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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科9巻7号

1954年07月発行

雑誌目次

綜説

日本人胆石症の性別に就ての再検討—附 胆石生成に関するコルセツト説批判

著者: 槇哲夫 ,   安田正男 ,   熱梅德夫 ,   朝倉滋

ページ範囲:P.421 - P.425

まえおき
 従来欧米に於ては胆石症が女子に多く見られ,我が国では男女差が余り無いことが日本人胆石症の1特徴と云われて居た.今試みに内外手術例を表示すると表1の如くで,欧米では女子の発生頻度は男子の略々2〜5倍にあたるが,我が国では男女の差が殆んど見られない.むしろ男子が稍々多い場合もある.今まで我が国有数の胆石症統計に於て,三宅外科教室でも,塩田外科教室及び赤岩外科教室でも胆石症統計に無石胆嚢炎を含めてあるので観察に不便である.外国の胆嚢炎は主として有石胆嚢炎であるが,我が国では無石胆嚢炎が甚だ多いのでかゝる比較観察は不合理である.表1に於ける当教室例,武藤外科教室例及び秋田県立病院例は所謂無石胆嚢炎を除外した実数である.
 又剖検例を示した表2を見ると,欧米では女子が男子の2〜4倍を示しており,我が国でも女子が男子よりも全体として1.5〜2倍位優つて居る.剖検例の比率は男女各屍体数に対する有石例の百分率で示したもので,この方が頻度の点からは臨床例よりも信頼度がある.然し他方症状を有するものは手術をうけ無症状に経過した胆石が剖検で多く発見されると云うこともあり得る.何れにしても剖検例のみからは日本人胆石に男女差が無いとは断言し難い.然し臨床例をも加味して,一応この事実を日本人胆石症の1特徴と見做すことは諒解し得よう.ではこの事実は何に由来するであろうか.

膵切除

著者: 吉岡一

ページ範囲:P.427 - P.447

 昭和24年10月第482回東京外科集談会に於て本邦における最初の膵十二指腸切除成功例2例を報告して以来今日までに私が手術した例数は総計44例である.その内訳け及び直接死亡率は第1及び2表に掲載する通りでその対象となつたのは多くは胃癌の末期であつて種々の都合により殆んど症例の選択を行い得なかつた為でもあるが,これは決して満足す可き成績ではない.
 膵臓切除がかく困難なのは単に本臓器が解剖学的に複雑な場所にあるためばかりでなく,本臓器は生命維持に必須の内分泌臓器であり又強力な消化液を分泌する外分泌臓器でもあるからである.

胃下垂提挙手術(佐藤式)について

著者: 新間忠男

ページ範囲:P.449 - P.450

 元来胃下垂術式として種々の方法が行われているが最近医師間に胃下垂手術の効果の香しからぬという声も聞かれるで茲に各術式を再考案すると共に吾人が行つている術式の術後状況について患者にアンケートを発して見たのでその御紹介をする.
 扨て胃下垂の症状の主たるものは疼痛,羸瘻或は嘔気,嘔吐,便祕又は下痢等であるが,かゝる症状の依つて来る所は小彎及び幽門が極度に低位にある為の十二指腸上部に於ける屈曲によるとされている.しからば胃の幽門部を懸吊してその屈曲を是正すればそれらの症状が消滅する筈である.胃下垂各術式も等しくその方向に向つて術がなされるのであるがその方法には大なり小なりの差異があることが認められる.例えばロブシング氏法は現在殆ど行われていない様であるが胃前壁を前腹壁に広く固定する法で元来固定していない胃を腹壁に固定してしまう所に大いなる不自然さがある.ビーヤ氏胃肝靱帯皺襞形成法は懸吊が不確実の故に之も殆ど行われていない.最も多く用いられていると思われるペルテス氏法であるが肝円靱帯を利用するもので胃漿膜にトンネルを作りその中を靱帯を通じて噴門に近い部分より出し前腹壁にこの靱帯の先端を固定する方法である.又フォーゲル氏法はペルテス氏法に似ているが靱帯を胃前壁小彎近くに置きウィッチエル氏胃瘻造設の場合にゴム管を包裏する如くに漿膜,筋層に糸をかけて靱帯を包裏し先端をペルテス氏法の如く腹壁に固定するのである.

症例

興味ある経過をとつた甲状腺結核の1例

著者: 池田敏夫 ,   室谷光三 ,   奥茂信行

ページ範囲:P.451 - P.453

 甲状腺の結核はきわめて稀れな疾患で,本邦では大正11年伊藤氏の報告以来わずか17例が記載されているにすぎない.最近われわれは亜急性甲状腺炎の経過をたどり,甲状腺亜全剔除をおこない,右葉が非特異性甲状腺炎で,左葉が結核であつた1例を経験したので報告する.

胃細網肉腫の1手術例と本邦に於けるその統計

著者: 川島保之助 ,   坂井英一

ページ範囲:P.455 - P.457

緒言
 故戸田教授が昭和28年3月23日迄の在職2年数ヵ月間に行われた全摘を含む胃切除例は総数152例であり,その内悪性腫瘍は97例,即ち63.8%であり,肉腫は本報告例の胃細網肉腫の1例のみで他は総て胃癌である.この事は文献に見られるその癌と肉腫との比率に比し,やゝ低い.
 さて近時胃原発性肉腫は胃癌より手術予後の良好な点より注目され報告も多くされている.即ちCrile,Hazard(1952)は胃リンパ肉腫19例の報告と同時に,主として胃リンパ肉腫手術例の遠隔成績に関する諸家の報告を記載している(表1).然し一方胃細網肉腫に関する臨床的統計の報告は未だ余り見られない様である.これは症例数の少い為と思われる.即ち本邦でのその手術例の報告は吾々の検べた範囲では13例に過ぎない.

柿胃石の1治驗例

著者: 眞野春彥

ページ範囲:P.459 - P.460

 胃の通過障碍を主訴とする疾患には腫瘍,潰瘍による狭窄があり,その大部分は胃癌を以て占められて居るがこの他に稀に胃石に依るものがあり私は胃の膨満感を主訴とする高齢者胃石の1例を経験したので茲に報告する.

胃ノイリノームの1症例

著者: 宇野顯 ,   佐藤勝夫

ページ範囲:P.460 - P.461

症例
 48歳の生来健康な主婦,既往症には特に変つたことはない.約10年前から食事と無関係に心窩部重圧感を訴え,某医から異常なしといわれたので放置していた.約2年前から上腹部に小指頭大,可動性の腫瘤があるのに気付き,某医より網膜腫瘤との診断を受けた.来院2カ月前から腫瘤は増大し,鳩卵大となつたが格別の自覚症状はなかつた.
 診査所見: 体格中等度,栄養可良,糞便潜血反応中等度陽性,蛔虫卵(+),鉤虫卵(+),尿所見異常なし.赤血球344万,血色素64%(Sahli氏法),白血球5,000血沈1時間値8mm,胃液低酸性,肝機能ほゞ正常.

結腸左偏症(Sinistropositio des Dickdarms)患者の急性壊疽性虫垂炎の1治驗例

著者: 太田正義 ,   荒木啓

ページ範囲:P.463 - P.465

序言
 内臓転位による臨床報告として完全臓位転錯(Situs inversus viscerum totalis)及び不全臓位転錯(Situs inversus viscerum partialis)に関する文献はあるが,その一部と見做される腸管転位就中結腸左偏症(Sinistropesitio des Dickdarms)に関する臨床例はきわめて少い.我々は最近「所謂移動性長S字状結腸症の糞便鬱滞に依る腸閉塞症」と判断し,手術した患者に偶々総腸間膜症を有せず,結腸左偏症に急性壊疽性虫垂炎を併発した1症例を経験したので茲に報告する.

馬尾神経部内皮細胞腫の2症例

著者: 岩原寅猪 ,   森雅文

ページ範囲:P.467 - P.473

 脊髄外科の発達と共に脊髄腫瘍は既に稀なものではなくなつたが又さりとてあらゆる種類のものを経験しつくしたともいえない.最近吾が教室において脊髄腫瘍中稍々特異性を有する馬尾神経部内皮細胞腫の2例を経験したので報告する.

先天性肩胛骨高位症の1例

著者: 山本忠治 ,   堤正二

ページ範囲:P.473 - P.475

緒言
 先天性肩胛骨高位症は比較的稀な疾患で,欧米ではEnlenburg(1862),Sprengel(1891),我国では田代氏(1908),宮内氏(1909)を始めとして今日迄に種々の報告がされているが,私も最近其の1例を経験したので報告する.

右前腸骨上棘推裂骨折の1例

著者: 草野博

ページ範囲:P.475 - P.477

 今日スポーツの普及と共にスポーツ外傷も次第に増加の傾向にある.スポーツ外傷の中で,前腸骨棘の摧裂骨折は比較的少い骨折である.私の経験した此の症例は骨端線(Apophyse)の融合並に骨端核(Apophysenkern)の発育にも関係があると思考されるので,敢て報告して諸家の御批判を仰ぎ度く思う次第である.

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集談会

ページ範囲:P.478 - P.480

第68回北陸外科集談会 28.12.13
 1)久留外科教室に於けるイレウスの統計的観察(特に機械的イレウスに就て)
           金大久留外科 布村寛治
 久留外科教室に於て,1941年より1953年に至る間に得られた111例の機械的イレウスの症例を統計し,次の結論を得た。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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