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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科79巻12号

2024年11月発行

雑誌目次

特集 Acute Care Surgery入門

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ページ範囲:P.1197 - P.1197

 外科手術を必要とするような外傷,特に交通外傷が減り,外科専門医制度においては手術経験がなくても外傷講習会受講実績でカバーできることになった.しかし,多くの外科医が救急外来で厳しい症例の初期対応を求められうる状況に身を置いているのもまた事実である.外科医は平素よりがんの手術の修練を積んでおり,その個々の技術は外傷への対応においても生かせるが,多様性に富んだ外傷症例に必要な知識がないまま時代に即した対応をするのは難しい.折しも能登半島地震が起こり,多くの被災者が負傷した.外科医としてはこのような有事にしっかりと役割を果たせるよう,本特集ではせめて外傷外科の最前線で必要とされる知識について学んでいただきたい.

総論

Acute Care Surgeryとは

著者: 大友康裕

ページ範囲:P.1198 - P.1204

【ポイント】
◆近年,わが国の外科領域でAcute Care Surgery(ACS)への関心が急速に高まりつつある.
◆米国外傷外科学会が提唱したACSの概念は,“Trauma Surgery”,“Emergency Surgery”および“Surgical Critical Care”の3つの領域を包含するものである.
◆わが国の外科学/外科診療の発展および救急医療体制は,米国のそれとは大きく異なることから,日本独自のACS体制の整備・発展が進められている.
◆わが国でACSに従事する外科医には2種類ある.「A.救急専門部門に所属する外科医」と「B.一般消化器外科などに所属する外科医」である.
◆2つの異なる診療形態の外科医がACSに従事し,ACSの概念・あるべき診療体制などについて混乱の原因になっている.そのため,日本ACS学会では,ACSの専門領域と診療領域を明確に定義した.
◆日本ACS学会では,一定の指針に基づき修練を積んだAcute Care Surgeonを「Acute Care Surgery認定外科医」として認定している.外傷や救急外科症例の治療成績の改善が期待される.
◆近年,ACS部門が,外科医の働き方改革や病院の管理運営・収益改善に貢献することが認識されつつある.外科ジェネラリストとしてのAcute Care Surgeonが期待されている.

災害時の一般・消化器外科医の役割

著者: 伊良部真一郎

ページ範囲:P.1206 - P.1214

【ポイント】
◆大規模災害時の医療はDMATなどの災害医療チームだけが担うものではない.むしろ,一般・消化器外科医が担うべき役割は非常に大きい.
◆災害医療では被災地内外の連携と指揮命令系統の確立が重要であり,自分が所属する医療機関の位置づけと役割を理解する必要がある.
◆被災地内の医療機関では,ABCDECrアプローチを中心に生理学的徴候の安定化を優先し,根本治療に固執しない.何をどこまでやるかを判断することも重要である.
◆被災地外の災害拠点病院に勤務する外科医は,医療搬送を受け入れ根本治療を行う重要な役割がある.

Emergency General Surgery—なぜ,非外傷が注目されているのか?

著者: 森下幸治

ページ範囲:P.1215 - P.1219

【ポイント】
◆Emergency general surgery(EGS)は,一般外科の範囲内の疾患に対して緊急外科的評価が必要な患者である.
◆EGSの症例は,今後の日本において増加が見込まれる.
◆EGSの教育,検証などが今後必要になると思われる.

Acute Care Surgeryの効能—Acute Care Surgery部門の設置はどのような効果をもたらすのか?

著者: 渡部広明 ,   岡和幸

ページ範囲:P.1220 - P.1224

【ポイント】
◆Acute Care Surgery部門の設置は,外科医の負担軽減につながり医師の働き方改革にも大きく貢献する.
◆Acute Care Surgery部門の設置は,病院収益増加に貢献する.

外傷対応の基礎知識

Acute Care Surgery(外傷)に求められる画像診断の種類とタイミング

著者: 真弓俊彦 ,   藤岡奈加子 ,   茂野綾美 ,   二神紘美 ,   大西伸也 ,   宮尾大樹 ,   中島紳史 ,   黒木雄一 ,   大須賀章倫

ページ範囲:P.1225 - P.1227

【ポイント】
◆ベッドサイドで施行できない画像診断を行う前には,状態の安定化を試みる.
◆超音波検査は,ベッドサイドで実施でき,疾患の診断以外に心機能,血管内volume,胸腹水の有無などの病態の把握も可能で精通しておく.
◆CTと血管造影が可能なハイブリッドERは,ショック状態でも外傷パンスキャンが施行でき,また,手技後の評価も即座に可能で有用である.
◆外傷パンスキャンでは,FACTを含めた3段階読影を行う.
◆救急で撮影したCTにおいても,他部位を含めた正確な画像読影と適切な対処が求められている.

Damage control surgery—若手外科医が知っておくべきこと

著者: 木下綾華 ,   原貴信 ,   江口晋

ページ範囲:P.1228 - P.1232

【ポイント】
◆Damage control surgeryは,外傷死の三徴からの脱却を目的とした一連の治療戦略である.
◆迅速なdamage control surgeryの適応判断が重要である.
◆Off the job trainingや症例検討会などの機会を利用して手技や知識の習得に努める必要がある.

Open abdominal management—若手外科医が知っておくべきこと

著者: 河野文彰 ,   池ノ上実 ,   宗像駿 ,   武野慎祐 ,   七島篤志

ページ範囲:P.1233 - P.1241

【ポイント】
◆Acute care surgeryを実践するにあたっては,open abdominal management(OAM)の原理や適応について熟知しておかなければならない.
◆Damage control surgeryを行う際には,OAMは避けて通ることができない管理法である.
◆一時的閉腹法は,簡便かつ迅速に行うことができ腹部コンパートメント症候群や腹壁の退縮予防に優れた方法を選択しなければならない.
◆OAM症例においては,閉腹困難にならないように早期の根治的閉鎖を目指さなければならない.また,管理の際には合併症の発生に十分に注意する.

Acute Care Surgeryにおける内視鏡外科手術の適応

著者: 七戸俊明 ,   村上壮一 ,   平野聡

ページ範囲:P.1243 - P.1246

【ポイント】
◆Acute Care Surgeryにおける内視鏡外科手術の適応は,バイタルサインが安定した症例に限定される.
◆外傷外科における内視鏡外科手術の適応として,バイタルサインが安定した症例に対する診断目的の審査腹腔鏡が挙げられる.
◆内因性疾患を対象とした救急外科において,内視鏡外科手術は幅広く用いられている.

外傷外科におけるIVR

著者: 船曵知弘

ページ範囲:P.1247 - P.1252

【ポイント】
◆外科的止血術とIVRは,外傷における止血術の両輪である.
◆外科的止血術に手技を理解した助手が必要なように,IVRにも手技を理解した助手が必要である.
◆必要なときに即座にIVRを行うことができる準備が求められる.

臓器別の治療戦略と手技

外傷性肝損傷

著者: 伊藤香

ページ範囲:P.1253 - P.1257

【ポイント】
◆肝損傷の約90%が非外科的治療でマネジメント可能であり,造影CTにて肝実質内の造影剤血管外漏出が認められる場合,血管塞栓術もしくは手術の適応となる.
◆循環動態不安定な肝損傷患者は直ちに試験開腹術が必要となる場合もあり,特に凝固異常を伴う患者の場合の手術では,ダメージコントロール蘇生を意識した輸血戦略および,肝切除などの根治的手術よりも肝周囲パッキングによるダメージコントロール手術が選択される.
◆米国外傷外科学会(The American Association for the Surgery of Trauma:AAST)による肝損傷分類低グレード(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)の死亡は稀であるが,高グレード(Ⅳ,Ⅴ)の死亡率は10〜40%に及ぶ.非外科的管理に関連する合併症には,腹水,胆汁瘻,血管塞栓術に関連する肝壊死などがある.

膵機能温存を目指した外傷性膵損傷に対する治療戦略とその戦術

著者: 木谷昭彦 ,   比良英司 ,   渡部広明

ページ範囲:P.1258 - P.1267

【ポイント】
◆膵損傷に対する治療戦略の決定には,循環動態の把握,損傷部位と程度,および主膵管損傷の有無が重要となる.
◆循環不安定な症例では,救命を優先しdamage control surgeryを積極的に導入する.計画的再手術で膵温存術式を検討し,術後合併症の軽減に努める.
◆循環が安定した症例では,損傷部を明確に確認するための二期的手術も考慮し,長期予後を考えた機能温存術式を検討すべきである.

消化管・間膜損傷

著者: 井上潤一

ページ範囲:P.1268 - P.1276

【ポイント】
◆診断は腹部造影CT検査が有用である.ただし診断率は100%ではなく,診断遅延は合併症の増加を招くため,再度のCTや審査腹腔鏡,診断的腹腔洗浄法を組み合わせて診断する.
◆開腹後はまず止血と腸管内容の流出防止を行う.循環動態が不安定であればダメージコントロール手術(DCS)に移行する.
◆小腸損傷は一期的に修復.結腸,直腸損傷も一期的修復を基本とし,損傷が著しい場合や高リスク症例では人工肛門造設を考慮する.

外傷性脾損傷

著者: 持田勇希 ,   山口芳裕

ページ範囲:P.1277 - P.1284

【ポイント】
◆それぞれの局面において最適な「出血制御」方法を即決せよ.
◆NOMの欲に耽ることなく,緊急手術に備えよ.
◆外傷性脾損傷の手術は「脾摘出術」が基本であるということを忘れてはならない.

外傷性十二指腸損傷

著者: 加地正人

ページ範囲:P.1285 - P.1294

【ポイント】
◆十二指腸損傷は,腹部外傷のなかでも比較的稀な損傷であり,隣接臓器に囲まれているため,しばしば腹部合併損傷を伴い診療を困難する.
◆後腹膜に位置し,炎症波及の遅れから診断遅延・予後不良につながりやすく,上腹部打撲では注意を要する.
◆十二指腸の翻転時には,上腸間膜動静脈のうっ血や虚血に注意する.
◆多くの損傷は簡便な縫合閉鎖で治療可能であるが,時間経過,損傷形態・部位,全身状態,特に循環動態,合併損傷などから最良の優先順位と術式を選択する.
◆様々な術式があり,傷病者状態も多様なため,切除や修復,減圧,流路変更,ドレナージ,経腸栄養路を考えた普段からの術式の整理が必要である.

大血管損傷で若手外科医が知っておくべきこと

著者: 伊澤祥光

ページ範囲:P.1296 - P.1302

【ポイント】
◆出血性ショックならば,大量緊急輸血とともに速やかな一時止血を行う.
◆大血管損傷の程度や患者の全身状態,併存損傷の有無などに基づき,damage control surgeryを選択するか判断する.
◆決定した治療方針に基づき,損傷血管に対する適切な術式を選択し実施する.

フレイルチェスト—定義,画像評価,初期治療,手術治療

著者: 金子直之

ページ範囲:P.1303 - P.1308

【ポイント】
◆フレイルチェストとは,肋骨・胸骨骨折により胸郭の支持性が部分的に破綻し,吸気時に陥没する奇異性呼吸を呈する動揺胸郭で,骨折の形態は問わない.
◆初期治療では呼吸管理と胸腔ドレナージ,画像診断のタイミングが重要で,気胸の有無を確認しないで気管挿管を行ってはならない.
◆近年,様々な種類の多発肋骨骨折について手術治療の有用性が認められてきており,フレイルチェストに関しては最も意見が一致している.

病院めぐり

さいたま市民医療センター外科

著者: 塩谷猛

ページ範囲:P.1309 - P.1309

 当センターは,さいたま市が建物や医療機器などを整備し,さいたま市4医師会(浦和,大宮,与野,岩槻)が運営する当時は全国でも珍しい公設民営方式の社会医療法人として2009年3月に開院しました.埼玉県の県庁所在地にあり,商業の中心である大宮駅からバスで15分程度の場所です.歩いてすぐの距離の文明堂浦和工場ではできたての釜出しカステラも食べられます.お近くにいらした際にはぜひ訪れてみてください.
 病床は340床で47床のリハビリテーション病床を含み,急性期から回復期まで切れ目のない医療を提供しています.関連大学は日本医科大学,自治医科大学,東京大学,日本大学,埼玉医科大学,帝京大学,獨協医科大学,東京医科歯科大学など多岐にわたります.医局は総合医局で,全科横断的に和気あいあいと活動しています.

臨床報告

TAPP後腸閉塞に対して腹腔鏡下で癒着防止メッシュによる修復を行った1例

著者: 二宮慎太郎 ,   森貴志 ,   岡本行平 ,   須賀悠介 ,   永井元樹

ページ範囲:P.1310 - P.1314

要旨
症例は79歳男性,右鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を他院で施行された.術後2日目から嘔吐を認め,9日目に来院した.CT検査で右鼠径部腹膜前腔に小腸の脱出および腸閉塞を認めた.イレウス管による保存加療で改善なく,腹腔鏡下に腸閉塞解除を行った.腹膜閉鎖部に裂隙を認め,小腸が陥入しメッシュと癒着していた.小腸を腹腔内へ還納したが,腹膜欠損部が大きく癒着防止メッシュを使用して閉鎖した.同様の症例報告が近年増加傾向にあるが,腹膜の縫合閉鎖ができなかった報告は少ない.メッシュによる修復は脂肪充塡などが困難な症例でも有用であり,使用時の神経障害性疼痛の危険性も含め文献的考察を交えて報告する.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1194 - P.1195

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1319 - P.1319

あとがき フリーアクセス

著者: 稲木紀幸

ページ範囲:P.1320 - P.1320

 外科医として長年携わってきた経験から,「こだわり」と「妥協」について思うところを述べたいと思います.外科医にとって「こだわり」は不可欠な要素です.手術の精度を高め,患者の安全を守るためには,細部へのこだわりが必要不可欠です.一方で,現実の臨床現場では「妥協」も避けられません.限られた時間と資源のなかで最善を尽くすには,時に妥協も必要となります.この相反する二つの要素をいかにバランスよく取り入れるかが,優れた外科医の条件だと考えます.過度なこだわりは手術時間の延長や周囲との軋轢を生み,逆に安易な妥協は医療の質の低下につながりかねません.
 私が若手外科医に伝えたいのは,「こだわるべきところにこだわり,妥協すべきところで適切に妥協する」という姿勢です.例えば,手術の核心部分では妥協せず,周辺的な部分では効率を重視するといった具合に.ただ,この判断力は経験を重ねることでしか身に付かないかもしれません.また,チーム医療が重視される現代において,自身のこだわりを押し通すだけでなく,他者の意見に耳を傾ける柔軟性も求められます.時に自らの考えを譲歩することで,より良い結果が得られることもあります.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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