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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科9巻5号

1954年05月発行

雑誌目次

綜説

手術的療法の新方面

著者: 福田保

ページ範囲:P.231 - P.238

まえがき
 近年の外科領域に於ては,従来殆んど手をつけてないか,或は手がけても著しく不成績に終つたと言うような面倒な手術が行われるようになり,それに関して種々の目新しい問題が検討されるに至つた.逆にかかる新方面の進歩の結果,難手術も容易となり,その成績も向上して来たとも言えるわけである.
 かかる新方面の進歩をうながした最も重大なものとして,(1)ペニシリンのような抗生物質による化膿の防止,(2)手術侵襲に際して生体内に起る動態の詳細が漸次明かにされ,手術の前後は勿論手術中に於ても,合理的の処置が施されて,常に生理的状態に近い状態に置くことが可能になつたこと,(3)気管内麻酔のような全身麻酔は勿論,一般麻酔学の発展により,手術が容易になつたことなどを挙げることが出来る.

直視下心臟内手術—特に空気塞栓防止策について

著者: 木本誠二 ,   羽田野茂 ,   杉江三郞 ,   三枝正裕 ,   和田達雄 ,   浅野献一 ,   吉村亨 ,   水野明

ページ範囲:P.239 - P.248

序言
 心臓外科の近年の発達並びに普及は眼覚しく,外科治療が行われはじめて僅か数年を経たばかりの疾患でも,今日すでに一般に手術が広く実施されているものが少なくない.動脈管開存,Fallot氏四徴を含む肺動脈狭窄,僧帽弁狭窄などはこれであり,大動脈縮窄,大動脈瘤などの隣接大血管疾患もこれに属している.現在興味を以て研究される対象となつているのは,大動脈弁狭窄に対する安全な術式の考案の外に,僧帽弁閉鎖不全,心房並びに心室中隔欠損,肺動脈狭窄特に円錐部狭窄の切除などである.直接心臓内部に侵襲を加えるに当り,盲目的に手探りで行い得る操作には自ら制限がある.指の触感は鋭敏なようではあるが,その反面操作を加えようとする場合の可能の範囲が予想外に小さいものであることは,少しくこれに携つたものの等しく痛感する所である.従つて心臓内操作の稍々複雑な手術に心臓外科の研究の主目標が移つて行くにつれて,心臓切開の上開放性に操作を加え度いという外科医の願望はますます熾烈となつて来るのである.
 1937年Gibbon氏が実用に供し得る人工心肺装置を作つてから,心臓外人工循環の研究は多数の人によつて努力が重ねられて来た.

術後疼痛とその緩和法について

著者: 綾部正大 ,   井上権治

ページ範囲:P.249 - P.253

 戦後欧米医学の再流入と共に,従来比較的軽視されて来た出産痛や術後疼痛の対策が,新な認識のもとに研究され始めたことは同慶にたえない.これらの疼痛は一過性のものではあるが,その患者に与える精神的,肉体的の影響は,過小評価出来ないものがあり,医師としても出来るだけの手段をつくしてこれが無痛化をはかるべきである.
 しかしながら,吾が邦に於ては術後疼痛除去法に関する系統的な研究は今日迄に殆んど行われていないので,私共は1昨年来,術後疼痛とその緩和法について系統的な研究調査を続けて来た.茲に本問題に関しての現在におげる知見を綜説的に述べ,大方の御参考に供し度いと思う.

内臟知覚神経の末梢像

著者: 木村忠司

ページ範囲:P.255 - P.265

 私が最近非常に感銘を受けた論文の1つにMax Claraの「知覚の解剖」なる綜説がある.その胃頭に「生理学と結びついてない解剖学は無意味な手細工に過ぎない」と言つているが蓋し至言である.解剖学者が仮りに内臓に知覚神経らしきものを発見しても,それ迄に若し生理学的に内臓の知覚が認められていなかつたならばこれを知覚神経と主張する根拠がない.内臓の知覚生理は永い間外科医の掌中にあり,Leunander以来内臓無知覚説が風摩していた間は必然的に内臓の神経は大部分自律神経と理解された.然しNothnagerやBentley等新しい外科医の緻密な観察に依てこの学説が壊れ始めてからは解剖学者の目も当然此の方面に向けられる様になり多くの業績が現われたのである.
 私自身の考えでは現に内臓の自律神経と目されているものゝ中から将来知覚性として再認識されるもが尚相当残つていると思う.

乳癌根治手術の1考察

著者: 伊藤國彥 ,   佐藤雄次郞 ,   林瑞聰 ,   平沢進武

ページ範囲:P.266 - P.270

 乳癌が死因として,婦人の他の部位の癌腫に比し増加しつつあることは,最近各国に於て確なる事実としてみとめられている.
 今日前癌状態としての乳腺症の意義が徹底して来るに従い,予防的治療が注目されてきた,又一般の乳癌に対する認識が高まり,早期診断従つて早期治療の機会が増していると思われる.乳癌は種々の臓器の癌腫の中でも診断が容易なものの一つである.又乳癌の根治手術の歴史は古く,この間外科的治療にも補助的手段にも,多くの改良が企てられている.然し乍ら,今日この疾患に対する死亡率減少の試みが成功しているとは思えない.

皮膚移植についての2,3の知見

著者: 高岸直人

ページ範囲:P.271 - P.274

 皮膚移植は整形外科領域に於いて重要なものゝ一つでありその成績も化学剤の発達,術式の改良等により可成り良好となつて来たと言われて居る.この時に当つてその成績につき検討して見ることも無駄ではないと考える.
 私は九大整形外科教室最近9年間の皮膚移植の成績につき検討すると共に,1943年Sanoに依つて報告された血漿皮膚移植法について少しく追試したので報告する.

心臓外科に関するシンポジウム

カテテリザチオンによる心内圧の記録について

著者: 冨田恒男

ページ範囲:P.275 - P.276

 カテテリザチオンによつて心内圧を記録しようとする時一番問題になるのは,記録された曲線が心内圧の週期的変化をどの程度迄忠実に再現しているかということである.勿論動物を使つてmanometerを直接心臓に挿込んだ時の圧変化曲線と,カテーテルを通して記録された曲線とを比較することによつて,カテーテルを通したことによる歪みの程度を知ることは出来るが,この様な方法からは,然らば歪みをどうしたら除き得るかという具体的な対策は生まれて来ない.どうしてもカテテリザチオンそのものに対して力学的な考察を加えて歪みの原因を究明し,之に基いて歪みを最小に止める為の改善策が講ぜられなければならない.然るに内外の文献から現状を見ると,この様な基礎的事項に関する考察は殆んど行われていないように思われるので,以下簡単に吾々の研究の一端を述べ,次いで現在吾々の用いている装置に就いて一言触れることにする.
 カテテリザチオンによる圧記録に際し注意を要する第1の点は,manometer部分のcompliance(単位の圧を加えた時にmanometerの膜面が膨らむことによる内容積の増加量)が充分小さく設計されていなければならないということである.

心疾患の臨床化学

著者: 松村義寬

ページ範囲:P.276 - P.277

 臨床化学的検査法を心疾患に応用して得た知見を要約すれば,酸素欠乏を中心とする種々の変化,循環障碍に基く肝腎肺等重要な諸臓器の機能不全に依る二次的の変化とであろう.直接酸素欠乏に由来する事象は血中酸素飽和度の減少でする.先天性心疾患の場合は代償的に血色素量の増大があるため,酸素含量としては正常値又はそれ以上を示す場合があるが,後天性の場合には,栄養障碍と相俟つて血色素量の減少が観察される事も少くない.チアノーゼは血中選元型ヘモグロビンの量が大約5g/dl以上になつた場合に認められると云われるが,先天性疾患の如く,総血色素量の増大せる場合は酸素飽和度の僅かな低下によつてもチアノーゼを発現するが,血色素量の低下せる場合は,酸素飽和度が著しく低下せる場合にもチアノーゼが発現しない事になる.
 重要臓器の循環障碍に基因せる機能不全の症状として,肝機能障碍がBSPの排泄不全の形で証明され,又血中ビリルビン量の増大が認められる.ビリルビンは尚,増大した血色素量の代謝昂進にも由来するので,諸所の浮腫液中にも出現し,液を着色せしめる.之等に伴い尿中ウロビリン体排泄の増加が認められる.

先天性心臟異常の診断

著者: 磯田仙三郞

ページ範囲:P.285 - P.288

 先天性心臓異常の病型を臨床上正確に診断する事が従来頗る困難であり且つ診断を下し得ても治療の方法が無かつた為に病型診断には余り努力が払われなかつた感がある.然るに近来心臓手術の発達に伴い先天性心臓異常の病型にも外科的療法が行われる様になつたので心臓異常の病型診断を正確に行う必要を生じて来た.従つて其診断法も従来とは異り種々なる検査方法を行い其諸成績を参照して病型を推定しなければならないようになつて来た.今こゝに先天性心臓異常の病型診断の根拠となるべき諸事項に就いていさゝか所感を述べようと思う.
 先天性心臓異常の診断には先ずどんな種類があるかを念頭に置く必要があるのでこれから述べる.抑も先天性異常には種類が頗る多く単一異常から複雑異常に至る迄多種多様の異常型がある.然し此等を整理して考えれば単一型と混合型に二大別する事が出来,一定せる単一型が幾つか合併して混合型をなして居る.単一型の主なるものとしては心房中隔欠損乃至卵円孔開存,心室中隔欠損,肺動脈狭窄乃至閉鎖,大動脈狭窄乃至閉鎖,ボタロー氏管開存大血管転位大動脈弓又は大静脈異常,総動脈管遺存等である.混合型には単一異常の混合仕方に依て様々の病型をなす.例えば心房中隔欠損と心室中隔欠損の合併卵円孔開存と肺動脈狭窄の合併,或は肺動脈閉鎖と大動脈転位等は二つの合併である.

心臟手術100例の観察

著者: 榊原仟

ページ範囲:P.288 - P.290

 私の手術した心臓症例は130例に達したが,昭和26年5月5日以来昭和28年10月20日迄に手術した100例に就いて記して見たい.

第54回日本外科学会宿題報告要旨

イレウス

著者: 松倉三郞

ページ範囲:P.291 - P.295

I.緒言
 昭和10年教室開講以来余等の手術したイレウス患者は合計477例である.この臨床経験とその間に実施された多数の我が教室員諸君の研究成績を基としてイレウスに関する余等の見解をその死因を中心として披歴してみたいと思う.

イレウス

著者: 田北周平

ページ範囲:P.297 - P.300

 イレウスに於ける腸の病態生理に就ては,既にNoth—nagelやHotzの時代からその運動異常に関する研究が主として行われて来た.閉塞に打勝たんとする運動亢進や腸硬直が起り,次で麻痺期に移行すると云う考えは既に常識化して来ているが,之が何故に起り如何に進展し更に術後には如何に経過するかと云う問題に就ては充分に簡明されているとは言い難い.之は平滑筋臓器運動に関する基本的研究が遅れている為に病態生理も立遅れているためと考えられる.斯様な研究目標の下に私は九大第1外科に於て多数の教室員と共に平滑筋の病態生理を研究し,未だ満足の域に達しているわけではないが,一先ず得たる成果を御報告申上げる.

イレウス

著者: 齊藤淏

ページ範囲:P.301 - P.303

 イレウスの治療について報告する.イレウスはその関係するところが甚だ広くまた病態も多種多様である.従つて色々な角度から格別の興味が持たれるわけであるが.短時間に而も浅学のよく解明し得るところではない.本報告も何らかの参考になれば幸いである.
 さてイレウスの治療を論ずるに当つては,その死因を明かにせずして治療は云々し難いと.尤も至極なことの様である.多数の学者によつて死因究明について甚大な努力が払われて来たのも当然である.しかしこれ等の諸学説を通覽するにその一つ一つを以てイレウス病態の全貌を説明し得るものはなく,少くも治療に対する決定的な鍵を与えているとみるべきものは全くないのである.かえりみるにミイラとりがミイラになつたと云う感が深い.象を触れて来た群盲の報告とでも云うか,全貌を明かにし一貫したものはないと考えたい.

膵全切除の臨床と実驗

著者: 本庄一夫

ページ範囲:P.305 - P.308

 本文は第54回日本外科学会で宿題報告する演者の講演の要旨を略記したものである.
 われわれは昭和24年以来(手術,第4巻第10号).膵広汎切除,特に膵全切除(膵十三指腸全切除)の臨床的,実験的研究を重ねてきた.その結果.膵十二指腸全切除後3年の今日も,尚健康な日常生活を送つている1症例を含めて,膵全切除8症例の経験より.人体に対して膵十二指腸全切除が(適応の下では)可能である事実を知ると共に,術後どのような合併症が起る可能性があるか,又それらの予期せられる合併症に対して,どのような対策を講じたらよいか研究を重ねてきた.

膵切除—第54回日本外科学会宿題報告目次

著者: 吉岡一

ページ範囲:P.309 - P.309

まえおき
I 糖代謝
 1.膵切除量と糖尿病発症との関係
 2.膵切抗糖尿病の代謝相概観
  a.末梢組織の糖利用率低下
  b.肝臓の糖放出量の増加
  c.肝臓の血糖調節機能の低下
  d.蛋白質及び脂質の態度

膵切除—脂肝を中心として

著者: 大野良雄

ページ範囲:P.310 - P.310

 膵臓に種々の外科的侵襲を加えた際,肝臓に脂肪の出現所謂脂肝(Fettleber)が起る事は古くより認められ,外科学的立場より,又生化学或は形態学的方面より研究され,今日でも生物学の重要な課題である.然も近年膵臓外科の進歩とともに再び脚光を浴びるに至つたのである.然して膵臓を全剔出或いは膵臓に種々の外科的侵襲を加えた際におこる脂肝は他の諸条件下(例えば饑餓,或いは蛋白欠亡時)におこる脂肝と同一であるか否か将又これ等ら脂肝の発生起因は膵臓の内分泌的因子か,外分泌的因子によるものか,或いは両者の欠除によるものかは極めて興味ある問題である.然してこの脂肝の出現に対し,外科医として如何なる態度をとるべきかは誠に重要問題である.ここにおいて余は生化学的組織学的並びに組織化学的立場より検討し,特に細胞の機能的動態を中心として,肝細胞の変化,脂肝防止物質の作用機点並びに膵臓剔出による内分泌系の変化を明らかにし,併せて人間の膵臓全剔出の可否を論ずる.

膵頭十二指腸切除の臨床

著者: 鈴木礼三郞

ページ範囲:P.311 - P.314

1.緒言
 膵頭十二指腸切除に関する領域は外科でも最も希望の少い暗黒の部面で,手術成績も悪くかつ重篤な患者の生命を賭しての大手術も癌再発により,その努力も無駄になる場合が多い.現在皆様の前にこの報告をする迄に入院死6例と云う尊い犠牲を払いました.勿論之等は教室の初期の頃のものですが,本邦の症例を見ましても,昭和18年久留教授による第1例から現在まで逐年症例増加を見,入院死亡率は漸次下降しているとは云え,他疾患に比し極めて高い死亡率を見ている現況で,本邦170例の手術症例の入院死亡率はほとんど40%にならんとして居る.手術成績を悪くするものに解剖学的に胃,十二指腸,胆道,膵に同時に侵襲が加えられ,胆道再建,残存膵の処置が容易でなく,かつ膵頭後面に結紮切断を許されない門脈,上腸間膜静脈があり,之等の血管が非常に損傷され易く,膵頭癌に於てはかなりな程度に病変の進行しない限り黄疸は現れず,かつ黄疸が発生しても仲々外科医を訪れず手術時期を喪失し易く多少なりとも二次的肝障碍の必発すること等が本手術を暗くするものである.

膵尾側合併切除について

著者: 鈴木次郞

ページ範囲:P.315 - P.318

 宿題報告「膵切除」に関し,膵尾側合併切除に就いて述べる.本題は下部食道噴門部及び胃体部癌根治術に際し,屡々遭遇する如き膵尾側への浸潤,或いは近接淋巴腺転移高度なる場合,癌根治の目的を以つて行う膵尾側を合併噴除する問題に関するもので,之等に就き教室に於ける経験を主体として得た知見及び見解がその内容の主たるものである.

症例

大脳蔓状血管腫の1例

著者: 西成浩 ,   鈴木二郞

ページ範囲:P.319 - P.321

 脳血管腫に関してはGaupp(1888)がHemorrhoidof Pia materとして発表以来種々なる名称で報告され,更にCushing1)and Bailey;Bergstrand,Olivecrcnau. Tönnis2)等が総括分類して居り,本邦でも植松8),山崎4),田中5),菅・高橋6),前田・森田7),渡辺,南部,石川・滝沢9).和田10),斎藤11)等の症例報告がある.著者も焦点性癲癇発作を主訴とした患者で,開頭術により左前頭部より頭頂部にかけて発生した大脳蔓状血管腫を認め,電気凝固術及びレ線深部照射をなして良効果を再た1例を経験したので報告する.

急激な上行性麻痺を伴える肺癌の1症例

著者: 八嶋吉平

ページ範囲:P.321 - P.324

 悪性腫瘍の転移による四肢等の麻痺症状の発現は臨床的に屡々観察される所でありその発生部位,程度に就いても種々の場合があつて之れに関する報告も少くない.
 私も当教室に於て肺癌加療中急激な上行性麻痺を来たして死亡した1例に遭遇してそれを剖検し興味ある所見を得たので報告する.

原発性十二指腸癌の1例—並にその統計的観察

著者: 北秀之 ,   雨宮孝

ページ範囲:P.325 - P.328

 原発性十二指腸癌は臨床上遭遇することは極めて稀であり,臨床診断と共に根治手術の非常に困難な疾患である.本邦では明治31年林川,金森両氏の一剖検例1)の報告を嚆矢とし,その後文献上に現われたものは大部分が剖検例で今日に至る56年間に73例を算えるに過ぎず,殊に根治手術例は僅か8例である.本症は近時論議の的となりつゝある膵臓切除を包含し今後に残された問題として興味あるものと考えられる.最近我々はVater氏乳頭部癌の1例を経験したので茲に報告する.

胸部打撲に続発した血管肉腫

著者: 林茂雄 ,   山本好明 ,   嶺尾福重 ,   釜洞醇太郞

ページ範囲:P.329 - P.330

 前胸部打撲後疼痛徐々に激烈となつて腫瘍が発生し,剖検により血管肉腫なることを確証した症例に就て述べる.

肩胛骨に発生したEwing骨腫瘍の症例

著者: 佐藤辰彌 ,   塚越正夫

ページ範囲:P.330 - P.332

 肩胛骨に原発する疾患は割合少いが,腫瘍も亦稀で本邦腫瘍報告例中肩胛骨に見られたものは20数例に過ぎない.殊にEwing骨腫瘍は1例も認められず,欧米に於ても肩胛骨に原発したEwing腫瘍の報告例はEwing,Boecker及びGeschickter&Copeland等の10例内外を算えるに過ぎない.我々は偶々右肩胛骨に原発したEwing骨腫瘍例を経験し肩胛骨全切除術を施行し腫瘍の情況を精査し得たので茲に報告する次第である.

成人結腸重積症に就て—穿孔性腹膜炎を合併せる下行・S状結腸重積症の1例

著者: 戶田俊彥 ,   梶山一彥

ページ範囲:P.333 - P.337

 腸重積症は乳幼兒に多く然も廻盲部に好発する事は周知の事である.乳幼兒重積症は一般に急性で定型的の症状をとるが,成人に於ては2次的に起る場合が多く,慢性の経過をとり易く,其の臨床症状がまちまちであるので術前診断が困難なる場合が多い.
 私達は河石外科教室3年間に於て成人腸重積症2例を経驗し,1例は廻盲部癌の診断の下に開腹し,切除後腸重積症なる事を確認したものであるが,他の例は下行結腸がS字状結腸に重積し然も穿孔性腹膜炎を起していたもので,2回の手術に依り全治せる迄興味ある経過をとつたので,此の症例に就て報告すると共に成人腸重積症に就て主として文献的考察を試みてみた.

日本住血吸虫卵による慢性炎症直腸狹窄の1治驗例

著者: 下河辺建五

ページ範囲:P.337 - P.339

 日本住血吸虫症は,筑後川下流々域,山梨盆地,及び広島縣片山地方に於て,地方病として昔から知られて居る.他方外國に於ては,支那揚子江流域,フィリッピン,エジプト地方にも見られる.
 本虫の感染によつて,産卵された卵子が身体各臟器組織内に介在し,之の慢性刺戟に因つて,諸組織に種々の変化を示す樣になる.特に腸,肝,脾等が犯される事が多い.就中,腸管に於ては,廻腸末部,盲腸及び其の他の大腸部に著明な変化を来し,腺腸,肉芽組織の増殖,ポリープ,癌変性,或は慢性炎症,延いては瘢痕性狹窄等を惹起する場合が多い爲に,本症は内科的疾患としてだけでなく,外科的疾患としても,重要なものとなつて来る訳である.

サリタール(アミパン・ソーダ)直腸麻醉法の経驗—(特に小兒の基礎麻醉として)

著者: 九里愼之輔

ページ範囲:P.340 - P.343

 最近の麻醉学の進歩に伴い,靜脈麻醉法は旧来の單独使用とは別途に基礎誘導麻醉として新たな脚光を浴るにいたり,優秀靜脈麻醉剤が次々と創製紹介されつゝある.こうした麻醉学全般の趨勢より靜脈麻醉剤としての優秀性を決定するものはいきおい作用時間の短い,蓄積作用の少い.麻醉発現の迅速なものであつて,現今米國に於て最も流行を極めているペントタール〔Sodium 5—ethyl—5—(1—methyl butyl) thiobarbiturate〕や,See—vers, Kelly, Wyngaarden, Woods, Burstein等により紹介され,今回山井内製藥により試作されたサリタール(アミパン・ソーダ)〔Sodium−5—allyl—5—(1—methyl butyl) thiobarbiturate〕などは何れもこの性質を具有しているものである.
 さて,上述の麻醉学の進歩により患者は殆んど手術にあたつて何等の苦痛,不安等を経驗しない迄にいたつたが,小兒の麻醉に於てはその生理的機構の特殊性のため積極的な麻醉法が時に微弱な抵抗力を障碍し,身体機能を攪乱する処があり,依然として姑息的な麻醉法が行われ,ために"Anes—thesia without tears"(Evans)なる理想が顧みられぬ現状である.

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集談会

ページ範囲:P.344 - P.344

第525回外科東京集談会(29.2.20)
 1)気管支癒を合併した横隔膜下膿瘍の1手術治験例
           東大木本外科 吉村敬三・他
 28歳男子.右季肋部痛,悪寒に始まり次第に全腹痛,咳蹴を訴え衰弱.最初開腹時絞扼性イレウスに対し腸切除を行えるも下熱せず其の後右横隔膜下膿瘍を確認した.吸引洗滌療法中気管支瘻形成あることを知り,開胸して瘻管を切断し膿瘍蕩腔を掻爬して治癒せしめ得た.13例の本邦報告例がある.

第54回日本外科学会總会目次

ページ範囲:P.345 - P.350

第1日 5月2日(日) 会場 岡山市公会堂
 午前の部 午前8時30分開会
開会の辞         会長 津田誠次
 一般演題(●印紙上発表)
1.保存血球液の研究(5分)                 大村 泰男 他(東京都養育院外科)
2.●同型適合輸血に於ける溶血                     竹内 節行(熊本大勝屋外科)

第27回日本整形外科学会総会目次

ページ範囲:P.351 - P.356

第1日 5月8日(土) 会場 仙台市公会堂
 午前8時
 開会のことば    会長 飯野三郞
 一般演説
1.皮膚移植の組織化学的研究           弘前大学整形外科 諸富武文,陳庚,斎藤哲夫…1
  追加. 植皮術における遠隔成績                岩手医科大学整形外科 栃内巖,戸島俊治,井苅義憲,有明良雄… 1
2.Fermentの創傷治癒に及ぼす影響         鳥取大学整形外科 柏木大治,岡田克允…2
  追加. 創傷治癒に及ぼすパロチンの影響(実験的研究)        東京同和病院 謝国偉… 3

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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