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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科10巻13号

1956年12月発行

雑誌目次

特集 産婦人科及びその境界領域の循環器系疾患

心血管機能検査法

著者: 木村栄一 ,   鈴木佑一

ページ範囲:P.857 - P.864

心・血管系の異常によつてあらわれる徴候をまず表示してみると,心臓の拡大・心音の異常・脈搏不整各種血液動態の異常・心筋傷害心電図呼吸系障害・鬱血症状・末梢血管障害などで,循環機能の良否の判定はこれらに関する所見を総合してなされる。
 これら各項目の検査には,視診・触診・打診・聴診などの古く,かつ簡潔な方法が依然として大きな役割を演じていることはいうまでもないが,一方新しい検査方法・測定装置の導入により,循環機能検査法は最近において著しい変貌を示すに至つた。心臓搏動や血液循環のごとき周期性現象の分析を行うには,その自動的測定記録がぜひとも必要であるが,最近の電子工学の飛躍的な発達はそれを正確かつ簡便にしたのである。

心臓のレントゲン像

著者: 美甘義夫 ,   伊藤巖

ページ範囲:P.865 - P.874

 妊娠が心臓に対して大きな影響を及ぼすことは周知であり,殊に心臓病患者については患者が妊娠してもよいか否か,あるいは既に開始した妊娠を中絶すべきか否か,更に妊娠を続けるに当つてはいかなる注意を払うべきか等について極めて重要な問題がある。これらの問題の解決に当つては,純医学的判断のみならず患者の家庭状況,社会的地位,経済的条件等をも考慮に入れねばならぬことが多く,種々の困難が附随するが,医師の取扱いの適否が母児の予後に大きな差異を生ずることを思えば,内科医も産婦人科医もかかる領域について豊富な知識と経験を有することが望まれる。勿論この場合最も重要なのは,まず心臓の状態を正確に診断し把握するということである。心臓の状態を診断するためにはそのレ線像は欠くことのできない要素であり,レ線像のみによつて医師の判断が大きく左右されることも稀でない。以下正常心臓ならびに病的心臓のレ線像について概説すると共に,妊娠時における変化を中心として参考になると思われる事柄を少しく述べて見よう。

心電図の解説

著者: 樫田良精 ,   加藤和三

ページ範囲:P.875 - P.886

1.まえがき
 今日心電図は臨床上不可欠な検査法の1つである。従来心電図はその撮影並びに判読の上に稍煩雑な嫌いがあり,とかく取りつきにくい,難解なものと考えられて来た。然るに最近交流電源式,直記式心電計の発達により,その取扱いが極めて簡便になると共に,心電図に関する知識も広く普及し,広く用いられるようになつたことは喜ばしいことである。産科,婦人科領域に於いても手術,分娩等に関連して,心電図その他の心臓血管機能検査を要することが多く,我々もしばしばその検査を依頼される。心電図は心機能検査の1つであつて,これのみですべてを判断することは勿論不可能であり,理学的所見,X線像,血圧その他の検査所見,既往歴等を併せ考えてこそ,心臓の状態を知り得るものであることを忘れてはならない。往々心電図のみにて事足れりとする傾きがないとはいえないことは注意すべきであろう。何れにしても複雑な心電図理論はさておき,心電図の基本的な実際を知ることは今日の産婦人科医にとつて望ましいことは明らかである。そこで以下本稿では心電図判読に必要な知識の概略を述べる。但し尨大な心電図学の大要を限られた僅かな紙数に述べることはもとより困難で,記述も不充分であるが,判り難い所は成書を参照していただくこととして御寛恕を乞いたい。

新生児の心電図について

著者: 小川玄一 ,   小國親久

ページ範囲:P.887 - P.892

まえがき
 最近の医学の進歩にともない胎児新生児の生理病理に関する多くの疑義は,漸次明確化されてきているように思われる。しかしながら,まだその全貌を掴みうる時期にはいたらず,近時本邦乳幼児の死亡率が減少し,人工妊娠中絶以外の死産も少なくなつたとはいいながら,わが国における年齢別の死亡率をみれば,0〜1歳において圧倒的に多い現況である。しかも,さらにこの時期を細別すると生後10日前後までに死亡する児が最も多いことは,諸家の報告のごとくである。
 さて,ここでわれわれ産科医がいわゆる新生児として親しく接するものは,分娩直後から2週間前後のものが最も多く,この時期は胎内生活から胎外生活に対応すべく器質的にも,機能的にも種々の面で著明な変化を示す非常に不安定な移行期に当つている訳である。換言すれば,生後10日頃までには分娩によつて受ける児の直後変化も大体終了し,ヒトとしての本然の姿をもつて医学的にも人生への第1歩をふみだすというような重要な時期である筈である。しかしながら,従来本邦においては,この時期が産科と小児科との境界領域ともなるため,とかく等閑に附され勝ちであつたことは,われわれ産科医としても,今後充分考慮しなければならなかろうと痛感するものである。

胎児心音に就いて

著者: 安井志郎

ページ範囲:P.893 - P.900

I.緒言
 胎児心音はPh. Legoust (1650)により聞かれた記録があり,外科医Mayer (1818)が聴診しているが臨床的意義は認めなかつた。Lejumeande. K.(1822)により始めて臨床的に応用される様になつた。以来,妊娠・分娩に於ける胎児心音聴取の意義は次第に認められ,幾多の研究が胎児の健否を知る最大の徴候である胎児心音解明のために行われた。
 然し聴覚のみに依存する音の研究はその不完全さを免れず,殊に記録・描写の困難であつた胎児心音はその根本である正常胎児(新生児も)心音の基礎的研究もされていない状態であつた。

手術前の循環器機能の検査と処置

著者: 藤本淳

ページ範囲:P.901 - P.908

 医師が手術を行う目的は生体の異常状態を除去するにあることは云う迄もないが,たとえ手術の目的を達したとしても健康を障碍したり,又は生命を危くしたり,或いは予後の安全のみを考えてその目的を達しないことも医師として反省を要することである。従つて手術の目標は手術目的の完遂と予後の安全の点におかなければならない。こゝに於いて適応という問題が起つてくるのである。
 手術適応については病的状態の判定,手術の技術的問題,及び予後に関して考慮を払う必要がある。病的状態の判定とは疾病が是非とも手術を必要とするか,又は手術を最良の治療法とする症例であることを決定することである。手術の技術的問題については術者の技能及び手術操作可能か否か,即ち悪性腫瘍に於けるoperableかinoperableかという如き問題である。最後の予後に関することであるが,現在は主として経験上より結果のみが成書に述べられている。勿論神ならぬ身の医師が患者の状態のすべてを明白にし得ないとしても,予後を考察するには十分の検査と正しい判断の下に行わねばならぬ。徒らに患者の状態を危惧するの余り,手術適応者に手術を行わぬ事があつたり,術中の変動に際して手術を中止することがあつてはならぬ。著者はこの問題について循環器系疾患を中心として述べる責を引受けたのであるが,浅学の身にこの目的を果し得るかを心配するところである。

手術前の循環器機能検査

著者: 野嶽幸雄

ページ範囲:P.909 - P.915

まえがき
 手術前後の的確・合理的な処置に欠ける点があつては手術の万全と成績の向上を期し得ないとはすべての手術に携わる医師の日常銘記する心得であり,如何に現在の如く,麻酔法・化学療法・輸液療法が発展したとはいえ,手術の準備として行おれる各種術前検査の実施を等閑視することは許されない。術中・術後の合併症として最も忌わしく警戒すべきは末梢循環障碍を主症状として発現し,今日では一般にショックなる概念の下に包括される一聯の症状である。これに対し従来より手術前の循環機能検査の意義が重視され,特に心臓を対象として,潜在性機能不全の発見に,また余力検査に各種の方法が応用実施されている。然し生体代謝,また防禦反応機構に関する知見の発展と,第二次世界大戦,朝鮮事変を契機とする欧米戦陣医学のショック研究と相俟ちショックに対する各般の全貌が漸次闡明されるに及び,術前検査に対する認識にも大きな推移が窺われるに至つた。従つて術前循環機能検査なる命題も今日に於いては,むしろショックを対象とする意味に於いて再検討されるのが至当であろう。従つて本稿ではショックの概念にも簡単にふれ,その臨床的示標,先駆する誘因・素地,検査法につき主として循環機能を対象とし臨床的見地から言及することとし,何等か,現在の進歩せるショック研究の理解の資として役立つことを希望した。

妊婦の心臓疾患とその外科

著者: 榊原仟 ,   飯川豊彦

ページ範囲:P.917 - P.922

I.緒言
 妊婦と心臓疾患との関係は,昔から重要視せられ,欧米は勿論,吾国に於いても色々研究せられているので,之に関する発表も多い。しかし,之等は何れも内科医及び産科医によつて発表されたものである。
 著者に与えられた題目は,「妊婦の心臓疾患」とその外科」であり,この特集号の他の著者とは大分異る処がある。即ち,心臓疾患に対する外科手術を,その価値あるものとして,外科手術が妊娠の如何なる時期を選んで行おるべきか,という事を論ぜよ,という意味に理解せられるからである。著者はこの立場から考察を加える事にする。

妊娠と心臓疾患との合併に就いて

著者: 長谷川敏雄 ,   坂元正一

ページ範囲:P.923 - P.931

合併率
1.一般合併率
 二,三の人の報告を表示すれば第1表の通りである。
 即ち0.34〜2.6%,平均凡そ1.6%と云える。

心疾患と人工妊娠中絶問題

著者: 小島秋

ページ範囲:P.933 - P.938

緒論
 心疾患婦人が妊娠した場合は,非妊婦に較べて心臓は妊娠・分娩による負担が大きくなる結果,心疾患は増悪して時に不幸生命の危険を招くことがある。従つて心疾患妊婦に対しては屡々人工妊娠中絶が重要な問題となつて来る。
 然し実際上心疾患妊婦に果して人工妊娠中絶すべきか否かを判定することは甚だ困難な場合が多いものである。吾々臨床経験上可成り重症と考えられる心疾患でも,よく妊娠分娩に堪えて挙児に成功することがあり,他方妊娠分娩に堪え得る筈と考えた心疾患が妊娠中か,或いは分娩労作によつて急に病勢が悪化して遂に死に至らしむることもある。

心臓性浮腫の診断と治療

著者: 浅野誠一

ページ範囲:P.939 - P.943

まえがき
 心不全によつて生ずる浮腫には,肺に現われるものと,全身に起るものとがある。しかし一般に心臓性浮腫というと,心不全による全身性浮腫を意味しており,このときは全身に鬱血症状がつよいために鬱血性心不全(congestive heart failure)とも言われる。ここには主として鬱血性心不全の浮腫についてのべる。
 心臓性浮腫は心臓の傷害があつて起ることは当然であつて,弁膜,心筋,心嚢に傷害を有するものに来るが,ときには心臓自身には傷害はなくとも,例えば肋膜の滲出液の著しい貯溜のごとく隣接臓器の変化からの影響による場合もある。

高血圧症への覚え書

著者: 松本修一郎

ページ範囲:P.944 - P.946

 依頼された題は「高血圧の診断」というのであるが,わたくしは教室のこの方面に関する研究(斎藤教授:最新医学:10巻:9号)を基として以下書くわけであるが,それぞれ担任研究者より詳しいデータがいずれ発表される次第であるから,ここにはそれを土台にわたくしのふだん考えていることを述べてみたい。
 産婦人科領域の雑誌故「女性と高血圧」ということにふれねばなるまい。妊娠中毒症の場合は略すとして,内科的に女性における高血圧症は男性のそれに比して多少違うところがあるものであろうか。一般に男性より高血圧症は少いといわれる(教室平本氏等)。ところがこれを年齢別にみると,いわゆる若年者高血圧症は男性にくらべて少いようである(平本氏等)。ただし壮年者すなわち40歳代となると,決して男性の数に劣らない。若年者悪性高血圧症は殆んど女性にこれをみないように思う。しかし女性には妊娠・出産という大きい役目がある。これが中年以後の高血圧症と関係はないであろうか。わたくしは以前農村および都会のそれぞれ人口ほぼ相等しい県内のモデル地区を集団検診したことがある。その際妊娠・出産の有無さらにその回数と血圧の関連を観察したが,有意な結論をうるに至らなかつた。壮年以後の高血圧症については男性のそれに比し,病像に違いがあるかどうかは検討を要し,今後の研究を進めたいところである。

心不全をめぐる諸問題

著者: 木谷威男 ,   難波和

ページ範囲:P.947 - P.953

 心不全とは心筋の衰弱の結果,循環不全をおこし,呼吸困難,浮腫,チアノーゼ等の症状をおこしてくる症候群を総称して云うのである。又単に心不全と云つたり,或いは鬱血性心不全Congestiveheart failure又は"Congestive failure"とか"Congestive circulatory failure"とも云うのである。心不全は心筋衰弱の結果の循環不全であると云つたが,心臓弁膜症や慢性高血圧症の結果,心臓が肥大し,心搏出量が低下しておこつてくるlow output failureと云う型のものと,貧血や甲状腺機能亢進症があり心搏出量は低下しないのに心不全の症候を呈してくるhigh output failureと云う型のものがあり,又左右いずれかの心室の筋肉の衰弱が強度であり,即ちそれによつて右心不全1)或いは左心不全と云うようにわけて考えるのである。
 そこで心不全をおこしてくる原因となる疾患を考えて見ると大体以下の様になる2)

低血圧症について

著者: 上田泰

ページ範囲:P.955 - P.958

はしがき
 動脈血圧が心臓の収縮力,搏出量,循環血液量,末梢血管抵抗及び血液粘稠度などによつて左右されることは周知のところである。動脈血圧特に収縮期血圧(最高血圧)が正常の範囲を逸脱して長く持続する場合を「病的な血圧」と考える。高い場合が高血圧症であり,低い場合が低血圧症であることは云うまでもない。動脈血圧に影響する諸要素の何れかに異常があつても血圧は変化するが,単一の要素のみによつて血圧が変動する場合は少く,むしろ幾つかの要素の組合せによつて長期間に亘つて変化する場合が多いが,また発生原因の明らかでない血圧異常も存在する。今日の研究成果よりすれば,本態性高血圧症と本態性低血圧症とでは,その成因は対照的なものではなく,全く別個な原因によつて発生するものと考えられている。そしてこの高血圧症は生命に関連する要素を多分に含んでいるのにひき換えて,低血圧症はかゝる要素は少くむしろ長寿に関連さえしていることが明らかにされている。以下低血圧症について述べてみる。

子宮筋腫と心臓

著者: 秦清三郎 ,   相馬廣明

ページ範囲:P.959 - P.965

1.はしがき
 子宮筋腫患者の心臓に特別な変化があるのではないかという疑問は古くから云われて来ている。殊に筋腫患者が術後突然死をすることが往々にしてあつたことから,特別な関係を推定するようになつた1885年Hofmeier氏の同様の死亡例の発表以来,筋腫と心臓との特殊関係は種々論ぜられ,所謂"筋腫心臓(Myomherz)と名付けられた心臓症状を巡つて,20世紀の初頭から臨床的,病理学的,或いは内分泌学的な立場から検討されて来た。その存否の論議は仲々興味あるものである。事実私共は筋腫患者の訴えの一つとして,屡々心悸亢進や頻脈,或いは呼吸促迫等の自覚症状を聞くことがある。これらの症状がそのまま心障害とは結びつかなくとも,類似組織にある両者の関係が想像されることは不思議ではない。然し乍ら現在の婦人科医の考えはこの筋腫心臓という特別な変化を否定しており,ただ貧血や全身衰弱等による二次的因子の影響としてこれを扱つている。然しこの問題は必ずしもこれだけで解決した訳ではなく,全く両者が無関係であるとして一笑に附するにはまだ疑問が残つているようにも思える。この際今一度筋腫と心臓との論議の歴史をふり返つて臨床的な再検討を試みることもあながち無駄ではないと考える。

更年期性心臓血管障碍

著者: 赤須文男

ページ範囲:P.966 - P.968

 更年期は性腺機能の消失して行く時期であるが,それはたんに性機能が,つきて消え去つて,消退して行くのではなく,そこには低下する性機能に対する生体の反応がいろいろのかたちで現われてくるものであるから可なり複雑な様相を示している。したがつて更年期の症状や所見は広い面に亘つているし,臨床検査成績もまちまちであることが多い。たとえば生体内のEstrogenの量的関係についても決して少ないだけではなく却つて多い場合もある。
 けれども,結局は,性機能が消失していくのであるから,更年期の終りは所見が一致してくる。けれどもこのときは又,更年期に発生した病症が後遺症として老年期にまで持ち運ばれていくこともあるから諸相が示されることもある。

妊娠と高血圧

著者: 加来道隆

ページ範囲:P.969 - P.973

妊娠に合併する高血圧の種類
 妊娠に合併する高血圧には妊娠,分娩,産褥中に初めて発生するものと,妊娠前から存在するものとがある。
 (1)妊娠,分娩,産褥中に初めて発生するものは重症の妊娠腎,子癇前症,子癇等の所謂妊娠晩期中毒症或いはエドネクローゼと呼ばれるものの重症型に合併する高血圧である。この晩期中毒症は胞状奇胎や急性羊水過多症等の特殊の場合を除いては通常妊娠後半期,殊に終3ヵ月に発生するために,高血圧もこの頃になつて現われて来る。通常浮腫や蛋白尿と同時或いは幾分遅れて発生するが,4〜5例に1例の割合には血圧の方が先に上昇して来ることもある。この種の高血圧は時刻による変動が著明で,短時間内に急に上昇したり下降したりすることが一つの特徴である。また高血圧が現われ初める頃には拡張期血圧の上昇が先におこることもあるので収縮期血圧のみでなく,これをも測定することが肝要であり,これが90mmHgを超えた場合には末梢血管抵抗が増加している徴であるから注意を要する。この晩期中毒症に合併しておこる高血圧は屡々160mmHg前後となり,拡張期血圧もまた90〜110mmHg以上に上昇するが,重症例では収縮期血圧が180〜200mmHgにも上昇することがある。併し乍ら200mmHg以上を超えることはまず少ない。

妊娠中毒症と眼底血管

著者: 徳田久弥

ページ範囲:P.974 - P.979

 妊娠から出産という女性個有のcouseにおいて,色々な眼症状が現われることは,古くから知られている。例えば, 1)早期からみられる軽度の甲状腺機能昂進のための眼瞼の開大後退と,みかけ上の眼球前出。勿論一過性のものであつて,悪性ではない。 2)副腎のhyperfunctionによる眼瞼の色素沈着。 3)アドレナリンに敏感になつてくるので,血清点眼で散瞳が起る。90%陽性といわれる。 4) 眼圧の低下。血圧低下と女性ホルモンの関係によるもので,昔から妊娠中に緑内障(眼圧の昂進する疾患で,中年女性に多い)が起きないという統計的事実が知られている。 5)脳下垂体腫大による視交叉部圧迫所見。視野の両耳側半盲がその眼症状であるが,ひどい場合は視神経萎縮を起し視力低下を来す。この場合レントゲン写真で,トルコ鞍の拡大が明らかに見られ,子滴等を起し易いといわれている。 6)脳,腎など網膜細小動脈のangiospasmによる,妊娠中毒性眼底変化→視機能の低下。
 このような症状ないし変化は,妊娠に際して内分泌,新陳代謝及び循環機能の調整が変調を来すために生ずるものであるから,いわば準生理的なものと云い得る。従つて妊娠が順調な途を辿つて,出産が無事完了した時には跡かたなく消失するのが普通であるが,その変化が,ひとたび病的な域にふみこんだものは,もはや不可逆的であつて,永久的な障碍をのこし,その後の妊娠を再び危険なものにすることが多い。

妊娠と浮腫

著者: 九嶋勝司

ページ範囲:P.981 - P.985

 妊婦に起る浮腫には種々な内科疾患の合併によるものもあるが,このような浮腫に就いては当然,他の専門家によつて論ぜられるであろうから,茲では妊娠そのものが原因をなすと考えられている妊娠中毒症の浮腫に就いて述べることにする。

新生児の心臓奇形

著者: 三谷茂

ページ範囲:P.987 - P.997

緒言
 新生児にも成人と同様に心臓の腫瘤があり,炎症性変化も見られる。しかしこれ等炎症は極めて稀れに先天梅毒や先天性結核に見られるものである。腫瘤は稀れに腺維腫があつたと云う報告があるが多くは心筋の性質上横紋筋腫である。しかしこれ等の異常とは別に必然の先天性奇形はかなり多いものである。勿論胎生の間に高度の発育障害のあつたときには胎芽の発育も障害されて流産に終る,即ち紙状胎児の如きは屡々心臓の欠損があると称せられているが,果して全くその原基も証明されないと云うことがあり得るかどうかと云うことになると難かしい問題で,もし欠損なら無形,無心体となり胎生5〜6週までに胎芽が吸収されるか,或いは無心体として発育すべきであると思う。胎児としての形態の存在する紙状胎児に於いては全欠損は老えられぬ。しかし紙状胎児に心臓の高度の奇形のあることは,うなずけることである。ところが軽度の心臓奇形,例えば室中隔膜様部欠損などは胎生の末期まで正常な発育を遂げて満期産になるのが普通である。これは胎生の間に於いては肺循環が全く必要なものでないからであつて,全循環さえ正常な発育を遂げているなら胎児の他の身体部分の発育は何等障害を蒙ることはないからである。この意味に於いて両側腎臓の欠損或は痕跡的に存在する腎臓を有する胎児に於ても同様で,生後4日間位生存し得る新生児もある。

先天性心疾患について—産婦人科領域に関連する事項

著者: 佐野豊美

ページ範囲:P.999 - P.1006

 この小論において先天性心疾患のすべての型を網罹説明することはとうていなしうるところではない。その目的には詳細については拙著1)そのほか重要心奇形の要点をまとめたもの2)3),最近の進歩を記したもの4)などを別に発表しているので,それらを参照して頂くことにし,こゝには産婦人科領域に関係のある先天性心疾患に関する事項の2,3について述べることゝする。
 産婦人科医にとつて必要な先天性心疾患の知識としては第1に先天性心疾患患者が妊娠した場合に如何なる態度をとるべきかという問題があり,第2に母体妊娠中に何か特定の要因が加わると心奇形児が生れる可能性が増すか,或いは過去の分娩で心奇形児が生れた場合将来の分娩で再び心奇形児の生れる確率が増すかという問題,すなわち先天性心疾患の原因・遺伝に関する事項があり,第3に新生児の心奇形の種類の診断・予後に関するものなどが考えられる。

心臓脚気

著者: 阿部達夫

ページ範囲:P.1007 - P.1012

1.緒言
 脚気はその病像の主要なものとして,感覚運動障碍,心・血管障碍及び浮腫があげられる。脚気はこの3つの症状を多少なりとも具備するのが普通であるが,その何れが主として前景に現われるかによつて,夫々萎縮型,衝心型,浮腫型に区別される。勿論毎常明瞭に区分しうるわけではない。心臓脚気とか胃脚気とかいう言葉は俗間ひろく使用されているが,正しい名称といえるかどうかは疑わしい。併しその言葉のもつ意味は,心臓脚気とは心悸亢進,動悸,息切れ等循環呼吸器系の訴えを主とするものをさし,或る場合には脚気衝心そのものを意味し,或る場合には衝心とはかなりの距離をもたせている場合もあろう。胃脚気とは脚気にさいして屡々みられる食思不振,胃部膨満感等の胃症状を特にさしていうものであろう。このように解すれば,これ等の俗称も強ちすてさるべきものでもあるまい。併し脚気が我国においては極めて普遍的な疾患であつた(私はことさらに過去形であらわす)だけに,現在でも尚脚気という診断が濫用される傾向もあり,心臓脚気,胃脚気等という診断も漫然とつけられている場合が少くない。
 私はこの論文の表題に心臓脚気という言葉を使用したが,循環器系を中心としてみた脚気というような意味に解して,話をすすめて行くこととする。

強心剤の使い方

著者: 小林太刀夫

ページ範囲:P.1013 - P.1017

 強心剤の使い方は,強心剤をつかわれる患者と,そこに使う強心剤とが正しく選択され,その上での問題である。
 先ず患者側についてみると,われわれの場合は成人の婦人であり,妊娠・分娩・産褥に関係があるか,又は婦人科的治療及び手術に関係がある場合とみてよいであろう。従つて一般的な問題の他に,これらの特殊事情をも考慮する必要がある。

降圧剤の使い方

著者: 五島雄一郎 ,   近藤宏英

ページ範囲:P.1018 - P.1025

 高血圧症の成因に関しては従来より多くの説が発表されているが,未だ充分これを解明し得るものはない。従つて現在我々が行つている本症の治療にも多種多様の方法があり,結局目下の処,本症の主要症状である高い血圧を如何にして適当なところ迄下げるかという対症的な療法に専念している始末であるが,然し血圧が下がる事により,自覚症状の緩解がみられ,且つ,高血圧症に伴う種々の変化も改善される事が経験されている。
 これに対し,ここ数年間に新しい血圧降下剤が次から次へと出現し,高血圧患者に対し大きな福音となつているが又臨床家をしてその撰択を迷わしめる惧れがある程である。

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臨牀婦人科産科 第10巻 総索引

ページ範囲:P.1027 - P.1034

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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