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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科8巻11号

1953年11月発行

雑誌目次

綜説

所謂外傷性虫垂炎について

著者: 小坂親知 ,   大圃源左衞門

ページ範囲:P.607 - P.613

 外傷が虫垂炎の1原因をなすことは成書にも記載されているが,臨床には甚だ稀にしか遭遇しない症例である上に未だ完全に説明されているわけではない.
 1823年Copland氏は右腸骨窩膿瘍は外傷又は過動に基因すると唱へ,1900年Führbringer氏が初めて直接外傷と関係ありと認められた盲腸周囲炎の自驗3例を述べ,実驗的には不成功であつたと報告してより,Neuman氏(1900)之に賛し,Pohl氏(1910)は受傷後16時間目で既に虫垂の穿孔を見たる1例を報じ,Vasquez氏(1924)は騎兵に虫垂炎の多きを外傷に因るガスの圧入と腹壁及び腸腰筋等の收縮による循環障碍を以て説明し,Brüning氏(1926)は虫垂の直接損傷又は盲腸内容の虫垂内圧入或は又外傷に基く腸管麻痺等種々なる機轉に基いて外傷性虫垂炎の発生し得可きを主張した.

高度直腸脱に対する1手術法—Orr変法

著者: 工藤達之

ページ範囲:P.615 - P.619

 高度の直腸脱はあまり多い疾患ではないが,その治療はかなり困難なものに属する.幼小兒の直腸脱は骨盤底部が身体の発育に伴つて強化されるに從つて自然に治癒するのが普通である.たまたま簡單な治療法を行つて極めて有効であつたとする発表もあるが,そのうちの幾何が治療を必要としたものであつたかに就いては多少の疑念なきを得ない.これに反し成人以後老人期に見られる直腸脱は高度の場合は直腸全層の脱出を来し,場合によつてはその整復すら困難な場合があり,到底肛門側からする姑息的な手術では治療の目的を達し得られないことが多い.
 從来私は此樣な高度の症例に就いては,Küm—mel10)にならつて経腹的に直腸を仙骨前面に吊りあげて固定する方法を試みて来た.然しこの手術法は直腸脱患者に共通に見られる過長,過大の直腸,S字結腸に対する処置としては如何にも無力に見えた.そこでその強化策として,たるんだ小骨盤腹膜をひきあげて,固定した直腸の前面を覆つて縫着し,固定をより確実にしようとしたがそれでもなお再発の経驗をなめさせられた.その後ダグラス窩の処理が必要であることに気付いて2〜3の試みをした結果この術式に到達した.

腹腔内異物遺残の本邦文献の統計的観察

著者: 木下公吾 ,   井上圭太郞

ページ範囲:P.621 - P.626

 細心の注意と最大の緊張の下に行われるべき手術,殊に開腹術に於て,ガーゼ・手術器械等が異物として腹腔内に遺残せられるとは,一寸考えられない事のようにも思われるが,欧米では相当数の報告があるものの如く,亦吾等も時に斯る事故の起りたる噂を耳にせぬでもない.本邦に於ける報告例が比較的少ないのは,一つには各位が一層の注意を以て手術に臨む賜であろうけれども,一つには種々の事情で報告を差し控える向もあるのではないかと思われ,実際の症例数はそれよりも梢々多いのではないかと愚考される.
 吾々も最近,偶々その1例を経驗したので茲にその概略を報告し併て本邦文献の統計的観察を行つた.諸賢の御批判を仰ぐと共に自他誡心の資としたい.

Cystin uraminic acid calciumの結核症に対する臨床例

著者: 十河信 ,   木下三郞 ,   秋田政昭

ページ範囲:P.627 - P.633

 Cystin uraminic acid calcium(C. U. C.)の構造はで此の物質の結核症に対する実驗的研究は別に発表した如く試驗管内では著しい抗菌性は認められなかつたが動物実驗では初感染巣及び初期変化群リンパ節に於いてDihydrostreptomycin(ストマイ)に比し速に結合織性組織の増生が起り線維化の傾向が著明であつてストマイ群の如く膿瘍形成は認められなかつた.病理組織学的には対照群は何れも細胞の破壞壞死或は結節形成乾酪化が著明であったがストマイ群は一般に結核菌の侵襲を未然に防いだ状態であり修復機轉は余り観られないのに反しC. U. C.群は線維化限局化の傾向強く旺盛な防禦機轉を示している.肺に於いてはストマイ群が滲出型にあるのにC. U. C.群では寧ろ増殖型を呈していた.他の臟器に於いても例えば脾に於いてストマイ群では結核性肉芽層が比較的厚いのに対しC. U. C.群では線維化が著明に現われていた.
 実驗的にも未だ研究すべき多くの問題を残しているが我々は此の物質を臨床的に應用し相当の効果を認め得た.殊に滲出性肋膜炎,滲出性肺結核並びに結核性潰瘍に著効を認め一般症状としては体温の下降,食慾の増進,盗汗の消失,咳嗽,喀痰,血沈の好轉が認められ特にストマイとの併用の場合にその効果は相乘的に著しいと考えられた.

葡萄球菌性膿瘍に対するトキソイドペニシリン併用の治療効果について

著者: 田中明

ページ範囲:P.635 - P.640

 葡萄球菌毒素をホルマリンで無毒化したトキソイドが,免疫元性を保持して,動物実驗上感染防禦に有効なことが1929年Burnet4)によつて,報告されて以来,多数の報告が出て,その多く6)9)11)16)18)21)22)23)25)は優秀な治療効果を認めているが,これを認めないものも少数ながら7)15)ある.その後ペニシリンが出現して葡萄球菌性疾患のトキソイドによる免疫療法は殆んどかえりみられなくなつた.しかし,ペニシリンの葡萄球菌疾患に対する効果にも限界が見られるに至つた.即ちペニシリンは膿瘍,壞死巣のような病変部や髄膜炎のような病巣には滲透し難いのと17)19 20),ペニシリン耐性の葡萄球菌による疾患が近来増加しつゝあることである1)2)3)5)8).最近わが教室において,葡萄球菌化膿症でペニシリン療法の効を奏さなかつたものもしくはペニシリン耐性株によるものに対して,葡萄球菌トキソイドとペニシリンの併用を試みたところ,注目すべき効果を收めたのでこゝに報告する.

リンパ腺結核への塩基性アミノ酸製剤の局所應用について—その病理組織学的檢索

著者: 靑木高志 ,   新津谷哲

ページ範囲:P.641 - P.643

 われわれは先きに臨床外科第8卷第3号において,「リヂン」を主体とする塩基性アミノ酸製剤である「ネオ・ミノファーゲンA.T」(以下ネオ・ATと略す)を頸部リンパ腺結核症に対し,その局所應用を試み,全身療法に比較して遙かに良好な治療効果を示すことを臨床的に確認してこれを報告したが,さらにわれわれは今回動物実驗によつて,その治療効果を組織学的に檢索する一方,「ネオ・AT」使用後リンパ腺を剔出する機会をえた臨床症例についても病理組織学的檢索をおこない,合せえたその結果を報告する.

頸動脈撮影の副作用について

著者: 泉周雄 ,   澁谷信明

ページ範囲:P.645 - P.648

 近事心臟,血管外科の発達と共に,各種血管撮影術が臨床的に價値を有していることが認められ,広く一般に行われるようになつて来た.脳外科の領域に於ても古くから頸動脈撮影が診断法の1つとして研究されて来て,既にその撮影法に関しては略々定見に達したかの感がある.即ち現在に於ては主として経皮的に施行し,造影剤としてはDiodrastを用いているのであるが,尚時に重大な結果を惹起し患者にとつても医者にとつても大きな不幸をもたらすことがある.私はこゝに最近経驗した不祥事を中心として,その副作用乃至合併症について記し,その原因について考察し,併せてその発達の跡を簡單に触れて見たいと思う.

骨盤骨折に就て

著者: 有原康次 ,   笠井実人

ページ範囲:P.650 - P.654

 吾々は昭和23年6月28日の北陸震災に際し,救護班として國立鯖江病院に赴き,28例の骨盤骨折を経驗した.之は震災による同病院收容患者122名の23.0%を占めていた.然しその際は長く経過を観察することが出来なかつたが,國立京都病院及び松江赤十字病院に於て,その後9例の骨盤骨折を経驗し,何れも全経過を診,且つ予後調査も行つたので,これらを併せて報告し,更に骨盤骨折の治療及び予後に就いていさゝか述べて見たいと思う.

症例

アメーバ性肝臟膿瘍の2例

著者: 広津三明

ページ範囲:P.655 - P.656

 アメーバ性肝臟膿瘍は赤痢アメーバが熱帶に多く,温帶の本邦に於て比較的少いことから其の発生も又少いことは当然であるが,戰時中南方に在住し終戰後相当の年月を経た後に発生したアメーバ性肝臟膿瘍の2例を経驗したので報告する.アメーバ性肝臟膿瘍は其の多くが赤痢アメーバを経驗したものに多いが,既往に赤痢アメーバを知らないものもある.私共の症例でも第I例は赤痢アメーバの既往をもち,第II例では過去に其の経驗もなく突然肝臟膿瘍を起した例である.

大網膜捻轉症の1例

著者: 河內富政

ページ範囲:P.656 - P.658

 大網膜捻轉症についてはMarchetteが1851年に報告して以来,泰西に於て約300余例の報告があるも,本邦に於て未だ8例に過ぎない。最近余は其の1例を得たので此処に報告し,若干考察してみる.

1過性の四肢攣縮並に上腹部膨隆を主訴とする1症例の頸動脈毬剔出術による治驗例

著者: 荻原直夫

ページ範囲:P.658 - P.659

 頸動脈毬剔出術は今日気管枝喘息,カウザルギー,レーノー氏病,その他眼科,皮膚科の疾患にも広く應用されるに至り,本手術の治療効果を得る機轉は今ぞなお明らかではないが,術後に於ける身体反應は,自律神経系の失調状態を調整する方向に来す事が知られている.私はかかる意味での一治驗例を経驗せる故報告する.

胃癌と誤られた小網ノイリノーム

著者: 靑柳正敏 ,   伊沢達吉

ページ範囲:P.659 - P.661

 上腹部の中央より稍々左寄りに表面凹凸で硬固な腫瘍を触れ,某病院で胃癌であろうと言われ当外科を訪れた患者があつたがX線撮影並に種々の臨床檢査の結果判然とした癌の診断根拠は確立されなかつたが胃の小彎側に腫瘍の圧迫像認められ,或は小網辺りから発生した腫瘍ではなかろうかという疑の許に開腹手術を行つた所,果して小網の小彎側で幽門に接近して鶏卵大の腫瘍を発見し之を剔出した.そして組織学的檢索の結果Neurinomなる事を明らかにした.
 一般に小網の原発腫瘍は大変珍らしく本邦5例外國5例の10例に過ぎない.そしてその多くは線維腫であつてE. K. Molodaja(1923),畑(1927),M. Mauro(1934)の三例が之であり,次に嚢腫性リンパ管腫として西田(1936),A. Horrat(1939)の2例があり,他は各1例で長岡・福知の副膵(1938),Boudzinskaia Sokolova(1938)の血管内被細胞腫,J. Patel(1936)の嚢腫及び鈴木(1940),金原(1941)のNeurinomとなつている.

最近の外國外科

増殖性及び靜止性轉移,他

著者:

ページ範囲:P.663 - P.664

 癌轉移の問題を臨床的見地より見ると増殖性のものと靜止性のものとがあるがはつきりした区別は勿論つけ難い.又條件により互に移行もする.手術時轉移を認め解剖的治癒は得られなくても臨床的治癒が得られる事もあり,又靜止性轉移では轉移保持者として十数年も全く無症状である事もある.10年以上も無症状であつた癌の4例をあげ,決して例外ではないと述べている.癌の治療は多く轉移の治療そのものである事よりして如何にして増殖性のものを靜止性にし,靜止性のものをそのまゝに保つかは重要である.臨床的に轉移は発癌物質不適当な手術,間違つた照射,藥剤ホルモンの誤用により刺戟される.他方一般に栄養不足産褥,感染,藥物による衰弱,惡液質の際発育は盛になる.生体内増生抑制と促進との均衡が破れ促進が勝るからである.惡液質,衰弱がとれ高齢閉経期になると抑制的因子が優位にれつ様になり轉移は防がれ,生育は抑制され,崩壞の傾向は少くなり,腫瘍は休止性になり,爲に癌腫患者は單に癌腫所有者といへる樣になる.即ち癌轉移の最も効果的な治療は惡液質の予防といへる.一方老齢になれば生長速度,生長傾向が次第に減ずるのであるし,轉移のある場合は眞に根治的に手術するのは殆んど不可能であるから,無謀に行つて患者を衰弱させるよりも無理のない範囲の治療を行つた方が良結果が得られると述べている.
 (Arch. f. klin. Chirur. 274. B. H.)

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集談会

ページ範囲:P.665 - P.665

第520回東京外科集談会28.9.19
 1)珍らしい型のイレウス3例
          栃木縣矢板町 篠原日出夫
           栃木縣泉村 香坂義一郎
 第1例,S状結腸捻轉に対して脚間の吻合, S状結腸横行結腸吻合等を反復加えたに関らず更に複雜な軸捻轉を起せるもの.S状結腸一部切除,治癒.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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