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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科79巻5号

2024年05月発行

雑誌目次

特集 進化する外科教育と手術トレーニング

フリーアクセス

ページ範囲:P.489 - P.489

 現在管理者の立場にいる外科医のon the job trainingのひとつは視野が不十分ななかでひたすら鉤を引くというものであり,術者の位置からの術野は手術を執刀しない限り見ることはできなかった.そのため当時は手術書を読み図や文章で知識をカバーしながら手術を学んだ.

外科教育の動向

日本における近年の外科教育の変化

著者: 高見秀樹

ページ範囲:P.490 - P.494

【ポイント】
◆Halstedらの考案した屋根瓦式の外科教育は現在でも重要である.
◆世界的には外科教育学のevidenceは増加してきている.
◆医師法改正など,日本国内の医師養成課程は様変わりしている.
◆医療者教育学を学ぶ外科指導医の養成が重要である.

医師法改正と令和4年度医学教育モデル・コア・カリキュラムで外科の卒前教育はどう変わるか?

著者: 小西靖彦

ページ範囲:P.496 - P.499

【ポイント】
◆医学部で何を学ぶかを記載した医学教育モデル・コア・カリキュラムが改訂され,参加型臨床実習の重要性が増している.
◆法改正で医学生の医業(医行為)が可能となり,外科指導医が何をどのように学修させるかの準備が必須である.
◆専攻医の教育においても,成人教育理論に基づいた新しい学修方法や評価法の導入が望まれる.

働き方改革時代における初期臨床研修医の外科教育

著者: 大下彰彦 ,   渡邊淳弘

ページ範囲:P.500 - P.504

【ポイント】
◆初期臨床研修医に対する外科シラバス中,経験頻度の高い手技について教育カリキュラムを開発した.
◆働き方改革時代を意識し,事前学習(=反転授業)やOff-the-Job Trainingを盛り込んだ.
◆外科教育実践における形成的および総括的評価は良好で,カリキュラム自体の評価も行い改善している.

ロボット時代の手術教育

ロボット手術の時代における若手のトレーニングをどう考えるか

著者: 山川雄士 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.505 - P.509

【ポイント】
◆開腹,腹腔鏡手術を十分に経験せずに,ロボット手術を行う若手外科医も出現するようになってきた.
◆手術手技にこだわってロボット手術による修練を積むことで,開腹手術や腹腔鏡手術にも応用できるであろう.
◆「タイムテーブルを用いたロールシェアリング手術」の実践により,手術の質を担保しつつ,若手外科医がロボット手術の執刀経験を積み重ねていける.

ロボット時代の縫合・結紮トレーニング

著者: 柴崎晋 ,   宇山一朗 ,   須田康一

ページ範囲:P.510 - P.514

【ポイント】
◆縫合手技では,針の把持,運針の向き,手首の使い方,運針方法,糸さばきなどを意識して練習する.
◆結紮手技では,牽引で組織を損傷せず,かつ緩みなく行えるように繰り返し練習することを心がける.
◆実践を意識し,持続可能で,修練者の興味を刺激するトレーニングを行えるように工夫することが重要である.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年5月末まで)。

ロボット支援手術の動画とVRを活用したトレーニング方法

著者: 肥田侯矢 ,   岡田倫明 ,   愛須佑樹 ,   板谷喜朗 ,   山本憲 ,   小濱和貴

ページ範囲:P.516 - P.521

【ポイント】
◆手術教育の3つの要素は手と目と頭を鍛えることであり,それはロボット支援手術の教育についてもあてはまる.
◆動画編集とVRトレーニングを中心とした手術教育は外科医のトレーニングに欠かせないものとなってきた.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年5月末まで)。

各methodologyの現在地

手術室での外科教育

著者: 鈴木研裕 ,   星寿和

ページ範囲:P.522 - P.528

【ポイント】
◆学習者の能力を少しだけ超える教育:到達度に応じて,学習者の能力を少しだけ超える到達目標を設定する.習得する的を絞り,先発完投(最初から最後までの執刀)にこだわらない.
◆適切なフィードバック:継続的に能力を向上させるため,BIDモデルを用いて手術直後に指導医から学習者へフィードバックを行う.
◆手術教育サイクルを回す:手術症例ごとに,課題を設定し手術指導を実践したうえで,適切な評価とフィードバックを行い,次の課題を明確にする.

カダバートレーニングの現在

著者: 七戸俊明 ,   平野聡 ,   村上壮一

ページ範囲:P.529 - P.533

【ポイント】
◆Cadaver surgical training(CST)は2012年に公表された「臨床医学の教育研究における死体解剖のガイドライン」を遵守することで実施可能である.
◆CSTはオンザジョブトレーニングの困難な高難度手術の習得や,経験することが難しい外傷手術のトレーニングなどに有用である.
◆現在CSTを実施している大学は約半数であるが急速に普及しており,今後の手術トレーニングの切り札として期待される.

動物ラボの現状と今後

著者: 渡部祐司 ,   内藤宏貴 ,   佐藤元通 ,   小野仁志 ,   垣生恭佑 ,   渡部克哉 ,   高木健次 ,   押切太郎

ページ範囲:P.534 - P.537

【ポイント】
◆生体を用いた唯一の手術トレーニングである.
◆人体と動物の類似している臓器や組織に対して選択されるべきである.
◆臨床に望む神聖な気持でトレーニングを行うべきである.

手術記録法の進化と利用法

手術映像保存システムと教育への活用

著者: 内藤剛 ,   佐藤武郎 ,   山梨高広 ,   三浦啓壽 ,   古城憲 ,   田中俊道 ,   横井圭悟 ,   小嶌慶太 ,   横田和子

ページ範囲:P.538 - P.542

【ポイント】
◆手術動画の保存に関する倫理的な注意事項を理解し,安全な取り扱いに配慮する.
◆手術動画データの基本的な知識を身につけ,効率的な保存と利用法を理解する.
◆動画保存システムの基本的な構成を理解し,安全で実用的なシステム構築を行う.
◆手術動画の教育への活用法を理解し,有効な教育ツールとして利用する.

デジタル時代の手術記録

著者: 畑中勇治 ,   佐藤悠太 ,   山口和也 ,   松橋延壽

ページ範囲:P.544 - P.553

【ポイント】
◆デジタルデバイスにより,効率的に効果的な手術イラストが作成可能である.
◆手術イラストは手術内容の公的記録としてのみならず,外科修練や外科教育にも効果的である.
◆デジタルデバイスを用いた手術イラストは視認性に優れ,論文シェーマ作成などに活用できる.

プライベート・トレーニングの進化

YouTubeを利用した手術トレーニング

著者: 山根裕介

ページ範囲:P.554 - P.559

【ポイント】
◆継続可能なセッティングにする.
◆手技はタイムトライアルで練習する.
◆SNSを利用してモチベーションを維持する.
◆YouTube「山根塾(yamanejuku)」のチャンネル登録と動画の高評価を押す.
◆自分のYouTubeチャンネルを立ち上げる.

自宅で行える実技トレーニング

著者: 今村清隆

ページ範囲:P.560 - P.564

【ポイント】
◆上達には練習の継続が必要であり,モチベーションを維持するため,自分にあった方法を見つけることが重要.
◆課題を抽出して創意工夫で道を拓く.
◆様々なライフスタイルに適応できる柔軟な教育機会の提供が求められている.
*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年5月末まで)。

手術評価の現在と未来

胃癌手術における新たな教育システム—Role Sharing Surgery

著者: 佐川弘之 ,   藤田康平 ,   原田真之資 ,   齋藤正樹 ,   伊藤直 ,   早川俊輔 ,   田中達也 ,   小川了 ,   高橋広城 ,   松尾洋一 ,   三井章 ,   木村昌弘 ,   瀧口修司

ページ範囲:P.565 - P.568

【ポイント】
◆ロボット手術は,精緻な手技,安全性の担保に加え,教育の面でも大きな役割を担う.
◆Role sharing surgeryは,より短期間で効率のいい術者育成および指導者育成の教育システムと考える.
◆どのような教育システムとしても,手術のクオリティの担保および厳格な手術時間の管理の徹底が求められる.

外科におけるコーチングと最新テクノロジー利用の可能性

著者: 徳野純子

ページ範囲:P.569 - P.572

【ポイント】
◆コーチングは,外科医の経験・レベルを問わず専門的成長を継続させる効果的で効率的な方法である.
◆手術ビデオを用いたコーチングは,時間・空間的制約の多い外科医に適していると考えられる.
◆人工知能(artificial intelligece:AI)を用いた手術技能評価はコーチングに有用な可能性がある.

手術教育におけるVR,メタバース利用

VR手術トレーニングの現在と今後—リアルとサイバーのマルチモーダル教育

著者: 藤原道隆 ,   桜井麻奈美 ,   中西香企 ,   高見秀樹 ,   小寺泰弘 ,   田中由浩

ページ範囲:P.573 - P.578

【ポイント】
◆コロナ感染拡大期に,webセミナー(ウェビナー)や遠隔診察のようなサイバー空間活用が本格化した.そのなかで業務利用としても注目が高まったメタバースはウェビナーより高レベルのインタラクション(双方向作用)が可能で,手術手技のようなスキルトレーニングへの応用も期待されているが,現時点では現実(フィジカル=リアル)空間におけるトレーニングを抜きにはできない.
◆リアル空間におけるVRスキルトレーニングでは,視聴触覚というマルチモーダルのインタラクションが可能なVR手術シミュレーターが現状では最適の方法である.
◆「コロナ後」も,医療DXの進展に伴いサイバー空間活用が拡がると考えられるが,スキルトレーニングにおいては,視聴覚以外の5感,なかでも触覚も加えたマルチモーダルを実現するシステム開発が行われている.

FOCUS

胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡的全層切除術の現状と課題

著者: 千葉秀幸

ページ範囲:P.580 - P.585

はじめに
 内視鏡治療の発展は目覚ましく,1990年代後半に早期胃癌に対して開発された内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)はその後,食道,大腸,十二指腸に対する治療へと発展し,現在では早期癌に対する標準治療となっている.このような内視鏡手技を応用して,本邦では胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT),なかでも悪性のポテンシャルを有する消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)に対しては腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery:LECS)が積極的に行われるようになった1).一方で中国を中心とする諸外国からは,管腔内発育SMTに対して腹腔鏡など外科的手技の介入しない経口内視鏡単独での内視鏡的全層切除(endoscopic full-thickness resection:EFTR)とクリップなどを用いた内視鏡的縫縮術が行われるようになり,多くのエビデンスが蓄積されてきた2,3).EFTRのおもな利点は臓器温存(胃壁・壁外組織の損傷を最小化)である.本邦では2020年9月に先進医療Aとして11〜30 mmの潰瘍形成を伴わない内腔発育型胃SMT(おもにGISTやGIST疑い)に対する内視鏡的胃局所切除術が承認され,登録施設を含めた複数の施設でEFTRが行われているのが現状である.しかし,SMTに対する治療方法(手術,LECS,EFTRなど)は施設によって異なり,またEFTR自体も,全工程を内視鏡単独で行うpureEFTRと,一部腹腔鏡的操作によりアシストする術式もあり4),その治療ストラテジー,縫縮法,安全面などのエビデンスは十分でなく,今後症例を蓄積していく必要がある.
 本稿では,胃SMTに対するEFTRの現状を国内外の最新エビデンスを参考にしつつ,当施設での経験も交じえ,現状の成果と課題について報告する.

病院めぐり

青森市民病院外科

著者: 豊木嘉一

ページ範囲:P.586 - P.586

 当院は青森県の県庁所在地である青森市の中央(北にむつ湾を望み,南に八甲田山系がそびえる風光明媚なところ)に位置した許可ベッド数459床の地域中核病院です.救急の最前線で駆け込みの急患から高度な専門治療までを担っています.また,地域医療支援病院,災害拠点病院,青森県がん診療連携推進病院,基幹型臨床研修指定病院,日本外科学会や日本消化器外科学会など各種学会の認定施設となっています.当院の歴史は古く,1928年に東青病院医療所(医療組合病院)として診療を開始しました.1931年には総合病院となり,1958年になると青森市に移管され青森市民病院が発足しました.外科は1931年から診療を開始し,今年で93年目となります.
 現在の外科スタッフは院長を含めて9名で,甲状腺外科,乳腺外科,上部消化管外科,下部消化管外科,肝胆膵外科,腹壁外科(ヘルニア)の診療を行っています.定期手術に加え,救急外来からの緊急手術症例にも対応しています.2023年度の手術症例数は569件でした.主な手術内容は(カッコ内は鏡視下手術症例),胃切除51例(14例),胆摘62例(54例)膵切除30例(3例),肝切除15例(4例),直腸切除38例(28例),結腸切除52例(46例),乳腺手術61例,ヘルニア手術99例(6例)です.鏡視下手術の割合が年々増加傾向で,下部消化管手術においては8割を超え,9割に迫っています.膵切除,肝切除も鏡視下手術の割合が増えてきています.最近は地域の肛門科の先生方のリタイヤなどもあり,肛門疾患の症例が増加しています.また,県内に腫瘍内科医が不足しており当科での外来がん化学療法患者も増加傾向にあります.

臨床報告

腹腔鏡下切除を施行した黄色肉芽腫性虫垂炎の1例

著者: 伊藤博崇 ,   岩田力 ,   渡邊真哉 ,   古田美保 ,   會津恵司 ,   吉田めぐみ

ページ範囲:P.588 - P.592

要旨
症例は66歳女性.1週間持続する右下腹部痛を主訴に当院を受診した.腹部所見では圧痛や筋性防御はなかった.腹部造影CTで右下腹部に周囲との境界が不明瞭な軟部影を認めた.大腸内視鏡検査で悪性所見は認めなかった.画像所見から慢性虫垂炎または虫垂腫瘍を疑い,腹腔鏡下での手術を施行した.虫垂は後腹膜と癒着していた.虫垂根部の盲腸も一部切除する虫垂切除を施行した.切除標本では虫垂粘膜の壁内に黄白色の結節を認め,病理学的に黄色肉芽腫性虫垂炎と診断した.黄色肉芽腫性虫垂炎は稀であるが,腹腔鏡下虫垂切除は診断と治療に有用であった.

当院における成人臍ヘルニア21例に対する手術治療成績の検討

著者: 木下春人 ,   寺岡均 ,   岸本和也 ,   庄司太一 ,   中川泰生 ,   大平雅一

ページ範囲:P.594 - P.597

要旨
成人臍ヘルニアは高度肥満や肝硬変などの基礎疾患を有する患者に多いため,再発率の高さが問題視されている.当院で施行した成人臍ヘルニア21例に対する手術治療成績について検討した.単純閉鎖を施行した10例,腹腔鏡下IPOMを施行した6例,緊急手術にて開腹小腸切除+単純閉鎖を施行した5例のなかで,単純閉鎖群で再発した症例のヘルニア門横径は平均41.6 mm(32〜50 mm)であり,非再発例の平均18.3 mm(10〜25 mm)と比較して大きかった.2019年にIEHSガイドラインが改訂され,横径10 mm以上のヘルニア門を有する臍ヘルニアにはメッシュの使用が推奨されているが,メッシュ関連合併症を予防する観点からも,当院では横径20 mm以上をメッシュ留置の適応としている.

書評

—北川雄光(監修) 宮澤光男,竹内裕也(編)—消化器内視鏡外科手術バイブル—動画で学ぶハイボリュームセンターの手技 フリーアクセス

著者: 袴田健一

ページ範囲:P.543 - P.543

 北川雄光先生監修,宮澤光男先生,竹内裕也先生編集による本書は,わが国を代表するハイボリュームセンターにおける消化器外科内視鏡手術の実際を,数多くの手術動画とわかりやすい解説で学ぶことのできるぜいたくな手術書である.ほぼ全ての消化器領域の手術を網羅し,エキスパートチームで培われたノウハウが惜しげもなく記載されており,どの世代の外科医にとっても,日頃の疑問に答え,より良い手術に導いてくれる,真にバイブルと呼ぶにふさわしい待望の一冊である.
 ページを開いてまず驚かされるのは,動画の多さである.手術操作ごとに細かく区分され,簡潔明瞭な解説文と連動して配置されている.さすがハイボリュームセンターで練られた動画だけあって,映像の精緻さ,撮像の角度,カメラワーク,尺の長さ,いずれも申し分ない.動画を見るだけで,手術手技のコツと技術習熟の到達点をイメージすることができる.また,動画視聴だけではわからないポート配置などはイラストで具体的に表現されているため,型通りの冗長な解説が不要となり,内容の濃さとは裏腹に紙面構成がすっきりしている.質の高い動画とイラストが簡潔な解説文とリンクして配置され,記載分量や紙面構成が統一されているため,とても見やすく,読みやすい.おそらくは,左手で本を開き,右手でスマホを操作して動画視聴しながら利用することを想定されているのであろう.読者の目線や利用法への編者の配慮が強く感じられる.

—窪田忠夫(執筆)—急性腹症の診断レシピ—病歴・身体所見・CT フリーアクセス

著者: 高田俊彦

ページ範囲:P.579 - P.579

 ジェネラリストを標榜する身としては,主訴をえり好みしてはいけないのかもしれない.しかしここだけの話,私は腹痛の診療が好きである.そして私が腹痛の診療に魅了されるようになったのは,本書の著者である窪田忠夫先生にその基礎を徹底的にたたき込んでいただいたからに他ならない.
 腹痛の診療はとにかく奥深い.CTへのアクセスに恵まれた今日の診療では,鑑別診断をあれこれ考えなくてもCTを撮れば診断がつくことも多い.しかし,一方で病歴や身体所見といった,よりベーシックな情報に立ち返らない限り,正しい診断にたどりつくことのできないケースも少なくないのである.そして恐ろしいことに,そのような疾患の中には診断の遅れが致命的となるものが含まれている.

—胃と腸 Vol. 58 No. 10 2023年10月号 増大号—「胃と腸」式 読影問題集2023 応用と発展—考える画像診断が身につく フリーアクセス

著者: 市原真

ページ範囲:P.587 - P.587

 羽田空港に降り立ち,京急にて品川方面へ向かったあの日のことを私は今なお鮮明に覚えている.泉岳寺.長いエスカレーター.壁面の鏡でネクタイを直す.受付で1,000円.ゆるやかな斜面.足早に前方右端の定位置.繰り広げられる喧々諤々の議論と,画像・病理対比.
 早期胃癌研究会(人呼んで早胃研)の熱気は私の眼鏡に結露を起こした.私は明かりの落とされた笹川記念会館大ホールの片隅で,ハンディライトで手元の抄録を照らし,読影者のコメントを一言一句書き留めた.旭川のサイトウですけれども.佐久のオヤマですが.広島大学のタナカですけれども読影以前にまず写真のピントについて.病理のワタナベです.最前列でマイク前に立つ人びとの,顔を知る前にまず口調を覚え,それから読影や病理解説の筋道を身につけた.見取り稽古の10余年.消化管形態学はここで教わった.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.486 - P.487

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.603 - P.603

あとがき フリーアクセス

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.604 - P.604

 手術を教えるというのはどういうことか.等間隔に死腔をつくらずに縫合すること,結紮終了後に糸を適切な長さで素早く切ること,肝臓鉤などで適切に視野を確保すること,閉腹時の結紮が緩まないこと,術野で迅速かつ確実な結紮ができること,このあたりが自分の外科研修医時代に順に学んでいったことであった.そのうちに胃外科の専門医となり,手術の手順や各局面で術者,助手が担うべき役割などを若手と共有する教育方法となった.他の領域でも同じようにon the job trainingで開腹・開胸での手術技術が伝承されていったものと思われる.教える側としては確固たる技術の伝授法や育成法を身につけているわけではなく,自分が受けた教育を思い返しながらよりよい方法があればそれを取り入れて次世代を育てていく感じだろうか.
 しかし,現代では手術に入らなくても多くのビデオ教材が手に入る.パソコンの画面で見ても手術室のモニターで見ても中身は同一である.また,ラパロの技術を身につけるにしてもトレーニングボックスや各種シミュレーターもあり,糸結びの練習くらいしかできなかった時代とはわけが違う.このように学びの方法が多様化しているうえに,遅まきながら外科の教育方法をひとつの学問として捉える人たちも出てきている.本特集ではそのあたりの知見を整理してみた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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