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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科9巻6号

1954年06月発行

雑誌目次

綜説

特発脱疽の治療に対する検討

著者: 橋本義雄 ,   神谷喜作 ,   岡田斌

ページ範囲:P.359 - P.365

 特発脱疽についての研究は我が国に於ても古くより多くの学者によつて行われているが,これを大別すると,その罹患血管の組織学的研究,動脈造影法に関する研究,及び治療に関する研究等である.治療としては各種薬物療法,レントゲン照射等の外,動脈周囲交感神経切除術,閉塞動脈切除術,及び交感神経節切除術,末梢神経挫滅法,頸動脈毬剔出術等が報告されているが,最も多く行われ又比較的成績のよいのは交感神経節切除である.しかしこの方法も日常いろいろな状態の患者に施してみて,決して満足すべき成績はえられていないことを痛感しているのはひとり我々のみでないと思う.この交感神経節切除術の成績の不十分な場合があること或は日を経るにつれて効果のうすらぐことのあるのは手術的に交感神経線維を充分に遮断することが解剖学的に困難なこと1)及び交感神経線維の再生するためと云われている2).勿論交感神経遮断は末梢血管の拡張を予期する手術であるから,側副血行の健全なること,又末梢動脈の変性のないことがその効果の前提条件である.従つて試験的にノボカインで一時的遮断を試み,皮膚温度の上昇を検することが必ず必要なわけである.この様に脱疽に対する治療として,交感神経に対する薬物的,手術的侵襲はかなり深く研究されていると思う.しかし特発脱疽もその本態に関しては,依然不明の点が多く残されている.

脳嚢胞脳室間造瘻術

著者: 工藤達之 ,   泉周雄 ,   大竹眞一郞

ページ範囲:P.367 - P.370

 脳嚢胞又は嚢胞性脳腫瘍の手術に際して,その全剔除乃至部分的切除を行うことが困難であつたり,何等かの危険を伴う場合等には,これを脳室内に開放して両者の間に交通路を造設することは,既に中田によつて発表されており,良好な成績を収めていることが報告されている.我々はかかる症例に対して,単に脳室嚢胞間に瘻孔を作成することにとゞまらず,その瘻孔が将来再び遮断されて病状の再燃を招来するのを予防する意味を含めて,両者の間にビニール管による交通路を設けて内容の持続的排出をはかり,内圧上昇を阻止することを試みた.手術例は5例で,術後最も長いものは3年を経過しているが,一般に良好なる成績を収めることができたので,茲に報告する次第である.

九大整形外科教室に於けるVaridaseの使用経験について

著者: 山本眞 ,   八木正

ページ範囲:P.371 - P.375

 1933年Tillett及びGarner等は,溶血性連鎖状球菌の培養濾液中に,人血清中のオイグロブリンの有する線維素溶解物質を賦活せしめ,凝固人線維素を液化する酵素Streptokinase及びデスオキシリボ核酸蛋白を加水分解するStreptodornaseを発見し,Tillett,Sherry等が,この両酵素が血胸,血腫,膿胸等の線維性,化膿性の浸出液に溶解的に作用し,又各種の外科的感染症に対して局所的に有効である事を報告して以来,酵素の利用による新しい治療面が開かれてきたのであるが,私達は最近American-cyanamid会社Lederle研究所のVaridaseを試用し,使用例20に達したので一先ずその経験について御報告してみたいと思う.

術後疼痛に対するレスタミン使用の経験例について

著者: 安藤隆 ,   塚田喜衛 ,   西村五郞

ページ範囲:P.377 - P.383

 術後疼痛に関して最近この方面の関心が,とみに高まり,種々薬剤を用いての術後疼痛緩和に関する報告が発表されている.即ち従来から使用されているモルヒネ,パントポン等のアルカロイド剤及び種々の非アルカロイド鎮痛剤の皮注,更にアルコール点滴静注,塩酸プロカイン静脈内注入,ヌペルカインオレーフ油,ノボカインオレーフ油の局注,アロナール,アスピリン,ピラミドン,バルビタール,内服等である.Restamine〔コーワ〕は,抗ヒスタミン剤としてアレルギー性疾患に極めて見るべき効果を挙げているが,我々は本剤を特に術後疼痛除去に対して使用し,いさゝか見るべき結果を得たので報告する.

陽性石鹸Septolによる手指消毒法について

著者: 松田精一 ,   山口康夫 ,   古田英一

ページ範囲:P.385 - P.389

緒言
 従来優れた外科的手指消毒法としてFürbrin—gerが1887年提唱した所謂Fürbringer氏法又はその変法が広く用いられ無痛法の発達と共に近代外科の偉大な進歩の推進力となつた事は勿論言を俟たない.この方法は石鹸とブラッシに依る機械的洗滌を主とし,併せて化学的消毒を行うものであるが,手術準備としてはその実施に比較的長時間を要し,又各種消毒剤を用うる等かなり煩雑であり,時には皮膚炎その他の障碍を起す等の欠点を持つている.而してG.Domagkが1935年陽性石鹸Zephirolを発表して以来,欧米諸国に於ては幾多のこの種消毒剤が研究され,殊にアメリカでは陽性石鹸Benzalkonium chlorideを薬局法に採用し、外科的消毒の簡易化が唱えられ一般診療に応用せらるゝに至つている.ところが我が国に於ては依然としてFürbringer氏法の想念に捉われ,最近までその改良は遅々として進まない状況にあった.近年に至りオスバン,ミヨシ等が製造され,それらに依る新手指消毒法が漸く注目される様になつた.

症例

胎生軟骨骨化障碍の1症例

著者: 沢田フサ

ページ範囲:P.391 - P.393

 胎生軟骨骨化障碍は決して珍らしい症例ではないし従来の報告も多数あるが今回定型的と思われる1症例に遭遇し種々行つた検査の結果を茲に報告す.

右中頭蓋窩腫瘍を疑える癒着性蜘網膜炎の1治験例

著者: 斎藤滋

ページ範囲:P.394 - P.396

 私は最近陣内外科教室に於て,術前にその臨床症状よりして,右中頭蓋窩に於ける腫瘍を疑い,開頭術により右中頭蓋窩に於ける癒着性蜘綱膜炎である事が判明し,これを充分剥離除去することによつて,予想外の効果を得た興昧ある1例を経験したので,些か考察を加えて此処に報告する次第である.

興味ある膵臓嚢嚢腫の剔出治験例

著者: 赤沢喜三郞 ,   津田一彥

ページ範囲:P.396 - P.401

 膵臓嚢腫は病因的にも単純でなく,発育様式にも種々の型があり、診断上興味深いものである.その治療法も大部分の症例が仮性嚢腫であるため,その成因上癒着が強く剔出困難なため,姑息的に胃腸管等との吻合による内瘻法が行われている.従つて理想的手術法たる全剔出術を行い得た症例はBozeman(1882)が最初でその後の例数は極めて少い.吾々は最近膵臓嚢腫の診断のもとに約5ヵ月間に亘り局所所見並びにレ線像を観察して腫瘤の消長,位置の移動等を追求したが,手術により診断を確認し,幸い全剔出治癒せしめた1例を経験した.尚その剔出標本についても些か興昧ある特異な所見を認めたので少しく考按を加えて茲に報告する.

多発性腰椎横突起骨折の治験例

著者: 小川義夫 ,   渡辺高

ページ範囲:P.401 - P.402

 腰椎横突起は椎弓根部から側方に突出し而も強大な腰筋及び腰方形筋の起始部をなしているから単独骨折を起すことが稀でない.又屡々腰椎々体圧迫骨折,脱臼骨折に随伴して骨折するものである.この骨折は炭坑内に於ける落磐外傷として比較的多く観察せられ,成松氏によれば脊椎骨損傷中61.9%を占め第3横突起骨折が最も多いけれども2ヵ所以上のことも稀でないと云われる.吾々は最近多発性横突起骨折に肋骨骨折,腎損傷を併発した症例に遭遇し保存的療法により整復治療せしめたのでここに報告する.

所謂バンチ氏病

著者: 二宮和子

ページ範囲:P.403 - P.404

 従来バンチ氏病として報告された症例の多くが,パンチ氏病に特有としてバンチが強調した脾濾胞の線維化を欠いているし,臨床上脾腫,貧血及び肝硬変の病像を呈する疾患はバンチ氏病に限らない.而して,かかる症状を惹起する原因は単一でないので,これをバンチ氏症候群なる呼称が安当であると考える人が多くなつた.
 バンチ氏病脾に於ては,鏡検的に,間質特に脾淋巴濾胞及びその周囲に結締織の増殖を来し為に脾濾胞は遂に消失するに至る.次で脾髄も漸次,硝子様結締組織に変化し,脾髄細胞は萎縮して、脾臓は瀰蔓性に硬化し,所謂フイブロアデニーの像を呈するに至るが,バンチは脾組織の線維化のうちでも濾胞に起るこの変化を最も重視している.

診断困難なりし棘上筋腱断裂の1例

著者: 白髭壽男

ページ範囲:P.405 - P.406

 棘上筋腱断裂は所謂五十肩の一因をなすもので,他覚的所見が余りないので診断に困難を感じられるものである.私は外傷により肩関節の運動障碍を生じ,同時に肋骨骨折,肩胛骨骨折,神経麻痺症状を有していたために負傷後4カ月余を経て始めて本症なることに気附き手術により全治せしめ得た1例を経験したので報告する.

先天性腎臓水腫の1治験例

著者: 吉田堯運 ,   安田博志

ページ範囲:P.406 - P.409

 腎臓水腫は1841年Rayer1)により初めて命名された疾患にして,尿路の通過障碍にょつて腎盂に分泌液が鬱帯瀦溜して発生するものである.
 本症に関する研究報告は,欧米に於ては既に臨床的に或は実験的に多数発表されているが,本邦に於ては2才未満の幼児に発生した本症手術例は数例を数えるに過ぎない.

先天性膝蓋骨脱臼に関する1症例について

著者: 陳蔚芳

ページ範囲:P.409 - P.411

症例
患者: 西田某 12歳男
主訴: 歩行障碍及び智能発育不全
初診: 昭和28年5月25日
 家族歴: 父母共に健在にして特記すべき事柄は無い.兄弟なく又家族内に畸型を有する者もない.

学会記

第54回日本外科学会総会の感想

著者: 木本誠二

ページ範囲:P.414 - P.417

 第54回日本外科学会総会は5月2日から4日までの3目間,岡山市公会堂に於て開催された.本稿は所謂学会印象記ではなく,多数の演題の内容紹介でも批判でもない.特に私の関心を抱いた学会運営なり,問題を提供した2,3の演題についての感想を綴り,併せて今後のこれに対する私見を述べて見度いと思う.恩師福田保教授の後を受けて常任幹事の一翼を命ぜられたため,多少なりともその運営に関係を保つて行かなければならない立場上,大方め忌憚ない御批判を賜らば幸甚である.
 会長津田誠次教授並に教室の幹事各位には,毎年のことながら遠来の吾々会員一同のために非常な御骨折を頂き,殊に地方での開催は慣習上--この慣習の良否は別であるが--特に歓待の労を賜つたことは,厚く感謝の意を表しなければならないと思う.学会に物見遊山ではない,とはよく言われる言葉であるけれども,しかしその機会に始めての土地の観覧をも兼ね,本年の場合について言えば,白砂青松の瀬戸内海の風物を観賞し,又美味しい中国地方の酒肴をも満喫しつゝ,平素打解けて話合う機会のない会員先輩同僚相互の親善を兼ねて専門的話題に興ずることは,決して意義の少ないことではないと思われる.唯会場の関係から開催地の選定には大きな制約があつて,会員が極度に増加した今後はこうした地方での総会開催は例外と考えなければならなくなるであろうことは誠に残念である.

最近の外國外科

胆嚢切除後症候群,他

ページ範囲:P.418 - P.419

V. Trappoli,J.Cella"Annals of Surgery"Vol.137,1953.胆嚢切除術後の症候群の原因は
 1)胆嚢内に存在する水分吸收機能の欠損に依る輸胆管の膨脹,
 2)交感神経,副交感神経の異常刺戟に依り生ずるOddi氏括約筋の痙攣
 3)肝の腹側表面に生ずる十二指腸の癒着及び胆管の瘢痕性短縮
 4)輸胆管の障碍を受けた壁中の神経の纖維束包括等である.
 胆嚢切断々端に於て同様に切断された交感神経は増殖する纖維組織に平行して神経腫様小結節を形成し,傷痕組織の周りの神経幹は神経纖維を伸すか又は傷痕組織を括約するらしく,それが切除後の症候群の惹起に関係がある様に思われる.Mooreは肝動脈,胆嚢動脈に随伴する痛覚神経が存在する事を証明し,これが刺激されると上腹部の疼痛が現れ,迷走神経纖維の刺戟,消化障碍と嘔気,嘔吐を来す.此の症候群は多くの原因に依る事が明らかにされ神経腫予防のため神経幹を輸胆管の中間部から,又痛覚神経纖維を動脈から分離しなければならない事が叫ばれ,これ等の事が全症例に行われゝば胆嚢切除術後の症候群は減少するものと思われる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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