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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科8巻2号

1953年02月発行

雑誌目次

綜説

脊髄麻痺法の臨床

著者: 宍戶仙太郞

ページ範囲:P.57 - P.63

1.緒言
 私共は茲数年来Percamin Sによる脊髄麻痺法に於て,その麻痺波及が分節的である特色に注目し,之を内臟支配神経の遮断に應用し,各種臟器の病態生理の究明に力を注いで来た.現在尚研究途上ではあるが,脊髄麻痺法に於ける血圧下降等の副作用発現に関し,2,3の知見を得,その防止対策についても,実驗を行い,更には無痛効果の吟味として内臟知覚の求心路に関する研究等を行つた.その結果麻醉死Lumbaltodは広義のテヒニークフェーラーであると考え度い.以下私共の臨床実驗的研究の成績に基づき,脊髄麻痺法の臨床を少しく述べたいと思う.
 症例は昭和21年9月より昭和27年9月迄6ヵ年の集計であつて(第1表),Percamin L 1410例,PercaminS 1297例計2707例の脊麻症例である.手術種類別の統計は開腹術1809例,非開腹術893例であり,10歳以下の小兒は約1.4%,60歳以上の老人4.6%を含む.

Judet手術の経驗

著者: 天兒民和 ,   岡田淸

ページ範囲:P.64 - P.67

 関節成形術は最近J.K膜の出現にて著しい進歩を示し,その成績も可なり一定した状態にまで進歩し技術が完成して来た観がある.然し骨破壞が大なるもの,又変形性股関節症の如き疼痛の激しきもの,或は大腿骨頸部骨折にて頸部の消耗と骨頭の壞死破壞のあるもの等には從来の関節成形術のみでは解決し得ない点も少くない.1950,RobertとJean JudetはAcryl-Resinにより傘型の人工大腿骨々頭を作成し切除或は消失したる大腿骨々頭の代りに柄を頸部に打込み以て人工的に関節を作り無痛,可動にして支持力も優秀なる関節を作るに成功したと発表したのである.勿論未だ日浅く其眞の永続性の効果については疑問の解決せられてはいないが,否いないが故に我々は一方にては動物実驗にて病理学的に追求すると共に他方既に5名の患者に試みたので其大略を報告する.

補液としてのGlyco-Alginについて(第2報)—循環血液量,血漿量,細胞外液相および血球抵抗力に及ぼす影響

著者: 高山坦三 ,   菅原古人 ,   菅原正彥 ,   渡邊正之 ,   池田敏夫 ,   早坂滉 ,   武山勝也 ,   山田史朗 ,   丸山行道

ページ範囲:P.68 - P.71

1
 われわれはその第1報において,われわれの考案,創製したGlyco-Alginすなわちアルギン酸ソーダを0.3%の濃度に溶解した5%ブドー糖液が,出血による下降血圧を上昇せしめる作用において,かつまたその上昇血圧を持続せしめる作用において,アルギン酸ソーダ生理食塩水溶液よりもすぐれ,且つRinger液,等張ブドー糖液にはるかに優るものであるとの,実驗的ならびに臨床的観察の成績をえたが,今回は本剤についておこなつた循環血液量,循環血漿量,細胞外液相および赤血球滲透抵抗力等に及ぼす影響に関する実驗的研究の結果を報告する.

收縮性心膜炎の手術治療経驗

著者: 三枝正裕 ,   角田正彥 ,   松井澄

ページ範囲:P.72 - P.74

 外科手術の対象となる後天性心疾患の一として收縮性心膜炎(Pericarditis constrictiva)がある.心膜炎の後遺症として心膜に瘢痕性の肥厚及び癒着を生じ心臟の拡張が妨げられる爲に種々の症状を呈して来るもので,結核性病変にもとずくものが多く,從つて若い人に多い.
 主な所見は動脈血圧の低下,脈圧の減少,靜脈血圧の上昇,心搏動の減弱で,主要症状としては靜脈系のうつ滯現象があらわれ下肢浮腫肝腫大,腹水などを生じ,いわゆるPick氏心膜炎性僞肝硬変症を呈してくるものである.

部分的腎剔除術,特にその腎結石への應用

著者: 楠隆光

ページ範囲:P.75 - P.80

 部分的腎剔除術Partial nephrectomyとは普通の腎の上極,下極或は時として中央部を部分的に切除する術式であつて,1名ドイツではPolresektion der Niere(Alken)或はTeilresektion der Niere,アメリカではPartial resection of the kidneyとも称されている.最近腎杯結石の時に結石と共にそれに接する腎杯及び腎乳頭部を切除するのを腎杯切除術Caliectomy,Calyineresection又は腎乳頭切除術Papillectomyと称されているが,これ等も一種の部分的腎剔除術である.たゞこゝで本法と区別しなければならないものとして半腎剔除術Heminephrectomyがある.これは重複腎盂或は馬蹄腎の樣に互に実質が融合しているが.茎部血管及び腎盂が別々になつている腎の一半を剔除するもので,茎部血管及び腎盂の一つである腎の一部を剔除するこの部分的腎剔除術とは異るものである.

腎剔除

著者: 大越正秋

ページ範囲:P.81 - P.85

緒言
 腎剔除術は現代の日本に於ては泌尿器科手術中重要なものの一つであつて,而もその大部分は腎結核に対して行われている.東大泌尿器科では毎年約100例の本手術が行われておりその約85%は腎結核の症例である.これに反しアメリカ等では腎結核について行われることは甚だ少くBeachamの統計によれば1930年より1950年6月に至る201/2年間に行われた腎剔除術1140例中腎結核症例は僅かに57例(5%)のみである(第1位は水,膿腎症例806例(71%).最近ストレプトマイシン以下数種の新抗結核剤が現われ,腎結核に対してもこれらの藥剤は或程度有効であり,殊にその初期症例は手術しないで,これらの藥剤だけで治癒せしめうる可能性を示す文献も発表されており,又更に限局性の結核病巣に対しては化学療法剤の庇護の下に腎部分剔除術も行われ始めており,結核全体の減少と相俟つて腎結核の際の全腎剔除ということは益々行われることが少くなる傾向をみせている.日本に於ても結核死亡率は1947年より逐年下降し終に先日死亡率半減が祝われるようになり,1952年は7.0位になると予想されている.

症例

ダニによる野兎病

著者: 大原甞一郞 ,   佐藤充男

ページ範囲:P.87 - P.88

 ダニ脳炎,ダニ麻痺,Q熱,ロッキー山発疹熱,コロラドダニ熱,回帰熱或はTularemia等大形のダニによつて病原体或は病毒素が人間にうつされて一つの疾患をおこすことは広く欧米では記載されているが,わが國ではまだその報告例がない.即ちTick-borne infectionなる感染樣式はわが國では実証されていない.
 我々は最近野兎病がこのダニの刺螫によつて人にうつされた最初の症例を経驗した.

膀胱及び前立腺を侵せる直腸癌の1手術例

著者: 吉田誠三 ,   佐藤太一郞

ページ範囲:P.89 - P.90

 最近我々は膀胱並に前立腺に浸潤を来せる直腸癌に併合法手術を行い,併せて膀胱切除術及び前立腺精嚢剔出術を実施した経驗を得たので此処に報告する.
 症例は47歳男子,家族歴既往歴には特記すべきものは無い.主訴:排便時疼痛

胎生性腎臟混合腫瘍の1例—並にその統討的観察

著者: 原勇 ,   杉原博

ページ範囲:P.91 - P.93

 幼兒に於て腎臟は惡性腫瘍の好発部位であるが,その大半(67%)を占めるのが本症である(酉1)).本症は1872年Eberth2)がMyomo Sarcomatodes renumとして最初に報告し,本邦では明治32年中山3)が腎臟胎生腫として報告して以来,現在までに114例の報告がある.最近我々は本症の1例に遭遇したが,この例は本邦報告例中例を見ない巨大なるもので,且つ又,その摘出手術に成功し,術後9ヵ月なお健在であるので,此処にこの1例を報告する.

老人膝関節部巨大結核性嚢腫

著者: 永瀨十郞

ページ範囲:P.93 - P.96

 老人の右膝関節下部に生じた巨大な嚢腫性の腫瘤を手術によつて剔出し,病理組織学的檢査によつて始めて結核性の嚢腫である事が判明した興味深い1例を経驗したので茲に報告する.

脳疾患と嗅覚

著者: 西邑信男

ページ範囲:P.96 - P.98

わたくしは先に第6回日本脳神経外科研究会において嗅覚の簡單な檢査法とそれによる成績について発表した
 その後約2ヵ年にわたり多少方法および試藥の改良をなし,ほゞまとまつた結論を得たのでこゝに報告する.

交叉轉移性兩側乳癌の1例について

著者: 菅原正彥 ,   細矢壽一

ページ範囲:P.98 - P.100

 女性の乳癌は珍らしい疾患ではなく,且つ両側乳癌も其の頻度は全乳癌の1〜10%位と種々の値があげられ5%前後と報告する者が多く,そう稀れなものではない.我々は本症の1例を経驗したが,その発生機轉についていさゝか考察を試みたのでこれを報告する.
 両側乳癌が1側乳癌の他側への轉移で出来たものか,或いは両側にそれぞれ無関係に原発せしものかについての診断は,色々論議されて居る.又乳癌の轉移についても,其の根治手術上又深部治療上非常に大切な事と思われる.それでこゝに本症の1例報告と共に,此の2つの事について少し考えて見た.

同一系統器官に発生した重複癌の1例

著者: 名和嘉久 ,   川井一夫

ページ範囲:P.101 - P.103

 重複癌は極めて頻度の低いものである.即ちEgli,Puhr等によつても同一個体に良性腫瘍を多発する事は比較的多いが,惡性腫瘍を多発する事は遙かに少く,更に同一系統器官である腸管に多発する事は極めて稀れなものであると述べて居るし,Owenは惡性腫瘍3000例中143例(4.43%),Madwedjewは1183例の惡性腫瘍中1例(0.085%)と記載し極めて頻度の低い事を明記して居る.吾々は最近盲腸に單純癌,直腸に腺癌を同一個体に於て発見,手術施行したので,考察報告するものである.

外科と生理

その16

著者: 須田勇

ページ範囲:P.104 - P.106

4.呼吸の変調
 呼吸運動の特徴は呼息と吸息が一定の深さと頻度で交代性に起る点にある.この機序は延髄呼吸中枢よりの神経衝撃が吸息筋に達し胸腔が拡大することにより肺が被動的に拡大し,肺の拡大により迷走神経求心端が機械的な刺戟を受け持続的な求心衝撃を延髄に返送することによつて,現に放出されている神経衝撃が遮断されて呼息に移行するものと考えることも出来る.即ち呼吸運動の規則性はこのような中枢と末梢との間に活動の環が成立していることに由来する.このような環は中枢神経,細胞間に成立するとの考えもあることを前に述べた.何れにしても環の形成は生物に於ける調節の基本構造である.
 環の中の中枢要素の興奮性は細胞環境の変化とそこに到達する神経衝撃の総量によつて規定される.呼吸中枢の場合は細胞環境としては酸素,炭酸ガス及びpHが問題となる.神経衝撃の流入径路としては大きく分けて次の3である.1)前脳性要因—各種の知覚及び自律系より大脳皮質,皮質下諸核で積分されて脳幹呼吸中枢に達するもので,人間の場合には感情変化に由来する視床性のものも含まれてくる.2)小脳性要因—皮膚,関節,筋等の運動及び姿勢反射に関胼した求心衝撃が小脳で積分されて流入する径路である.3)脳幹性要因—大動脈,頸動脈洞及び腺,其他肺,筋等に存在する機械的(圧,伸展),化学的(血液の酸素,炭酸ガス)変動に反應する求心系に由るもの.

最近の外國外科

潰瘍形成を伴う胃前庭部の実驗的機能亢進,他

著者:

ページ範囲:P.107 - P.108

(Annals of Surg. 134;3, 1951)
 Dragstedt及その協力者は犬の実驗に於て,胃前庭部を横行結腸の傍へ憩室として移植すると胃液分泌が非常に増加する事を知つた.此の事は胃前庭部と胃との間の全の神経連絡を遮断しても起るから,之は体液性化学物質即,ガストリン生産の過剰によるものであるとした.
 胃前庭部を結腸の傍へ移植し,胃空腸吻合術を行うと80%に大な吻合部潰瘍が出来,又胃十二指腸吻合術をしたものでは,20%に小な吻合部潰瘍の形成があつた.此の事は,十二指腸粘膜は空腸粘膜に比較して抵抗性が大い事を示している樣に思われる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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