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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科79巻11号

2024年10月発行

雑誌目次

増刊号 2024年最新版 外科局所解剖全図—ランドマークの出し方と損傷回避法

Introduction フリーアクセス

著者: 遠藤格

ページ範囲:P.2 - P.3

 解剖学は時代に応じて進歩を遂げてきた.古くはエジプト・メソポタミアに起源をもつが,古代ギリシャ・ローマ時代には最古の解剖学書といわれるガレノスの所見がスタンダードとされた.ローマ教会の権威と結びついたため医学は長い間停滞したが,ルネッサンス期になるとヴェサリウスが『自分の目でみた所見をありのままに記述する』という信念のもとに新しい解剖学を打ち立てた.しかし,当時の外科治療はほぼ体表手術に限られていたため,内臓の形態・機能の知識は乏しかったと思われる.1846年にエーテル麻酔が開発されるようになると全身麻酔が可能となり,一気に体腔内へのアプローチが可能となった.これにより胃癌(Billroth),直腸癌(Miles),膵癌(Wipple)などの術式が開発された.
 このように解剖学の進歩は外科学の進歩と二人三脚であった.それは現代でも続いている.一例を挙げれば,肝臓切除において右葉切除のみを施行するならばグリソン鞘や肝静脈の詳細な解剖学的知識は不要であり,個々の患者の解剖学的変位について術前に熟知する必要もない.肝機能や腫瘍の局在によって術式が個別化されるようになって,解剖学にニーズが生まれた.

Ⅰ.上部消化管

食道癌に対する頸部郭清に必要な局所解剖

著者: 金森淳 ,   渡邊雅之 ,   栗山健吾 ,   寺山仁祥 ,   高橋直規 ,   田村真弘 ,   岡村明彦 ,   今村裕

ページ範囲:P.9 - P.14

POINT
●頸部郭清は,反回神経や主要血管との剝離および切離が凝縮された,食道外科医にとって基本かつ必須手技である.
●郭清範囲の辺縁のランドマークを露出し,残すべき対象と郭清すべき対象を明確に線引きしていくことで,安全かつ再現性のある郭清が遂行できる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

食道癌に対する縦隔アプローチに必要な上縦隔解剖

著者: 谷島翔

ページ範囲:P.16 - P.21

POINT
●臓器鞘,血管鞘の概念を理解し,反回神経を基準とした郭清範囲を把握することが重要である.
●直視下における右反回神経の郭清下端部では胸膜を意識し,胸膜沿いの剝離を加えることで縦隔鏡操作との連続性を保つことが可能となる.
●左反回神経周囲郭清では左反回神経と交感神経心臓枝の交通枝を意識し,これを支持体と捉えるか,切離して神経の屈曲を予防するかを考慮することが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

気管支動脈のバリエーション

著者: 森和彦

ページ範囲:P.23 - P.27

POINT
●気管支動脈は起始部,中枢の走行にバリエーションが多いが,末梢は左右の気管支の前後に分かれて共通の走行位置となる.
●右肋間気管支動脈幹から分岐する右気管支動脈が欠損する症例では代償性に他の動脈が発達する.
●左気管気管支角と大動脈弓の間隙は左反回神経と認識しにくい気管支動脈が複数あり注意が必要となる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

胸腔鏡下食道癌手術での上・中縦隔郭清に必要な局所解剖

著者: 小熊潤也 ,   大幸宏幸

ページ範囲:P.28 - P.33

POINT
●中縦隔郭清においては,郭清組織の愛護的な操作と,剝離層の誤認による気管支膜様部損傷に注意して,気管支辺縁や食道壁などの正常解剖を確認することが重要である.
●上縦隔郭清は,胸部食道癌で最も転移頻度の高い反回神経周囲リンパ節郭清が最も重要である神経に負荷をかけずに十分な郭清を行うために,各自が手技を定型化して,再現性の高い手術を実践するように努める.

食道胃接合部癌に対する経裂孔アプローチに必要な局所解剖

著者: 塩崎敦 ,   藤原斉 ,   小西博貴 ,   井上博之 ,   大辻英吾

ページ範囲:P.35 - P.39

POINT
●縦隔郭清に必要なランドマークを理解し,経裂孔アプローチ特有の立体解剖を把握することが重要である.
●安全性向上のためには,下肺静脈・胸部大動脈・奇静脈等の大血管系に関するピットフォールと損傷回避法の理解が必要である.
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噴門側胃切除術に必要な局所解剖

著者: 柳本喜智 ,   野間俊樹 ,   川瀬朋乃 ,   今村博司

ページ範囲:P.40 - P.44

POINT
●噴門周囲の膜の解剖を理解することが重要である.
●Gerota筋膜前面の層を正確に剝離することで出血の少ない手術操作が可能であるが,横隔膜脚や胃間膜に切り込まないように注意が必要である.
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胃癌に対する幽門下リンパ節郭清に必要な局所解剖

著者: 胡慶江 ,   布部創也

ページ範囲:P.45 - P.49

POINT
●リンパ節郭清前の準備(網囊の開放,結腸のtake down)が重要である.
●幽門下リンパ節郭清に必要なランドマークを理解し,郭清の範囲を把握する.
●組織に適切なテンションをかけて,膵臓に細心の注意を払う.
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胃癌に対する膵上縁リンパ節郭清(No. 8, 9, 11)に必要な局所解剖

著者: 由良昌大 ,   木下敬弘 ,   吉田弥正 ,   佐野淳一

ページ範囲:P.51 - P.57

POINT
●膵上縁郭清に必要な局所解剖を認識すること.適切な層で郭清を進めるために,十分な視野展開を心がける.
●動脈周囲の郭清を進める際は,周囲の自律神経の外側の層をキープする.
●血管走行のバリエーションを認識し,臓器との位置関係を含めてCT画像で確認をしておく.
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胃癌に対する脾門部リンパ節郭清に必要な局所解剖

著者: 木下敬弘 ,   山田衣里佳 ,   梅宮亜弓

ページ範囲:P.59 - P.63

POINT
●脾門周囲の血管走行は個体差が大きいため,術前3D CTを用いた解剖再構築が有用となる.
●脾門を尾側から剝離し脾動静脈下枝の走行を脾臓流入部まで確認することで,左胃大網動静脈の根部を同定しやすくなる.
●胃脾間膜を中枢側に牽引し伸展させることで,左胃大網動静脈や短胃動静脈の走行が同定しやすくなる.
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Conversion surgeryにおけるD2郭清に必要な局所解剖—ロボットコンバージョン手術

著者: 大森健 ,   原尚志 ,   新野直樹 ,   柳本喜智 ,   牛丸裕貴 ,   益池靖典 ,   宮田博志

ページ範囲:P.64 - P.72

POINT
●近年の胃がん薬物療法の進歩により,コンバージョン手術の可能性が高まった.
●低侵襲手術でのコンバージョン手術は,今後の課題である.
●合併症の少ない,安全な手術を行うコツについて述べる.

Conversion surgeryにおけるNo. 16郭清に必要な局所解剖

著者: 大野優紀 ,   寺島雅典

ページ範囲:P.73 - P.77

POINT
●化学療法後では組織の線維化と浮腫が強く,通常の剝離可能層の認識が困難となる.ランドマークとなる解剖学的構造の認識が重要である.
●ランドマークとなる解剖学的構造のうち,No. 16b1int郭清での腰動静脈,No. 16a2lat郭清での左腎動脈,No. 16b1lat郭清での左腰部交感神経幹について解説する.
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メタボリックサージェリーに必要な局所解剖

著者: 関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.78 - P.84

POINT
●肥満症に対する外科手術(減量・代謝改善手術,メタボリックサージェリー)では,胃癌手術のような剝離やリンパ節郭清といった“質的”困難さではなく,NAFLDによる肝臓の腫大や過剰な内臓脂肪,厚い皮下脂肪によるトロッカーの可動制限といった“量的”困難さが主たる問題となる.
●非肥満者に対する腹腔鏡下手術では,術中にトラブルが生じた場合,開腹移行という選択肢があるが,高度肥満者では開腹すると視野が悪化し,操作性が大幅に低下する.
●したがって,郭清のない単純胃切除術とみなして手術を行うと問題が発生する可能性があり,安全な手術を行うためには十分なトレーニングと経験とともに,開腹を避けるための技術と覚悟が求められる.

Ⅱ.下部消化管

結腸右半切除に必要な局所解剖—胃結腸静脈幹のバリエーションを中心に

著者: 坂井義博 ,   賀川弘康 ,   塩見明生 ,   山岡雄祐 ,   眞部祥一 ,   笠井俊輔 ,   田中佑典

ページ範囲:P.87 - P.94

POINT
●結腸右半切除のD3郭清では,処理が必要な動静脈の解剖およびその相互関係を認識することにより副損傷を回避することができる.
●胃結腸静脈幹は様々な血管分岐を呈し,そのバリエーションによらず安全な郭清を行うためには結腸間膜の授動後に血管処理を行うことが重要である.
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結腸左半切除に必要な局所解剖—Riolan arcadeのバリエーションを含めて

著者: 渡邉純

ページ範囲:P.95 - P.103

POINT
●進行結腸癌に対する結腸左半切除術ではD3郭清,もしくは,特に脾彎曲部癌においてはcentral vascular ligation(CVL)を伴うcomplete mesocolic excison(CME)を施行することが,長期成績向上のために重要である.
●Embryological planeに沿った腸間膜の後腹膜からの剝離は,CMEの重要な構成要素の1つである.
●Embryological planeに沿った腸間膜の後腹膜からの剝離のためには,周囲臓器の位置関係と剝離層に対する解剖学的理解が重要である.

Persistent descending mesocolon(PDM)

著者: 花岡まりえ

ページ範囲:P.104 - P.107

POINT
●PDMは,発生過程において左側結腸が壁側腹膜と癒合せず,下行結腸が内側に変位することを特徴とする固定異常である.
●広範な癒着や血管分岐異常を認めることが多く,癒着剝離や中枢血管処理に注意を要する.
●癒着剝離後に正しいランドマークを確認しながら手術を進めることが肝要である.
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ロボット支援下直腸側方郭清に必要な局所解剖

著者: 横田満

ページ範囲:P.109 - P.118

POINT
●尿管下腹神経筋膜,膀胱下腹筋膜に沿った層で剝離することは,機能温存しながら側方郭清を行うための基本操作である.
●直腸癌の側方リンパ節転移は骨盤深部に生じやすく,骨盤底におけるランドマークを理解することが重要である.
●通常の層より深い層の解剖を理解しておくことは合併切除を伴う側方郭清を行う際に有用である.
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TaTMEを安全に行うために必要な局所解剖

著者: 澤田隆一郎 ,   松田武

ページ範囲:P.119 - P.124

POINT
●TaTMEに必要な局所解剖を理解し,TaTMEを完遂するための一連の流れを把握することが重要である.
●ランドマークを認識し手技のポイントを押さえることで,より安全な手術操作が可能となる.
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骨盤内臓全摘に必要な解剖

著者: 植村守

ページ範囲:P.126 - P.131

POINT
●骨盤内臓全摘には側方郭清の手技の習熟と,内腸骨系血管の標準的走行やバリエーションに関して理解しておく必要がある.
●男性症例における前立腺周囲の微細解剖の理解とdorsal vascular complex(DVC:深陰茎背静脈叢やSantorini静脈叢と呼ばれていたが,動脈も存在するため,近年はこう呼称する)の確実な処理は術中出血制御に重要なポイントとなる.
●女性症例では子宮/腟が存在するため骨盤内臓全摘術を要する症例は男性に比べて少ないが,S状結腸/直腸RS部の進行癌では子宮と膀胱に腫瘍が浸潤することがあり骨盤内臓全摘術を要する.基本解剖を理解しておけば女性症例の術操作は比較的容易である.

大腸癌における大動脈周囲リンパ節郭清に必要な解剖

著者: 小森康司 ,   木下敬史 ,   佐藤雄介 ,   大内晶 ,   伊藤誠二 ,   安部哲也 ,   三澤一成 ,   伊藤友一 ,   夏目誠治 ,   檜垣栄治 ,   浅野智成 ,   奥野正隆 ,   藤枝裕倫 ,   斎藤悠文 ,   成田潔 ,   北原拓哉 ,   花澤隆明 ,   小塩英典 ,   禰冝田真史 ,   安岡宏展 ,   清水泰博

ページ範囲:P.132 - P.135

POINT
●腰動静脈の存在を意識し,損傷に注意しながら,リンパ節郭清(摘出)する.
●あらかじめ郭清する範囲(領域:レベル)を決め手術を行う.
●再発巣手術での郭清(摘出)では,大動脈壁が脆弱であり,時に下腸間膜動脈(IMA)切離断端などの損傷に注意する.
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直腸間膜全切除(TME)に必要な局所解剖

著者: 坂本貴志 ,   山口智弘 ,   甲津卓実 ,   野口竜剛 ,   松井信平 ,   向井俊貴 ,   秋吉高志 ,   福長洋介

ページ範囲:P.136 - P.141

POINT
●直腸後壁には直腸固有筋膜,下腹神経前筋膜,壁側骨盤筋膜の3つの筋膜構造があり,①直腸固有筋膜に沿った層(下腹神経前筋膜腹側),②神経を露出する層(下腹神経前筋膜背側),③神経を切除する層(壁側骨盤筋膜腹側)の3つを症例に応じて選択する.
●直腸固有筋膜に沿って剝離をすることで,自然と下腹神経を覆う下腹神経前筋膜が温存される.
●直腸前壁はDenonvilliers筋膜背側を剝離することで,神経血管束の損傷を回避できる.
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領域横断の骨盤リンパ節郭清に必要な解剖

著者: 浜部敦史

ページ範囲:P.142 - P.146

POINT
●骨盤リンパ節郭清は消化器外科,泌尿器科,産婦人科の三科で扱う手術手技であるものの,診療科横断的議論はこれまで十分になされていなかった.
●消化器外科医にとっても,特に骨盤の側方領域の“ランドマークとなる解剖”を領域横断的に理解することで,より深く解剖を理解することが可能となる.

炎症性腸疾患(IBD)に対する括約筋温存大腸全摘術におけるランドマーク

著者: 品川貴秀 ,   野澤宏彰 ,   石原聡一郎

ページ範囲:P.147 - P.151

POINT
●直腸背側の剝離はTMEの層に沿って剝離し神経温存に努める.
●肛門挙筋および肛門括約筋損傷に注意した肛門管剝離操作を行う.
●回腸囊肛門吻合(IAA)における会陰操作では内肛門括約筋を温存した粘膜抜去を行う.
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マイルズ手術に必要な局所解剖

著者: 笠井俊輔 ,   賀川弘康 ,   塩見明生 ,   眞部祥一 ,   山岡雄祐 ,   田中佑典 ,   坂井義博

ページ範囲:P.153 - P.158

POINT
●マイルズ手術では癌の根治,機能温存のために,骨盤深部まで剝離層と切離ラインを選択しながら精緻な操作を行う必要がある.
●腹腔内から肛門挙筋を切離することで会陰操作が容易となるが,特に男性の前壁では複雑な筋構造を理解し尿道損傷に注意する必要がある.
●腹腔内からの肛門挙筋切離,骨盤底閉鎖,腹膜外経路でのストーマ造設などで,合併症リスクを低減できる可能性がある.
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内肛門括約筋切除術(ISR)に必要な局所解剖

著者: 塚田祐一郎 ,   伊藤雅昭

ページ範囲:P.159 - P.163

POINT
●ISRに必要なランドマークを理解し,根治性と機能温存を両立させることが重要である.
●肛門管と周囲臓器との解剖学的関係を理解することで臓器損傷を回避することが可能である.
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痔核手術に必要な局所解剖

著者: 松島小百合 ,   佐井佳世 ,   酒井悠 ,   米本昇平 ,   紅谷鮎美 ,   小菅経子 ,   彦坂吉興 ,   鈴木佳透 ,   河野洋一 ,   松村奈緒美 ,   岡本康介 ,   下島裕寛 ,   國場幸均 ,   宮島伸宜 ,   黒水丈次 ,   松島誠

ページ範囲:P.164 - P.167

POINT
●ドレナージ創作成:ドレナージ創の外側縁を皮下外肛門括約筋の外側縁まで十分な長さをとって作成することと,皮下外肛門括約筋に1枚皮下脂肪を残すように意識し,完全に露出させるような深い切開は避けるように剝離する.
●痔核組織の剝離:内肛門括約筋・直腸内輪筋を視認し,肛門管内の痔核組織を括約筋から剝離する.
●痔核根部結紮:痔核周囲の動脈の走行について理解し,イメージをもって根部結紮する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

痔瘻手術に必要な局所解剖

著者: 松島小百合 ,   佐井佳世 ,   酒井悠 ,   米本昇平 ,   紅谷鮎美 ,   小菅経子 ,   彦坂吉興 ,   鈴木佳透 ,   河野洋一 ,   松村奈緒美 ,   岡本康介 ,   下島裕寛 ,   國場幸均 ,   宮島伸宜 ,   黒水丈次 ,   松島誠

ページ範囲:P.169 - P.172

POINT
●内外肛門括約筋間の剝離:外肛門括約筋を外側へ牽引することで良好な視野を確保し,肛門括約筋を視認し筋損傷を避けることができる.
●肛門管上皮・内肛門括約筋間の剝離:肛門管上皮を管腔側に牽引することで内肛門括約筋を視認し,損傷を避けることができる.
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Ⅲ.肝胆膵

胆管癌に対する肝葉+尾状葉切除に必要な局所解剖

著者: 尾上俊介 ,   水野隆史 ,   渡辺伸元 ,   川勝章司 ,   國料俊男 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   山口淳平 ,   林真路 ,   高見秀樹 ,   砂川真輝 ,   田中晴祥 ,   馬場泰輔 ,   栗本景介 ,   中川暢彦 ,   江畑智希

ページ範囲:P.174 - P.178

POINT
●門脈は,右門脈を形成する二分岐型(通常型),右門脈を形成しない三分岐型,右後区域門脈独立分岐型の3型に分類される(渡辺分類).
●胆管は,左葉切除時においては右後区域胆管枝の南回り(17%),右葉切除時においてはB2・B3の南回り(2〜6%)に留意する.
●左葉切除の際は,右肝動脈後区域枝の北回り(20%)を胆管から十分に剝離し,胆管マージンを確保する.

腹腔鏡下肝区域切除に必要な局所解剖

著者: 門田一晃 ,   日置勝義 ,   貞森裕 ,   高倉範尚

ページ範囲:P.179 - P.184

POINT
●肝内のランドマークとなる主肝静脈を露出させ,肝表のdemarcation lineとの間を切離することで離断面を形成する.
●主肝静脈根部周囲の尾状葉枝を主肝静脈根部露出のランドマークとして利用する.
●Glisson一括処理を基本とする.肝内アプローチと肝外アプローチを組み合わせ,迅速に流入血処理を行う.
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下大静脈合併切除に必要な局所解剖—肝上部下大静脈〜心囊内下大静脈の剝離法

著者: 石井隆道 ,   楊知明 ,   西野裕人 ,   小島秀信 ,   西尾太宏 ,   小木曾聡 ,   穴澤貴行 ,   長井和之 ,   内田洋一朗 ,   伊藤孝司 ,   波多野悦朗

ページ範囲:P.185 - P.189

POINT
●下大静脈合併切除や下大静脈腫瘍栓摘出時には十分な血行遮断が必要である.静脈血を遮断するためには肝臓を左右両葉とも十分に授動する必要がある.
●下大静脈の処理を腹腔内で行うか心囊内で行うかは,最終的には術中エコーで評価する.
●下大静脈を遮断した際に血圧が維持できなかったり,下大静脈の再建に時間を必要することが予想されたりする場合には,静脈シャントやバイオポンプなどの体外循環が必要となる.そのため麻酔科や心臓血管外科とのコミュニケーションが重要となる.
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肝門部胆管癌手術時に留意すべき局所解剖—肝門板,Glisson鞘を中心に

著者: 大塚新平 ,   蘆田良 ,   大木克久 ,   山田美保子 ,   加藤吉康 ,   上坂克彦 ,   杉浦禎一

ページ範囲:P.190 - P.194

POINT
●術前画像から肝門部胆管・肝動脈・門脈の関係性を十分に把握する.
●肝門板を切離する前に,肝動脈,門脈が十分に剝離されていることを確認する.
●肝門板と中肝静脈の距離は近い.腫瘍の進行度に応じて合併切除を検討する.
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肝切除に必要な肝静脈の解剖

著者: 真木治文 ,   佐藤彰一 ,   長谷川潔

ページ範囲:P.196 - P.200

POINT
●肝区域,亜区域間の境界に静脈が存在し,解剖学的切除の際のメルクマールとなる.
●肝切除における出血源はおもに肝静脈である.肝静脈損傷を避けることは,すなわち出血量を減らすことである.
●主要な肝静脈を露出する術式においては,あらかじめ十分な授動と肝静脈や下大静脈のテーピングを行うことを検討する.
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尾状葉門脈枝のバリエーション—肝門部領域胆管癌手術における尾状葉門脈枝の処理の実際

著者: 細川勇 ,   戸ヶ崎賢太郎 ,   高屋敷吏 ,   高野重紹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   三島敬 ,   小西孝宜 ,   西野仁恵 ,   鈴木謙介 ,   仲田真一郎 ,   大塚将之

ページ範囲:P.201 - P.206

POINT
●尾状葉門脈枝は平均2〜4本存在し,Spiegel lobe(Spiegel葉),Paracaval portion(傍下大静脈部),Caudate process(尾状突起)をそれぞれ支配する.Spiegel葉枝,傍下大静脈部枝は門脈左枝から分岐することが多く,尾状突起枝は門脈右枝から分岐することが多い.
●尾状葉門脈枝を安全に処理するうえでは,門脈周囲の薄い結合織を剝離し,門脈壁に沿って剝離を進めていくことが重要である.
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腹腔鏡下胆囊摘出術:胆道損傷を回避するために必要な局所解剖

著者: 若林大雅 ,   贄裕亮 ,   勅使河原優 ,   若林剛

ページ範囲:P.207 - P.213

POINT
●Calotの三角をはじめとする重要解剖について深く理解し,安全なCritical View of Safetyの作成の方法を学ぶ.
●Critical View of Safetyが作成困難な症例では,回避手術(bailout procedure)を行うことで,血管胆管損傷の回避が可能である.
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Bailout surgeryのためのランドマークとは

著者: 浅井浩司 ,   渡邉学 ,   渡邉隆太郎 ,   寺岡晋太郎 ,   萩原令彦 ,   斉田芳久

ページ範囲:P.215 - P.219

POINT
●Bailout surgeryを適応とする術中所見を的確に判断する.
●Calot三角に剝離困難な高度な線維化・瘢痕化を認める場合は胆囊亜全摘術を考慮する.
●胆囊亜全摘を行う際,胆囊断端処理をどの方法で行うか検討する.
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全層胆囊摘出術に必要な局所解剖—特にCalot三角部の剝離層

著者: 大目祐介 ,   本田五郎

ページ範囲:P.220 - P.226

POINT
●Calot三角部の(脂肪を含む)結合組織は,胆囊板のSS-Outer層と境界なく連続しているため全層切除の対象領域となる.
●Calot三角部で右肝動脈(前・後区域枝)や右肝管を肝内流入部(右Glisson茎内)まで露出して,Calot三角部の(脂肪を含む)結合組織をen blocに切除する.
●露出した右肝動脈(前・後区域枝)や右肝管と肝実質との間で右Glisson茎の腹側の結合組織を切離することで,Calot三角部の(脂肪を含む)結合組織とともに胆囊板を全切除する.
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膵頭十二指腸切除に必要な局所解剖:腹腔・肝動脈周囲

著者: 井上陽介 ,   高橋祐

ページ範囲:P.227 - P.233

POINT
●領域リンパ郭清(いわゆるD2郭清)の際は,動脈周囲神経を温存するouter-most-layerでの剝離を意識する.開腹手術では神経線維,リンパ節,疎性結合織,脂肪,血管外膜などが識別できるように拡大鏡を使用する.
●最も難しいのはNo. 8pの切除であるが,これは腹腔神経節〜CA-HA系と膵頭部をつなぐPLphⅠの郭清と同義であり,正しい手順を理解するとマスター可能である.
●GDA周囲の剝離時は,GDA背側に薄く伸びる膵実質の存在を意識する.
●肝門郭清時に不意の出血を起こしやすいのは右胃静脈であると認識する.
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SMA周囲近傍plexusの切除・温存に必要な局所解剖

著者: 木谷嘉孝 ,   刑部弘哲 ,   末松友樹 ,   松本萌 ,   高野祐樹 ,   西山航平 ,   永川裕一

ページ範囲:P.235 - P.239

POINT
●膵頭部癌において上腸間膜動脈周囲郭清はR0切除に非常に重要であるが,膵頭部に分布する膵頭神経叢第1部(PLphⅠ)・膵頭神経叢第2部(PLphⅡ)は末梢で広がっているため,温存すべきSMA周囲神経叢との境が認識しづらい.
●SMA周囲から膵頭部に広がる神経線維組織(NFT)をArea A〜Dに分類し,SMA周囲神経叢のうち神経叢外層で容易に剝離可能な3つの領域SMAⅠ〜Ⅲについて解説する.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

SMA周囲郭清に必要なTreitz靱帯の解剖

著者: 伴大輔 ,   水井崇浩 ,   宮田明典 ,   奈良聡 ,   江崎稔

ページ範囲:P.240 - P.243

POINT
●Treitz靱帯は十二指腸壁から連続する筋性の線維束である.
●Treitz靱帯を意識することによって,第1空腸動脈などの血管損傷を避けることができる.
●Treitz靱帯を切離することで膵鉤部の視野展開が得られる.

門脈合併切除再建のために必要な空腸動静脈の解剖

著者: 山田豪 ,   大島健司 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.244 - P.250

POINT
●上腸間膜動脈から分岐する動脈,門脈系血管(門脈,上腸間膜静脈や脾静脈など)に流入する静脈枝を術前CT画像(3D血管構築画像)から十分に把握しておく.
●腫瘍による上腸間膜動脈と分枝,門脈系血管と流入枝への浸潤状況について,術前化学療法導入前と手術直前の両者において詳細に確認しておく.
●門脈合併切除となった場合,上腸間膜動脈神経叢切離や分岐する空腸動脈の処理,門脈系血管と流入枝を処理する範囲を想定し,再建の準備をしておく.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

腹腔鏡下/ロボット尾側膵切除術を安全に行うためのランドマークとその同定法

著者: 渡邉雄介 ,   仲田興平 ,   阿部俊也 ,   井手野昇 ,   池永直樹 ,   中村雅史

ページ範囲:P.251 - P.257

POINT
●基本的な解剖学的知識に加えて,術前に施行した1 mmスライスの造影CTで各症例の解剖を正確に把握しておくことが重要である.
●術野を広く展開し,ガーゼや吸引で常にドライな術野を保つことが安全に手術を進めるために重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

腹腔動脈合併尾側膵切除(DP-CAR)で留意すべき局所解剖

著者: 中村透 ,   平野聡

ページ範囲:P.258 - P.265

POINT
●上腸間膜動脈(SMA)神経叢郭清と腹腔動脈(CA)結紮に必要なランドマークを理解し,CAやSMAの局所解剖を把握し,下膵十二指腸動脈(IPDA)や背側膵動脈(DPA)の損傷を回避する.
●後腹膜から組織を授動する際,大動脈の全面を横走する左腎静脈を適切に足側に牽引し左右腎動脈の損傷に注意する.
●胃十二指腸動脈(GDA)の走行を把握し,損傷に注意しながら最小限の範囲で剝離し,膵切離や総肝動脈(CHA)切離を行う.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

Ⅳ.ヘルニア

鼠径ヘルニア修復術に必要な局所解剖:Lichtenstein法

著者: 三澤健之

ページ範囲:P.268 - P.279

POINT
●術後慢性疼痛を予防するためには,術野に存在する3つの神経をできる限り確認し,メッシュ固定時に巻き込まないよう努めることが大切である.
●恥骨結節から内鼠径輪の頭側(外側三角部分)を十分にカバーする大きなメッシュを使用し,不要部分を最後にトリミングする.
●術中にヘルニア(直接ヘルニアまたは間接ヘルニア)囊を認めない場合は大腿ヘルニアの存在を考慮すべきである.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

腹膜外アプローチによる腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TEP法)に必要な局所解剖

著者: 川原田陽 ,   宮坂衛 ,   大川裕貴 ,   関谷翔 ,   寺村紘一 ,   才川大介 ,   鈴木善法 ,   北城秀司 ,   奥芝俊一

ページ範囲:P.280 - P.287

POINT
●本来空間のないところに空間を作成していく手技であり,各場面でのランドマークを頼りにして剝離を進めることが重要である.
●内側の剝離空間と外側の剝離空間に分けられることを認識する.
●Preperitoneal spaceの解剖を視覚で認識し,適切な剝離層を知る.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)に必要な局所解剖

著者: 谷岡利朗 ,   滋野亜高史 ,   奥野圭祐 ,   川村雄大 ,   小郷泰一 ,   藤原尚志 ,   川田研郎 ,   徳永正則 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.288 - P.293

POINT
●鼠径ヘルニアの術式としてTAPP法が優れている点は,手術の最初に,必要な解剖の全体像が確認できることである.
●組織に適切な緊張をかけることが,適切な剝離や切離を可能にし,術中損傷を防ぐことにつながる.
●鈍的剝離中心の手術ではなく,鋭的切離をうまく行うことで,不要な出血を避けることができる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

腹壁瘢痕ヘルニア修復術に必要な局所解剖:eTEP法

著者: 今村清隆

ページ範囲:P.295 - P.302

POINT
●TARを行ううえで重要な腹壁解剖は,腹横筋の筋腱膜移行部の位置と腹膜前脂肪の分布である.
●腹壁瘢痕ヘルニアはヘルニア門の大きさ,部位,個数によって多様であるが,eTEPの術式の各ステップでは定型化が可能になる.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月末まで)。

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臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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