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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科8巻7号

1953年07月発行

雑誌目次

綜説

神経原性肉腫の知見補遺—眼瞼皮下小腫瘤の再発による紡錘細胞肉腫の1剖檢例

著者: 黑羽武 ,   柿坂輝夫 ,   內山貞也 ,   安藤郁夫

ページ範囲:P.331 - P.335

 臨床的に神経鞘腫の治驗例は屡々報告されるに比して,再発後の運命を明らかにした剖檢記録は甚だ乏しい。余等は上眼瞼の小さな皮下腫瘤が手術後に再発し,遂に眼窠を破壞する肉腫にまで進展して死亡した症例を経驗したが,初期の切除標本に神経性起源を暗示する所見を認めたので,剖檢所見と共に之を報告する.

結核性甲状腺腫

著者: 岡田一郞 ,   鴇田尚彥 ,   矢內謙

ページ範囲:P.336 - P.340

 甲状腺が結核に侵されるという事が明らかになつたのは19世紀後半のことで,それ以前に於ては甲状腺は結核に罹らないものと考えられていた.1)2)3)4)
 然るに1862年Lebert5)は全身の粟粒結核にて死亡せる患者の剖檢に際し,甲状腺にも粟粒結核を発見し,共後同樣の症例が多数報告され,急性粟粒結核のみならず慢性肺結核症に於ても見られることが知られるに至つた.然し之等は何れも病理解剖によるものであり臨床上の興味に乏しい.

脳,脊髄障碍時における2,3発汗異常に就て

著者: 天瀨文藏

ページ範囲:P.341 - P.343

 種々な脳,脊髄疾患或は末梢神経損傷の場合に異常発汗をみる事のあるのは既に注目されている所であるが,臨床方面で殊にその診断的意義に触れているものは余り見当らないようである.又一方,汗腺の神経支配に関しては交感,副交感神経二重支配説が現在有力なものと解せられ,又その中枢は間脳殊に視床下部にあり,又それ以下の経路は不明の点が多いが,側索内を下降するものと言われている.即ち発汗に関する交感神経脊髄中枢は,頭部,頸部,上胸部の夫れは第8頸髄〜第6胸髄,上肢は第5〜7胸髄,躯幹は第7〜9胸髄,下肢は下位胸髄及び上位腰髄の夫々の側角或は之れに相当する部位に存するものであろうと言われ,此処から前角に入り前根を通じて交感神経節状索を上行或は下行して末梢神経に入る交感神経と,その脊髄中枢は未だなお闡明されていないが後根を出て交感神経節状索を経由せず直接末梢神経に入る副交感神経との二重支配説が有力視されている.而も此の場合温熱性発汗に関する限り,交感神経節状索を経由しない副交感神経は之れに関與しないとも言われている.然しながら自律神経は大脳よりの影響も大いに関與している関係上,発汗機轉に関してもなお複雜なものがあると言わねばならない.

破傷風17例の統計的観察とマイアネシン使用経驗

著者: 伊東和人

ページ範囲:P.344 - P.348

 國立千葉病院に於て,最近4年間に取扱つた破傷風の17例について,統計的観察を試み,マイアネシン使用をも併せて,治療成績を報告致します.

男子乳癌に対する睾丸剔出術の効果

著者: 增田強三 ,   武田進 ,   景山直樹 ,   伊勢田幸彥 ,   西部仰二

ページ範囲:P.349 - P.353

まえがき
 乳腺が生理的に脳下垂体ホルモン及び性ホルモンの支配を受けている事は周知の事実であつて,女性乳癌の場合に,卵巣を剔出したり,Andro—gen1)2)3)4)5)或は反対にEstrogenを使用して或程度効果のある事は既に多数の報告がある.男性乳癌は女性乳癌に比べれば,発生率は非常に低くその1%前後であると云われているが,臨床上の経過は女性の乳癌と略々同樣である.
 ところが,男性乳癌の性ホルモンに対する態度は女性乳癌とやゝ違つているのである.例えば,AndrogenやEstrogen療法が男性乳癌に対しては成功していないのに,睾丸剔出を行うと劇的な効果があると云う事である.

症例

異物性虫垂炎

著者: 小坂親和 ,   池田金彌 ,   小坂三郞 ,   平田利広

ページ範囲:P.354 - P.356

 虫垂炎と異物との関係は1757年Mestivier氏の報告に始まる.それは未だ右腸骨窩膿瘍が虫垂に起因する疾患であることの明かにされぬ以前のことで,之は亦偶然にも虫垂炎と起因する膿瘍切開の世界最初の手術例でもあつた.即ち同病院の外科部長が行つた45歳の1婦人例で排膿後,一時軽快したが遂に死亡し,剖檢の結果穿孔せる虫垂の内腔に錆びた留針が発見された.爾来虫垂内異物の報告される毎に,その原因的意義がしばしば論議され,虫垂炎の一原因として成書にも記載されている.
 教室に於ても過去3年間に行われた切除虫垂内にその2例をみたので,この機会に虫垂炎の原因的要約として異物の意義を考えてみたいと思う.

狹腹症Abdominal Anginaに対する逆行性動脈衝撃注射療法

著者: 高聰明 ,   候書宗

ページ範囲:P.357 - P.358

 狹腹症と思われる1例に対し50%葡萄糖溶液を股動脈より逆行性衝撃注射(以下逆動衝注とす)を試みた所著効を認めたので発表する次第である.
 患者:王子敬.29歳.警察官.家族歴には父が脳溢血で死亡せる他は特記すべき事なく妻は健康,流産の経驗なく,1子も健康.

肺吸虫症に続発した気管支拡張症の1治驗例

著者: 室津健司 ,   原輝夫 ,   內藤普夫

ページ範囲:P.358 - P.359

 近時わが國でも,肺結核症,気管支拡張症及び肺腫瘍等に肺切除術が,積極的に行われておるが,私共はたまたま肺吸虫症に続発したと考えられる気管支拡張症に対し,肺葉切除術を施行,術後良好な経過をたどつた1症例を経驗したので,こゝに報告する.

肺区域切除による肺化膿症の1治驗例

著者: 西純雄 ,   佐藤泰正 ,   浜本泰夫

ページ範囲:P.360 - P.362

 肺化膿症は古来難治の疾患とされ,その治療法も始めに保存的療法が主として行われ,外科療法に移る時期は発病後相当時日の経過していることがかなりあつた.從つて屡々治療期間も遷延し,外科療法の成績も保存的療法による場合と大差はなく満足すべきものではない.確かにペニシリン(以下ペ剤と略す)その他化学剤の発見は本症の治療に大きな発展をもたらしたが,なおその効果も一定の限界があり,外科的処置は依然重要さを失つてはいない.化学療法で効果のないものに対してこれまで我國で行われてきた外科的処置は虚脱療法や肺切開術等である.肺切除による本症の治驗例は外國では既に多数報告されており,病巣の限局型に対して肺区域切除による成功例もある.近時我國でも肺切除がかなり安全な手術となつて以来,本症に対しても肺切除が施行されてはいるが,未だその報告例は極めて少い.我々は最近國立岡山療養所で内科的治療で無効な本症の1例に肺区域切除を施行し経過良好であつたので報告する.

胸廓整形手術の血清アルギニンに及ぼす影響

著者: 伊藤久 ,   鈴木武松

ページ範囲:P.362 - P.364

 各種疾患或は外的素因に依つて血液中のアミノ酸が量的並びに質的に変動する事は既に各分野で認められ総ゆる角度から研究されて居るが外科的疾患或は動物実驗におけるアミノ酸窒素量の変化に就てはTayier & Lewis(1915)1)以来Pezecoller(1933)2),Lurje(1936)3),Engel(1915)4)等も既にその事実を認めて居る.余等は最近殊に重視されて来たヂアミノ酸の一つであるアルギニンをとりあげて,肺結核患者の胸廓整形手術前後の変化を観察した.
 血液中のアルギニンに関する研究報告は極めて少いが,坂口(1925)5)がアルギニンのアルカリ溶液に2-ナフトール及び次亞塩素酸ソーダを加えた呈色反應を報して以来,各方面よりアルギニン定量法としての本法に就て注目される樣になつた.その後Weber(1930)6)がこの呈色反應の欠点を改良し,更に坂口(1948)7)がオキシンを使用してアルギニン定量法としての本法を完成した.余等はこの方法を用いて次の実驗を行つた.

泉熱(所謂異型猩紅熱)患者の開腹所見

著者: 山田勳男

ページ範囲:P.365 - P.366

 私共臨床家の門を叩くAcute abdomenなる患者程外科医の興味あるものはない.特に実地医家として手術の適應を定め,「メス」を取るべきや否やの判定は常に必ずしも容易な事ではない.
 私は最近急性虫垂炎を思わしめる右下腹部痛を訴えた患者2例の手術を行い.所謂泉熱と診断した症例に遭遇し,いささか知見を得たので檢査成績不充分なるをかえり見ずここに御報告致す次第である.

腸間膜内に発生した巨大なる結核性嚢腫の1例

著者: 三枝正孝

ページ範囲:P.367 - P.368

 腸間膜淋巴腺結核が成人頭大の嚢腫樣腫瘤を形成した例は本邦文献にも余り見当らない.私は最近その1例を経驗したので報告する.

急性限局性廻腸炎の3例

著者: 財前國光

ページ範囲:P.368 - P.369

 本症は1932年Crohn, Ginzburg u. Oppenheimerにより発表せられ,本邦に於ては1937年渡辺氏の報告を以つて嚆矢とし,比較的稀な疾患とされている.余は最近開腹術の結果本症と思われる3例を経驗したので之を報告する.

胃筋層内迷芽より発生せる胃腺腫の1症例

著者: 小山敏男 ,   後藤進 ,   安倍信男

ページ範囲:P.370 - P.371

 患者;24歳,男.
 家族歴,既往歴:特記すべきことはない.
 現病歴:15歳頃から心窩部の不快感,軽い疼痛,嘔気,嘈囃などがあり,その間医治を受けていたが,症状は一進一退して,なかなか軽快しないので,昭和27年3月8日当科に入院した.

円靱帶水腫の4例について

著者: 根木明人

ページ範囲:P.371 - P.372

 円靱帶水腫(Hydrocele feminae s. muliebris)は精系水腫に相当するもので左程重要な疾患ではないが,診断上興味あるものと思う.その発率は比較的稀で私が調査し得たものは表の如く本邦に於ては現在までに僅か9例,外國に於てはHilgenreiner(1933)が100例の集計報告しているのみである.この事が誤診する理由ではないかと考えられる。本邦最初の報告者鈴木等は嵌屯「ヘルニア」として救急手術を行つている.昭和25年7月の雑誌「外科」の小欄に嵌屯ヘルニアとして整復を試みて失敗し更に救急手術を行い術後なお病名決定に迷つているのを発表しているが之は私は多分円靱帶水腫ではないかと思う.私の場合にも第1例は鼡蹊部破症と誤診し,第2例は鼡蹊部破症と併発していたものである.

いわゆる被嚢ヘルンニアの2例

著者: 原田眞夫

ページ範囲:P.372 - P.373

 二重のヘルニア嚢を有する所謂被嚢ヘルニア(Herniaencystica)又は陰嚢水腫内ヘルニアと呼ばれているものを私は数年前1度経驗したが,当時は大して興味を感じなかつたところ,最近相次いで生後9ヵ月及び3年11ヵ月の幼兒に再び同樣の症例を経驗し,又奥田,木下両氏によつて本症の1例が報告されたのを見るに及んで,興味深く感じ,更に文献を調査せしところ,私の知りえた範囲に於ては前記奥田,木下両氏の1例が本邦に於ける報告された最初のものと思われ,或ははなはだ稀な疾患ではないかと想像せられたので,ここに諸家の御経驗をうかがう意味で,最近相次いで経驗した2例を追加報告する次第である.

外科的結核症と蛔虫

著者: 小出来一博 ,   石井淳一

ページ範囲:P.374 - P.375

 外科的結核症としての脊椎,骨盤のカリエスにより,漿膜の防禦的保護を有しない結腸後面に糞瘻を生ずることは種々報告があり,その手術方法についても種々論議されている.又蛔虫は種々外科的疾患と関係があり,かかるカリエスによる膿瘍内に蛔虫が見出だされたことは報告があるが,カリエスによる糞瘻より蛔虫の出たことの報告はみない.
 最近我々は骨盤カリエスによる冷膿瘍が結腸及び臀部に自潰して,臀部瘻孔より数度にわたり蛔虫が排出された例を経驗したので,ここに報告する.

原因不明な大腸壞疽穿孔の2例について

著者: 広津三明

ページ範囲:P.375 - P.376

 腸穿孔による急性腹膜炎は常に遭遇する疾患の1つであるがそれ等は腸穿孔を来す原因の明らかな場合が多い.即ち虫垂炎,及びイレウスの腸管壞疽による穿孔,或は結核性潰瘍,チフス性潰瘍,或は稀にアメーバ赤痢による腸穿孔,或は独立疾患として終末廻腸炎(Crohn氏症)による腸穿孔等があげられる.然し私達はそれ等穿孔の原因と考えられる何物をも確め得ない大腸の壞疽穿孔による汎発性糞汁性腹膜炎を来した2例についてその大要を述べ大方護賢の御批判を仰ぎたいと思う次第である.

松果体部腫瘍の2例

著者: 三河內薰丸 ,   泉周雄

ページ範囲:P.377 - P.378

 松果体腫を含めて松果体部の腸瘍は,我が國に於ては大正2年(1913年)武谷により16年4ヵ月男子の畸型腫の1例が報告されて以来,稀有なる疾患の1つとして発表されて来ているが,脳腫瘍全体の例数が欧米に比して未だ極めて少ない我が國に於ては,その呈する特有な症状と共に尚お興味ある疾患の1つとしての價値を有していることゝ思う.この部の腫瘍の種類としては松果体腫が最も多く,その他畸型腫,惡性神経膠腫,嚢腫,腺腫,脳膜腫,惡性松果体腫等を数えることが出来るが,我々は最近松果体部に生じた混合腫瘍及び中脳並びに小脳及び近接脳膜に生じた血管腫で定型的な松果体腫瘍の症状を呈したものゝ2例を経驗したので,こゝに報告する次第である.

最近の外國外科

僧帽弁手術に対する心房細動及び心房血栓存在の意義,他

著者: ,  

ページ範囲:P.380 - P.381

 心房細動はリウマチス性心臟弁膜症には屡々存在するものである.又この心房細動がある場合には心房内に血栓形成のあることも多い.これ等の事実は心臟弁膜症の内科的治療の際にもその予後の上から甚だ重要なことであるが,僧帽弁口狹窄の手術を施そうとする場合には一層重要な意義がある.著者たちはこの心房細動が弁膜手術決定上如何なる範囲まで禁忌となるかを闡明するために1935年以来剖檢89例,手術58例について調査研究した.その結果僧帽弁口狭窄患者の剖檢例では生前50%に,又手術例では手術前に38%に心房細動が見られていた.且つ両群患者の約半数に於て心壁附著血栓が発見された.そしてその樣な患者の95%に心房細動が存在し,僅に5%にのみ存在しなかつたことを知つた.心房細動を有する患者の手術例の13.5%,又心房血栓を有する患者の25%に於て脳エンボリーが既に麻醉中に起つた.これに反して心房細動を有しなかつた者の手術では2.8%,血栓のない者の手術例では2.2%に脳エンボリーが発生した.これ等の数値は他の学者の研究調査に基く数値と全く一致している.これによつて見ると心房細動は明瞭に手術に対する1つの危險を附随させている.著者たちの経驗でも実際に5名の術後死亡者中4名には手術前心房細動が証明されていた.しかし心房細動は心臟弁膜手術に対する絶対的禁忌ではない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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