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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科78巻2号

2023年02月発行

雑誌目次

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

ページ範囲:P.133 - P.133

 医療機器・材料の進歩は日進月歩であると言われるが,腹腔鏡手術,ロボット手術の普及に伴い加速度を増しているように思われる.本特集では,updateを経つつ従来より使われてきたものから新しく開発されたものまで,精密機器から小物まで,重要と思われる機器・材料を抽出し,その理論,適応,使い方のコツについてエキスパートに解説していただいた.

上部消化管

縦隔鏡下食道切除術における術中神経モニタリングによる反回神経麻痺予防

著者: 塩崎敦 ,   藤原斉 ,   小西博貴 ,   大辻英吾

ページ範囲:P.134 - P.138

【ポイント】
◆術中持続神経モニタリングにより,圧迫・牽引・熱などの神経負荷がリアルタイムに認識でき,速やかな負荷解除により神経麻痺の予防が可能となる.
◆デバイスが神経と平行に挿入され,視野外での神経負荷が生じやすい縦隔鏡下手術において,その有効性は特に顕著となる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

ICG蛍光法による胃管の血行動態評価

著者: 山口和哉 ,   春木茂男 ,   坂野正佳 ,   藤原尚志 ,   谷岡利朗 ,   佐藤雄哉 ,   川田研郎 ,   徳永正則 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.140 - P.143

【ポイント】
◆食道癌への食道亜全摘・胃管再建術において,再建胃管の血流評価にICG蛍光法が有用である.
◆食道胃管吻合はICG蛍光法で良好に造影された箇所で施行することが望ましい.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

腹腔鏡下胃切除術での先進的エネルギーデバイスの選択とコツ

著者: 木下敬弘 ,   永田博美 ,   小松優 ,   寺嶋大貴

ページ範囲:P.144 - P.146

【ポイント】
◆繊細な先端を有する超音波デバイスでは,正確に剝離層を維持した郭清操作が可能である.ブレード先端のキャビテーション,駆動後のブレード残存熱による組織副損傷に注意が必要である.
◆バイポーラベッセルシーラーは強力な凝固止血能を有し,内臓脂肪過多症例などで有用である.駆動時の側方組織への熱拡散に注意が必要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

ロボット支援下胃切除術でのエネルギーデバイス,ステープラーの選択とコツ

著者: 佐川弘之 ,   早川俊輔 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.147 - P.151

【ポイント】
◆エネルギーデバイスは,手術コンセプトに合ったものを使用すべきであるが,ロボット手術の根本的な特徴を理解してその手技に反映させる必要がある.
◆ステープラーは,操作するのに最適な空間を認識し,その空間で操作することを心掛け,時に対象臓器を誘導する必要がある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

腹腔鏡下胃切除術における多自由度鉗子“アーティセンシャル”の有用性

著者: 出村公一 ,   村上剛平 ,   中本蓮之助 ,   畑中信良 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.152 - P.159

【ポイント】
◆多自由度鉗子“アーティセンシャル(ARTISENTIAL®)”を用いることで,腹腔鏡下手術の欠点であるアプローチアングルの制限を克服した腹腔鏡手術が可能となる.
◆アーティセンシャルを用いることで,周囲臓器に損傷を与えることなく操作でき,適切な郭清を行うことが可能となる.その臨床的な使用方法を概説した.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

十二指腸狭窄に対するlumen apposing metal stentを用いた超音波内視鏡下胃空腸吻合術

著者: 朝井靖二 ,   殿塚亮祐 ,   祖父尼淳 ,   土屋貴愛 ,   石井健太郎 ,   田中麗奈 ,   向井俊太郎 ,   山本健治郎 ,   松波幸寿 ,   黒澤貴志 ,   小嶋啓之 ,   南裕人 ,   中坪良輔 ,   平川徳之 ,   浅野響子 ,   糸井隆夫

ページ範囲:P.160 - P.164

【ポイント】
◆Lumen apposing metal stent(LAMS)は,両端に大きなフランジを有し,二つの管腔を引き寄せて瘻孔を形成するための大口径のカバード金属ステントである.
◆胃排出路障害(GOO)に対するLAMSを用いた超音波内視鏡下胃空腸吻合術は,患者のQuality of lifeの向上や,その後の治療継続を可能にすることでの予後の改善も期待される.しかし,本邦においては未承認治療であることに留意しておく.

下部消化管

腹腔鏡下大腸手術での超音波凝固切開装置の使用法とコツ:ハーモニックなど

著者: 山口茂樹 ,   近藤宏佳 ,   隈本力 ,   番場嘉子 ,   金子由香 ,   腰野蔵人 ,   中川了輔 ,   谷公孝 ,   前田文 ,   小川真平 ,   井上雄志 ,   板橋道朗

ページ範囲:P.165 - P.169

【ポイント】
◆超音波凝固切開装置は電気メスよりも低温なため,周囲組織に及ぶ熱損傷が少ないことが特徴である.
◆組織を挟んだ部位のみ確実に凝固切開できるが,金属ブレードの部分をほかの部位に当てて副損傷を起こさないように注意する.

腹腔鏡下大腸手術における高周波焼灼装置の適切な使用法

著者: 茂原富美 ,   小林宏寿 ,   杉浦光太 ,   近藤里江 ,   小泉彩香 ,   熊田宣真 ,   髙島順平 ,   山崎健司 ,   藤本大裕 ,   杉本斉 ,   三浦文彦 ,   谷口桂三 ,   松谷哲行

ページ範囲:P.170 - P.173

【ポイント】
◆腹腔鏡下大腸手術において,エネルギーデバイスを正しく使い分けることで手術操作を簡略化できる.
◆確実な止血操作において,高周波焼灼装置の使用は有益である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

ロボット支援下大腸手術でのエネルギーデバイス,ステープラーの選択とコツ

著者: 谷田部悠介 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.174 - P.177

【ポイント】
◆結腸・直腸手術におけるエネルギーデバイス,ステープラーの選択とコツを解説する.
◆直腸の離断は計画的2回切離とすることで,低位の症例や狭骨盤の症例にも対応して定型化することができる.

腹腔鏡下大腸手術でのエンドラクターの使用法とコツ

著者: 野澤慶次郎 ,   宮田敏弥 ,   浅古謙太郎 ,   福島慶久 ,   島田竜 ,   金子建介 ,   端山軍 ,   松田圭二 ,   橋口陽二郎

ページ範囲:P.178 - P.183

【ポイント】
◆エンドラクターは,内視鏡下手術時に安全で簡易的に十分なワーキングスペースを作ることのできる有用なリトラクターである.
◆ロボット支援下手術や腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治手術,腹腔鏡下虫垂切除術などの小さな切開創の手術での周囲臓器,特に小腸の術中損傷を防ぐことが期待できる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

大腸癌手術における蛍光尿管ナビゲーション—蛍光尿管カテーテル使用法のコツ

著者: 柳舜仁 ,   北川隆洋 ,   後藤圭佑 ,   永嶌惇 ,   小林毅大 ,   島田淳一 ,   伊藤隆介 ,   中林幸夫

ページ範囲:P.185 - P.189

【ポイント】
◆蛍光尿管カテーテルは近赤外観察で尿管を鮮明に描出できるため,他臓器浸潤癌,再発癌に特に有用である.
◆デバイスへの過信は禁物で,剝離による尿管熱損傷に対する注意や術前の重複尿管の有無を確認することが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

腹腔鏡下直腸切断術におけるローンスターリトラクターシステムによる会陰展開

著者: 岡澤裕 ,   髙橋里奈 ,   茂木俊介 ,   本庄薫平 ,   河合雅也 ,   杉本起一 ,   髙橋玄 ,   坂本一博

ページ範囲:P.190 - P.192

【ポイント】
◆腹会陰式直腸切断術の会陰操作は視野が狭くて深いため,腫瘍学的に安全な手術を行うには十分な視野展開が必要となる.
◆ローンスターリトラクターシステムTMは小さな切開創で大きな視野展開を容易にすることができ,会陰操作に有用な手術器具である.

下部直腸悪性狭窄に対する新規proximal release型大腸ステントの使用法と有用性

著者: 千葉宏文 ,   諸井林太郎 ,   清水翔太 ,   小笠原かな子 ,   小泉薫 ,   小原優 ,   天野朋彦 ,   下山雄丞 ,   新海洋彦 ,   小野寺美緒 ,   石山文威 ,   萱場尚一 ,   正宗淳

ページ範囲:P.193 - P.197

【ポイント】
◆これまでは下部直腸へのステント留置は,術後に肛門痛が生じるリスクが高いため原則適応外とされていた.
◆新規にproximal release型大腸ステントが登場したことで,肛門縁近傍の下部直腸病変に対してもステント留置を行うことが可能となった.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

急性虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術の手技—ループ式結紮器,自動縫合器の使い方

著者: 榎本俊行 ,   長尾さやか ,   柿崎奈々子 ,   斉田芳久

ページ範囲:P.198 - P.200

【ポイント】
◆急性虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術は,外科医にとっての最も基本となる手術である.
◆虫垂根部処理に関しては,稀に遺残膿瘍や虫垂皮膚瘻など引き起こすことがあるので,症例に応じて器具を適切に選択し,使用することが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

肝胆膵

Virtual reality(VR)技術を用いた手術支援画像の活用法

著者: 脊山泰治 ,   冲永裕子 ,   原田庸寛 ,   高尾幹也 ,   杉本真樹

ページ範囲:P.201 - P.205

【ポイント】
◆Virtual reality(VR)技術を用いることで,手術経験の少なさをカバーすることができる.
◆VR技術は特に直接手で触れられない内視鏡手術で術野解剖を把握するのに有用である.
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超音波ガイド下色素注入による腹腔鏡下系統的肝切除—ICG蛍光法による陽性染色法の実際と課題

著者: 長石将大 ,   青木武士 ,   草野智一 ,   榎並延太 ,   小池礼子 ,   藤森聰 ,   三田村圭太郎 ,   松田和広 ,   山田宏輔 ,   野垣航二 ,   田代良彦 ,   和田友祐 ,   柴田英貴 ,   冨岡幸大 ,   平井隆仁 ,   内田茉莉依 ,   山崎達哉 ,   齊藤和彦

ページ範囲:P.206 - P.213

【ポイント】
◆腹腔鏡下系統的肝切除におけるICG蛍光法による陽性染色法には,術中陽性染色法の他術直前陽性染色法およびそれら2つを組み合わせたCombination法がある.
◆腹腔鏡下系統的肝切除における陽性染色法は,気腹下に体表から担癌門脈枝までの穿刺ルートの空間位置情報を統合・検知することが困難であるため,穿刺精度を向上させる工夫が必要である.

ウォータージェットメスを用いた肝離断の方法とコツ

著者: 小林剛 ,   大段秀樹

ページ範囲:P.214 - P.218

【ポイント】
◆肝実質切離において大切なことは,残すべき脈管を損傷せずに,出血を防ぎつつ実質組織を除去して,処理すべき脈管に確実に到達することである.
◆ウォータージェットメスは組織選択性に優れ,熱を発生しない.肝実質切離において,温存すべき脈管を損傷せずに,処理すべき脈管を選別するのに優れている.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

モノポーラ・ドベーキー型MT摂子(オールインワン多機能手術デバイス)の使用法とコツ

著者: 田邉稔 ,   赤星径一 ,   小野宏晃 ,   上田浩樹 ,   渡邊秀一 ,   石川喜也 ,   浅野大輔

ページ範囲:P.220 - P.224

【ポイント】
◆モノポーラ・ドベーキー型MT摂子(MT摂子,製造販売:アムコ)とは,改良型ドベーキー型鑷子であり,筆者が開発した多機能手術用デバイスである.先端を剝離鉗子型に彎曲させ,後端を通常の電気メスジェネーターにコードで接続することができる.
◆MT摂子と高機能電気メスを連動させ,“把持”“剝離”“つまみ切り”“シーリング”“通常切間”の5種類の手術操作を行うことができる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

肝移植手術におけるリニアステープラーの選択と使用のコツ

著者: 原田昇 ,   吉屋匠平 ,   吉住朋晴

ページ範囲:P.226 - P.230

【ポイント】
◆脳死および生体肝移植手術におけるリニアステープラーの使用は安全かつ有用である.
◆肝静脈切離,下大静脈吻合閉鎖,門脈切離などにリニアステープラーを使用することによって出血量の軽減が期待される.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

ヘルニア

成人鼠径部ヘルニア手術に用いるメッシュの選択法と手技のコツ

著者: 小泉哲 ,   井田圭亮 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.231 - P.235

【ポイント】
◆術式に応じたメッシュの選択:予定術式(メッシュの展開・固定する層別にみた)と患者個々の体格・病態に合わせて適切な種類のメッシュを選択する.
◆腹膜前修復法(Direct Kugel法)におけるメッシュ挿入・展開・固定のコツ:成功の秘訣は,十分な腹膜前腔剝離と適切なメッシュの展開にある.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

FOCUS

—日常診療+αでできる—がん患者の記憶に残りやすいコミュニケーションや心理的技法

著者: 蓮尾英明

ページ範囲:P.237 - P.240

はじめに
 医療者が,緩和ケア領域のがん患者・家族に対して医療としてできることには限界があります.別の言い方をすると,緩和ケアのEBMは限られているため,医療者にかかる表面的な責任が少なく感じることはないでしょうか.つまり,医療者の偏った考え方や知識次第で,がん患者・家族のその後の経過は大きく変わってしまいます.緩和ケアのEBMが少ない分,医療者が果たすべき役割は非常に大きいのです.
 緩和医療の領域では多職種連携の重要性が謳われています.一方,緩和ケア領域のがん患者が最も望んでいるのは,がん治療医による緩和ケアでしょう.つまり,外科医の先生方は,誰よりもがん患者・家族を支えることができます.一方,外科医は誰よりも忙しいと思います.そのなかで,外科医の先生が,がん患者・家族とのコミュニケーション技術を,日常臨床+αのなかで高めることができたら,多くのがん患者・家族が救われるでしょう.
 がん治療領域でのコミュニケーション技術として,がん治療医が悪い知らせを伝えるためのコミュニケーション技術であるSPIKES(Setting, Perception, Invitation, Knowledge, Empathy, Strategy/Summary)が有名です1).今回はSPIKESは取り上げず,外科医の先生方が明日からの臨床で活かせるように,がん患者・家族の記憶に残りやすいコミュニケーションと心理的技法を,心理学からの切り売りで紹介します.詳細は成書をご参考ください.

病院めぐり

沖縄県立八重山病院外科

著者: 山本孝夫

ページ範囲:P.241 - P.241

 沖縄県立八重山病院がある石垣島は沖縄本島の南西約411 kmの地点,わが国最南西端に位置する八重山諸島の中心にあります.当院は,石垣島,西表島,与那国島,その他の島の人口約55,000人およびコロナ前は年間100万人以上ともいわれた観光客を対象とし,「地域とともに八重山の医療を守る」をモットーに急性期医療を提供しています.周辺離島の診療の救急対応として海上保安庁のヘリ搬送を受け入れており,また,当院での治療が難しい大動脈解離やカテーテル治療を要する脳動脈瘤などは自衛隊に依頼して沖縄本島にヘリ搬送しています.災害拠点病院,へき地医療拠点病院,地域がん診療病院に指定されています.2018年10月1日には建築後30年以上と老朽化した旧病院に代わり,302床(一般255床)の新病院が開院しました.放射線治療はできませんが,その他はほぼ最新の設備が整っています.総職員476名,勤務医師60名で,琉球大学,県立南部医療センター,県立中部病院,弘前大学と連携して研修医,後期研修医を受け入れています.
 当科は沖縄県立病院出身者と弘前大学からの派遣医を中心に常勤医6名で診療をしています.外科専門研修に関しては,沖縄県立病院と弘前大学のプログラムに参加して専攻医を受け入れています.また,日本消化器外科学会専門医修練施設にもなっています.当科は八重山医療圏,唯一の総合病院として,多種・多様な外科系疾患に対応する必要があります.胸部外科は専門医に応援依頼し,肺部分切除や気胸の手術を行っています.腎動脈以下の腹部大動脈切迫破裂など,沖縄本島への搬送が難しい場合,血管外科専門医を呼んで手術をすることもあります.脳神経外科の緊急手術にも外科医が助手として手術に入ることで,より広い意味で外科系の修練ができます.当科の滝上隆一医師は「国境なき医師団」に年間,数か月参加しており,近年,国内では少ないといわれる外傷手術の経験を積んで当院の診療に貢献してもらっています.2021年はコロナ禍で外科も数か月間,予定手術が組めなくなり緊急と悪性腫瘍の手術に限定されるなど大幅に症例数が減少しました.2021年の主な手術症例数は,胃切除6例,大腸切除40例,胆囊摘出術19例,虫垂切除39例,ヘルニア49例でしたが,2023年はコロナ禍以前の症例数に近づくことが期待されています.

同心円状モデルで読み解く 新しい食道外科解剖・2

左上縦隔—左右対称か非対称か

著者: 藤原尚志

ページ範囲:P.242 - P.252

Introduction
 食道癌手術は左右非対称的である.縦隔・腹部臓器が左右非対称であることは明らかである.しかし,人体を胎生期までさかのぼると左右対称性もまた明らかであり,第1回は右上縦隔の解剖を通してその左右対称性を強調した.
 第2回は食道癌手術の一番の難所である左反回神経周囲郭清に関連する外科解剖について,同心円状モデルに基づいて左右対称性を絡めつつ,一方で非対称性にも注目しながら,その解剖学的特徴を解説していきたい.今回からは,つい避けて通りたくなる発生学の知見も紹介して解説を行う.

手術器具・手術材料—私のこだわり・14

結腸体腔内吻合時の汚染防止スポンジガーゼの開発と有用性

著者: 田中慶太朗 ,   濱元宏喜 ,   庫本達 ,   高野義章 ,   鈴木悠介 ,   李相雄

ページ範囲:P.253 - P.256

 結腸癌に対する腹腔鏡下手術では,腹腔内で血管処理と腸管の授動操作を行ったのちに,腹部に小切開をおき,体外に病変部腸管を誘導して腸間膜の処理,腸管の切離と吻合を行う体腔外吻合が標準術式である.しかし,体腔外吻合の問題点としては,病変部腸管の体腔外への誘導が困難であったり,切開創の延長を余儀なくされたりすることが挙げられる.さらに,過度な腸間膜の牽引操作によって体腔内で静脈が損傷して大量出血をきたし,開腹を要する術中合併症も経験した.このような体腔外吻合の問題点を改善するため,われわれは2013年に体腔内吻合を導入した.体腔内吻合では体腔外操作を必要としない反面,腹腔内で腸間膜処理を行い,腸管を切離して吻合するため,体腔内の便汁汚染や,癌細胞の散布が懸念される.このような欠点を補う目的で,われわれは便汁が流出しても吸収性に優れ,防水効果も有する汚染防止スポンジシート(Laparoscopic Surgical Sponge Seat:Lap SSS)を開発して使用している.本稿では,Lap SSSの開発経緯と有用性につき紹介する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年2月末まで)。

書評

—𠮷村長久,山崎祥光(編)—トラブルを未然に防ぐカルテの書き方

著者: 川崎誠治

ページ範囲:P.189 - P.189

 本書は,北野病院の𠮷村長久院長と山崎祥光弁護士の編集で上梓されたものである.適切なカルテ記載の重要性を認識し,もともと関心を持っていらっしゃった𠮷村院長が,医師の資格もあり臨床経験もお持ちの山崎弁護士にカルテ記載に関する講演を数多く依頼してきた.その講演の内容が土台となったのが本書である.このお二人の組み合わせこそが,独特の視点を持つ本書の出版を可能にしたといえる.北野病院医療安全管理室の先生方と山崎弁護士が中心になり著述されているが,本書を読むと,「カルテ記載のない事柄はなかったことになる」ということがあらためて強く認識される.その他に,何となくそうではないか,あるいはぼんやりとどうなのだろう,と思っていたいくつかのことが明瞭に説明・記述されており,大変参考になる.以下に例を挙げる.
・カルテと異なり,忌憚のない意見交換の場であるカンファレンスや医療安全事例検討会などの議事録は開示の義務はない(むしろ開示すべきではない).それと関連して開示・非開示の書類の区別を医療機関内できちんと定めておくべきである.

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目次

ページ範囲:P.130 - P.131

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.235 - P.235

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.260 - P.260

次号予告

ページ範囲:P.261 - P.261

あとがき

著者: 橋口陽二郎

ページ範囲:P.262 - P.262

 今回は,「最新医療機器・材料を使いこなす」というテーマで特集を組みました.この分野は腹腔鏡手術が導入されるにしたがって多数の企業が参入し,加速度的に近代化していったように思います.さらに,ロボット手術の導入は,インターネットを介して世界中のロボットが結ばれ,AIが導入されて,と限りない未来が見えてきて,とてもエキサイティングな状況になりました.多くの若手医師の興味を引き,外科医の増加に貢献することを期待しています.
 さて,今や絶滅危惧種となりつつありますが,小生は若い頃からの熱心なオーディオマニアです.レコードしかない頃から,幅広く楽しんできました.CDが登場し,今やネットオーディオの時代となりました.YouTube Musicなどで,ほぼすべての音源をただ同然で,ワンタッチで聴けるのは本当に便利です.でも,イヤホンで聴くには十分ですが,小生には全く物足りない音質です.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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