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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科8巻5号

1953年05月発行

雑誌目次

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これからの胃外科

著者: 中田瑞穗

ページ範囲:P.217 - P.226

 與えられた課題は「これからの胃外科」というのである.私は勝手に胃外科というのを胃十二指腸潰瘍と胃癌の根治手術に限定することにする.そして以下略字を使うことをお断りして置く.即ち胃潰瘍はU.v,十二指腸潰瘍はU.d.双方を含む場合をU.吻合部消化性潰瘍をU.p.j.と略記する.
 さて世の中の何ごとでもそうであるが殊に科学のことに関して将来の見透しということ位難かしいものはない.それが医学と狹められ,外科と絞られても之の難しさは少しも変らない.難しいというよりも不可能であるという方が正しいであろう.殊に遠い将来の予見は全く不可能である.仮りに現在のあらゆる関係知識を悉く備えた上で考えたとしても,現在自分でとても不可能事に属する,夢にも考え及ばぬことであると理解して居ることが将来立派に可能となり実現して行つたためしは数限りないのである.況や不完全な知識しか持ち合せない私の考えでは将来のことなど中々予言出来るものではない.しかしそれをせよという課題のように見える.自由に想像して見よう.

五十肩について

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.227 - P.230

 五十肩と云う言葉はもともと俗称で,地方によつては四十肩,四十腕,五十腕などとも云われる.その他にも之に類する名称が色々ある.肩関節周囲炎(Periarthritis humeroscapularis-Duplay),Schmerzhafte Schulterversteifung(疼痛性肩関節硬直症),Stiff & Painful shoulder(硬直性疼痛肩),frozen shoulder(凍結肩)などの如きである.然し何れも40歳代以後に発病して肩の運動制限と疼痛を訴える疾患の症候群を意味するのであるが,多少づつ,その持つ意味の範囲が異なる樣である.何故に斯樣に色々の名称が用いられるかと云うに,それは病理解剖学的所見が未だ充分解明されていないからに他ならない.然し大略の所,五十肩は40〜50歳以後の老人性変化に基盤をもつ肩関節の疼痛性の運動制限を示す症候群である.肩関篩周囲炎も略々相類する意味のものであるが,その原因の範囲が稍々広い樣である.その他老人性変形性肩関節症(Omarthritis deformans senilis)と云う病名もあるが,之は肩関節自体の老人性変形性関節症であつて,前述の諸症候群は主として肩関節の周辺の種々なる疾病に原因をもつているのと稍々趣きを異にする.

原子爆彈被爆による「ケロイドの研究」

著者: 玉川忠太

ページ範囲:P.231 - P.237

(第1篇)
 1945年8月6日広島市に於ける原子爆彈の投下後,約半年を経た頃から被爆市民多数の皮膚,特にその露出部に大小種々の醜形を呈するケロイド樣の新生組織を生ぜしめた.殊にその病変は顏面・頸部・手部・足部等に発現したので罹患者は不快と不自由を訴え,中には甚しい運動障碍を来たし特に女性に於ては容姿上に相当重大な悩みとなつていることは同情にたえぬ.
 患者は総て爆撃の当日爆心から1500乃至5000米の距離で被爆したものである.

原子爆彈被爆者熱傷瘢痕の整形手術について

著者: 岡本繁 ,   勝部玄

ページ範囲:P.238 - P.240

 原子爆彈被爆者で整形手術を希望し弊院外科に来訪した者をみるに,その障碍の原因は爆彈の爆発によつて生じた熱と爆風によるものに大別でき,此等被爆者327例に就て昭和21年2月より同22年6月迄の間に整形手術を行いその経過を観察した.それ等症例中熱傷癜痕の手術は271例にして全症例の過半数を占めている.而して熱傷癜痕は何れも被爆時爆心側露出面にあり,熱傷部位が比較的広範囲に亘る火傷であり,その特色は瘢痕が隆起し所謂瘢痕ケロイドとして著しく着色し醜形を呈している.これ等の熱傷瘢痕は主として身体露出面である顏面,即ち眼,耳,鼻,口唇,或は頸部及び四肢関節部にあり攣縮による機能障碍甚し.而して瘢痕のケロイド樣隆起は他の原因による瘢痕攣縮より遙かに高度である.從つて此等の瘢痕は美容上は勿論機能障碍の点に於ても亦被爆者に甚しき苦痛の種である.
 この熱傷瘢痕に対して單純なる瘢痕切除縫合術,有茎移動皮膚弁による欠損部補填術,植皮術等を適宜施行した.即ち熱傷瘢痕に対する手術例271例中比較的瘢痕切除の小なる171例は瘢痕切除縫合術により,稍々広範囲の瘢痕切除を要する時は植皮術を行いたり.吾々は從来行われていた種々の植皮術の内上皮移植法に属すべきThiersch氏法及びReverdin氏法,更に皮膚全層移植法であるKrause氏法を試みたり.

虫垂自家離断の統計的観察

著者: 吉田春二 ,   蒲池愛文

ページ範囲:P.241 - P.244

 吾々外科医が虫垂切除手術を行うにあたり,時として虫垂が盲腸との連絡を全く断たれている場合とか,細い結合織性索状物によつて僅かに連絡を保つている場合,或は又既往に虫垂炎に罹患したことが明瞭であるにも拘わらず虫垂が全く発見出来ないような場合等があつて奇異の感を抱かしめることがある.斯かる場合を吾人は虫垂の自家離断(Autoamputation)或は自然離断(Sponta—namputation)と云つているのである.我が教室に於ては,昭和11年から27年8月迄の17年8カ月間に,かゝる症例を9例経驗したので,私共はその概要を報告すると共に,先人諸家の報告例を参考として,2,3の臨床的事項,手術所見,更にこれの成因等に就いて聊か考察を試み,諸賢の御批判を仰ぎたいと思う.

筋肉結核について

著者: 柳瀨靖 ,   龍嘉昭

ページ範囲:P.245 - P.247

緒言
 筋肉結核には,結核竈より血行性に遠隔部位の筋肉に感染発生すると云われる所謂原発性筋肉結核と,周囲の組織或は器管の結核竈より連続的に侵蝕波及して生じた続発性筋肉結核の2種類を区別し,後者は屡々経驗するのに反し,前者は比較的稀有なる疾患である.所謂原発性筋肉結核は,かつて1863年Virchowがその存在を否定したが,その後1886年に至り,Tübinger Klinikに於てHabermaas及びMüller等により初めて報告され,1893年Lanz de Quervainの両氏により確認され,更に1910年Melchiorは所謂孤立性腹壁結核を報告し,爾来内外諸家による追加報告をみるに至り,本症に対する注意が喚起される樣になつて来た.我々は最近左肋弓直上部に於て左腹外斜筋の起始部に発生した所謂原発性筋肉結核と思われる一例を経驗し,病理組織学的にも確証を得たので茲に報告し,以て諸賢の御高批を仰ぎたいと思う.

日本抗生物質学術協議会第2回東西合同臨床討議会

葡萄球菌の感染とペニシリン療法

著者: 石井良治

ページ範囲:P.248 - P.254

 化学療法の実施に当つて使用藥剤,使用法を決定する適確な示標が得られず,尚お種々の困難な点がある.例えばペニシリン(PC)療法を行つてもその効果がなかつたり,炎症が限局化して膿瘍或は硬結を残したり,或は緩慢な形の化膿を起したりする事が今日外科領域で可成り認められる.斯樣な事は菌の性状や,PC使用方法の不適正にも原因すると思われるが,よく考えると起炎菌のPC感受性,または血中濃度の点では適正であつても炎症巣内濃度の点で多くの疑問があると考える.
 そこで病巣内移行PC濃度を左右する因子を知るために,起炎菌の性状の相違に應じた炎症巣組織の病理組織学的変化と筋注したPCの病巣内への移行濃度の変化を実驗的に調査した.使用した菌は全て葡萄球菌で,抗生物質は主としてPCである.

ブドウ球菌感染症の抗生物質療法

著者: 石山俊次

ページ範囲:P.255 - P.264

抗生物質使用の経驗
 化学療法の領域において,ペニシリンの発見が,重金属剤や色素剤あるいはサルファ剤などの基本的な重要さを,いくらかでも減少するものでないことは,H. Assmann & H. Moormannその他の指摘している通りであつて,これらのものはいまなお甚だ有用である.
 しかしながらブドウ球菌感染症に対する從来の化学療法剤は,その有効さにおいても,またその適應の範囲においても決して充分満足すべきものではなくて,ペニシリンによつて始めて決定的であり,ひきつゞいて種々の抗生物質が應用されるようになつてから,眞の意味の化学療法が実現されたものといえるであろう.とくにMeleneyの調査に示されているように,いわゆる外科的感染症の80%はブドウ球菌に原因するものであることを考慮すれば,外科領域におけるペニシリンその他抗生物質に期待することの多かつたこともまた充分理解することのできるところであると思う.

急性腹膜炎に対する抗生物質の應用

著者: 白羽彌右衞門

ページ範囲:P.265 - P.271

緒言
 外科の臨床では腹部内臟の疾患がもとになつて,急性化膿性腹膜炎をひきおこすことが甚だ多い.それで最近数年間にわたり,わたくしどもはこの方面において,今日の抗生物質がどんな効果を示しうるものであるかを,臨床的に檢討してきた.また1,2の実驗的吟味をも行つたので,その成績はすでに累次発表したところである.すなわち抗菌物質研究3卷4号をはじめ,日本臨床9卷2号,臨床4卷11号やJournal of Antibioticsなどにもその報告を掲載した.それで,これまでの成績をあらためて綜括的にのべるとともに,その後においてえた結果をも追加して本稿を草した.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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