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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科9巻4号

1954年04月発行

雑誌目次

綜説

経脾性肝造影法のレ線像について

著者: 副島廉治 ,   齊藤昂 ,   芦沢淸成

ページ範囲:P.169 - P.177

 我々は既報1)2)3)の如く種々の血管撮影を行つてきたがDreyer4)が脾静脈の血栓診断目的のために脾臓内に造影剤を注入した事にヒントを得て,之を單に脾静脈疾患の診断のみならず肝内門脈分枝及び造影剤が肝実質を充満した瞬間に生ずる肝実質映像を撮影する事によつて肝疾患診断に適用出来ないかを研究してきた.実験的研究5)に於ては脾出血等の危險性なく鮮明な網状末梢血管や肝実質造影に於ては微細な肝小葉(Acinus)の個々に至るまで美麗な顆粒状陰影として造影する事に成功し,之を経脾性肝造影法(Translienel Hepato—graphy)と命名するに至つたが更に臨床上実施するには,尚幾つかの手技上の憂慮すべき点があった.即ち,従来の脾穿刺時の危險性,脾腫なき薄い脾臓を貫通する事なく確実に穿刺する方法他臓器穿刺時の鑑別法,脾穿刺確認法,造影剤強圧急速注入による急激な脾臓内圧上昇のため生ずる造影剤の腹腔内噴出,脾破裂等,我々は之等の種々の予想される困難な問題を独自の方法によつて解決し,ここに極めて容易に何人も安全に実施出来る肝造影法を確立するに至つた.本法は脾腫なき患者30例に40回施行したが手技(副島,斎藤式)の詳細については別紙6)7)に招介したので今回は省略し,そのレ線像について述べる.

農村における所謂そら手(腱,腱鞘炎)の研究—第1報 1農村における本症の頻度

著者: 福島高文 ,   熱梅德夫 ,   田中正一 ,   一戶忠 ,   井上紀二

ページ範囲:P.179 - P.181

 従来手,指に於ける非伝染性腱鞘炎は掃除婦,洗濯婦,タイピスト,ピアニスト,大工等に多くみられ1)2)3),或は單に手や指の過労,其の他慢性の外傷等に依つて誘発されると記載されて居る5)6)然し本症の範疇に属すべき疾患が「そら手」,「その手」,或は「そり手」等と呼称され,東北地方の農村,殊に水田耕作者の間に罹患者が相当の頻度に及ぶことが伝えられている.
 本症は手,指の伸筋腱に一致して圧痛,瀰漫性の腫脹を来し,その運動に際しては激痛を伴い,時に著明な軋轢音をきき,或は水腫を伴うものもある.高度になれば手,指の運動障碍により箸,茶腕等の把持も困難となり,急性期には発赤,局所熱感を伴う者もある.これ等の愁訴は安静により比較的短時日に快方に向うが,反復罹患せる者では該腱鞘の慢性肥厚を伴うことも少くない.

野兎病性リンパ腺炎のクロラムフェニコール療法

著者: 大原甞一郞 ,   佐藤充男

ページ範囲:P.183 - P.186

 自然感染野兎病の大部分はリンパ腺炎を主訴としてくるもので,従つてその治療のねらうところは野兎病性リンパ腺炎の治療ということになる.ストレプトマイシン(以下ストマイ)がそれに卓効あることは比較的知られており,我々もその効果について東北外科集談会席上で数回述べたことがあつた.今回は偶々特にグラム陰性菌に有効なクロラムフエニコール(以下クロラム)を本病に使用してみたところ,全身症状は勿論,腫脹リンパ節にもストマイに劣らず著効を示したので,その症例を報告し,それを裏付ける動物実験や試験管内菌発育阻止力の検査成績を述べたい.

ブロカインアミドによる椎間板ヘルニアの治療経驗

著者: 奥村吉文 ,   田村忍 ,   松浦潔

ページ範囲:P.187 - P.189

 現在椎間板ヘルニアは整形外科医により手術的に取扱われていることが多い様であるが,なお欧米の文献によれば難治のものが少くない.我々はWallace M. Shawの脊髄神経根遮断法により椎間板ヘルニアに塩酸プロカインを注射して良結果を得たが,之は一過性であり常に反復注射しなければならない不便を感じていた.適々第一製薬株式会社より10%塩酸プロカインアミド(以後單にプロカインアミドと記す)を提供せられたので,本剤を塩酸プロカインの代りに使用したところ卓越せる効果を認めた,
 衆知の如く塩酸プロカインは速効的鎮痛作用を有するため局所又は静脈注射に応用せられているが,又その副作用も決して見逃がすことが出来ない.之に反しプロカインアミドは塩酸プロカインに比し体内に於ける水解作用が極めて緩徐である為,作用機転も漸進的且つ永続的であり副作用も少い.E.F. TrautはDegenerative Arthaitis,椎間板ヘルニア,背筋に原因するLumbago, Bur—sitis, Periarthritis, Tendinitisによる肩胛関節部附近の疼痛,Shouldea-hand Syndromプロカインアミドを注射して良好な結果を得たと報告している.

電気ショックによる心室細動除去に関する実驗的研究

著者: 岩本九州夫

ページ範囲:P.191 - P.198

 近年欧米は勿論我国に於ても胸腔内手術殊に心臓及び血管の外科的手術は刮目の隆盛を極めて来て居るが之は麻醉の長足なる進歩の結果に他ならない.之等麻醉時,手術時及び手術後に起り得る最も急激且つ危險なる偶発症の一つとして心臓停止が挙げられて居る.
 此処に云う心臓停止とは心臓が血液循環に於けるポンプとしての機能が停止を来した状態を云うのであつて心搏停止及び心室細動とに分けられる.

蝮咬症に対するセファランチン,カルチコールの併用療法の効果について

著者: 松尾光一 ,   岡田穆

ページ範囲:P.199 - P.200

 腹咬症は昔日は,100日病とか云われ,甚だ難治のものとされて居たが,近時ハイポ動注,ヤクリトン,蛇毒血清,重曹水動注等によりその効果が夫々の誌上に発表せられて居ますが,我々は一昨年より,腹咬症に接する機会を得,長谷川教授御発見のセファランチンの原植物,タマサキツツラフヂ,が毒蛇の咬傷に対し,漢方薬として利用されて居る所よりセファランチン單独にても効果があるものと考えられますが,カルチコール併用により,一層その効果を期待し得るとの想定のもとに両液混合局所注射を使用した所,少数例ではありますが,見るべき効果あり報告します.
 以上表の如く,受傷後1時間以内のものであれば,2〜4日にて全治して居ます.勿訴蛇毒に対する個体の抵抗性の有無も考えられますが,10例の経験より確実に有効であると考えられます.1,2,6例の如きは,セファランチン10mg,カルチコール5cc混合局所注射翌日,腫脹もなく,軽度局所圧痛のみと云う驚くべき効果でした.

術後の蛋白同化促進要因としての「スメニン」について

著者: 原田恒彥 ,   千葉堯英

ページ範囲:P.201 - P.204

 生体が外傷とか,手術的侵襲をうけると,体蛋白の崩壊が増して蛋白出納が負となる事は古くより知られた所であるが,之を系統的に研究したのはCuthbertson1)であって,彼に依れば外傷後約1週間前後は体蛋白の異化作用が亢進するために蛋白出納が負となるのであつて,この時期をCatabolic phase(異化期)と言つている.しがし受傷後一定の期が過ぎると異化機転の亢進は止め,蛋白の同化が促進する時期が続くのであつて,この時期をanabolic phase(同化期)と呼んでいる.この術後の異化亢進の様相については千葉2)がすでに精しく発表した所で,その蛋白代謝は反応的な現れ方を示す.
 この様な術後生体の示す反応を総括して,一貫した説明をつけたのは,Selye3)のadaptation Syndromeの学説で,外的侵襲(Staess)に反応して副腎皮質ホルモン分泌を亢進して生体防衛に当ると云われている事は今日では周知の事である.之に続いて蛋白同化作用を示すAnabolic phaseが現れるが,此の期の様相に就ては原田4)が系統的に実験した.

症例

巨大結腸症の2例—S字状結腸,直腸切除術の効果

著者: 大原到 ,   菊池成孝 ,   新津勝宏

ページ範囲:P.205 - P.207

 我々は最近定型的Hirschsprung氏病を来した生後11ヵ月の乳児と,直腸尿道瘻に対し人工肛門作製後巨大結腸症を来した生後2年6ヵ月の幼児2例に対し手術を試みたので報告する.

胃癌穿孔の2例

著者: 岩月賢一 ,   杉山昭弍

ページ範囲:P.208 - P.211

 従来胃癌の穿孔は非常に稀なものとされ1824年Laennecが初めてこれを記載し,以来Reissenstein(1909)及びThiede(1910)により報告され,Ctavannaz,Radioevitch(1928)並びにAird(1934)の統計的観察がある,本邦に於ける明確な報告例は,永山・成田(昭和12年),山本(昭和13年),桑原(昭和14年),友田・宮崎(昭和14年),松倉(昭和14年),館田・今井(昭和16年)綾部(昭和16年),永富・石川(昭和17年),服部(昭和17年),中村(昭和17年),中野(昭和17年),佐藤(昭和18・21年),石川・大橋(昭和23年)等による18例の報告があるのであり,その頻度は山本・桑原・宮崎・館田・石川等の統計を総合すると胃癌患者2412例中7例0.3%となつている1)2)3)4)5)6)7)8)9)10)11)
 我々の教室では最近23年6ヵ月の女,及び56歳の男の2例に胃癌の穿孔を経験したのでこゝに報告し,いさゝか統計的観察を試みたいと思う.

肩胛轢音症の1治驗例

著者: 惣路照通 ,   井上作藏

ページ範囲:P.211 - P.212

 肩関節運動によつて,異様な音響を発生するものを,その症候から肩胛轢音症と総称している.この様に肩関節がゴリゴリと異様な音響を発生するということは,吾々医師がよく相談をもちかけられるものであるが,肩関節運動により異常に高音を発生するものは比較的稀であつて,これは肩胛骨と胸廓との間で異様な轢音を発生するものであり,その発生原因として種々なものがあげられている.この疾患については,1867年,Bolnet etDemarqayが巴里の外科学会に於て報告したのを嚆矢とするが,その後1873年,Ga1vagniが1例の解剖例と3例の患者についてBologna医学会に於て発表している.それ以来,この発生原因については種々の研究が行なわれ,現在では次の様な事項が原因としてあげられている.(1)肩肝下筋粘液嚢の疾患.(2)鋸筋下粘液嚢水腫.(3)彎曲肩胛骨,(4)肩胛骨上内角の外骨腫(Grün—feld1)),(5)肩胛下筋の萎縮(Küttnea2)),(6)後鋸筋の外傷性胼胝(Eden),本邦に於ては,1928年,名倉3)は右肩胛骨外傷後の本症を報告し,更に1940年,川村4)は右胛骨上内角より発生した骨腫を認めて,これを切除することによつて全治せしめている.又同年,長岡は肩胛骨下の粘液嚢炎によつて起つた本症を報告している.私達は最近本症に属する1例に遭遇し,手術により全治せしめたので茲に御報告する次第である.

珍らしい経過を辿つた腸重積症の1例

著者: 松崎繁男 ,   門野登

ページ範囲:P.213 - P.214

 廻盲部腸重積症に関する報告は極めて多いが,嵌入腸管が壊死離断して,肛門から排泄された例は比較的稀である.最近胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎で腸管麻痺の為救急的腸瘻造設術を行つたが,術後2週間目に認むべき所見無しに廻盲部腸重積症を併発し,嵌入腸管が壊死離断して肛門から排泄されたので,始めて腸重積症なることが判つた1例に遭遇したので,茲に報告し,併せて本症に関して考察を加え,諸賢の御教示御批判を仰がんとするものである.

後腹膜下に発生した細胞性神経腫の1例

著者: 石田忠一 ,   兒島秀行

ページ範囲:P.214 - P.216

 細胞性神経腫は甚だ稀な疾患であるが,最近我々は急性虫垂炎を合併した為に偶然発見された本腫瘍に遭遇したので報告する.

脳内肺ヂストマ症の1例

著者: 江本修治 ,   竹內莊治 ,   川村義一 ,   天羽一夫 ,   木津新吉

ページ範囲:P.217 - P.19

 徳島県は本邦屈指の肺ヂストマ淫浸地であつて,吉野,那賀両川の流域に地方病として確認されている.従つて脳内肺ヂストマ症も予相されるところであつたが,その1例を経験したので報告する.

馬蹄鉄腎の1例

著者: 水口準之助

ページ範囲:P.219 - P.220

 蹄鉄腎は既に稀有の範囲と脱しているが,私は胸骨下狭窄感,噯気及び食思不振を主として来院し,偶然腹部腫瘤と発見せられ,その診断が困難であつた結石馬蹄鉄腎の1例を経験したのでこゝに報告する.

広範な急性蜂窠織炎性壊疽性廻腸炎の1例

著者: 河田淸士 ,   江上拳一

ページ範囲:P.221 - P.223

 急性廻腸炎嫡近年注目せられている疾患であつて罹患部も10〜35cm位を浸す事が多く炎症程度も壊疸を起すことは稀なりと云われているが,最近余等は200cmの広範囲に亘る蜂轍炎性壊疸性廻腸を切除して病理組織学的に検索する機会を得たので報告する次第である.

誤嚥せる金冠を容れた異物性虫垂炎の1例

著者: 相川俊夫 ,   小林昇

ページ範囲:P.223 - P.224

 異物性虫垂炎に就て小坂教授等は臨床外科第8巻第7号に詳細なる記載を行われているが私共も最近経験した汎発性腹膜炎を合併せる穿孔性虫垂炎に於て表題の異物を発見したので茲に追加致します.

最近の外國外科

破傷風血清の動脈内注射療法,他

著者:

ページ範囲:P.225 - P.225

(Der Chirurg 24, 207, 1653)
 破傷風血清を静脈内,筋肉内或は皮下等に注射する方法は血清が脳に達する迄に高度稀釈を受けることゝ,血中から脳組織への抗毒素移行が容易でない為神経細胞に進入するものは極めて少い.又腰椎穿刺によつて血清を注入しても抗毒素が髄液から脳へ移行し難い為効果が少いばかりでなく,アレルギー性髄膜炎を併発したという報告もある.
 著者はこの意味で内頸動脈内に各側毎日1万単位宛3日間連続注射することを推奨している.動脈内血栓形成のおそれは少く、本法施行により以前23例中14例の死亡を見たのに反し,施行後は11例中僅か2例の死亡例を倒したに過ぎないことは注目に値する.

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集談会

ページ範囲:P.226 - P.228

 第63回北陸外科集談会28.1.25.
 1)白金友炉長期使用後に生じたと思考される腹壁肉腫症の1例
          熊埜御堂外科 中田孝之
 白金友炉長期使用後の該部に使用中止後4年位経過せる後に腹壁肉腫の発生,組織学的に紡錘形細胞肉腫であつた.熱刺戟で局所組織障碍及び細胞の胚胞性増殖を起し漸次悪性化せりと思考さる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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