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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科78巻7号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

ページ範囲:P.777 - P.777

 手術は侵襲的な治療であるがゆえに術後一定の頻度で有害な事象(術後合併症)が発生し,そのうちの一部がリカバリーできずに手術死亡となる.医療事故調査委員会などに参加すると,問題となるのは大抵が予想外の合併症が起こったことによる死亡例である.すなわち,手術死亡例の多くは『術後急変』によって発症し,救命できなかったことを示す.『術後急変』とは言い換えれば,潜在して進行する合併症に主治医チームが気付けなかったことを意味する.

巻頭言

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.778 - P.780

はじめに
 手術は組織損傷であるがゆえ生体に侵襲反応を引き起こす(図1).損傷に起因する刺激は,視床下部へ伝達され,ホメオスタシスを目的として神経・内分泌系が様々な生体反応を引き起こす.すなわち,視床下部から交感神経-副腎髄質系の自律神経系反応が伝わると同時に,下垂体-副腎皮質系の内分泌反応が生じる.その結果,カテコラミン,成長ホルモン,グルココルチコイド,グルカゴン分泌が促され,代謝亢進・糖新生の亢進・脂肪分解亢進・異化亢進(筋蛋白崩壊)・インスリン抵抗性が生じ,生体を守ろうとする.さらに,損傷局所の反応として一次止血から血小板,好中球,マクロファージの集族が生じ,各種サイトカインが分泌され,それが溢れると全身の高サイトカイン血症の状態〔全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)〕となる.また高サイトカイン血症は制御性T細胞の増加や免疫寛容反応を引き起こす.これらの反応は生体防御のための必要な反応であり,多くの症例でリカバリーするが,高齢者や臓器予備能が不十分な症例ではその変化に耐えきれず合併症を併発し,ときに呼吸不全・心不全・腎不全・肝不全などの臓器不全の状態に陥る.
 一部の症例では損傷部位から細菌が生体内に侵入し,second attackを引き起こす.これも通常は自然免疫・細胞性免疫が機能するため,感染局所に封鎖・排除されるが,免疫能が低下している症例では排除できずに全身にスピルオーバーし菌血症の状態となる.病原体から放出される分子構造はpathogen-associated molecular pattern molecules(PAMPs)と呼ばれ,損傷と同様の経路(血小板,好中球,マクロファージ)を通って一連の免疫・炎症反応を引き起こす1).一部の症例では過剰なdamage-associated molecular pattern molecules(DAMPs)が損傷細胞あるいは免疫担当細胞から放出される.これは本来的には生体防御を目的としているが,過剰に分泌されると臓器不全を惹起する.さらに最近では,dysbiosisの患者では高サイトカイン血症によって腸管上皮細胞のtight junctionが弛緩し,腸内細菌由来のoccult-BTが上乗せされることがわかってきた2).これがあたかも第三の侵襲として重畳される.
 このような一連の反応は特異的な指標がないため,突然循環障害・臓器不全として発覚することが多く,医療者側は『急変した』と捉えがちである.しかし,上記のメカニズムを考えれば,循環障害・臓器不全に至る24〜48時間前には生体内でよからぬことが進行中であったはずである.それを医療者側が気付けなかったことが『急変』である.そのような事象を回避する方策としていくつかのポイントを考えるべきである.

総論

術後急変を予知するための毎日の回診のポイント

著者: 小林省吾 ,   土岐祐一郎 ,   江口英利

ページ範囲:P.781 - P.785

【ポイント】
◆術前から,術後に生じるであろうリスクを把握しておくことが最大の対策となる.
◆術中に判断しなくてはいけない項目は,術後合併症のリスクとなる.
◆術後の過程において,それぞれの合併症の好発時期が存在する.通常の経過を知っておくことで,急変の予兆を知ることができるかもしれない.

ラピッドレスポンスチームの役割と立ち上げ方

著者: 髙木俊介

ページ範囲:P.786 - P.790

【ポイント】
◆ラピッドレスポンスシステムとは,多職種が連携し,心肺停止になる手前の急変患者に早期介入をするチーム医療のモデルである.
◆ラピッドレスポンスシステムを起動するためには患者の重症度評価が必要であり,重症度を評価するうえで呼吸数の測定が重要である.
◆新たなシステムの導入には現場の行動変容を起こさせる必要があり,導入先の組織風土や導入担当者のリーダーシップが重要である.

術後急変回避のための特定看護師の育成

著者: 木村光利 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.791 - P.794

【ポイント】
  特定看護師は,次の事項を通して術後急変回避に貢献できる.
◆手順書による特定行為を行うことによって,担当医が病棟に来るよりも早く医学的な介入ができる.
◆研修を通じて学んだ思考プロセスにより,より早期に患者の異変に気づき,必要な介入を始められる.
◆自らが学んだ知識・経験を,その特定看護師が配属された病棟全体に伝える.

各論1:各種ショックが起こってしまったときの初療

出血性ショック

著者: 小谷穣治

ページ範囲:P.795 - P.800

【ポイント】
◆ショックの病態を理解しておく.非可逆性ショックに陥る前に止血することが最大目標である.
◆大量出血がいつ発生しても速やかに対応できる手術室,輸血部,検査室および血液を供給する血液センターとの連携システムの構築,物品,マンパワーを供給できるシステムを日頃から準備しておく.
◆院内ルールを作成し,シミュレーションを定期的に実施する.
◆外科医は手術の完遂ではなく,致死的三徴候を避けるためのdamage control surgeryの適応を考える.

敗血症性ショック

著者: 石橋勇輔 ,   辻本広紀 ,   上野秀樹

ページ範囲:P.801 - P.805

【ポイント】
◆敗血症性ショックの診断はSepsis-3の定義に従いSOFA,qSOFAを用いて迅速に行う.
◆術後敗血症性ショックの治療の大原則は循環・呼吸動態の管理,感染源の同定とその制御であり,抗菌薬加療の役割は大きい.
◆敗血症性ショックへのPMX-DHP療法の有用性に関しては,今後の検討課題である.

心原性ショック

著者: 板垣秀弥 ,   遠藤智之

ページ範囲:P.806 - P.811

【ポイント】
◆心原性ショックの死亡率は現在でも非常に高いままである.
◆心原性ショックの分類を理解し,重症に移行しないように対応する.
◆心原性ショックに対する補助循環について理解を深める.

各論2:疾患別の対応

呼吸器合併症の予知・早期発見のベストプラクティス

著者: 豊住武司 ,   松原久裕

ページ範囲:P.812 - P.815

【ポイント】
◆術後呼吸器合併症は重篤な経過をたどりうるため,ハイリスク患者の把握,徴候の早期発見,さらには術前からの予防が重要になる.
◆術後呼吸器合併症を疑った際は画像評価や動脈血液ガス検査での速やかな評価を躊躇してはならない.

腹腔内膿瘍の予知・早期発見のベストプラクティス

著者: 伊関雅裕 ,   水間正道 ,   海野倫明

ページ範囲:P.816 - P.821

【ポイント】
◆臓器/体腔SSI,腹腔内膿瘍の定義・診断基準と一般的なリスク因子を把握する.
◆腹腔内膿瘍の早期診断にかかわる最新の知見をもとに,術式・疾患毎の腹腔内膿瘍の合併症率,有用なバイオマーカーを知る.
◆膵切除後の腹腔内膿瘍のリスク因子を理解し,適切な術後管理を知り,実践することで術後急変を未然に防ぐ.

膵頭十二指腸切除術後の仮性動脈瘤破裂の早期発見のベストプラクティス

著者: 吉村知紘 ,   川井学

ページ範囲:P.822 - P.827

【ポイント】
◆膵頭十二指腸切除術(PD)後の仮性動脈瘤破裂による動脈性出血は致死的な経過をたどることがある.
◆仮性動脈瘤破裂の原因として膵液廔や腹腔内膿瘍による血管壁の脆弱化によるものが多く,胃十二指腸動脈断端に好発する.
◆仮性動脈瘤からの出血を疑った際には,経過観察ではなく,迅速に緊急造影CT,interventional radiology(IVR)による診断・治療を施行する.
◆仮性動脈瘤破裂による動脈性出血に対する治療として,IVRが第一選択である.IVRによる止血が不十分であれば,開腹止血術を考慮する.
◆早期発見,早期治療介入のため病棟看護師や放射線科とのチーム体制を整えておくことが必須である.

上部消化管手術の縫合不全の予知・早期発見のベストプラクティス

著者: 田中千恵 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.828 - P.831

【ポイント】
◆発熱や腹痛の増悪,炎症反応の上昇などといった縫合不全が疑われる所見を認める場合は,まずCT検査を行う.CT検査で確定診断がつかない場合は,他の検査も行い複数の結果から総合的に判断する.
◆重篤な状態で,かつ縫合不全を疑うが確定診断に至らない場合は,できうる治療を開始しながら繰り返し密に検査を行う.

直腸癌術後縫合不全の予防と治療戦略

著者: 鈴木悠太 ,   山内慎一 ,   髙岡亜弓 ,   花岡まりえ ,   岩田乃理子 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.832 - P.837

【ポイント】
◆直腸癌術後縫合不全は周術期合併症のなかで致命的になりうる合併症の1つであり,予防・リスク因子を理解しておくことが重要である.
◆発症初期はドレーンの排液変化を伴わず,尿量低下や麻痺性イレウス,発熱・炎症反応の上昇のみが見られることがあるため,迅速な検査を施行し,診断が遅れないように注意する.
◆ストーマがない場合は,保存加療が可能かどうかは慎重に判断するべきであり,基本的には手術によるドレナージと人工肛門造設を常に念頭におく.

術後肝不全の予防

著者: 林大介 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   水野隆史 ,   山口淳平 ,   尾上俊介 ,   渡辺伸元 ,   川勝章司 ,   砂川真輝 ,   馬場泰輔 ,   江畑智希

ページ範囲:P.838 - P.840

【ポイント】
◆肝切除後肝不全の定義は,International Study Group of Liver Surgery(ISGLS)によると,術後5日目におけるPT-INRの増加と高ビリルビン血症を認めるものである.
◆肝切除後肝不全の危険因子として過少残肝,肝機能不良,感染症,術中大出血,残肝血流障害などが挙げられる.
◆肝不全に対する特異的治療はないため,適切な術前評価と肝切除範囲の設定が重要である.

肺塞栓症の予知・早期発見のベストプラクティス

著者: 池田正孝 ,   宋智亨 ,   伊藤一真 ,   大谷雅樹 ,   今田絢子 ,   松原孝明 ,   竹中雄也 ,   木村慶 ,   片岡幸三 ,   別府直仁 ,   堀尾勇規 ,   内野基 ,   池内浩基

ページ範囲:P.841 - P.844

【ポイント】
◆症状から肺塞栓症を予知することは難しいため,肺塞栓症が起こりやすいリスクを把握する必要性がある.
◆発症リスクが高い患者へ深部静脈血栓症予防方法と症状の教育をして早期発見につなげる.
◆深部静脈血栓症を有する患者において肺塞栓症の積極的なスクリーニンクならびに治療を行う.

周術期における急性腎障害の予知・早期発見のベストプラクティス

著者: 井上悠太郎 ,   土井研人

ページ範囲:P.845 - P.849

【ポイント】
◆急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は頻度の高く,重大な周術期合併症であるため,診断基準や疫学,各段階でのリスクファクターを知り早期発見・早期対処に努める必要がある.
◆AKI予防のため,制限しすぎずかつ過剰にならない適切な術中の輸液量が求められる.
◆血清クレアチニン値や尿量だけでなく早期診断の補助となるバイオマーカーの研究が進んでいる.

偽膜性腸炎・MRSA腸炎の予知・早期発見のベストプラクティス

著者: 松田圭二 ,   橋口陽二郎 ,   林くらら ,   池畑泰行 ,   宮田敏弥 ,   浅古謙太郎 ,   福島慶久 ,   島田竜 ,   金子建介 ,   端山軍 ,   野澤慶次郎

ページ範囲:P.850 - P.856

【ポイント】
◆術後に下痢がみられたら,偽膜性腸炎を疑い下痢検体を検査に提出する.
◆偽膜性腸炎の偽膜は直腸,S状結腸に好発し,疑われたときは躊躇せず大腸内視鏡検査を行う.
◆偽膜性腸炎で薬物療法に反応しない場合,腸閉塞,巨大結腸症を呈する場合は手術を考慮する.

同心円状モデルで読み解く 新しい食道外科解剖・6

大動脈弓下の同心円状モデル:総論—中下縦隔とはもう言わない

著者: 藤原尚志

ページ範囲:P.858 - P.868

Introduction
 前回までの連載では,大動脈弓から頭側の領域,すなわち左右の上縦隔領域および頸部領域について解説した.そして今回からは,大動脈弓から尾側の領域の解説に移りたい.大動脈弓を解剖学的に重要なメルクマールと捉えるのは,これまでの外科解剖にはない発想かもしれないが,本連載では食道外科解剖における大動脈弓の重要性を繰り返し強調してきた.簡単に述べると,肺尖部を後天的に伸び出した胸腔であると見なせば,大動脈弓は発生学的にみて体腔(胸腔・腹腔)の上端であり,重要な解剖学的境界構造と考えられるうえに,頸部からの手術手技や内視鏡による診断など臨床的観点からも非常に有用性が高い解剖学的指標なのである.詳細は第2回Figure 8をご参照いただきたい.
 今回のテーマである大動脈弓から食道裂孔までの大動脈弓下領域は,基本的には均一な層構造を形成している.心臓および肺の発達により胸郭が拡大して,その結果として大動脈や食道が伸張したという発生過程を想定すると,この領域は「金太郎飴」のごとく,均一な層構造を保っていると考えるのが妥当であろう.その均一な層構造とは第5回で解説した,改定された同心円状モデルで示される層構造である.本稿でも解説する通り,改定された部分は,大血管系が腹側,背側いずれかに属する血管であることに着目して,大血管が属するVascular layer自体も腹側・背側に2層化するという点である.本稿で示す大動脈弓以下の均一な層構造は,このVascular layer自体が,腹側の心臓を含むVascular layerである「Cardiac layer」と背側の下行大動脈を含むVascular layerである「Aortic layer」に2層化した同心円状モデルに基づいている.

手術器具・手術材料—私のこだわり・18

超音波凝固切開装置による腹腔鏡下大腸癌手術

著者: 植村守

ページ範囲:P.870 - P.873

はじめに
 骨盤外科領域においても急速に腹腔鏡下手術が普及し,微細解剖の認識などにより精度の高い手術が可能となってきた.手術手技の進歩はエネルギーデバイスの発達とともにあり,その効率良い利用が手術完成度の向上につながると考えられる.実際の手術では,電気メス,超音波凝固切開装置,アドバンスドバイポーラなど様々なエネルギーデバイスが術操作に使用されるが,エネルギーデバイスの特徴を理解し適切に使用することは,安全で確実な手術を施行するには不可欠な要素となる.
 大腸癌手術においては,腫瘍周囲の腸管を取り巻く腸間膜を損傷することなく確実に切除することが必要である.つまり,結腸癌では全結腸間膜切除(complete mesocolic excision:CME)1),直腸癌では直腸間膜全切除(total mesorectal excision:TME)2)が重要で,これは万国共通の概念ともいえる.また,下部進行直腸癌手術の際に必要となる側方リンパ節郭清などでは,閉鎖神経,内腸骨動静脈などを露出し,これを温存しつつリンパ節を含む脂肪組織を切除する手技が必要であり,温存すべき血管や神経の周囲では繊細で正確な操作が必要となる.
 われわれのグループでは腹腔鏡下大腸癌手術において,上記のすべての操作を超音波凝固切開装置にて施行している.本稿では,超音波凝固切開装置について概説しつつ,実際の手術での使用法について説明する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年7月末まで)。

FOCUS

「食道癌取扱い規約第12版」改訂のポイント

著者: 田中晃司 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.874 - P.882

はじめに
 食道癌取扱い規約(以下,JES)は2015年に第11版(JES 11th)が発刊されてから7年経過し,第12版を発行することとなった.今回の改訂においては,①UICC 8thとの整合性,②術前療法時代への対応,③食道胃接合部癌の取り扱い,を改訂点の柱として取り上げた.改訂開始時点では,規約に記載する根拠となるデータが十分ではない改訂項目に関しては,取扱い規約ワーキンググループ(以下,WG)を立ち上げ,多施設共同で構築したデータベースおよび食道癌全国登録のデータを用いて,新たな観察研究によるデータ集積と解析を行った.

病院めぐり

岡山赤十字病院外科

著者: 杭瀬崇

ページ範囲:P.883 - P.883

 岡山赤十字病院は,日本三大名園の一つに数えられる岡山後楽園から約5 km南に位置し,2023年5月現在で標榜36診療科,総職員数1,309名,三次救急医療機関である救命救急センターを併設した病床数500床の急性期病院です.設立は1927年で,あと少しで100周年を迎えます.日本医療機能評価機構認定病院,臨床研修指定病院,地域がん診療拠点病院などの指定を受け,「信頼され親しまれる病院に」を理念として,がん診療と救急医療を中心に地域貢献に努めております.
 当院の外科は上部消化管外科,下部消化管外科,肝胆膵外科,呼吸器外科,乳腺内分泌外科,心臓血管外科の6つの臓器別グループで構成されており,スタッフ15名と後期研修医5名で精力的に活動しております.女性外科医も5名(後期研修医2名)在籍しております.年間1,200件ほどの全身麻酔手術を行っており,2022年度の主ながんの手術件数は食道がん5,胃がん33,大腸がん107,肺がん69,乳がん89,肝胆膵がん48でした.日本内視鏡外科学会技術認定医を2名(胃1名,大腸1名)有し,鏡視下手術も各グループで積極的に行っており,導入が遅れていたロボット支援手術についても2023年1月より開始しております.

臨床報告

成人Nuck管水腫に対してhybrid法による切除を施行した2例

著者: 木下新作 ,   三木明寛 ,   岡本佳樹 ,   藤原理朗 ,   小森淳二 ,   石川順英

ページ範囲:P.884 - P.888

要旨
症例1は49歳,女性.右鼠径部膨隆を主訴に近医受診し,CTで右鼠径部に囊胞性腫瘤を認め当院紹介となった.Nuck管水腫と診断し,手術を施行した.腹腔鏡下に開始し,前方アプローチも併用して水腫を完全切除した.症例2は39歳,女性.右鼠径部腫瘤を主訴に近医受診し,右鼠径ヘルニアを疑われ当院紹介となった.CTで右鼠径部に軟部組織を認め,さらにその先端に囊胞性腫瘤を認めた.Nuck管水腫と診断し,症例1と同様に腹腔鏡と前方アプローチを併用して水腫を完全切除した.病理組織所見で子宮内膜症の合併を認めた.Nuck管水腫の手術では,水腫を損傷することなく完全切除することが重要であり,hybrid法は有用であると考えられた.

下行結腸と上行結腸より異時性に出血をきたし結腸亜全摘術を要した全結腸型大腸憩室症の1例

著者: 古山貴基 ,   近藤純由 ,   檜田真 ,   達富祐介 ,   中澤久仁彦 ,   後小路世士夫

ページ範囲:P.889 - P.894

要旨
症例は67歳,男性.複数回の下血を認め,救急搬送された.CT検査では全結腸にびまん性に憩室を認め,大腸憩室出血を疑い大腸内視鏡検査を施行したが,出血源の同定は困難であった.第2病日夜間に大量下血を認め,ただちに造影CT検査および大腸内視鏡検査を施行したところ,下行結腸憩室からの出血を認め,内視鏡的止血を行った.しかし第3病日に再度の大量下血を認め血圧維持困難となり,緊急手術を行った.確実な救命のため,結腸亜全摘術および回腸人工肛門造設を選択した.切除標本の観察では,上行結腸憩室からの出血が疑われた.大腸憩室出血に対し緊急で結腸亜全摘術を要する症例は稀であり,文献的考察を加え報告する.

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目次

ページ範囲:P.774 - P.775

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.844 - P.844

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.898 - P.898

次号予告

ページ範囲:P.899 - P.899

あとがき

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.900 - P.900

そろそろ国際学会も対面で行われるものが多くなってきました.私も,今年3月に2回海外出張に行きました.America Hepato-Pancreato-Biliary Associationは北米,南米の有力な研究者が集まる学会で,毎年マイアミで開催されます.対面なので大変有意義な意見交換ができました.一方で,私を不安にさせる要素がありました.講演する演者にやけに女性が多かったのです.知り合いの米国人役員に尋ねたところ,すべてのセッションで男女比が1対1になるように学術委員会で規定を作り,遵守しているそうです.そういえばAHPBAの理事長はMaria B. Majella Doyleという女性です.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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