icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科77巻9号

2022年09月発行

雑誌目次

特集 導入! ロボット支援下ヘルニア修復術

ページ範囲:P.1021 - P.1021

 1990年,初めての腹腔鏡下ヘルニア修復術がGerらによって報告された.本邦では2012年4月の診療報酬改定により腹腔鏡下ヘルニア手術が爆発的に増加し,2020年の日本内視鏡外科学会アンケートでは約50%の鼠径部ヘルニア手術が腹腔鏡下に行われている.一方,腹腔鏡下手術では,鉗子の動作制限や術者,助手間の干渉のなどの問題も残されている.
 2007年にFinleyらが前立腺との同時手術として初めてロボット支援下ヘルニア修復術を報告して以来,各領域でのロボット支援手術の発展とともに,ロボット支援下ヘルニア修復術は欧米を中心に増加している.ロボット支援下手術では,腹腔鏡下手術で得られない多関節機能や3次元視野,術者による内視鏡操作によって,精緻で人間工学に沿った手術が可能となると考えられている.

巻頭言

いまなぜ“ロボットヘルニア”か

著者: 若林剛

ページ範囲:P.1022 - P.1024

 私が初めてロボットでヘルニア修復術を行ったのは,2000年の7月であった.故 北島政樹教授が主任研究者として,慶大外科と九大2外が協力してダビンチシステムの輸入を目的とした臨床試験を行っており,ダビンチプロトタイプを使用して胆摘やヘルニア修復術を施行していた.当時,腹腔鏡下手術でも比較的簡単に行える術式に使用していたので,ロボット支援手術の有用性は正直あまり感じていなかった.ただ,その時から将来的には膵頭十二指腸切除の膵管粘膜吻合に,ダビンチシステムを使用したいと考えていた.
 次にロボットでヘルニア修復術を行ったのは,2016年の9月であった.当時,上尾中央総合病院の徳永英吉院長はロボット手術センターを開設したいと考えており(2017年4月に開設),私自身も膵頭十二指腸切除をロボットで行うためのチームビルディングの必要性からロボット支援下ヘルニア修復術を自費診療として開始することにした.病院長と入院医事課と打ち合わせを重ね,2泊3日の入院費と手術費用を合わせて30万円の定額で提示することにした.これは医療者の人件費や施設使用料などを病院が負担し,ダビンチ鉗子類,ヘルニアメッシュなどの消耗品費と,薬剤費,食費などを合算した額である.院内の新規医療技術・医薬品等評価委員会で承認を受け,患者に予想される利益・不利益を説明し,患者リクルートを行った.開始時の3例は,実際にBostonまで手術見学で伺ったDr. Omar Yusef Kudsi(Good Samaritan Medical Center, Brockton, MA)をプロクターとしてお招きして施行した(図1).その後は順調に症例数を重ねて,現在は150例を超えるロボット支援下TAPP(transabdominal preperitoneal)ヘルニア修復術(R-TAPP)を行っている.

総論

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術の歴史と展望

著者: 早川哲史 ,   早川俊輔

ページ範囲:P.1025 - P.1030

【ポイント】
◆日本における鼠径部ヘルニア修復術は欧米と異なり,日本独自の特別な歴史をたどってきた.
◆腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術は一時衰退したが,黎明期を迎え,現在では爆発的に普及している.
◆今後の展望として,鼠径部切開法,腹腔鏡下手術,ロボット支援下手術のすべてを学習して取り組む必要がある.
◆「たかがヘルニア,されどヘルニア」の言葉を心に刻み,患者本位の手術治療を追求する必要がある.

手術支援ロボットの概要と今後の動向

著者: 田中毅 ,   宇山一朗 ,   中村謙一 ,   芹澤朗子 ,   秋元信吾 ,   中内雅也 ,   菊地健司 ,   柴崎晋 ,   稲葉一樹 ,   須田康一

ページ範囲:P.1032 - P.1035

【ポイント】
◆保険適用の拡大に伴って,ロボット支援下手術件数は急激に増加している.
◆手術支援ロボットでは,da Vinciが先行していたが,国産手術支援ロボットをはじめ,今後,群雄割拠時代の到来が予想される.
◆フルスペック型の手術支援ロボットだけでなく,カスタマイズ型も含め,選択の幅が広がることが期待される.

ロボット支援下ヘルニア修復術導入の際の留意点

著者: 嶋田元 ,   松原猛人

ページ範囲:P.1037 - P.1040

【ポイント】
◆ロボット支援下ヘルニア修復術では,厚生労働省や各学会の指針を参考にした導入が望まれる.
◆安全性担保の観点から,導入初期は片側初発症例で複雑な症例は避けるべきである.
◆手術チームのトレーニングだけでなく,全病院的なコンセンサスを得たうえで進めるべきである.
◆安全性の評価のため,患者アウトカムと経時的な経過観察が必要である.

ロボット支援下ヘルニア修復術導入にあたっての取り組み—臨床工学技士からの目線

著者: 杉山裕二 ,   前田一樹

ページ範囲:P.1042 - P.1046

【ポイント】
◆新たな術式の導入時は,医師・看護師・臨床工学技士によるシミュレーションが重要である.
◆da Vinci Surgical Systemの概要を理解し,準備を行うことが重要である.
◆配置図や点検表を作成,配置や使用機器を固定化し,看護師と密に連携をとることがスムーズな運用に重要である.

各論 【鼠径ヘルニア】

ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術の世界での現状

著者: 藤原直人 ,   德永正則 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.1047 - P.1051

【ポイント】
◆ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術は,現状アメリカでは比較的普及しているものの,他の国ではいまだ発展途上の術式である.
◆その一番の問題点はコストであり,今後は鼠径部切開法や腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術と比較した際の利点について,エビデンスを蓄積する必要がある.
◆ラーニングカーブが早く若手への教育効果に優れている可能性や,難症例に対し精緻な操作を行うことができる可能性が指摘されており,今後本邦でも普及していくことが期待される.

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP)を行うにあたって必要な解剖知識

著者: 川原田陽 ,   宮坂衛 ,   関谷翔 ,   櫛引敏寛 ,   山村喜之 ,   才川大介 ,   鈴木善法 ,   北城秀司 ,   奥芝俊一

ページ範囲:P.1052 - P.1058

【ポイント】
◆ヘルニアが発生する部位ならびにメッシュで被覆しなければならない範囲の解剖.
◆損傷してはいけない構造物(血管,神経など)の解剖.
◆腹膜と腹壁(筋)の間のスペース(preperitoneal space)の解剖.

ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術(高位切開)の手術手技

著者: 岡本信彦 ,   三島江平 ,   若林剛

ページ範囲:P.1059 - P.1062

【ポイント】
◆腹膜高位切開によるロボット支援下鼠径ヘルニア修復術は,ロボットの多関節機能を生かした一方向性の剝離が可能である.
◆剝離の際には,ランドマーク血管である下腹壁血管,内側臍ひだ(臍動脈索),性腺血管,精管を目安に剝離可能層を追う.
◆当院での初期成績では,M型,L1,2型,L3型の順に剝離時間を要することから,導入時の手術適応は考慮すべきである.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年9月末まで)。

ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術(環状切開)の手術手技—高位切開へのブラッシュアップ

著者: 齊藤卓也 ,   深見保之 ,   小松俊一郎 ,   金子健一朗 ,   佐野力

ページ範囲:P.1064 - P.1068

【ポイント】
◆ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術のプロトコール作成は,新しい術式導入のモデルになる.
◆ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術は,まずは各施設の腹腔鏡手技の再現を.
◆ロボット支援下鼠径ヘルニア修復術は,高位切開で行えばメリットも多い.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年9月末まで)。

【腹壁ヘルニア】

ロボット支援下腹壁ヘルニア修復術の世界での現状

著者: 和田則仁 ,   志田敦男 ,   堀周太郎 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1069 - P.1072

【ポイント】
◆ロボット支援下のIPOM,TAPP,eTEP±TAR(retromuscular)の3つの術式があり,近年eTEP±TAR(retromuscular)が主流である.
◆ロボット支援下手術は手術時間が長くコストは高いが,在院期間短縮,合併症率低下が期待される.
◆ロボット支援下腹壁ヘルニア修復術のエビデンスの蓄積とわが国での保険収載が期待される.

腹腔鏡下およびロボット支援下腹壁ヘルニア修復術に必要な解剖

著者: 蛭川浩史

ページ範囲:P.1073 - P.1081

【ポイント】
◆腹壁瘢痕ヘルニア修復術の目的は,ヘルニアの修復のみならず,白線の縫合閉鎖による腹壁の完全性と機能の回復が大きな目的と考えられるようになった.
◆腹壁ヘルニアに対する腹膜外修復術において,腹壁解剖の理解は,術後成績の向上と合併症の低下にきわめて重要である.
◆腹壁瘢痕ヘルニアは初回手術の再手術であり,腹壁血流の変化に留意する必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年9月末まで)。

ロボット支援下腹壁瘢痕ヘルニア修復術の手術手技

著者: 松原猛人 ,   嶋田元

ページ範囲:P.1082 - P.1089

【ポイント】
◆Robotic eTEPは,ヘルニア門縫合閉鎖,腹膜外メッシュ留置,低侵襲アプローチという重要キーワードをすべて満たす最新術式である.
◆ロボットによるenhanced-viewは,筋周膜という膜の存在を認識可能とした.
◆TARの極意は,筋周膜の認識と季肋部領域でのpretransversalis layerの活用である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年9月末まで)。

【Topic】

センハンス・デジタル・ラパロスコピーによる鼠径ヘルニア修復術

著者: 永田直幹

ページ範囲:P.1091 - P.1095

【ポイント】
◆消化器外科・泌尿器科・婦人科疾患98術式に対して,保険収載が認められた.
◆触覚フィードバックシステムで鉗子の先端の圧を感じる作用がある.
◆エルゴノミクスと鉗子がリユースのため,経済性に優れている.

How to start up 縦隔鏡下食道亜全摘・8

経裂孔操作1—解剖と操作概要

著者: 森和彦 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1096 - P.1103

下縦隔の解剖
 食道胃接合部の前壁,左右を覆う腹膜を切開すると縦隔への入り口が開ける.一方,後壁側と胃噴門背側は後腹膜の組織と接するいわば胃のbare areaであり,同部で胃に隣接している後腹膜組織は腹膜に隔てられることなく縦隔内と接続しているため,食道穿孔などで縦隔気腫を生じると,噴門背側の後腹膜にもエアが入ることはよく知られている.
 また,接合部の右側(小彎側)には腹膜により密封された2横指程度の心囊下腔がある(図1).

病院めぐり

伊賀市立上野総合市民病院外科

著者: 三枝晋

ページ範囲:P.1104 - P.1104

 伊賀市立上野総合市民病院(281床)は,1955年4月,上野市民医院として発足して以後,65年以上にわたり,伊賀の地域医療を担う中核病院として,日々の診療を行っています.総合病院と言いつつも,常勤医は20名前後であり,綱渡りの日々が続いています.当院の地理的条件からいえば僻地ではありませんが,医師の充足という観点からいえば僻地かもしれません.都会の大規模病院では,勤務医が増加しているにもかかわらず,地方の中小規模病院では,医師確保に頭を抱えているのが現状であり,医師の偏在は顕著になっています.当院も,その影響をまともに受けている病院の一つです.
 伊賀市は,三重県北西部に位置し,北は滋賀県,西は京都府,奈良県に接しています.したがって,伊賀市から県外への患者の流出は否めません.三重県地域医療構想では,2025年度の伊賀地区からの県外医療機関への流出は,急性期・回復期を含め,73人/日と予想されています.この流出を抑えるためには,安全で質の高い医療の提供,地域医療の底上げ,地域住民の信頼を得なければなりません.それは,当科においても同様です.患者の流出に歯止めをかけるためには,我々の医療の質の向上もさることながら,地方病院においても,標準的な治療が日常的に行われ,地域で完結できることを,時間をかけ,周知・情報発信していく必要もあると考えます.

手術器具・手術材料—私のこだわり・9

胆道癌肝切除におけるクラフォード鑷子

著者: 江畑智希

ページ範囲:P.1105 - P.1107

きっかけ
 当科の手術の鋼製小物セットは開腹セット,肝胆膵セット,血管(鉗子)セットが存在し,それぞれに複数の鑷子が常備されている.例えばドベーキー型鑷子とスキャラン型鑷子なども含まれ,胆道癌肝切除を行ううえで特に不便を感じたことはなかった.
 15年以上前に留学した先の欧州のある巨匠は,切りたい箇所の両端をドベーキー鑷子でつまみ看護師に電気メスで接触焼きしてもらい,その間をハサミで切っていた.ボスは「いいだろ?」とドヤ顔を決めこんだ.その後名古屋大に戻り,あの手技は京都大の田中紘一前教授のPinch-burn-cut法そのものであることを知った.あれはパクリだったか….また,小児外科の安藤久實教授に膵・胆管合流異常の手術指導を受けていたところ,初めて見かける鑷子を使い繊細な手技を展開していた.「京大移植外科の鑷子,君らの手術にピッタリだと思うよ.」と安藤教授は言った.この2人の技術には何か共通性を感じていた.

FOCUS

後腹膜肉腫診療ガイドラインの要点と今後の展望

著者: 横山幸浩 ,   砂川真輝 ,   栗本景介 ,   江畑智希 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.1108 - P.1112

はじめに
 後腹膜肉腫は比較的稀な疾患であり,いわゆる希少がんに分類される.しかし,日常診療で後腹膜肉腫の診療に携わった経験が一度もない消化器外科医はむしろ稀ではないだろうか.そのような意味では,後腹膜肉腫は決して稀な疾患ではなく,腹部外科に携わる医師であれば,本疾患に関する知識をある程度習得していることが必要である.
 これまで本邦での後腹膜肉腫に対する治療は,消化器外科,泌尿器科,産婦人科などの,腹部悪性疾患診療に携わる診療科の外科医が,いわば「場当たり的」に行ってきたことが多かったのではないだろうか.後腹膜腔という特殊なスペースに発生する腫瘍であるため,これはある意味やむを得ないことであるかもしれない.しかし,2015年に厚生労働省により「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」(座長 国立研究開発法人国立がん研究センター理事長 堀田知光先生)が設置され,希少がん医療に注目が集まると,これに分類される後腹膜肉腫についてもエビデンスに基づいて系統的に診療を行うことの必要性が認識されるようになった.そのような過程の中で,「後腹膜肉腫診療ガイドライン」作成委員会(委員長 国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍科 川井章先生)が2019年5月に設置された.委員会は,骨軟部腫瘍科(整形外科),消化器外科,泌尿器科,腫瘍内科,放射線科,病理診断科など,後腹膜肉腫診療に関わる複数の診療科のエキスパートにより構成され,約2年半にわたりエビデンスの集積およびエキスパートオピニオンの評価が行われた.こうして2021年12月に,本邦初となる後腹膜肉腫診療ガイドラインが出版された.
 本稿では,後腹膜肉腫診療ガイドラインの内容を概説するとともに,ガイドライン作成の過程を通じて浮かび上がった,後腹膜肉腫診療に関する今後の課題について解説を行いたい.

臨床報告

骨盤内臓器変位をきたした高度直腸排便障害の1例

著者: 日高卓 ,   河原秀次郎 ,   李鹿璐 ,   河合裕成 ,   松本倫 ,   小村伸朗

ページ範囲:P.1113 - P.1116

要旨
症例は22歳,女性.15歳頃より慢性便秘症のため市販の刺激性下剤を毎日服用していた.20歳頃より多種多量の下剤を内服しても十分な排便効果が得られず,排便困難が続いたため,精査加療目的で他院より紹介された.腹部CT検査では,直腸が高度に拡張し,その上縁は肝下面近傍にまで達していた.また,直腸は小骨盤内を占拠するほどに拡張し,膀胱および子宮の位置が変位していた.全結腸が多量の固形便によって拡張し,直腸内の固形便は摘便しないと排泄できない状況であったため,本人の十分な同意を得て腹腔鏡下結腸全摘術+回腸人工肛門造設術を施行した.術後CT検査では,膀胱および子宮は生理的位置に戻っていた.

Solid papillary carcinoma in situの1例

著者: 藤井雅和 ,   野島真治 ,   中嶋朔生 ,   金田好和 ,   須藤隆一郎 ,   田中慎介

ページ範囲:P.1117 - P.1122

要旨
症例は76歳の女性で,左乳腺腫瘤に対し針生検を2回施行したが鑑別困難であった.画像上悪性所見を否定できなかったため,約2 cmのマージンを確保した乳房温存術とセンチネルリンパ節生検を施行した.センチネルリンパ節は転移陰性であった.病理組織検査でsolid papillary carcinoma(以下SPC)in situの病理診断となり,術後は放射線療法を施行し,アロマターゼ阻害薬内服を継続している.SPC in situは認知度が低く,臨床学的意義や臨床学的特徴は解明されていないため,これからの症例の蓄積と検討の必要がある.

広範左側結腸切除後に一期的上行結腸直腸吻合再建ができた横行結腸閉塞性大腸癌の1例

著者: 李鹿璐 ,   河原秀次郎 ,   河合裕成 ,   日高卓 ,   平林剛 ,   小村伸朗

ページ範囲:P.1123 - P.1125

要旨
症例は78歳,女性.閉塞性大腸癌の疑いで他院より紹介された.来院時,腹部膨満は軽度で嘔気がなかったため,まず禁食として中心静脈カテーテルを留置し点滴を用いた保存的治療を開始した.入院後腹部膨満が徐々に進行し嘔吐を伴うようになったため,本人の同意を十分に得て緊急手術を行った.開腹時腹腔内を検索すると横行結腸のほぼ中央に手拳大の腫瘍がみられ,S状結腸に直接浸潤して腸閉塞を呈していた.横行結腸からS状結腸の広範な左側結腸切除を行い,上行結腸と直腸を一期的に吻合再建した.吻合再建法は,上行結腸と回盲部を剝離授動して患者の左側に90度ローテーションさせ,上行結腸の右側縁と直腸の前壁を機能的端々吻合再建した.

急激な転帰をたどった多量の腹腔内遊離気腫を伴う気腫性胆囊炎および胆管炎の1剖検例

著者: 八木悠裕 ,   木ノ下修 ,   太田崇之 ,   高山峻

ページ範囲:P.1127 - P.1131

要旨
症例は80歳,男性.既往歴は不詳.3日前から腹痛が出現し,下腹部痛増強を主訴に救急搬送された.腹部は膨満かつ臍中心の圧痛が著明で,反跳痛は腹部全体に及んだ.腹部CTでは肝周囲を中心に多量の腹腔内遊離気腫が存在し,胆囊壁内からVater乳頭近傍の総胆管壁内に連続的に気腫性変化を認めた.画像上は結腸穿孔の除外が困難なため手術の方針となったが,消化管および胆管に穿孔所見を認めず,胆囊摘出と胆管ドレナージチューブを置いて手術を終了した.術後の集中管理でも病勢制御は困難で,術後2日目に死亡を確認した.今回,われわれは急激な転帰をたどった多量の腹腔内遊離気腫像を呈した気腫性胆囊炎/胆管炎の1剖検例を経験したため,報告する.

私の工夫

腹腔鏡下胃切除術における十二指腸断端埋没法の工夫—断端中央からbarbed sutureを用いての埋没法

著者: 矢後彰一 ,   春田周宇介 ,   大倉遊 ,   上野正紀

ページ範囲:P.1132 - P.1133

はじめに
 胃切除術後のRoux-Y再建やB-Ⅱ再建において,十二指腸断端はステープラーで閉鎖していることが多いが,ときに縫合不全を経験することがある.この部位の縫合不全は重篤な結果を招く合併症であり,治療に難渋することもあり,いかに予防するかが重要である.
 開腹手術の場合,多くの外科医は断端を埋没させることで対応してきたが,腹腔鏡下手術においては,その操作に時間を要することが難点であると思われる.
 われわれは吸収型barbed sutureを用いることで,安全かつ簡便な埋没法を実践しており,手術において過度な負担を強いることなく,良好な結果を得られているので,その手技を紹介する.

書評

—「胃と腸」Vol. 57 No. 5 2022年05月号(増刊号)—図説「胃と腸」画像診断用語集2022

著者: 小野敏嗣

ページ範囲:P.1041 - P.1041

 本書を手に取って直感的に感じる重厚感はその物理的な特性によるものだけではないだろう.
 消化管内視鏡領域の名門『胃と腸』編集委員会がまとめあげた増刊号としての用語集は,「図説『胃と腸』所見用語集2017」など,これまでにも多くの名著がある.初心者に向けた基本から熟練医のための最前線の知識まで網羅しているその完成形は,単なる教科書という枠を超え,各執筆者が消化管内視鏡学に込める情熱が織りなす,もはや一つの作品と言っても過言ではあるまい.

—勝俣範之,東 光久(編)—ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック

著者: 渡辺亨

ページ範囲:P.1063 - P.1063

 二人に一人が罹患するほど,がんは「当たり前の」疾患であり,肺がん,胃がん,大腸がん,乳がん,肝臓がんは,罹患率,死亡率も高く「五大がん」と呼ばれています.他にも前立腺がん,子宮頸がん検診が公費負担されており,卵巣がん,膵臓がん,膀胱がん,食道がんなども,医療者から見て何ら特別な病気ではありません.
 がん治療として,最初に発展したのは外科手術,次に放射線治療で,これらは局所治療と分類されます.一方,現在は全身治療として,抗がん剤などの薬物療法が治療の主体を担っており,がん診療を専門としている病院,診療所も全国に多数整備されています.昭和の時代,がん薬物療法を受ける患者は,副作用に苦しみながら数週間入院するのが当たり前でした.しかし,好中球増加因子(G-CSF),制吐剤,抗生剤など,各種の有効な副作用対策薬の開発とともに,モノクローナル抗体薬,ホルモン療法薬,免疫チェックポイント阻害薬など,新しい作用機序を持ち,優れた効果が得られる治療薬が導入され,「外来化学療法室」が専門病院に整備され,今やがんの薬物療法は通院で受ける時代,がんと共に生活を送り,仕事を続ける人が増えています.通院でがん薬物療法を受けている患者は,治療の間に生じる副作用の苦痛,病院を離れている不安などから,頻繁に病院受診を希望しますが,予約が取りにくい,受診しても待ち時間がすごく長い,担当医は手術中で対応できない,偉い先生は学会出張で不在,など必ずしも満足できるとは言えません.一方で,広範囲の診療能力を有する「ジェネラリスト」がかかりつけ医として21世紀の医療を支えています.

--------------------

目次

ページ範囲:P.1018 - P.1019

原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P.1024 - P.1024

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1081 - P.1081

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1138 - P.1138

次号予告

ページ範囲:P.1139 - P.1139

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.1140 - P.1140

  「嗚呼」,巷に広がる嘆きの声
 2022年7月8日,職場である医科歯科大学病院の自室,いつものように昼食を摂りながらメールに目を通す.朝チェックしたばかりなのに,もうこんなにたくさん…….その時,廊下の方から秘書の声,「アベさん……うたれた……」 独り言? それともこちらに言った?「どこのアベ,ナニしたって?」と壁越しに聞き返す.書棚の向こうから秘書の青ざめた顔が目に入る,「安倍元首相が,演説中に銃撃されたそうです.医局のテレビの前に皆集まってます」「エッ!!」走ってテレビの前に行くと,現場からの生中継,黒山の人だかりが目に飛び込む.事件現場は大混乱,間から倒れている人の影,白いシャツと黒っぽいズボン,これ安倍さん? 心マしてる? ……足を持ち上げてる? ……体は完全に弛緩して……「11時31分銃撃,極めて厳しい状況」とのアナウンスが繰り返される.さすがに医者であれば,どれほど重傷であるかはすぐわかる.どこのチャンネルも関連報道一色,ほどなくヘリで奈良県立医大へ救急搬送.しかし治療の甲斐無く,同日17時3分に死亡が確認されたとの報道.
 当日何度もテレビ画面で繰り返される銃撃の場面.「安倍晋三でございます!」埋め尽くす聴衆の目前で演説台の上に凜と立ち力強い第一声,貫禄に満ちた顔とともに大演説が始まる.変わらぬ安定感! ところが少し経って突如の耳をつんざく爆発音,瞬間空気が揺れカメラと群衆がビクッと動く,だが安倍さんの表情は不変,直後その顔はパニックに陥った人々の頭の影に隠れ,数秒後に2発目の爆発音.状況を掴みかねたカメラに飛び込むのはSPに押し倒される男の姿と周囲の悲鳴,数秒後カメラが演台に向いた時には安倍さんの姿はなし,飛び交う怒号と悲鳴,「救急車!救急車!」.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?