icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科8巻6号

1953年06月発行

雑誌目次

綜説

血液銀行の組織と運営

著者: 東陽一

ページ範囲:P.273 - P.282

I.血液銀行の必要な理由
 血液銀行の必要性は,それを味わつて見て始めて解る.麦飯を食べていても,充分栄養はとれる筈ではあるが,一度白米を口にしたものは,その味は忘れ難く,再び麦飯を口にすることを望まないのと同じことが,新鮮血輸血と血液銀行による保存血輸血についても云い得るのである。即ち一度血液銀行の味を知つたものは,爾後今迄の新鮮血輸血を試みようとしない.吾々の日赤中央病院においては昭和26年春以来血液銀行による保存血輸血を試み出していたが,最近ある事情のため,一時その補給に不足を生じ,再び以前の新鮮血輸血に還らねばならなくなつたことがある.そして例の輸血協会から職業給血者を呼び集めたが,同型の者を必要量だけ集める苦心(折角来たものゝうちHb量の満足なものが少い)や,惡性疾患傳染の不安などで,医局からは保存血の補給の懇望や催促が矢のようであつた.日赤中央病院ではもう血液銀行なしでは到底やつて行けないことがはつきり解つた.

補液としてのGlyco-Alginについて(第3報)—膠質ショック,ならびに点滴静注と心筋図に関する研究

著者: 高山坦三 ,   菅原古人 ,   高橋長雄 ,   渡邊正之 ,   菅原正彥 ,   早坂滉 ,   佐藤雅夫 ,   丸山行道

ページ範囲:P.283 - P.287

1
 Mastixのような懸濁液やペプトンのような高分子の物質である膠質液を,急速に静脈内に注射すると,いわゆる膠質ショックKolloid-Shockといわれる急激な血圧下降現象の生じることは既に周知のことである.アルギン酸ソーダはほゞ15,000の分子量を有する高分子の膠質物質であるから,このような膠質液を静注したばあいに膠質ショックが発現し得るかも知れないということが予測されるわけである.
 一般に補液は,輸血と同様,血圧が低下し,末梢血液循環のいちゞるしく障碍された外科的なショック,虚脱に際して使用されるものであるから,アルギンあるいはグリコ・アルギンに著明な膠質ショック作用があつては補液として適当でないことになる.そこでわれわれはアルギンおよびグリコ・アルギンについて膠質ショック作用の有無を檢索した.

肘関節における離断性骨軟骨炎について

著者: 津下健哉 ,   安田博志

ページ範囲:P.288 - P.291

 関節内遊離体に関する報告は極めて古くからあるが,Pare(1558)の膝関節に発生した関節小体についての報告を嚆矢とする.しかし本疾患の症状,発生機轉等について初めて詳細な研究を発表したのはFranz König(1887)で,氏はこれを其の発生機轉よりOsteochondritis dissecansと命名した.以来欧米に於ては本症例は多数報告され,又その発生機轉に関しても種々の研究がなされているが,本邦に於ては未だその記載例は比較的少く村上,本島,高木,田平,伊丹,榎本,名倉,中道,岩崎等の記載を見るにすぎない.
 われわれは最近相ついで肘関節に発生した本疾患の3例を経驗し,うち3例を手術的に治癒せしめ得たのでここにその大要を報告する.

麻痺肩関節に対する癒著術の遠隔成績について

著者: 矢野楨二

ページ範囲:P.292 - P.294

 急性灰白髄炎後貽症としての三角筋麻痺に対して肩関節癒著術を行い上肢の機能回復を図ることは,Vulpiusによつて創始され,次いで各種手術法がSteindler,Ombredanne,Gocht,Gillその他により発表されている.神中教授は著書整形外科手術書に於いて,それ等に就いて極めて精細に紹介されている.又本手術の遠隔成績に就いてのResarch Comittee of the American OrthpedicAssociationの報告がある.私も久留米医大整形外科教室に於いて,本手術を施行された症例の遠隔成績を調査し得たので,その成績の概略と二三の考察を報告する.

限局性廻腸炎について

著者: 名和嘉久 ,   高橋俊哉 ,   服部保

ページ範囲:P.295 - P.299

 1932年Crohn,Ginzberg and Oppenheimer氏等が廻腸下部に発生する非特異性炎疾患としてRegional ileitisを発表して以来,今日迄に我が邦においても多数の発表を見,急性型は稀有症の域を脱する感があるが,慢性型は我が國では諸外國に反し極めて稀である.尚発病原因も確定的な意見無く,更に治療法についても定説を見ぬ未解決の点多き疾患である.
 我々は最近名古屋大学病院戸田外科並に大垣市西濃病院外科に於て,本症の急性型8例及び慢性型にて腸狭窄症状を呈し,腫瘤切除術を行い,一時治癒せりと思われしも10ヵ月後に再び同様なる症状を呈し,再度切除を施行し,治癒せる興味ある経過を取れる1例を経驗したので,症例は表を以て簡單に記し,第9例の慢性型は経過に就てやや詳細に記し,主として我々の経驗に基き分類診断並に治療法についての私見を述べる.

リンパ節結核症に対するイソニコチン酸ヒドラジドの治療成績

著者: 川內正充 ,   岡田三郞

ページ範囲:P.300 - P.303

 リンパ節結核症の治療法として從来は理学的療法や外科的手術療法が專ら行われていたが,結核症に対する化学療法剤の著しい進歩に從つて,その治療法の最近の傾向は化学療法の方向に進んできている.我々の教室でも本症に対して虹波,パス,ティビオン,ストレプトマイシン(以下SMと略す)等による化学療法を主とした治療法を行つており,これらの治療成績については既に発表したが,今回我々はイソニコチン酸ヒドラジド(以下INAHと略す)を外科的立場から60例の本症に対して試みたのでその治療成績を報告する.

原因の明確なる末梢神経麻痺の経過

著者: 継泰夫 ,   渡辺良彥

ページ範囲:P.304 - P.306

 神経特に末梢神経麻痺は圧迫,藥物其の他の損傷等の原因によつて起るもので,これが症例乃至治驗例に就いては既に多くの報告があるので別に珍らしく論及することもないが,末梢神経麻痺の中,藥物注射が原因となつて起つたもの或は手術に直接基因するか,乃至は術後の処置に原因し起つたもの等は,その患者の治療の衝にあたる医師にとつては不愉快なる偶発事であり又患者にとつては,きわめて不幸なる災難と云わなければならない.或は又,之等神経麻痺に対して如何に治療を行えば,その後貽障碍を最小限度にとどめ得るか,或は何時になつたら麻痺が恢復するのか,手術の必要はないだろうかと云うようなことも,治療する側にとつても,治療される患者の身にとつても重大な関心事でなければならない.それで最近吾々は比較的しばしば各種の末梢神経麻痺に遭遇したが,その中原因の明確な且つ経過の明瞭な8例の末梢神経麻痺に就てその概略を檢討し,上述の点について考察を加えたいと思う.

外科手術におけるラボナールによる静脈麻醉

著者: 鈴木芳彥 ,   伊東嘉久 ,   野原豊藏

ページ範囲:P.307 - P.309

 概そ我々臨床外科医にとつて,簡單にして安全,然も充分にその目的に適う様な麻醉は常に望んでやまない所である.1932年エビパンナトリウムが合成され,我が邦にも輪入せられたが,あまり実用の域に入らず,僅か第二次世界大戰前後の医藥欠乏の折に,倉庫の一隅に眠つていたのを使用され,一部の人に認められたがまだ一般臨床家の使用には遠かつた.然し,更に1934年アメリカでペントサールソヂウムが発見され,1948年サリタールが発見され,アメリカ医学の輸入と同時に,全身麻醉が眞剣に考えられるに及び,漸く我が邦に於いても使用され始め,東大福田外科教室澁沢氏等の発表があるが,我々は前線外科医として日常の外科手術に,邦製ペントサールソヂウム(ラボナール)に依る静脈注入麻醉を220例に行い,略満足すべき結果を得たので報告する.

直腸癌に関する2・3の所感

著者: 島田泰男

ページ範囲:P.309 - P.310

 直腸癌の問題は近来手術死亡率の著しい低下と治療が普及化せるため一般的に相当安易感を以つて取扱われている様である.癌腫として比較的容易に診断され且手術手技も安易化せるを理由として軽々に扱われるが如きは愼まなければならぬ.
 手技の容易,死亡率の軽微の故を以つて猪突の勢を以つて,全國的に頸動脈球が剔出され,蛔虫性腹痛によつて虫垂が有無を云はせず切除せられ,適應を飛躍してまで胸廓成形術が流行し,且つは胃潰瘍の名の元に胃炎が全剔せらるる如き風調なからんことを念ずるに際し,直腸に於ける病変の炎症性乃至良性なるものを手技の安易感の故を以つて診断の愼重を欠き,相次いで直腸の切断せられゆく事なきを期し度い.

症例

瘢痕性攣縮及び関節強直に対する「ナイトロミン」局所注入療法

著者: 岩森茂

ページ範囲:P.311 - P.313

 1935年Bernblumが腫瘍の発育を抑制する物質として指摘したMusthard gasは第一次大戰にはNitrogen Musthard(以下N. Mと略す)として化学兵器の役割を演じたが再び医療方面に應用され,遂に10数年後,Gilman,Goodmann(1946)等により之が惡性腫瘍細胞の増殖に対し著明なる抑制効果を示す事を確認された.爾来本剤は惡性腫瘍の化学療法剤として一躍世界の脚光を浴び,石館教授及び其の門下により1),其れよりも毒性の少いN. MのN-oxideたるNitromin(以下N. mと略す)が創製されるや更に其の治療的應用範囲が著しく拡大された事は諸文献の示す通りである.即ち現在ではN. M及びNmが癌腫は勿論,白血病,淋巴肉腫,「ゼミノーム」,ホドキン氏病,骨髄腫,細網肉腫,ミクリッツ氏病等に対し,血管内或は直接腫瘍内注入により治効を示す事は衆人の認める所である.又此のN. M及びN. mの藥理及び作用機轉を應用して最近では,或は「ロイマ」に2),或は神経痛に,或は又其の稀釈溶液を局所的應用し,「ケロイド」や手術創瘢痕の整形に用いる等種々な報告にも接する.殊に山田氏3)のN. Mの局所的應用に関する研究は治療剤としてのN. Mの一新分野を開いたとも云うべき非常に興味のある仕事である.

蛔虫による小腸軸捻轉の2例

著者: 久保田重則

ページ範囲:P.314 - P.315

 蛔虫による腸閉寒症の中でも比較的稀な患疾である高度の小腸軸捻輔症の2例を経驗したので報告する.

Ependymomaの様相を呈せるOligodendro gliomaに就て

著者: 広津三明

ページ範囲:P.316 - P.317

 Oligodendro gliomaは從来グリオーム中比較的少く統計上これを見ても東西の別なく可なりの低数を示している.
 全般的に欧米に於けるOligodendro gliomaの発生率は平均4.1%を占むるに過ぎない,本邦では欧米のそれより梢々多い程度であるが全グリオームとの比較頻度は矢張り遙かに低い状態である.Oligodendro gliomaはCushing及びBaileyのグリオーム分類態形に依ると,Medullo blastの成熟細胞であるOligodendrogliaから発生する外胚葉性良性腫瘍で多く成人の大脳皮質下に発生する事は知られているのであるが,之と良く似たグリオームにEpendymomaがあり,これも外胚葉性腫瘍でPrimitive Spongioblastの分化したEpendym Zellenから発生する良性腫瘍でその多くが脳室壁のEpendymから発生するのである.所が非常に稀に之の脳室壁に関係を持つてEpendymomaに類似したOligodedro gliomaが発生することがあり,星野氏等は之をCellular typeのEpendymomaとして分類しているがEpendymomaに似たOligodendro gliomaとの中間型とすべきか或は移行型とすべきか,其の分類に苦しむ場合がある.

ベルベリンの創面治癒に関する研究(第2報)

著者: 富井眞英 ,   前島正一 ,   根本浩介

ページ範囲:P.318 - P.321

緒言
 臨床上,強度の殺菌剤又は有力な抗菌剤が必ずしも創面の治療効果を齎らさない事は日常経驗する処である.之等の藥剤に比較してベルベリン(以下之をB液と略称す)が創面治療上卓越せる効果を有する事は臨床外科,第5巻6号に其の詳細を揚載して諸賢の批判を乞うたが之は浸出液に関してであり,又之を鉱酸塩型とすると0.02%〜0.03%の溶解度を示し甚だ難溶性で,臨床上幾多の障碍を認めるのである.
 此処に於てB液を易溶性に変化し且之の有する收歛性を補強し,より多くの効果を期待する爲に次の3型を再び創面に及ぼす影響を観察した.

ヘルニア嚢結核の1例

著者: 西沢康男

ページ範囲:P.321 - P.322

 元来ヘルニア内容の結核症は比較的屡々遭遇するが,ヘルニア嚢自体殊に其孤立性原発性結核に関する報告は稀有なものである.ここに報告する症例は,左外鼡径ヘルニアの患者の手術に当り,ヘルニア嚢結核を発見したもので,ヘルニア嚢局所の所見及び既往歴等を綜合するに,Jonnescoの所謂孤立性原発性ヘルニア嚢結核と思われるので,その概要を報告する.

稀有なる腸重積症の1例

著者: 山縣達一

ページ範囲:P.323 - P.323

 生体に於て特に手術時に吾々が遭遇する腸重積症は口側腸管が肛門側腸管へ陥入して成立するものが殆んどである.然るに最近吾教室で手術せられた例の中上行性,下行性腸重積が1箇所に於て同時に起つていたものを発見したので,ここに報告し,併せてその成立機轉を考察し諸賢の御批判を仰ぎたいと思う.

珍しい形状を呈した腹腔内結核性腫瘤

著者: 安藤豊春 ,   靑木忠夫 ,   中村三樹

ページ範囲:P.324 - P.326

 腹部腫瘤は日常屡々経驗するところであるが,その臨床的診断は時に極めて困難であつて,開腹により初めてその診断の決定せられることも決して少くない.また開腹してもなお病理組織学的檢査にまたねば確実な診断を下し得ぬ事も屡々ある.私は最近手術所見,肉眼的並に病理組織学的所見より結核性病変なることを確かめ,且つ異常な形状を呈した腹腔内腫瘤の例を経験したので,これを報告し,その発生機轉について些か述べて見たいと思う.

最近の外國外科

乳癌治療法に於ける進歩,他

著者:

ページ範囲:P.327 - P.328

 如何なる乳癌治療法でもその予後は結局治療を始める時の病変状態の如何にかゝつている.從つてそれによつて手術か,レ線照射か,ホルモン療法か何れかの適應症を定めなければならない.現在多く唱道されているホルモン療法は特に広汎な骨轉移を有する場合,老年で腫瘍の発育経過が長く,潰瘍性癌腫の場合に適している,その他のものに就ては手術を施すか,レ線照射療法を施すか,何れかに決定する必要がある.腫瘍が乳房の外側半部に位し,小且つ硬固であつて,しかも腋窩の内側に1〜2の可動性の硬いリンパ腺を触知する程度では根治的乳房切断術が適当する.又術後のレ線照射療法は,その切除標本の病理学的檢索により再発の危險が予想される時に施す.患者が既に多数のリンパ腺轉移を有しているのが判明した時は,腋窩内容の清掃を行わないで,單純の乳房切除のみに止め,轉移リンパ腺に対してはレ線照射を施す.癌腫が乳房の内側半部に存在し,既に著しく腫大しておれば,手術は施さず,寧ろレ線照射療法のみを行う方がよい.乳癌治療の一般的原則として,乳癌の組織学的構造の分化程度が高く且つ蔓延の傾向が少なく,発育も遅い時は主として手術的療法に依る.これに反して,乳癌の組織学的構造の分化程度が低く,蔓延度が大且つ発育が迅速な時は主としてレ線照射療法によるのがよい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?