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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科78巻3号

2023年03月発行

雑誌目次

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

ページ範囲:P.267 - P.267

 2021年,日本肝胆膵外科学会においてPAM Expert Consensus Meetingが開催され,“微細な解剖理解に基づいた安全な低侵襲肝切除”に対する理解が一段と深まった.また,2022年4月よりロボット支援下肝切除および腹腔鏡下生体肝移植グラフト肝採取術(外側区域)が新たに保険収載され,低侵襲肝切除は新たな時代を迎えた.

巻頭言

進化する肝臓外科

著者: 若林剛

ページ範囲:P.268 - P.269

 The long and winding road…….
 私にとって世界の肝臓外科との最初の出会いは,1994年に第111回ドイツ外科学会総会出席旅費給付が決定した時に始まった.ハノーバーのRudolf Pichlmayer教授にお会いし,大腸癌肝転移に対する下大静脈合併左三区域切除とリング付きゴアテックス人工血管による下大静脈再建を拝見し,大きな刺激を受けたことを記憶している.その後,ベルリンのPeter Neuhaus教授を訪ね夏休みに短期留学し,脳死肝移植のドナー摘出に参加し,Neuhaus教授が行う積極的な拡大肝胆膵手術を見学していた.当時はドイツの肝胆膵外科が,圧倒的に世界をリードしていたように思う.

解剖学的低侵襲肝切除の定型化の工夫

Laennec被膜の概念とその変遷—腹膜,被膜,鞘の体系的理解

著者: 林省吾

ページ範囲:P.271 - P.277

【ポイント】
◆肝門部のplate systemは,肝内でGlisson鞘に,肝外で肝十二指腸間膜に連続する胆管血管鞘であると,通常説明される.腹膜前器官を支配する血管の通路は一般に間膜であり,plate systemは腹膜で構成されていると考えるのが一見自然である.
◆しかしながら,肝冠状間膜に典型的にみられるように,通常間膜は内臓表面で折れ返り,内臓内には侵入しない.一方で,肝臓,腎臓などの実質臓器は,一般に臓器固有の被膜(内臓被膜)で覆われる.
◆Laennec被膜は,この肝固有被膜を指すものと理解されるが,Laennec被膜の外科的意義は,この被膜がGlisson鞘および肝静脈の被膜(鞘)として,肝内に侵入していることにある.
◆今日,肝臓外科解剖におけるLaennec被膜は,肝臓表面の被膜という本来の意味を超えて,肝内に侵入する構造物を覆う「鞘」としてとらえ直されつつある.

腹腔鏡下系統的肝切除における肝静脈剝離・露出の定型化

著者: 門田一晃 ,   貞森裕 ,   日置勝義 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.278 - P.282

【ポイント】
◆肝静脈を露出する際には,肝静脈根部側から末梢側に向けてデバイスを動かし,股裂き損傷を回避する.
◆主肝静脈とdemarcationを同一視野に入れ俯瞰的視野で肝離断を行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

ICG蛍光ガイドを利用した腹腔鏡下解剖学的肝切除の定型化—Glissonean approach先行によるICG negative-staining法

著者: 三島江平 ,   藤山芳樹 ,   若林大雅 ,   筒井敦子 ,   岡本信彦 ,   若林剛

ページ範囲:P.284 - P.288

【ポイント】
◆近年,腹腔鏡下肝切除におけるICG蛍光ガイドの様々な利用法が報告されている.
◆肝門アプローチ先行によるICG negative-staining法により,肝実質離断中のintersegmental planeを明瞭に描出することが可能である.
◆術前3D simulationと術中モニターの使用は,正確で安全な腹腔鏡下解剖学的肝切除実施に有用である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

高難度腹腔鏡下肝切除への挑戦と術中術後の合併症対策

腹腔鏡下再肝切除術

著者: 守瀬善一

ページ範囲:P.290 - P.294

【ポイント】
◆腹腔鏡下再肝切除は開腹再肝切除と同等の成績で安全に施行可能である.
◆術野アクセス経路・操作野確保を術前シミュレーションすることで癒着全剝離が不要となり,出血量・合併症低減などが期待できる.
◆癒着形成・肝機能劣化低減が期待でき,繰り返し発生する腫瘍を制御しつつ長期予後を目指す肝細胞癌治療戦略の中で有効である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

腹腔鏡下尾状葉切除

著者: 徳光幸生 ,   新藤芳太郎 ,   松井洋人 ,   中島正夫 ,   渡邊裕策 ,   友近忍 ,   吉田晋 ,   飯田通久 ,   鈴木伸明 ,   武田茂 ,   井岡達也 ,   永野浩昭

ページ範囲:P.295 - P.301

【ポイント】
◆腹腔鏡下尾状葉切除の難易度は高いが,caudal viewと拡大視効果によるメリットを最大限享受できる可能性がある.
◆安定した視野確保のためには,Spiegel葉,突起部,下大静脈部のそれぞれの部位に応じた展開の工夫が必要である.
◆部分切除の経験を積むことで,将来的な鏡視下尾状葉全切除への応用・定型化が期待される.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

腹腔鏡下肝切除における術中・術後の合併症対策

著者: 工藤雅史 ,   後藤田直人

ページ範囲:P.302 - P.307

【ポイント】
◆術中・術後合併症を起こさないために,術前からの周到な準備が必要である.
◆外科医だけでなく,麻酔科医や看護師とともに共通認識をもつことが合併症を回避するために必須である.
◆術後合併症の早期発見,対応方法を熟知しておくことが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

腹腔鏡下ドナー肝切除

世界的な現状と日本におけるガイドラインの作成

著者: 篠田昌宏 ,   板野理 ,   永野浩昭 ,   田邉稔 ,   若林剛

ページ範囲:P.309 - P.313

【ポイント】
◆海外で多数行われている低侵襲ドナー肝切除(MIDH)は,日本では保険未収載という障壁のため拡大が阻まれてきた.
◆過去20年で世界から発信されたMIDHの報告を概説し,直近の国際会議の内容を解説する.
◆2022年4月,ついに日本でもMIDHは部分的に保険適用となった.その詳細を解説し,ガイドラインの準備状況についても紹介する.

完全腹腔鏡下ドナー肝切除

著者: 天野怜 ,   新田浩幸 ,   片桐弘勝 ,   菅野将史 ,   梅邑晃 ,   武田大樹 ,   安藤太郎 ,   佐々木章

ページ範囲:P.315 - P.318

【ポイント】
◆Glisson鞘を温存した肝実質切離であり,通常の腹腔鏡下肝切除術よりも難度が高く,より安全性に配慮した手術手技が求められる.
◆尾状葉Glisson鞘の処理にはbridging techniqueが有用である.
◆十分な腹腔鏡下肝切除術およびドナー肝切除術の経験を有したチームで行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

高難度低侵襲肝切除の教育と普及における課題

腹腔鏡下肝切除におけるカダバートレーニングを利用した新規術式導入と教育の意義

著者: 新木健一郎 ,   石井範洋 ,   塚越真梨子 ,   渡辺亮 ,   播本憲史 ,   岩﨑広英 ,   調憲

ページ範囲:P.319 - P.324

【ポイント】
◆低侵襲手術の発達によって,わが国でも高難度術式導入のためのカダバートレーニングが普及しつつある.
◆カダバーはThiel法固定によって臓器再現性が非常に高く,腹腔鏡下肝切除においても多様な手技の習得が可能である.
◆カダバートレーニングを行うに際しては,ガイドラインに則った倫理的ルールを厳守することが重要である.

肝臓内視鏡外科研究会による腹腔鏡下肝切除術ハンズオントレーニングプログラム

著者: 大塚由一郎 ,   新田浩幸 ,   長谷川康 ,   土屋勝 ,   若林剛 ,   金子弘真

ページ範囲:P.325 - P.328

【ポイント】
◆本邦において,腹腔鏡下肝切除は急速に普及している.
◆腹腔鏡下肝切除のハンズオントレーニングの方法は確立され,徐々に進化してきている.
◆肝臓内視鏡外科研究会のハンズオンセミナーは,腹腔鏡下肝切除の安全な普及に貢献している.

ロボット肝切除の導入と未来

ロボット支援下肝切除の保険収載と学会基準

著者: 赤星径一 ,   石川喜也 ,   浅野大輔 ,   渡邊秀一 ,   上田浩樹 ,   小野宏晃 ,   田邉稔

ページ範囲:P.329 - P.332

【ポイント】
◆ロボット支援下肝切除の導入に際し,施設基準と学会指針の遵守が必須である.
◆部分切除,外側区域切除とそれ以上の切除で求められる基準が異なる.
◆看護師,麻酔科,臨床工学技士など,他職種と綿密な連携をとってチームを構築する必要がある.

ロボット肝部分切除・外側区域切除

著者: 森本守 ,   松尾洋一 ,   加藤知克 ,   林祐一 ,   今藤裕之 ,   齊藤健太 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.334 - P.339

【ポイント】
◆安全なロボット肝切除の導入のためには,ロボット手術の利点と欠点をよく理解することが重要である.
◆頭側領域の部分切除は難易度が高いが,適切な術野展開により安全に行うことができる.
◆外側区域切除は,Glisson先行一括処理や肝静脈に沿った実質切離といった系統的肝切除に含まれる手技を習得するうえで重要な術式である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

ロボット支援高難度肝切除—外側区域切除を除く亜区域切除以上

著者: 加藤悠太郎 ,   杉岡篤 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.340 - P.349

【ポイント】
◆ロボット支援高難度肝切除の安全な導入・普及のため,保険適用のための施設基準および学会指針を遵守することが重要である.
◆高難度肝切除では患者体位,ポート配置によりその実効性が大きく変わるため,重要な点として認識すべきである.
◆高難度術式はロボット肝切除の良い適応であり,ロボット機能の特性を活かした肝外Glisson鞘アプローチが有用である.

手術器具・手術材料—私のこだわり・15

E・Zアクセス楕円タイプ

著者: 柴尾和徳 ,   米田政弘 ,   本田晋策 ,   厚井志郎 ,   佐藤永洋 ,   井上譲 ,   平田敬治

ページ範囲:P.350 - P.353

 当科では2008年より現在までに1,500例を超えるReduced port surgery(RPS)を行ってきた.その大半でE・Zアクセス楕円タイプ(八光,長野)1)を使用しており,近年ではロボット手術にも適用している2).E・Zアクセスの正円タイプは使用しているものの,楕円タイプの使用経験がない読者も多いと思われるため,本稿では本製品の開発経緯,特徴と使用法の工夫について詳説する.
E・Zアクセスの開発経緯・特徴と種類
 E・Zアクセスは,対応する単回使用開創器ラッププロテクター(八光)に装着して単孔式内視鏡下手術および小切開を行う腹腔鏡下手術に使用するポートデバイスである.ラッププロテクターとの取り外し・再装着が短時間に何度でも可能なため,臓器の取り出しなどが容易となる(図1).E・Zアクセスには“正円タイプ”と“楕円タイプ”があり,正円タイプは西陣病院外科の高木剛先生が2010年に八光と共同開発したデバイスである.任意の位置に複数本のトロカールを配置可能という優れた特徴をもっており,現在日本中で広く用いられている製品である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年3月末まで)。

同心円状モデルで読み解く 新しい食道外科解剖・3

筋膜論—同心円状モデルを普遍的な外科解剖とするための筋膜論

著者: 藤原尚志

ページ範囲:P.354 - P.362

Introduction
 第3回は同心円状モデルが普遍性をもつうえでとても重要な筋膜構造に対する考察を進めたい.自分自身が「同心円状モデル」でいち早く解剖の概要をつかんだのが上縦隔であったが,自分自身はその後に上縦隔だけではなく,そのほかの領域まで同心円状モデルの応用範囲を広げながら,より普遍的な外科解剖の解明をめざすようになった.その過程で前提として考えざるをえなかったのが今回のテーマである「筋膜論」である.
 現代の消化器外科手術・解剖の話題の中心は間違いなく「アワアワの層」「剝離可能層」「疎性結合組織層」であろう.これらは本来,まとめて「筋膜fascia」と呼称されるべきものである,というのが今回の筋膜論の根本である.このような筋膜論に対する反論の根拠となる誤解は,この「筋膜」と「腱膜・腱組織」との混同である.いわゆる筋肉を包むもっと硬い膜状組織,例えば腹直筋鞘・外腹斜筋腱膜や大腿・下腿に存在するそれに似た腱組織などは「筋膜fascia」ではない.この前提が重要である.

病院めぐり

四谷メディカルキューブ外科

著者: 今村清隆

ページ範囲:P.363 - P.363

 四谷メディカルキューブは2005年(平成17年)3月に,都市型専門クリニックとして病床数19床にて設立されました.JR中央線四ツ谷駅から徒歩5分にある地下1階,地上7階建てのビルです.2022年4月の時点で233名の職員がおり,一般外来の他,女性専用外来,PET/CTを備えた人間ドックがあり,検査機器を充実させ,内視鏡手術に特化した手術等を提供しています.外科に関連する施設認定として,日本外科学会専門医制度修練施設,日本手外科学会専門医制度基幹研修施設,日本乳癌学会認定施設をはじめ,他にも様々な施設認定を取得しています.国内留学だけでなく,外国医師が臨床修練を行う認可(医師法17条等の特例)を得て,海外からもフェローも受け入れています.また,文部科学大臣により指定された研究機関として,多くの臨床研究や治験にも積極的に取り組んでおります.
 患者さまには,安心で快適な入院生活をお過ごしいただけるよう,すべての宿泊室は個室で洗練された落ち着いた雰囲気となるよう工夫しています.入院中の食事にはフランス料理の巨匠 三國シェフがプロデュースする「美しく,おいしく,心と体に優しい料理」を提供しています.

FOCUS

外科手術における腸内細菌叢の重要性—シンバイオティクスの術後感染性合併症抑制効果

著者: 横山幸浩

ページ範囲:P.364 - P.369

はじめに
 近年,腸内環境と様々な疾患の関連が報告されているが,外科手術における腸内環境の重要性については,いまだ十分に解明されているとは言い難い.腸内環境の指標として,患者から採取した糞便中の細菌叢プロファイルを評価することはよく行われる.特に近年は腸内細菌がもつ16SrRNAの遺伝子(16SrDNA)配列の違いで細菌を区別する分子生物学的手法がよく行われるようになった.なかでも新しい技術である次世代シーケンサーと高性能コンピュータの利用により,いわゆるメタゲノム解析が盛んに行われ,この手法を用いて糞便の細菌叢を解析して腸内環境の指標とする研究が数多くなされている.しかし,次世代シーケンサーで得られたデータは膨大すぎて,それをどのように解釈し,実際の臨床像と結びつければよいのかがわかりにくい.また,次世代シーケンサーを用いた解析は以前に比べ安価になったとはいえ,いまだ高額な検査法である.そのため,患者個々人の腸内環境の良し悪しを判断するためには,もう少し安価に行えるシンプルな指標を用いたほうが実臨床に即していると考えられる.

臨床報告

拡大胸腺摘出術中に心損傷をきたした先天性左心膜欠損症の1例

著者: 佐々木明洋 ,   加藤弘明 ,   久保田玲子 ,   阿部大 ,   成田吉明

ページ範囲:P.370 - P.373

要旨
先天性心膜欠損症はまれな疾患で欠損孔周囲や心囊内などに癒着を認める場合があり,慎重な手術操作を要する.症例は70歳,男性.胸部大動脈瘤精査のCTで前縦隔腫瘍を認めた.精査の結果,抗アセチルコリン受容体抗体陽性胸腺腫の診断で,両側胸腔鏡+頸部アプローチによる拡大胸腺摘出術の方針となった.術中所見では,左心耳が露出し,その他の部位の露出はなく左心膜部分欠損症と判明した.胸腺を心囊から剝離する際に心膜を損傷した.心囊内癒着のため,心膜損傷時に右房損傷をきたし縫合止血を要した.術後経過は良好で術後7日目に退院し,現在術後55か月無再発生存中である.

ロボット支援下低位前方切除術を行った右腎移植後直腸癌の1例

著者: 川中滉貴 ,   小竹優範 ,   齊藤浩志 ,   羽田匡宏 ,   尾山佳永子 ,   原拓央

ページ範囲:P.374 - P.378

要旨
慢性腎不全に対して腎移植の既往がある75歳男性.左肺癌の精査で施行したPET-CTで直腸にFDGの異常集積を指摘された.下部消化管内視鏡検査でRaに1型腫瘍を認め,生検で腺癌と診断した.腹部CT検査では右移植腎が腹腔内右側を占拠していた.通過障害を懸念し,肺癌に対する化学療法に先行して直腸癌に対してロボット支援下手術を施行した.移植腎により腹腔内右側の空間が制限されることを想定し,ポートを通常より左側に配置した.術中は鉗子を適宜入れ替えることで,限られた空間でも通常に近い視野を確保し手術を遂行できた.過去に腎移植後の直腸癌に対するロボット手術の報告は少ないが,ポート配置の変更,鉗子の入れ替えにより対処可能であった.

10か月間に3回の十二指腸潰瘍穿孔を発症した1例

著者: 市川由佳 ,   石橋雄次 ,   川﨑浩一郎 ,   下地耕平 ,   山崎僚人 ,   森田泰弘

ページ範囲:P.379 - P.383

要旨
症例は72歳,男性.上腹部痛を主訴に受診し,十二指腸潰瘍穿孔の診断で腹腔鏡下大網充塡術,洗浄ドレナージ術を施行した.術後Helicobacter pyloriの一次除菌を施行した.術後5か月に十二指腸潰瘍穿孔を再度発症し,腹腔鏡下大網充塡術,洗浄ドレナージ術を施行した.初回手術から10か月後に3回目の十二指腸潰瘍穿孔を発症した.汎発性腹膜炎の所見を認めなかったため,保存加療で改善した.今回10か月間の短期間に3回もの穿孔を発症し,2回の手術治療を要した十二指腸潰瘍の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下に摘出した60 mm大の腹腔内遊離体の1例

著者: 浦田望 ,   山仲一輝 ,   谷和行 ,   羽鳥慎祐 ,   沼田幸司

ページ範囲:P.384 - P.388

要旨
患者は55歳,男性.血糖コントロール不良の糖尿病のため,当院内科を紹介受診.精査目的の腹部CTで骨盤内に腫瘤を認め,腹腔内遊離体を第一に考えたが,孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)や消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)などの可能性もあり,手術目的に当科紹介,本人とも相談のうえ,診断および治療目的に腹腔鏡下に摘出術を実施し,腹腔内遊離体の診断であった.腹腔内遊離体は,腫瘍との鑑別が困難な場合もあり,また,50 mm以上の巨大な腹腔内遊離体は腹痛や膀胱圧迫症状などの有害事象を起こしうること,発見時に症状がなくても今後症状をきたす可能性もあることから,診断的意義を含めて手術は妥当であったと考えられる.

書評

—藤田尚男,藤田恒夫(原著) 岩永敏彦,岩永ひろみ,小林純子(改訂)—標準組織学 総論 第6版 —藤田尚男,藤田恒夫(原著) 岩永敏彦,渡部 剛(改訂)—標準組織学 各論 第6版

著者: 内山安男

ページ範囲:P.289 - P.289

 藤田・藤田の『標準組織学』は,総論と各論からなる大冊です.教科書は,その時点で科学的に事実と認められている事象を基に書き上げることが必要です.これを徹底すると,教科書ほどつまらない読み物はありません.しかし,個人で書き上げる教科書は,事実に基づく記載に独自の味付けをすることで面白くなると考えられます.今や故人となられた藤田恒夫先生と藤田尚男先生の手による『標準組織学』は,その典型であると思います.
 藤田恒夫先生が本書第4版の執筆時,岩永敏彦先生に多くを依頼されていたことを記憶しています.版を重ねるごとに,岩永先生の免疫組織細胞化学の技が随所にちりばめられるようになりました.岩永先生は,藤田恒夫先生の下で,免疫染色を武器に消化管をはじめさまざまな領域のペプチドホルモン産生細胞(脳腸ペプチドホルモン)の研究を進めてきました.その後,独立して北大に移り,獣医学部,医学部と経験され,第5版で『標準組織学』の改訂者になられています.本書はフォローしている論文の数だけでも膨大です.この5〜7年間で,新たに加える事項と切り捨てる事項を調べるだけでも大変な作業です.藤田恒夫先生は科学者であるとともに文筆家でもあり,非常にたくさんの本を世に出されました.岩永先生も形態関連の本を出版されていますが,筆まめな先生でないと,この大著を仕上げるのは至難の業かもしれません.

—𠮷村長久,山崎祥光(編)—トラブルを未然に防ぐカルテの書き方

著者: 金倉譲

ページ範囲:P.314 - P.314

 本書を手にとったとき,『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』というタイトルに引き込まれました.普段から自分でもカルテの書き方に満足していないからです.序文には,編者の𠮷村長久氏が6年前に北野病院に病院長として赴任後,カルテ記載に問題のあるケースが多々あることに気付き,カルテ記載の教育・指導が不十分であったことを思い知らされたとあります.そこで,医師と弁護士の両方の肩書をお持ちで,もう一人の編者である山崎祥光氏に「カルテの書き方」の講演を継続的にしていただいたところ,「目からうろこ」の思いをした医師も多く,その反響の大きさから講演内容をまとめ,本書として全国の皆さまに届けることになったのです.
 医師にはカルテの記載義務があります.人間の記憶は不確かで,20分後には4割,1時間後には半分以上忘れるとされており,診療したときに遅滞なく記載する必要があります.患者の状態や医療行為を時系列でカルテに記載しておくことにより,次の適切な医療行為が行えるのです.また,カルテは,医学上の資料となるだけではなく,会計上の原本にもなっています.さらに,重要な点は,カルテの記載内容が訴訟での証拠資料となることです.カルテに書いていないことは,事実認定されないのです.医療訴訟の事件数は年間800件を超えており,珍しいことではなくなっています.これらの案件では,和解や判決により6割前後のケースで被告側が何らかの支払いを要する結論が出ています.医療訴訟となった場合,審理期間は2年を超え,精神的にも肉体的にも疲弊します.

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目次

ページ範囲:P.264 - P.265

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.318 - P.318

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.392 - P.392

次号予告

ページ範囲:P.393 - P.393

あとがき

著者: 田邉稔

ページ範囲:P.394 - P.394

人生で最も美味しい食事
 2022年の大晦日.自宅の大掃除や買い出しが終わり,恒例の『年越しそば+紅白歌合戦』まで少し時間が空いた.何気なくテレビを付け,居間のソファで横になって一息つく.最近,一年が経つのが早い……体が止まると眠くなる……テレビは相変わらずのマンネリ・グルメ番組……つまらない……やや空腹…….そんなまどろみの中で昔の思い出が蘇る.「ああ,あの時行ったフランスの三つ星レストラン……」.
 2014年12月,フランス・ストラスブールにある低侵襲手術の開発/トレーニングセンターIRCADで第1回の肝胆膵外科コースが開催され,私もファカルティの一人として招かれた.主催はこの分野では世界的権威のジャック・マレスコ教授.まさに腹腔鏡下肝切除が普及し始め,世界中の肝胆膵外科医がその発展を注視しはじめた時であった.聞けば,参加登録を開始して1日ですべて満席になったとのこと.世界40カ国以上から野心的な外科医がIRCADに集合し,白熱した講演とハンズオントレーニングが展開された.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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