icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科79巻2号

2024年02月発行

雑誌目次

特集 ゲノム医学を外科診療に活かす!

ページ範囲:P.125 - P.125

 がん遺伝子パネル検査が保険適用されて4年が経つ.その重要性は認識されつつあるが,一般的に普及しているとは言いがたい.また,パネル検査を受けても治療に直結できるのは10%程度とも考えられている.一方で,膨大なデータが蓄積されつつあり,それに基づいた新たな知見も見出されるものと思う.今後は,医療の柱の一つになることが期待されている.

ゲノム医療の最新動向

がんゲノム医療の現状と課題,展望

著者: 織田克利

ページ範囲:P.127 - P.132

【ポイント】
◆がん遺伝子パネル検査が保険収載されてから約5年が経過し,プレシジョンメディシンの概念が急速に普及した.
◆Liquid biopsy,RNAパネルを含むがん遺伝子パネル検査も登場しており,検査法の選択も重要である.
◆ゲノム異常に基づく治療到達性の向上や遺伝性腫瘍に対する体制整備が求められる.

がん遺伝子パネル検査とは

著者: 鹿毛秀宣

ページ範囲:P.133 - P.137

【ポイント】
◆がん遺伝子パネル検査はがんゲノム医療中核拠点病院,拠点病院,連携病院でのみ実施できる.
◆がん遺伝子パネル検査の対象は,切除不能な進行固形癌患者で標準治療がない,標準治療が終了した,または標準治療の終了が見込まれる場合である.
◆エキスパートパネルでは,検出した遺伝子変異に対して,病的意義があるか,治療選択肢があるかを検討する.

ゲノム解析に適した手術検体の取り扱い

著者: 金井弥栄

ページ範囲:P.138 - P.143

【ポイント】
◆手術標本より研究用組織検体を採取する際には,病理診断に支障をきたさないよう,出血・壊死巣を回避し,がん部・非がん部を採取する.
◆臓器摘出後,室温で30分以内あるいは4℃保管3時間以内に研究用組織検体を採取し,2〜3 mm角に細切して急速凍結し,液体窒素保管容器あるいは超低温槽に保管する.
◆ホルマリン固定・パラフィン包埋標本の品質は,固定までの時間・固定時間・ホルマリンの種類と濃度に依存する.

外科医と腫瘍内科医のがんゲノム医療における連携

著者: 大原克仁 ,   木下一郎

ページ範囲:P.145 - P.149

【ポイント】
◆がんゲノム医療とは,がんゲノム検査とその結果に基づいた医療を指す.
◆がんゲノム検査の結果は,腫瘍内科医を中心に,外科医を含むエキスパートパネルを経て返却されるが,治療到達率は10%以下である.
◆外科医と腫瘍内科医はゲノム医療の改善のため,検体準備から出口戦略まで,幅広い連携が必要である.

C-CATデータの日常診療や研究・開発への利活用

著者: 温川恭至 ,   河野隆志

ページ範囲:P.150 - P.155

【ポイント】
◆がんゲノム情報管理センター(C-CAT)には,保険診療でがん遺伝子パネル検査を受検した患者のゲノム情報と臨床情報が集約されている.
◆がん遺伝子パネル検査によって見つかった遺伝子変化について,C-CATで臨床的意義付けがなされるとともに,該当する臨床試験・治験の情報などを取りまとめた調査結果が患者ごとに作成され,診療支援に用いられている.
◆C-CATに集約された情報は,リアルワールドデータとして,日常診療あるいは学術研究や医薬品などの開発のために利活用することができる.

遺伝カウンセリング—本人・家族への接し方,説明の仕方

著者: 平田真

ページ範囲:P.156 - P.159

【ポイント】
◆ゲノム医療の進展とともに各診療科の担当医が遺伝性疾患に触れる機会が増えている.
◆遺伝カウンセリングは,疾患の遺伝学的関与について様々な側面への影響を人々が理解し,適応していくことを助けるプロセスである.
◆各診療科担当医も遺伝カウンセリングの基礎知識・技能を習得しておくことが望ましい.

【コラム】どのタイミングで拠点病院に紹介すべきか?

著者: 毛利大

ページ範囲:P.160 - P.161

 はじめに私の背景を簡単に説明させていただきますと,都心部で400床規模の中規模病院の胆膵内科医をしており,近隣に複数の大学病院,がんセンター,全国的な知名度をもつ大病院にアクセスしやすい立地にあります.がん診療連携拠点病院も都内で28施設あるため,1,2施設しかない県もあることを考えると,どのタイミングで患者さんを拠点病院に紹介すべきか一概には言えないところもありますが,ご参考にしていただければ幸いです.

癌種別・ゲノム情報の治療選択への活用

乳癌—乳癌におけるがんゲノム情報と遺伝情報の活用

著者: 佐藤綾花 ,   田辺真彦

ページ範囲:P.162 - P.167

【ポイント】
◆乳癌では,「腫瘍における体細胞のゲノム情報」と「生殖細胞系列の遺伝情報」が治療選択やがん予防に活かされている.
◆がんゲノムプロファイリング検査で「体細胞のゲノム情報」に基づく治療の可能性を探るほか,多遺伝子発現アッセイに基づく治療選択も実臨床で行われている.
◆「生殖細胞系列の遺伝情報」を扱う検査には,BRCA1/2遺伝子検査や多遺伝子パネル検査がある.

食道癌—真の個別化治療へ向けたゲノム医学の応用

著者: 西塚哲 ,   佐々木太雅 ,   岩谷岳

ページ範囲:P.168 - P.171

【ポイント】
◆ゲノム検査から薬剤提案がなくとも,同定された体細胞変異は個別化腫瘍マーカーとしての用途がある.
◆血中の体細胞変異を測定するための超高感度アッセイを開発し,腫瘍マーカーとして必須の頻回検査を行った.
◆血中体細胞変異の測定値から推定される体内腫瘍量から,治療対応における真の個別化が可能となることが示された.

胃癌

著者: 佐藤靖祥

ページ範囲:P.172 - P.176

【ポイント】
◆胃癌では,がん遺伝子パネル検査後に新規治療に到達できる可能性は限定的である.
◆検査前確率を高めるために「適切な症例に」「適切なタイミングで」で検査を行うことが重要である.

大腸癌

著者: 三島沙織

ページ範囲:P.178 - P.183

【ポイント】
◆切除可能・不能進行再発大腸癌において,ミスマッチ修復機能評価,RAS/BRAF検査は予後予測や治療戦略のために重要である.
◆切除可能進行再発大腸癌において,微小残存腫瘍の検出は再発予測や術後補助化学療法の選択のために今後重要となってくる可能性がある.
◆包括的ゲノムプロファイリング検査を行うことで,そのほかの希少フラクションが指摘され,治療につながる可能性がある.

肝臓癌—肝細胞癌のゲノム医療の可能性

著者: 中塚拓馬 ,   建石良介

ページ範囲:P.184 - P.189

【ポイント】
◆肥満人口の増加を背景に,非B非C型肝癌が増加している.
◆肝細胞癌のコアドライバー遺伝子は,TERT・TP53・WNT経路である.
◆進行肝癌の薬物療法が急速に発展した,奏効性予測バイオマーカーの確立が急務である.

胆道癌—胆道癌におけるprecision medicineの現状

著者: 石垣和祥

ページ範囲:P.190 - P.196

【ポイント】
◆胆道癌はCGP検査で治療標的となる遺伝子異常が比較的多く検出される癌種の一つである.
FGFR2 fusionに関しては,保険で使用可能な薬剤が2種類(ペミガチニブ,フチバチニブ)あり,二次治療開始前に確実に拾い上げたい遺伝子異常である.
◆Tissue-basedのCGP検査が優先されるが,胆道癌ではCGP検査に適さない微小検体しかない場合も多く,その場合は多少感度が低下しても,liquid-basedのCGP検査を検討する.

膵癌

著者: 金井雅史

ページ範囲:P.197 - P.201

【ポイント】
KRAS野生型の膵癌患者では,4割近くにゲノムプロファイリングで治療標的となりうる遺伝子変異が見つかる.
◆リキッドバイオプシーではKRAS変異の検出割合が5割未満に下がるため,検査申し込みのタイミングに留意する必要がある.
◆ctDNAを用いた微小残存病変のモニタリングは,術後再発の早期診断や手術の適格患者の選別など,外科診療への応用が期待されている.

FOCUS

AI医療機器の社会実装とスタートアップ企業上場への道

著者: 多田智裕 ,   青木祥 ,   小澤毅士

ページ範囲:P.202 - P.206

はじめに
 1989年と2023年の株式時価総額世界ランキングを比較すると,1989年は世界トップ10に日本企業が7社存在していた.しかし2023年現在では100位以内の日本企業は,トヨタ自動車1社のみしか入っていない.これは,日本の失われた30年ともいわれ,原因として新しい技術であるIT(information technology)に日本企業が対応できなかったためとされている(表1).
 また,日本においては高校生時代に上位学生のほとんどが医学部に進学し医師になる状態が長らく続いてきた.日本経済復活への解決策の1つとして,優秀な能力をもった医師の一部が経済界に転身して世界に通用する企業創造にチャレンジすることが挙げられる.
 筆者の,これから30年間で世界を激変させるであろうAI(artificial intelligence)技術への取り組みと起業の経緯が,医療界と経済界の架け橋となり新たなイノベーションを生み出そうとする方たちの参考となるなら,存外の光栄である.

手術器具・手術材料—私のこだわり・24

超小型広視野角監視カメラBirdViewTMが導く安全なロボット支援下手術

著者: 惠木浩之 ,   海津貴史 ,   千野慎一郎 ,   添野孝文 ,   丸山正裕 ,   藤尾俊允 ,   加藤智之 ,   近藤康史 ,   近藤泰人 ,   佐藤之俊 ,   佐藤武郎 ,   内藤剛

ページ範囲:P.207 - P.210

はじめに
 腹腔鏡下手術が1990年代に出現し,あらゆる疾患領域で標準術式となってきた.さらに2010年頃からda Vinci S/Siを用いたロボット支援下手術が始まり,2018年4月には複数疾患領域で保険適用となった.2022年4月からは適用が拡大され,今後急速に症例数が増加してくることが予想されている.
 内視鏡外科手術(腹腔鏡下手術やロボット支援下手術などの総称)の最大の利点は,拡大視効果による精緻な手術を可能とすることである.一方で死角の存在・触覚の低下が欠点であり,特にロボット支援下手術においては触覚の欠如という非常に危険な因子がある.この新しい手術を守り発展させるために,努力と工夫が必要と考えている.

病院めぐり

大分赤十字病院外科

著者: 福澤謙吾

ページ範囲:P.211 - P.211

 大分赤十字病院は大分市の中心部にある340床の急性期病院です.外科は消化器,呼吸器,乳腺外科を中心に11人で診療にあたっています.当院は地域癌診療連携拠点病院として癌の診療を柱とした診療を行っており,日本外科学会,消化器外科学会の専門医制度指定修練施設,日本肝胆膵外科学会高度技能医修練施設A,食道外科専門医準認定施設,日本乳癌学会,呼吸器外科学会の認定関連施設を標榜し,年間900例前後の手術を行っております.
 当院は1999年(平成11年)に内科,放射線科と共に集学的治療を行う肝胆膵センターを設立し,特に肝胆膵外科の高難度手術はハイボリュームセンターとして年間130例前後の肝切除や膵切除を行っています.消化器外科領域のSubspecialityとしての肝胆膵外科高度技能専門医を目指す修練医を毎年受け入れており,これまでに4人が合格しました.当院は特に膵癌の症例が多く手術症例数は九州でも2,3番目で県内全域および隣接県からも患者さんが集まってきます.

臨床報告

針生検後の血腫形成により診断に苦慮した乳癌の1例

著者: 山村和生 ,   岡崎泰士 ,   田中健太 ,   大谷聡 ,   佐賀信介 ,   安藤修久

ページ範囲:P.212 - P.217

要旨
50歳台,女性.検診マンモグラフィで右乳房に石灰化を認めたため2018年6月に受診したが,超音波で異常を認めなかった.同年11月,右乳房6時方向に1 cm大の低エコー腫瘤が出現,針生検でADHの診断であった.2019年3月,腫瘤は2 cm大で混合性パターンを呈していた.再度針生検を施行したが悪性像はなかった.同年5月,右乳房の腫脹と皮下出血がみられ,ダイナミックCTで動脈性出血を認めたため,針生検による血腫形成の診断で止血術を行った.同年11月,石灰化は多形性で区域性分布を示し,マンモトーム生検でhigh grade DCISの診断であった.初診から1年8か月後に切除術を行い,病理結果は浸潤癌であった.診断までの経過を振り返り,診療アプローチにおける反省点や改善策などにつき報告する.

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術後に恥骨骨髄炎をきたした1例

著者: 浅田崇洋 ,   初川嘉経 ,   山本泰康 ,   高見一徳 ,   富永奈沙 ,   岩田尚宏

ページ範囲:P.218 - P.221

要旨
症例は70歳台の女性で,右鼠径部膨隆を主訴に受診された.右鼠径ヘルニアの診断で腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal inguinal hernia repair)を施行した.術後40日に右鼠径部痛を主訴に再受診され,精査で恥骨骨髄炎と診断された.抗菌薬投与による保存的治療での改善に乏しく,開放ドレナージおよび骨掻把術を施行した.術後抗菌薬投与を継続し,症状は軽快した.恥骨骨髄炎は恥骨結合部の細菌感染により引き起こされる病態だが,鼠経ヘルニア手術後の発症報告は少ない.鼠経ヘルニア手術後に遷延する恥骨部痛を訴える場合には本疾患も鑑別に挙げる必要があると考えた.

食道および胃に多発した顆粒細胞腫を切除しえた1例

著者: 櫻井俊輔 ,   薮崎紀充 ,   肌附宏 ,   本田倫代 ,   山田弘志 ,   石岡久佳

ページ範囲:P.222 - P.227

要旨
症例は52歳,女性.健診の上部消化管内視鏡検査にて胸部上部食道および胃噴門部に粘膜下腫瘍を指摘された.生検にて両病変ともに顆粒細胞腫の診断となった.食道病変は20 mm大で粘膜筋板と連続していたため内視鏡的に切除可能と判断し,内視鏡的粘膜下層剝離術で完全切除した.噴門部の腫瘍は25 mm大で,超音波内視鏡検査(EUS)所見では固有筋層と連続していたため外科的切除を選択し,腹腔鏡下噴門側胃切除術を施行した.病理検査上断端陰性であり悪性所見は認めなかった.術後32か月経過も再発所見は認めていない.顆粒細胞腫の消化管発生は稀であり,その多くは良性であるが転移例の報告も認めるため,切除による診断・治療は有用である.

胆囊内真性動脈瘤を伴う胆囊出血に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した1例

著者: 松本辰也 ,   多加喜航 ,   小泉範明 ,   藤木博 ,   山野剛 ,   阪倉長平

ページ範囲:P.228 - P.233

要旨
症例は71歳,男性.心窩部痛を主訴に近医を受診し,精査目的に当院を受診された.腹部CT検査で胆囊内に高吸収域と胆石性胆囊炎を疑う所見を認め,出血性胆囊炎の診断で保存加療が行われた.一旦退院するも,フォローアップの腹部造影CT検査で胆囊内に増大傾向の動脈瘤を疑う所見を認め,準緊急的に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.手術所見では胆囊内に多量の凝血塊を認め,病理所見から急性胆囊炎の波及による炎症性動脈瘤と診断した.胆囊動脈瘤による胆囊出血はきわめて稀な病態である.治療については基本的に胆囊摘出術が必要であると考えられるが,術前治療や手術時期,術式などのstrategyは確立されておらず,症例の集積による検討が必要である.

--------------------

目次

ページ範囲:P.122 - P.123

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.183 - P.183

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.238 - P.238

次号予告

ページ範囲:P.239 - P.239

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.240 - P.240

 本誌編集に携わらせていただくようになって14年になります.おそらく今回が最後のあとがきになると思います.本当に感慨深いものがあります.多くのことを学ばせていただいた編集委員の先生方,ならびに医学書院編集室の方々に誌面を借りて,心よりお礼申し上げます.
 編集委員として特集企画を担当させていただくことは,読者の方々に最新かつ有用な情報を提供する責務があり,時に少々重荷に感じたこともありました.しかしながら,自分の専門領域外のことも学ぶことができ,やはり貴重な機会であったとあらためて感じています.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?