関連する施設認定では日本外科学会外科専門医制度修練施設,日本消化器外科学会専門医制度修練施設,日本がん治療認定医機構認定研修施設,日本乳癌学会研修施設をはじめ,さまざまな施設認定を取得しています.また,鳥取大学と連携した研修プログラムも充実し,教育施設としての役割も果たしています.

手術器具・手術材料—私のこだわり・7

腹腔鏡手術のさらなる低侵襲性を求めて:Xゲート®

著者: 金平永二 ,   中村貴博

ページ範囲:P.866 - P.869

はじめに
 Reduced port surgeryが普及を始めた2008年ころ,安全な単孔式内視鏡手術を実現するために,筆者の要求を満たすマルチチャンネルポートが市販されていなかったため,これを自ら開発することとなった.高い樹脂加工技術をもつSBカワスミ社(旧住友ベークライト社)と開発し,完成した製品にXゲート®と名付けた1)(図1a,b).Xゲートを用いた筆者らのreduced port surgeryの経験は2,500例を超えるが,この間これらの器具に起因する大きな合併症はなく,製品に対する信頼度は非常に高い2〜6).本稿では,Xゲートの特徴,使用方法,実際の手術におけるパフォーマンスなどを記述する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年7月末まで)。

臨床報告

大網に発生したデスモイド腫瘍の1例

著者: 冨永奈沙 ,   福岡伴樹 ,   岡野佳奈 ,   水野亮 ,   西鉄生

ページ範囲:P.870 - P.874

要旨
症例は48歳,女性.3年前に子宮全摘の既往がある.腹部腫瘤を主訴に当院を受診した.造影CTでは横行結腸頭側に9 cm大の充実性腫瘍を認めた.注腸造影では腫瘍による腸管の圧排がみられ,診断的治療として腫瘍摘出術を行った.手術所見では大網発生の腫瘍であり,大網と腹壁を一部合併切除した.病理検査では線維芽細胞の増生と線維化,膠原線維化がみられ,β-カテニン陽性であった.以上より,腹腔内デスモイド腫瘍と診断された.デスモイド腫瘍は線維芽細胞から生じる軟部腫瘍で,発生頻度は100万人あたり2.4〜4.3人,腹腔内発生はそのうち8%と比較的まれな疾患である.大網原発デスモイドの報告は少なく,文献的考察を加えて報告する.

直腸癌が併存した主膵管狭窄を伴う小型のsolid type serous cystadenomaの1切除例

著者: 南貴之 ,   久留宮康浩 ,   世古口英 ,   菅原元 ,   井上昌也 ,   加藤建宏 ,   成田道彦

ページ範囲:P.876 - P.881

要旨
症例は79歳女性.直腸癌の精査目的に行った腹部造影CTで膵尾部に多血性の類円形充実性腫瘤と尾側膵管の拡張を指摘された.MRIではT1・T2強調画像で低信号と淡い高信号を呈し,超音波内視鏡検査(EUS)では囊胞構造のない低エコー腫瘤として描出された.以上の所見より,主膵管狭窄を伴う膵神経内分泌腫瘍と直腸癌の診断で腹腔鏡下膵体尾部切除術と直腸切断術を施行した.切除標本肉眼所見では,膵腫瘍は囊胞構造のない径15 mmの充実性腫瘍であった.病理組織検査でsolid type serous cystadenoma(SCA)と診断された.膵の多血性充実性腫瘍の鑑別には神経内分泌腫瘍だけでなく,solid type SCAも念頭に置くべきである.さらに,小型のsolid type SCAであっても,膵管癌の特徴である主膵管狭窄を呈することがある.

書評

—今村清隆(訳者代表)—症例で学ぶ外科医の考えかた—外科診療の基本がわかる30症例 フリーアクセス

著者: 倉島庸

ページ範囲:P.785 - P.785

 私が訳者代表の今村清隆先生と知り合ったのは,彼が手稲渓人会病院の外科研修を修了し,外科スタッフとして研修医の指導担当を始めた頃である.私自身カナダ留学から現在所属している北大へ戻り,日本国内の外科医が若手外科医教育の情報を共有できる全国レベルの組織づくりに着手したのもこの時期であった.同じ札幌市内で勤務している今村先生とは臨床現場での指導方法,北海道や全国の若手外科医の教育について,時を忘れて語り合ったことを覚えている.それから現在まで,今村先生の教育に対する情熱はオンラインというツールを得て,北海道の枠にとどまらず,全国,海外へと広がっていったのである.
 本書は今村先生が研修医向けの勉強会でテキストに用いてきた原著『Surgery:A Case Based Clinical Review』(第2版,Springer)から,重要な内容を抽出して日本語訳したものである.私が感銘を受けたのは,23名の訳者の中に,勉強会へ参加していたであろう多くの手稲渓仁会病院初期研修医達が含まれている点である.専門性の高い領域の翻訳作業をしながら膨大な関連知識を確認していく経験が,彼らが担当したテーマの理解をどれほど深いものにしたかは容易に想像できる.この翻訳共同作業そのものが大きな学びの輪を創造したことであろう.

—拡大内視鏡×病理対比診断研究会 アトラス作成委員会(編)—百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス フリーアクセス

著者: 柳澤昭夫

ページ範囲:P.814 - P.814

 胃癌の診断・治療の進歩は著しいものがある.拡大内視鏡の診断もその一つであるが,内視鏡診断において最も重要な点は,通常内視鏡観察による病変の認識である.病変の認識がない状態での拡大内視鏡観察や病理所見との対比は成り立たない.本書は,タイトル『胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』から推察されるように,内視鏡で観察された所見と病理組織像をより正確に1対1対応させることにより,内視鏡で観察される所見が,どのような組織形態により成り立っているか解説したものである.
 正しい内視鏡診断は,観察されている内視鏡像がどのような病理組織像により成り立っているか理解することで得られることは言うまでもない.本書を読むことにより,内視鏡観察により認識された病変が,どのような病理組織像により成り立っているか理解することで,病変の認識・診断が容易になるとともに,より興味深いものとなることが期待できる.

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.762 - P.763

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.887 - P.887

あとがき フリーアクセス

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.888 - P.888

 2022年4月1日,Science誌上にて,ついにヒト遺伝子の全解読が終了したとの報告がなされた(Nurk K, et al:The complete sequence of a human genome. Science 376:44-53, 2022).4月1日だけにエイプリルフールかとも思われたが,19年の歳月を要したとのこと,実際プレスリリースは前日に行われたことからしても真実であろう.たかだか数μmの染色体1本の中に正しく縦横無尽に重なっているDNAを伸ばすと,何と2 mになり,その中には30億塩基対の遺伝情報があるという.想像を超えた話ではあるし,機能の解明はこれからの最重要課題になると思われる.
 さて,地球上に生命の起源である真核生物が誕生したのが,地球の歴史を1年に例えると8月下旬という.その後,本当に本当に長い時間,あまたの細胞分裂を経てヒトが誕生したのは12月31日午後8時になるという.DNAの構造は有史以来不変であり,生命たるものすべて共通のDNAを持っているのである.細胞分裂に伴う遺伝子変化がヒトまでたどり着いたのである.この変化は,合目的的なものではなく,あくまでも中立であり,その変化のなかで環境に適合した種が残っていくという木村資生先生の「分子進化の中立説」は,科学的思考の成せる業と筆者は理解している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら