icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科8巻1号

1953年01月発行

雑誌目次

綜説

僧帽弁口狹窄に対する狹窄切開術の経驗

著者: 榊原仟

ページ範囲:P.1 - P.8

1.緒言
 私達が心臓疾患に対して手術を施行した症例が現在迄に15例ある.このうち直接心臓内操作によつて弁膜症を手術した例が,純型肺動脈狹窄に対する2例39)40)及び僧帽弁口狹窄に対する3例の計5例ある.4例が治癒軽快した.この種の直接手術成功例は,今日までの処,本邦では他に報告を見ない.
 此処に記載する僧帽弁口狹窄は,後天性心臓疾患としては重要であり,その経驗は色々示唆に富むものを含んでいるので此処に報告したいと思う.なお第1例は既に報告してある38)

胃横行結腸合併切除手術々式の工夫

著者: 中山恒明

ページ範囲:P.9 - P.15

 先般東京外科集談会の席上でヒルシュプルング氏病の場合のS字状結腸切除に対して種々の手術法の工夫に就いて話がありましたそれは大腸の切除手術は今日でも未だ比較的高率の死亡を示して居るからであります.しかし今日では化学藥品の進歩に依つて術後の化膿の危險は少なくなりました.從つて大腸切除と申しても廻盲部切除とS字状結腸並に直腸の切除は非常に死亡率低く安心して施行し成功する樣になつた.
 そして私が施行したそれ等の術式の工夫並に成績に就いては既に発表致した所であります(廻盲部切除術々式の工夫に就いて中山恒明:臨床,1卷3号(昭23.11),結腸手術を安全に施行出来る手術法について,中山恒明手術,2卷8号(昭23.8),結腸切除の際の小腸移植に就て,中山恒明:日本臨床,6卷12号(昭23.12).前述の場合に手術成績の良い第一の理由は廻盲部の場合は切除の一方は小腸であるので吻合部の治療が非常に容易であるし下行結腸以下の場合,肛門ゾンデの挿入が可能であるので術後数日間見られる吻合部上部のガス並に糞便の蓄積を予防し得る故と考えられます.

補液としてのGlyco-Alginについて(第1報)—血圧上昇に関する研究

著者: 高山坦三 ,   菅原古人 ,   渡辺正之 ,   菅原正彥 ,   早坂彥 ,   池田敏夫 ,   武山勝也 ,   山田史期

ページ範囲:P.16 - P.21

 昭和19年12月に九大友田教授によつて発表されたいわゆる代用血漿としてのアルギン酸ソーダについてはその後同教室をはじめ各方面からの研究によつて,その臨床應用上の優秀性が証明せられ,現在ではすでに試瞼應用ないし研究應用の域を晩して,生理食塩水あるいはRinger液の基本的欠陷を補う補液剤としての地歩を確保した.すなわち0.3%アルギン酸ソーダ生理食塩水溶液は,もちろん免疫学的に見てまつたく抗元性はなく,血管内注射によつてもなんら体温上昇作用を有せず,赤血球はその骨髄機能亢進作用によるかむしろ増加の傾向を示し,出血時間にはなんら惡影響がなく,血液凝固時間はかえつて若干短縮するのみならず,赤血球沈降速度に対しての軽度の促進作用も根本的障碍によるものではなく,單なる物理的現象にすぎず,また血中カルシウムと不溶性塩をつくるおそれはまつたくなく,肝機能に対してもなんらの毒性作用をも示さず,綱内系機能に対してはかえつてこれを適度に刺戟して抗体産生能を高め,一方,血清粘度にはなんらの認むべき変動を及ぼさぬ等その他の諸性状が確証せられたのである.

労働者に見られる腰痛症について

著者: 高橋喜美雄

ページ範囲:P.22 - P.23

 炭鉱に於てはその特異な作業環境のために,腰部の不快感,圧重感,或いは一寸した体動時に於ける鋭い疼痛を訴える者は相当に多く,亦種々の治療を施すも長年月にわたつて自覚症状の仲々軽決しない者が多い,亦,これらの事は,労働者災害補償の問題とからんで,その治療及び治療成績の判定には愼重でなければならない.
 私達の取扱つている患者の多くは,腰痛を主訴とはするが,レ線像上に於ては骨に特別の所見,或いはミエログラムに於て腰痛を起すと思われる所見のない所謂腰部筋肉の疼痛を主訴とするものが多いのである.これらの患者については,その原因亦は誘因として業務上の災害が大小に拘らず存在する時には,補償法から得られる利益のために診断が困難であると共に,疼痛に就いては詐病とノイローゼが介入して診療は甚しく複雜となる.

症例

胃ポリープの1手術例

著者: 土屋呂武 ,   辻秀男 ,   井上幹夫 ,   竹島新

ページ範囲:P.24 - P.27

 胃ポリープは比較的稀な疾患であつて,病理学者の統計によれば全剖檢例の0.05%乃至2.3%に之を見ると言う.而も本疾患はその大部分が何等著明な臨床症状を呈する事なく経過する爲に,臨床医家の診療の対象となる機会は更に少く,我國では今日までに報告された臨床例は20数例に過ぎない.又田宮氏によれば胃疾患診療全例七百数十例中0.5%に之を見たと言う.
 然るに一方本疾患の臨床的意義に就て見ると,出血,幽門閉塞等の急性症状を来して直接生命に危險を及ぼす事があり,又殊に鏡檢上ポリープに癌性変化の認められる頻度は甚だ高く,Wechselmannの如きは本症の60.0%に惡性変化を認めたと報告している.

油性結晶プロカインペニシリン注射による臀部膿瘍形成の1例

著者: 赤沢喜三郞 ,   西本敏男

ページ範囲:P.27 - P.29

 吾々は最近油性結晶プロカインペニシリンの注射が原因と考えられる臀部膿瘍の1例を経驗したが,かゝる例は割合稀であり,且比較的等閑視されて居ると思われるので,其の成因等に関して,些か考察を加え,茲に報告する.

ペニシリン大量投與を行った轉移性頭蓋骨々髓炎の興味ある1例

著者: 武山仁

ページ範囲:P.29 - P.33

 頭蓋骨々髄炎の危險なる合併症として化膿性脳膜炎は成書記載の如く予後不良であり,更に病集が頭蓋骨深部に存在し始めより脳膜炎症状を呈せる轉移性骨髄炎の診断は全く困難にして從つて予後も不良である.余は斯る1例に対し大量のペニシリン1560万單位を使用し幸に治癒せしめ得たと考え,ペニシリン治驗例として先に報告したが,発病後5ヵ月を経て(ペニシリン投與終了後約2ヵ月)突如脳膿瘍の症状にて僅か5日目に急死せるものにして興味ある経過とれる1例として報告する.

胸椎第IX高さにおけるノイリノーム剔出後の恢復状況の考察

著者: 丸毛英二 ,   木下博

ページ範囲:P.33 - P.35

 IX胸椎部に発生せるノイリノームを剔出するに,術後のミエログラムでは尚多くの癒着像を遺すに拘らず機能の恢復極めて迅速且つ完全であつた.就ては術前術後の臨床所見手術所見術後の恢復状況等を報告す.

蛔虫症に依る不還納性ヘルニアの1例

著者: 門脇一彌 ,   大西省司

ページ範囲:P.36 - P.37

 寄生虫病はこゝ数世紀に亙つて,実に結核や癌に勝るとも劣らぬ程の猩厥を極めてきた.Stollの推計に依ると,全世界には7200万の條虫症,14800万の吸虫症と20億以上の線虫症が居ると言う事である.
 就中,蛔虫症の蔓衍は眼を覆わしむるものかあり,一昨年著者等が福井縣下の小学生,中学生約5000人を対象として檢した結果に依ると都市在住者にして80%,農村在住者にして93%,毎月駆虫剤を服用せる学校に於てさえも5.6%の保虫率を示しているのである.尚本檢査は單なる塗抹標本に依る檢査にして,より精密に浮游法を行えば保虫率はより増加するものと思われる.以後寄生虫病に興味を抱き文献をあさる途中,蛔虫の迷走に関し興味ある事実を見出し,又著者等もその1例を経驗したのでこゝに発表し,諸先輩の御批判を仰ぎたいと思う.

興味ある腸重積症の1例

著者: 岩田淳治

ページ範囲:P.37 - P.38

 こゝに報告する症例は,蛔虫塊と腸管ポリープとによつて起つた興味ある症例で,要旨を第22回中國四國外科集團会で発表したものである.

橋本氏病の2例

著者: 宇治木つゆ子 ,   重本茂

ページ範囲:P.38 - P.40

 橋本氏病は欧米に於ては相当数の報告を見るに不拘本邦に於ては余りその記載を見ないが,最近橋本氏病と診断され得る2例を経驗したので之を茲に報告し諸家の御批判を仰ぎたいと思う.

蛔虫迷入を伴える虫垂炎及びその穿孔例

著者: 大山峻

ページ範囲:P.40 - P.41

 蛔虫迷入を伴える虫垂炎は地方病院の外科医なら誰でも経驗して居ると思われるが,私も最近蛔虫迷入を伴う虫垂炎4例及び腹腔内迷入を伴つた虫垂穿孔性腹膜炎1例を経驗したので,自家症例と共に簡單に文献的考察を加えて見る.
 第1表に示す如く第1,第2,第3例ともに手術直前体温37℃以上,白血球1万以上,局所々見も著明でいづれも廻盲部に索状物を触れ臨床上虫垂の高度病変が考えられたが,3例とも開腹後の虫垂所見は壊疽性で第1例は1匹,第2例は2匹,第3例は1匹の生存蛔虫を夫々虫垂内に認めた.第4例はやはり廻盲部に索状物をふれたが,局所々見は前3者程著明でなく開腹虫垂所見も高度に勃起し蛇の樣に動いては居つたが,炎症状態は余り高度ではなかつた.

急性化膿性頸椎骨髄炎の1例

著者: 岩月賢一 ,   中島富彥

ページ範囲:P.42 - P.44

 長管状骨の急性化膿性骨髄炎は屡々遭遇する疾患であるが,扁平骨乃至短小骨には一般に稀である.就中,脊椎の急性化膿性骨髄炎は極めて稀とされている.1880年Lannelongueその1例を報告し,吾國に於ては,佐藤三吉(明治37年)の1例を以て最初とする.脊椎骨髄炎中でも頸椎のそれは特に少く,吾々の調べた範囲では,その報告は本邦に於ては未だ数例を出でない.吾々は偶々項部痛及び体温上昇を主訴として来院した本症の1例を経驗したので,こゝにその概要を報告する.

脛骨に発生したEwing氏肉腫に就て

著者: 斎藤滋

ページ範囲:P.44 - P.46

 骨髄性細網肉腫の形態的特徴が正確に記載されたのは1921年Jahmes Ewingに始まり1926年Connerが"Ewing's sarcoma"の名称を附して以来,広く認められる樣になつた.本肉腫は比較的稀有な疾患で本邦に於てはその報告は20例に過ぎない.

二穿孔を有する胃穿孔症

著者: 矢端信一郞

ページ範囲:P.46 - P.47

 胃穿孔症は上腹部疾患中に於ても,臨床医家の屡々遭遇するものであるが,二穿孔部を併有した例はその頻度比較的少く,河石氏外数例の報告を見るのみである.当院に於ける胃穿孔症開腹手術に際して,偶々二穿孔を有した1例に遭遇したので,こゝに追加報告しようと思う.

破傷風の4治驗例

著者: 渡辺蛟

ページ範囲:P.47 - P.49

 私は当病院に於て破傷風の4例を経驗し,その何れをも治癒せしめ得たので,その症例を報告し些か考按を試みた.尚お第1例は第23回東海外科集談会で発表した.

脛側半月嚢腫の1例

著者: 金淸次 ,   三村伸

ページ範囲:P.49 - P.51

 膝関節半月嚢腫は比較的稀れなものとされ,Kummer(1898)の第1例報告に続き,Ebner(1904)のMeniscusganglionの記載あり.其の後症例報告を増し,Nicole(1933)は文献上より127例に就て,Bennet及びShaw(1936)は163例に就て総括せり.吾が國では清水(昭9)石原(昭15),菊地(昭17),牧野(昭17),綾仁(昭25),本川(昭25)氏等の6例に報告あり.
 私は最近脛側半月に就て1例を経驗し,完全剔出を施せるをもつて茲に概要を報告す.

最近の外國外科

出血性ショックに於ける動脈内輸血と靜脈内輸血の適應症,他

著者: W. Hügin

ページ範囲:P.52 - P.53

 出血性ショックの最良の治療法は止血することゝ輸血によつて失われた血液を補充することゝにある.しかしこの際に循環している血液量を直ちに正常値に復させることが最も大切である.さもないと脳及び心筋の酸素欠乏による障碍が現れる.靜脈内輸血によつてショックによる低血圧は直ちに上昇し得ない.即ち輸血された血液が小循環を通過して始めて左心に入つて全身に送られるからである.この際屡々酸素欠乏によつて障碍された心臓殊に右心は十分力強く輸血された血液を送り出すことが出来ない.その結果心臓拡張及び靜脈性鬱血,時としては肺水腫が起る.これに反して動脈内鬱血は直接血圧を変化する.実際に露出した動脈の〜大抵末梢小動脈で例えば橈骨動脈などが利用されるが〜血管内に圧力を加えて注入すると大動脈(Aorta)の方に向つて血液は逆流し,そこで直ちに血圧が上昇し始める.そのため心臓の力を借りないでも冠状血管の血行を好轉して,心筋の恢復も速に出来る.動脈内輪血した血液は心臓を通過せずに直接各器官に送られる樣にしなければならない.それには100〜200mmHgの圧力で動脈内に注入して,患者の血圧が80mmHgに恢復するまで輸血を施さなければならない.それによつて心臓殊に右心の力を借りずに恰も第二の心臓の様に外方から血行に働かせるのである.
 又迅速に注入する普通の輸血の際に起る肺水腫もこれによつて避け得る.

--------------------

集談会

ページ範囲:P.54 - P.54

第512回東京外科集談会 27.11.15
 1)巨大脾腫を主訴とせるGrawitz氏腫瘍に就て
          横浜医大外科 矢野林太郞・他
 45歳女子,貧血,脾腫があつたので摘脾を施行.1.6kg鬱血所見があつた.術後8日目一過性血尿を認めた.後に尿量減少,呼吸困難を訴えて再入院して死亡.剖檢にて右腎にGrawitz氏腫瘍を認め腎靜脈より下空靜脈に亘つて起れる腫瘍性血栓による脾臓,肝臓の鬱血性惡化であることが判明した.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?