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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科9巻9号

1954年09月発行

雑誌目次

特集 慢性胃炎と胃潰瘍

慢性胃炎と胃潰瘍

著者: 福田保

ページ範囲:P.547 - P.548

 慢性胃炎と胃潰瘍とは共に,内科的療法では難治の胃疾患とされているし,また前癌状態として注目されて来た.本年の日本外科学会では,これらが共同研究課題として採りあげられ,いくつかの業績となつて報告されるに至つた.
 胃潰瘍については,昔から極めて多数の研究もあり,臨床例についての検討も種々なされたが,尚不明のところも少くない.成因に関する問題でも,多数のかかり合いがあつて簡単に説明が出来ないが,その外科的療法については,広範囲切除と言う点で,大体は満足すべき効果を得ていることは,一般に認められるようになつた.然しその切除範囲の問題や,切除療法の理論づけなどに関しては,今尚お尽されていないところがある.

所謂原発性慢性胃炎の病理組織像と病型分類

著者: 島田信勝 ,   佐藤雄次郞

ページ範囲:P.549 - P.553

 従来原発性慢性胃炎は,主として内科的疾患として取扱われて来た.外科方面に於ては,既往症,レ線所見,臨床症状等から,胃の器質的疾患即ち潰瘍,幽門狭窄等の診断を受け,開腹術の施行によつても何等の変化を認め難く,所謂「潰瘍なき潰瘍症」と呼ばれて来た一群の疾患がある.これ等の疾患群が.潰瘍,癌等に随伴しない,原発性の慢性胃炎であることは,今日周知の事実であつて,而も部分的胃切除術により,根治又は軽快せしめ得るものがあることも事実である.著者等は慢性胃炎の切除胃110例を検索した成績から,本疾患に就いて表題のような考察を試みたいと思う.

潰瘍外科に於ける幽門前庭部機能

著者: 中谷隼男

ページ範囲:P.555 - P.564

緒言
 胃・十二指腸潰瘍症の原因,成因に就ての議論程旧くて又新らしいものはあるまい.而も疾患は極めて多く消化器病を対象とする医家の興味の中心をなすものである.成因に関しては直接には酸の分泌機序が最も重要な関係があることは言を要しないが,実際にはもつと広い立場から検討す可き問題であろう.殊に近代生活に於ける精神的の緊張或は過労等は無視することは出来ない.更にまた副腎或は脳下垂体等の内分泌系の異常な作用が潰瘍生成に重要な関係があることも推定しうる.即ち常に広い視野に立つて其の機序を考察することを忘れられてはならない.
 考察の視野を更に絞つていくと分泌神経の異常興奮性とか,胃の各部機能等が問題となることになる.

胃潰瘍の成因におけるStressおよび副腎の関與にかんする実験的研究

著者: 石原惠三 ,   正田健三 ,   佐藤普 ,   狩野好一郞

ページ範囲:P.565 - P.572

 いわゆる消化性潰瘍を消化管の局部的疾患とみるVirchowその他にたいし,中枢神経にその成因を求める神経説はRokitansky,v.Bergmann,Cushingその他により発展して近時ますますその論拠を強化しつつある.いつぽう中枢神経系と内分泌系,他ほう内分泌系と消化器との密接な関連性を示す実験的,臨床的観察は累積している.潰瘍の成因をなすとみられるImpulsが中枢神経から胃に伝達する経路には迷走神経があり,このほかに下垂体副腎皮質系を介して内分泌性機序のあることがGray他(1951)によつて示唆される.我々は,この内分泌性機序,これと迷走神経との関係,さらに潰瘍の発生機序における胃液か血管障碍かの根本問題にふれる実験成績について本年五月岡山市で開かれた日本外科学会総会において発表したので,その後の研究成績を加えて,紙面の都合上,その大要を報告する.

慢性胃炎の外科的治療

著者: 浜口栄祐 ,   長洲光太郞

ページ範囲:P.573 - P.579

 激しい胃痛,嘔気,食思不振,体重減少等の為に日常生活に耐えない様な症例で,胃十二指腸潰瘍とか,胆嚢症とかの疑診の下に開腹して,予期した病変がなく,所謂慢性胃炎に属するものがある事は周知の通りであるが,我々はこの様な症例が外科的治療の対象としてどんな位置にあるだろうか,という点に興味をもつて,数年来注目して来た.後に述べる如く慢性胃炎は従来内科的治療の対象であつて,之に胃切除を加えるのは誤であるという様な意見が多い.胃炎の有力な提唱者たるKonjetzny1)自身も,胃炎そのものは切除すべきでないとの意見である.しからば開腹して潰瘍等の予期した病変がない場合に,外科医として之をどうとりあつかうべきかという事は問題であつて,従来の考え方からすれば,試験開腹に終るべきものであろう.
 最近慢性胃炎の問題がとりあげられて来たが,それは主に,前癌状態としての慢性胃炎という問題に論議が集中している様であるが,この点については,まだ充分な証明に乏しいので,この観点から本症を外科的にとりあつかおうとする意見は,未だ広く認められるに至つていないし,今後なお多くの研究が必要である.

慢性胃炎の癌化

著者: 高瀨武平

ページ範囲:P.581 - P.592

 1.緒言 所謂慢性胃炎が医家に注目されるようになつてから,既に久しくなるが,その意義に関しては種々議論が分れ,ある時期には慢性胃炎なる病名が治療界から放逐されようとした事さえあつた.最近胃外科の進歩と共に所謂慢性胃炎が外科家の注目を惹くに至り,ある種のものは手術的治療の対象ともなり得るに至つた。我々が対象とした慢性胃炎は原発性胃炎が主であり,本稿では所謂続発性胃炎については慢性原発性胃炎との関聨に於いてのみ言及し,なお発生原因に関しては深く触れない事とする.

胃潰瘍癌について

著者: 間島進 ,   鞍掛誠秀 ,   星信男 ,   薄葉忠久 ,   佐藤純也 ,   石川六郞

ページ範囲:P.593 - P.600

 胃潰瘍癌に就いては既に多数の研究発表があるが,我々も武藤外科教室に於いて胃切除標本を病理組織学的に検索し,潰瘍癌に就いて今迄に数回にわたり発表1,2.3)して来た.本年5月の岡山の日本外科学会総会に於いては胃潰瘍の外科が共同研究として採択されたので,我々は其の後の症例を含め総計86例に就いての検索より潰瘍癌の発生並びに発育機序及び術後予後との関係に就いて述べた.しかし総会に於いては時間に制限もあり,我々の見解を充分述べ尽せない恨もあつた.今回本誌より潰瘍癌に就いて記述する様依頼を受け,総会での発表を骨子として,その際の足らざる所を補足し得る機会を得たことを喜び,以下記述する次第である.

慢性胃炎の胃切除適應についての臨床的検討

著者: 稗田富士雄

ページ範囲:P.601 - P.609

緒言
 昭和14年の日本外科学会に於いて友田教授は「胃炎の症状は潰瘍のそれと全く同様であつて内科的に難治のもの,出血を伴うもの,炎症性幽門肥厚により狭窄症状を呈するものは,相対的外科手術適応症である」と提唱し,またこれに前後して吉沢,瘳浜氏等は胃炎の胃切除治験例を報告して居るが,此れらはいずれも潰瘍症と同様の症状を呈して居り潰瘍と診断して手術を行い,之によつて始めて慢性胃炎たることが判つたものである.然しそれらの経験に基きUlcusbereitrehaft,Ulcuskrankheit ohne Ulcus,Antrumgastritis等と称されて居る慢性胃炎であつても,内科的療法で難治の場合は外科的手術療法の適応となし得ると唱えられるに至つた.
 また一方慢性胃炎から癌が発生するという考えは古くBuchner,Konjetzny氏以来論ぜられ来つたが.現在では慢性胃炎を母地とする胃癌の存在は承認されて居り,ポリープ,潰瘍と共に慢性胃炎は癌性化の可能性大なるものとして重視されるに至つた.

胃運動曲線と胃切除術

著者: 菊池一男

ページ範囲:P.611 - P.619

緒言
 胃内圧描写法による胃運動曲線の研究は欧米に於いては古くよりBoldyreff,Cannon,Carlson,Rogers,Weitz-Vollers,Iwanow,Danielopalu,等により行われているも之を臨床に応用したのは1925年,小野寺,鐘ヶ江をもつて嚆矢とする.その後,松藤,沢田,中村,岡本,吐師,田北,門松,蓼,淹本,三浦—海保,平田—大林,松原,清川朝比奈,藤田等,多数の人々が研究或いは追試し,或る者は病的胃の診断に全面的に価値ありとし,又或る者は診断的価値少しとするも,現今に於いては臨床診断の補助的役割としてその価値を認められるに至つている.而して従来切除胃の運動曲線の問題に関しては比較的研究少く,本邦文献には鐘ヶ江,平田—大林,田北,赤羽,朝比奈,萩原,松井,海外ではElansky,Kirschner-Man—gold等少数の人々の報告があるにすぎない.私は正常胃並びに病的胃における胃切除前後の胃曲線につきいささか経験を得たのでここにその結果を発表する次第である.

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本邦膵頭十二指腸切除170症例の集計的観察

著者: 鈴木礼三郞 ,   西村貞一 ,   和賀井敬吉 ,   竹村進 ,   島貫常雄 ,   中村好和 ,   高橋洋三 ,   斎藤雎鳩 ,   原和久

ページ範囲:P.621 - P.628

 さきの第五四回日本外科学会総会に於いて,私達の発表した宿題報告「膵切除」に発言された桂教授は,「本邦に於ける悪性腫瘍に対する膵臓外科の研究はようやくその緒についた所であり,数年後に再び本問題がとりあげられ,残された幾つかの問題に解答を与えるべきであるとし,更に本手術は細心の注意と長時間を要する複雑な手術々式で若い学徒の取り組むに不足のない分野であることを強調された.基礎的研究の発展は勿論であるが,臨床的研究殊に手術成績の向上こそ我々外科医に課された問題である.この問題に関し,吉岡本庄,大野,鈴木二の輝かしい発表があり,我々も膵頭十二指腸切除に関する教室の業績をのべたが,更に本邦の膵臓外科,殊に最も重要な膵頭十二指腸切除の現況がどうであるかを知ることは興味がある.幸に本年二月末現在,全国約500の大病院,教室の御協力を戴き170症例について集計的観察を行つた.なお多少の連絡もれはあるかも知れないが大略は知り得るものと考える.
 本集計に資料を提出して下さつた方には47名であるが,このうち比較的多数例を御持の方々は8名であるが,本邦に於いては本手術の歴史の浅いため数百例もの多数症例の経験者は居ない.(表1,2)

膵癌の統計的観察

著者: 井沢東洋志 ,   川原啓美

ページ範囲:P.629 - P.633

1.緒言
 膵疾患は近年内外の関心を集めるに至り,膵癌は特にその中でも主要な位置を占めている.その診断と手術方法の開拓は今後に課せられた頗る興味ある問題である,私達は本教室に於いて,昭和4年1月より昭和28年6月までの25年間に集め得た21例の原発性膵癌について統計的観察を試み,いささか知見を得たのでここに報告する次第である.嘗ては手術を躊躇されていた膵切除が積極的に敢行され,目覚しい進展をとげつつある秋に当り,この報告が多少でも貢献するところがあれば幸甚である.

横隔膜ヘルニヤに合併せる噴門癌並に胃潰瘍の2例

著者: 大原到 ,   高橋洋三 ,   金子保彥 ,   永野陸夫

ページ範囲:P.635 - P.639

1.緒言
 横隔膜ヘルニヤの報告は近来頓に増へ1)−4),診断,手術手技,合併症に関する知見を増したが,本邦に於いては胃癌並びに胃潰瘍との合併症は稀であり,以下二症例を経験したので報告する.

気管支瘻を合併した横隔膜下膿瘍の1手術治驗例

著者: 吉村敬三 ,   山口不二夫 ,   角田昭夫

ページ範囲:P.640 - P.643

緒言
 腹部手術後に併発する横隔膜下膿瘍の発生はわれわれの屡々遭遇するところであるが,これが気管支と交通し瘻孔を形成することは比較的稀なことで,諸外国例はともかく本邦は1例の報告をみるにすぎない.最近われわれはたまたまこのような症例に遭遇ししかもこれを積極的に開胸手術によつて治療させたのでここに御報告し,諸賢の御批判を抑ぎたいと思う.

副腎皮質機能亢進によるCushing氏症候群の2例

著者: 手島甲子郞 ,   斎藤睢鳩

ページ範囲:P.644 - P.649

 1932年H.Cushing1)は成年婦人に多く,脂肪過多,満月状顔貌,伸展性皮膚線条,多血症,過血糖,多毛症,骨鬆粗,指チアノーゼ等の症候群をCushing氏病と名付けその脳下垂体前葉に腺腫を認めて本病の原因としたが,副腎皮質ホルホンの研究が進むにつれCushing氏症候群もその分泌過剰の一つとして論ぜられるようになつた.
 我々は桂外科教室に於いて前記諸症状を呈せる2例に副腎摘出術を施行し,病理組織学的に著しい副腎皮質機能亢進像を見,手術の結果両例著明な症状の改善を示した.此等の手術前後の臨床検査成績を検討し,Cushing氏症候群に対する副腎摘出の効果及び同症候群と副腎皮質機能の関係を解明する一助としたい.

大動脈弁膜症患者に発生した右上腕動脈血栓症の1例—血管壁の変化を中心に

著者: 伊藤靖昌 ,   岡田斌 ,   住吉恒夫 ,   松尾栄一

ページ範囲:P.651 - P.652

 我々は,非代償性連合心臓弁膜症で,本学内科に入院加療中,突然,右橈骨動脈々搏が消失し,動脈撮影にて右上腕動脈の閉塞を認め,死後剖検にて動脈血栓症であることが判明,血栓部の性状を組織学的に検索し得た1例を経験したので報告する.

Gerstmann症候群を呈した脳腫瘍の1例

著者: 倉田和雄 ,   高村博臣 ,   中川活治

ページ範囲:P.653 - P.655

緒言
 頭頂後頭葉障碍に際して,左右障碍,手指失認症及び構成失行症の3大徴候を呈するものを,ゲルストマン症候群と称しており,既にこれに関する種々の研究発表及び諸種頭蓋内疾患並に頭部外傷に際してゲルストマン症候群を呈した症例報告が為されているが,われわれも最近両側頭頂後頭葉に及ぶ脳膜腫の患者に於て,定型的のゲルストマン症候群を呈した1例を経験したので,茲に報告する次第である.

我が教室での骨盤切除の2例について

著者: 福江正善

ページ範囲:P.657 - P.660

緒言
 骨盤切除術は臨床上行われることは甚だ稀で,1891年Billrothの第1例以来Ariel(1949)に依れば158例に過ぎない.
 本邦に於ても甚だ稀で誌上に発表された症例は僅かに10例前後に止まるものである.この様に手術例数の少いことは術後ショック死を遂げたり或は手術の適応はあるにしても本手術が残酷な手術の様に見えるので,患者の手術決心を制していた為と思われる.又従来はこのショックに対する対策の不充分であつたり術前後の適切な処置を欠いだ為に予後が悪く従つてこの手術を行つても誌上に発表せられていない例も多少はあるものと思われる.最近の化学療法の進歩及び麻酔学の研究に伴つて術後のショックに対する研究も進み,この手術治験例も今後は増加するものと思われる.教室に於ては昭和19年左鼡蹊部扁平上皮癌の為に本手術を施行して治癒せしめた1例があり,又最近右臀部粘液肉腫に対し骨盤切除を行つた例があるので,茲に併せて両例を報告し諸賢の御批判を仰ぐ次第である.

神経性進行性筋萎縮症の筋電図所見及びその治療について

著者: 田中淸一

ページ範囲:P.661 - P.664

 進行性筋萎縮を起す疾患は多種類あつて整形外科を訪れる患者も相当数に上つている.その中に脳脊髄運動神経支配障碍に因するものと,自律神経支配障碍に因するものとがある.前者の疾患に含まれるものに筋萎縮性側索硬化症,脊髄性進行性筋萎縮症,神経性進行性筋萎縮症等があるが後の二者は殊に混同し易い.私は神経性進行性筋萎縮症の典型的を経験したので本症の診断治療の方面に於て吟味を加えて見たいと思う.この疾患はCharcot-Marieにより1886年に初めて発表され,その後続々と同一疾患の追加報告がなされている.この疾患では好んで腓骨神経領域を侵すので筋萎縮症腓骨神経型(Peroneal-Type)とも言われている.又両下肢末端に対称的に筋麻痺を初発し,躯幹筋は侵されず,四肢近位端を侵さず,下腿の特異の変形を来すため"fat-bottle"、"cham—pagne bottle","Storchenbeine"等と形容されている.これ等筋萎縮症の結果として筋平衡が破れ鷲足,内反足,尖足等の足変形を来す.更に進行すれば上肢末梢が侵され,鷲手"clawhand","monskey fist"等と形容される変形を生ずる.予後は経済的及び教育的条件で不具の程度が異り,自然治癒は考えられず,中には球麻痺にて死亡するものありとの報告もある.

重症破傷風の1治験例

著者: 奥富厚

ページ範囲:P.665 - P.667

 免疫学的並びに化学的療法の著しく進歩せる今日でも,破傷風に対する療法は尚お充分の域に達せず,相変らず相当の死亡率を算している状態である.殊に受傷時創の手当が不充分で且つ潜伏期が比較的短かく,例えば10日以内に症状が開始する様なものゝ予後は,たとえその療法が万全でも予後は依然として不良の場合が甚だ多い.
 余等は最近重症破傷風に対し,抗毒素血清,ペニシリンの大量注射を施し,鎮静剤としてマグネゾールを併用して,比較的短時日に全快せしめ得た1例を経験したので,その症例を報告し,聊か考察を試みたいと思う.

非特殊性腸壁膿瘍による成人回盲部腸重積症の1例

著者: 川內正充

ページ範囲:P.668 - P.670

 回盲部腸重積症は乳幼児には日常屡々遭遇する疾患であるが,成人にみることはかなり稀である.一般に成人腸重積症は腸壁に発生した腫瘤に原因することが少くない.しかし上行結腸壁に発生した非特殊性膿瘍が回盲部腸重積症の原因となつたものは文献上極めて稀である.私は最近このような1症例を経験したのでこれに就て報告し,併せてその成立機序にふれたい.

興味あるメッケル氏憩室炎の経驗

著者: 後藤悅三

ページ範囲:P.671 - P.672

緒言
 メ氏憩室は廻盲弁から口側へ約30〜100cmの部に見られる先天性崎形で,1800年メ氏は,この成因に就いて,卵黄腸管の腸管側に於ける部分的遺残であると述べている.
 この憩室は割検時,又は開腹時,偶然に発見せられる事が多く,レ線検査によつても,小さいものは憩室の発見が困難で,この臨床的症状を現わす場合も術前には,その診断は困難である.即ち憩室が炎症,壊死,潰瘍等を起している場合,臨床症状も虫垂炎に酷似し,且これが穿孔して腹膜炎を併発した場合,術前に確実な診断を下すことは困難である.

後恥骨前立腺摘出後の経驗

著者: 山本幹一

ページ範囲:P.673 - P.674

 前立腺肥大症の手術に対しては私はそれが尿道を囲繞している関係上今まで行う勇気がなかつた.今までも年に2〜3回は老人の尿閉を訴えて来る者には單にカテーテル挿入で終つていた.
 最近「手術」等にて盛んに後恥骨法が宣傳されるに及び本法を是非試みたいと念願していた所他医により金属カテーテルで尿道を損傷されて当院を訪れた患者があつて,その機会を得て全治させることが出来たので,その経驗を述べてみたいと思う.その前に40歳男の前立腺膿瘍を会陰式で切開した際視野及び操作面の非常に挾隘なのに驚いた.しかしこの後恥骨法によれば案外に充分な視野を得て,予め注意して行えば一般外科医にも可能な手術である事を御紹介したいと思う.

髀臼底結核の1手術所見

著者: 山德雅美

ページ範囲:P.675 - P.676

 Vacchelliは1933年に股関節結核の416例を集めその中で30例が髄臼の結核であつたと云つている.從つてVacchelliの症例では,髀臼結核は7%を占めている理であるが,吾が教室の有泉は髀臼結核のみを61例集めて,その原発巣と骨破壌の進行方向との関係を述べている.氏によると髀臼蓋の結核37例に対し,髀臼底結核は24例であつた所から,髀臼結核は腸骨に多発するものであると云つている.何れにしても髀臼底結核は從来考えられていた程珍らしいものではないと思われるが,報告の大部分はレ線所見によつたもので,手術所見或いは剖檢例によつたものは,甚だ少ないものである.尤もFranz Königの時代は別として,治療が保存的療法に主眼が置かれる様になつてから,吾々が手術により実際に之を見る機会は甚だ稀になつていた.しかし最近化学療法の発達に伴い,観血的手術が多くなつて,再びこれらを手術的にみる機会が,次第に多くなつているが,私も最近髀臼底の結核を始めて見ましたので,此処に報告する次第であります.

胃癌手術時に発見せる総輸胆管結石蛔虫屍併存の1例

著者: 関谷俊夫 ,   山本直

ページ範囲:P.677 - P.679

 戦後我が国に於ける蛔虫寄生率は激増し,外科的蛔虫症として多数の興味ある報告を見ている事は周知の所である.胆石症に於ても我が国のは,外国のそれに比べて色々の特徴が挙げられているが,蛔虫及び蛔虫卵によるものが比較的多い点もその1つである.我々は胃癌患者手術時に偶然発見せる総輸胆管結石及び蛔虫屍の併存の経験を得たので,諸賢の参考に供する次第である.

結晶トリプシン製剤「トリブシリン」の使用経驗

著者: 星川信 ,   渡辺邦彥 ,   長谷川明男

ページ範囲:P.680 - P.682

 癒着防止ことに腹腔内癒着防止の問題は古くして新しいものである.従来報告された腹腔内癒着防生剤の主なものは,ペプシン,トリプシン,パパイン,羊水,ヘパリン,尿素液,ヴァリダーゼ,コーチゾン,ACTH,ヒアロウロニダーゼ,油製ペニシリン,ナイトロミンなど枚挙にいとまがない.
 われわれは牛膵臓より抽出した結晶トリプシン製剤「トリプシリン」の提供を受け,これについて2,3の実験的臨床的な知見を得たので,こゝに報告する.

蛔虫による廻盲部慢性肥厚性腸炎の1例

著者: 佐藤順

ページ範囲:P.684 - P.686

 人体寄生虫による疾患は多種多様であるが,肥厚性腸炎をおこすことは少いようである.私は盲腸周囲膿瘍の診断で開腹術を行つたが,盲腸壁に潰瘍があり癌腫の疑が生じたため該部の切除を行つた所,蛔虫性慢性腸炎と思われる1例を経験したので報告する.

Schloffer氏腫瘍について

著者: 上田和夫

ページ範囲:P.687 - P.690

緒言
 1899年Schnitzler1),1901年Braun2)は夫々ヘルニアの手術の後に大網に発生した炎症性新生物に就て記載しているが,その後1908年にSchlo—ffer3)はヘルニアの手術後に腹壁に発生した炎症性腫瘍を経験し,之れを詳細に検討した結果,斯る腫瘍は創内に残存した結紮糸等の異物に原因すると主張して以来,斯る腫瘍を一名Schloffer氏腫瘍と称えられる様になつている.
 その後Myerson4),Heymann5)等は虫垂炎その他の開腹術後に生じた腹壁腫瘍について報告し,更にHain6),Mandel7)等は開腹術及びヘルニア手術後に生じた該腫瘍に関する業績を相次いで公けにした.我が国では昭和9年武藤8),又その後山川9)松本10)等の経験例の報告がある.

結核性甲状腺腫の1治驗例

著者: 丸山純一

ページ範囲:P.691 - P.692

 我が国に於て現在迄に報告されている結核性甲状腺腫は僅か16例に過ぎない.その多くは他に明かな結核性病変をもたないで,悪性甲状腺腫或は実質性甲状腺腫の臓床診断で手術されたのが殆んどである.即ち一般に術前には他の甲状腺腫との臨床鑑別が極めて困難である.最近我々も術後の病理組織学的検査により始めて結核性甲状腺腫と分つた1例を経験したので報告する.

神経線維腫症(Recklinghausen)に伴う出血性悪性神経鞘腫の1例

著者: 伊藤庸二 ,   森祐一

ページ範囲:P.693 - P.697

 最近我々はRecklinghausen氏神経線維腫症(以下R病と略記)の悪性化例を経験し,本邦文献からも同様症例13例を集めることが出来た.

左鼠蹊睾丸廻轉症と大網を内容とせる左外鼠蹊嵌頓ヘルニヤの合併症例

著者: 宮川忠弘 ,   佐藤権內

ページ範囲:P.698 - P.700

 1840年Delasiauveによつて一疾患として初めて報告せられた精系捻転症は近時,其報告頓に多きを加え,今日では敢て稀しくはない.本邦に於ては西川氏,西山氏,鈴木,井元氏等,清水氏の詳細を極めた報告がある.本症は停留睾丸に起ることが多く文献上精系捻転症の50〜60%に認められて居る.私達は最近偶,左鼡蹊睾丸廻転症と大綱を内容とした左外鼡践嵌頓ヘルニヤとの合併せる1例を経験したので茲に報告する.

集談会

ページ範囲:P.704 - P.705

京都外科集談会5月例会 28.5.28
1.十二指腸穿孔による横隔膜下膿瘍の1治験例
             外2 横山 敏
2.わが教室におけるキュンチャー氏髄内固定法の  経験      整 桐田良人・他

最近の外國外科

脊麻時髄液中ポントカイン濃度とエピネフリン添加による麻痺効果の延長,他

著者:

ページ範囲:P.701 - P.703

(Anesthesiology, 15, 1-10, 1954)
 従来脊麻効果の持続時間は髄液腔内注入麻痺液が最小有効濃度にいたる迄の時間であり,血管収縮剤添加による麻痺の延長は麻痺液の一般血行路への吸収即ち分解を遅延せしめることによるとされている.
 著者等は1%塩酸ポントカイン(16mg)を10%ブドウ糖2.4ccに溶解した一群とポントカイン(14mg)をブドウ糖2.1ccに溶解,更に0.1%エピネフリン0.5ccを添加した他群に就き脊麻を行い,別に挿入したTuohy氏カテーテルより適時髄液を採取し比色的に髄液中ポントカイン濃度を定量した.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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