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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科11巻12号

1957年12月発行

雑誌目次

グラフ

川添正道先生の御逝去を悼む

ページ範囲:P.815 - P.816

 わが産科婦人科学会の最長老であった川添正道先生はまだ揺藍期を脱しなかつたわが国の産婦人科学のために種々の貢献をされ,また慶応大学産婦人科学教室の創設者としても大きな足跡を残された.そして昭和9年教授を辞されてからは川添病院を経営されて専ら医療を以て社会へ奉仕され,その後終戦の危期ものりこえて86才の高令にも拘らず,なお外来診療はいうに及ばず婦人科と産科の手術にも少しも衰えをみせない精力振りであつた。晩年は学会を遠ざかって居られたので,比較的若い人たちは親しく先生の謦咳に接する機会をえなかつたが,誰でも先生の壮者を凌ぐ活躍を伝え聞いて驚異のうちに,医人の達しうる精神力と体力の最高水準を示される点に注目していた。今,米寿をまたずして俄かに幽明境を異にするの止むなきに至つたことは独りわが産科婦人科学会のみでなく広く医学会のために誠に惜しみても余りある処であり,謹んで衷悼の意を表する次第である。

臨床研究

産婦人科領域に於ける流血酸素量の連続測定に関する研究—第2編 婦人科手術に於ける流血酸素量の連続測定に関する研究

著者: 中尾昭

ページ範囲:P.817 - P.828

第1章緒言
 婦人科疾患患者の手術時に於ける病態生理並びに偶発事故防止のため,術前,術中,術後の流血酸素飽和度の測定は緊要事項であるに不拘,測定方法の不備のため,婦人科領域に於ける手術時の流血酸素飽和度の推移を連続測定した報告は殆んどなく,特に種々の婦人科手術に対する系統的業績は,全く皆無に等しい現況に鑑み,私は本研究を企図し,先ず第1編に於いては,流血酸素飽和度の測定法を種々検討し,非観血的流血酸素飽和度連続測定法としては,Wood及びGeraciの改良Ear Oximeter法によることの最良であることを確認すると共に,本器を試作し,同試作Oxime-terに対する種々基礎実験を行い,本器の臨床応用を可能ならしめた。依って,本編に於いては同試作Oxlmeterを使用し,各種婦人科疾患患者の術前,術中,術後及び各病日に於ける流血酸素飽和度を連続測定し,手術侵襲の飽和度に及ぼす影響を系統的に観察すると共に,酸素吸入実施時に於ける変動状況をもあわせ観察し,未だ未解決であったこの方面の病態生理の解明に資すると共に,偶発事故防止上にも重大意義を認めたので茲に報告する。

肺結核患者の自然分娩に就いて

著者: 中林繁司 ,   池田精孝 ,   清水進 ,   玉利彰

ページ範囲:P.829 - P.834

緒言
 現在わが国に於いては肺結核患者の妊娠並びに妊娠継続は一般に危険であると云う考えが患者は勿論の事,医師の一部をも概念的に支配し,病勢の如何を問わず妊娠回避並びに人工中絶を行う場合が多い様である。然るに肺結核と妊娠は社会的にみても重要であつて特に日本の婦人の立場は外国に比し微妙で将来を左有する場合も多く見受けられ,妊娠並びに妊娠継続の可否に就いて臨床医家が屡々真剣に相談を持ち込まれる問題の一つである。
 従来より結核と妊娠の関係は長い事論争の的になつており臨床実験の困難な点よりして内外に於いて未だ決定的な結論に達していない。我が国に於いては結核自体が種々の角度より検討されておりながら,その割にはこの問題に関する文献は量的に少く藤森教授,加来教授等産婦人科医の立場からの発表が主要な位置を占め胸部疾患を取扱う内科医側の発表例は少い現状である。この事は肺結核の病態がちまりにも複雑多岐にわたる上に妊娠による個体の変調が更に多くの要素を加味する為に多くの人々がその必要性を痛感しっつも一概に結論的な意見を発表する事が困難な為とも思われる。然し先人の一つ一つの業蹟の基礎の上に立つた多くの経験例が積み重つた際は将来必ずや或る種の結論に到達する時期がある事が推定出来るのである。

第7回綜合医学賞入選論文

胎児の血液循環系に就いて—就中臍静賑血の右心房に至る間の血行

著者: 松浦喜一郎

ページ範囲:P.835 - P.842

1.緒論
 胎児の血液循環系に関しては,既に諸学者により一応の解決がなされたているが,著者は偶々合成樹脂注入法による脈管系の解剖学的研索を行つた結果,興味ある知見を得たのでその大要を報告する。

好酸球増多を絨毛組織検出法として用いる場合の判別函数

著者: 山本龍一

ページ範囲:P.843 - P.844

はしがき
 医学の領域に於いては既往症,現症並びに検査成績を綜合して病気の鑑別診断を行う事が屡々行われている1)が,此際比較の根拠となる測定量が一種類以上であるから幾つかの測定量を,群間の判別が最良となる様に,夫々に対して決められた判別係数で重みづけをした上で合成し,夫々の個体に就いての綜合ざれた値,即ち判別値に関して両群の問に差が認められるか否かを険討すべく判別函数2)を利用する事が可能である。私は先に絨毛組織検出法としての好酸球増多の意義を報告したが3),絨毛細織を有するか否かの両群の鑑別判定を,両群になきれた胎盤水性抽出液投与の1,2,3,4時間後に於ける4つの好酸球変動実測値経過に依ってなす関係上,上記の如く,予め判別限界値を作製しておいて,任意の例に於ける判別値が之よりも大なる時は「生活絨毛組織を有する」,小なる時は「然らず」と判定出来る訳である。先に私は3時間後の実測値のみを焦点として判定すべき事を述べたが,此処では,1〜4時間後の各値を,その侭,判別に必要な実測値として各独立にとりあげた。絨毛組織を有する事,検び有しない事が確認された例数は各93,皮び104例計197例である。各実測値は省略する4)

妊娠悪阻に対する葉緑素"サングリーン"の使用経験

著者: 堀内真 ,   山口正義 ,   水野貫一

ページ範囲:P.845 - P.848

緒言
 妊娠悪阻の療法としては従来より多くの薬剤が使用されて来たが,いずれも特効のあるものは無く,寧ろ心身の安静と食餌療法を基礎として暗示療法,腸内寄生虫駆除,大量輸液等が屡々効を奏する事が多い。その他に肝臓解毒機能促進,良質の蛋白補給,自律神経遮断,陰イオン交換樹脂製剤の利用,鎮静鎮吐剤等が併用されるが,今回は葉緑素製剤を単独に使用して妊娠悪阻の軽減に努める目的で水溶性クロロフイン(日本生化学工業株式会社製"サングリーン")の効果を検討しにので報告する。

産婦人科領城に於けるMeprobamateの応用

著者: 大淵達郎

ページ範囲:P.849 - P.852

緒言
 産婦人科を訪れる患者には,その主訴の甚だ多岐に亘り特別な器質的変化を認め得ぬにも拘らず高度の苦痛を訴える者の多い事は既に著明な事実である、これらには,ホルモン系統の平衡異常,自律神経機能失調,更には所謂婦人科的精神身体症,血の道症等と呼ばれるものがあり,何れも種々の要素が複雑に関係し合つているものであろうが,婦人科外来患者中可成り高率を占めるものと思われ,簡単な対症療法のみにて治癒するものもあるが,甚だ頑固で治療効果の上らぬものも亦少くない。最近私はメプロバメート(Meprobamate—Miltown, Atraxin)を上記の如き症状に対して使用し,見るべき効果を得たので本剤の薬理にっき文献的に紹介すると共に産婦人科領域における応用について報告したい。

腰椎麻酔の血圧下降防止とテラプチク

著者: 杉原昌太郎

ページ範囲:P.855 - P.858

緒言
 最近我が国に於いても全身麻酔が著しく進歩し,各方面で使用されているが,婦人科方面に於いては手術が骨盤内であるために,麻酔適応範囲は当然下腹部以下で足りるため,依然として腰麻の応用は広い。之は全麻にまさる幾多の利点が見られるためで,例えば,操作が極めて簡単で手術者自ら之を行うことも容易であり,又人手が省けそれにもまして全麻では仲々得難い程の腹筋弛緩が容易に得られ,麻痺時間も長いためである。以上の様な多くの利点を有する腰麻が広く使用されているが,一方には腰麻による危険な合併症として血圧下降と呼吸麻痺の二者があげられる。腰麻は,1898年Bierが始めてコカインを用いてより麻酔薬叉麻酔方法が種々改良され,副作用,偶発事故防止のため種々研究されたが,偶々恐るべき副作用を来して死の転帰すらとるものがある。特に,血圧下降は,腰麻時には必発するもので之を防止する対策は種々研究発表されている。即ち,使用薬剤の選択,或いは注入法の改良,叉麻酔薬を最小必要量に留むべきとか,或いは術前に於ける全身状態の綿密な諸検査等が必要である事は論を俟たないが,他方積極的に腰麻時血圧下降防止の対策を行うのが最も主要な事と考えられる。腰麻時血圧下降は,交感神経麻痺による血管拡張が主をなしているため,今月之の対策として血管収縮剤,殊に交感神経興奮剤が用いられているのは周知の如くである。

Mycostatinによる膣・外陰カンジダ症の治験

著者: 青河寛次

ページ範囲:P.858 - P.859

I.いとぐち
 真菌の出現並びにその病態生理が,近年交代菌現象の立場から再認識され,種々なる抗真菌性物質が追求されていることは,今更いうまでもない。然しながら,今迄発見された抗真菌性物質で抗菌力の強いものは,毒性も亦著しいのが常であったから,この点臨床応用に幾多の困難があったわけである。
 Streptomyces nourseiから分離したpolyne系抗生物質の一種であるMycostatin (Squibb社Nystatin)は,糸状菌類及び,酵母の中放線菌類を除く凡ての種を抑制乃至殺滅するが,本剤が最も大きな効果を示すのは,成長段階にある酵母様菌類に対してであり,胞子に対してはそれ程有効でなく,又,細菌に対しては無効であると云われている。

クロラムフェニコール100mgを添加したトリコマィシン膣錠によるトリコモナス膣炎の治療経験

著者: 鳥越正 ,   林公夫

ページ範囲:P.861 - P.863

はしがき
 Donnéによつて発見されたTrichomonas va-ginalis (以下「ト」と略称する)はHoehneの広範なる研究以来,その病原性も確定し,治療法は相ついで発表されている。即ち昇汞洗滌,硼酸グリセリン療法,乳酸,ビクリン酸,メチレン青,ヤトレン,ヒノワギン,デベガン,スチロガン等が用いられていたが,充分の効果があつたとは言えない。第二次大戦後は先ずカルバルゾン製剤が登場し,沢崎,楠本,木下,西島,加藤,藤生等がその粉末,水溶液或いはカルバギン錠,ペニギン錠等を用いての治療成績を発表している。これらは何れも第一次治癒率は100%であるが再発が多く,50〜70%に及ぶと言われている。次いでキノフォルム,テトロニール等が使用されているが未だ充分とは言えない。更に又抗生物質の万能性が認められて以来,オーレオマイシン,クロロマイセチン,トリコマイシン等が使用されており,みるべき成績をあげている。特にトリコマィシンは,1952年細谷がstreptomyces hachijoensisの産生する物質より抽出精製Lて得られたもので他の抗生物質の無効なるカンデイダ,原虫類に対しても強力なる殺滅作用を有している。西村等はこのトリコマイシン腔錠を用いて「ト」の治療をなし第一次治癒93.1%,治療終了後4週以内の再発34.9%と言う威績を発表している。

カルチノフイリンの臨床経験

著者: 九嶋勝司 ,   吉崎宏 ,   麦倉義司 ,   遠藤清敬

ページ範囲:P.865 - P.870

I.まえがき
 近年抗腫瘍物質の登揚によつて,悪性腫瘍の治療面に新しい分野を拓きつつある。
 われわれは北里研究所秦博士等が一種の放線菌Streptomyces sachachiroiの培養瀘液から抽出精製した抗腫瘍物質Carzinophilinに就いての臨床実験を行う機会を得たので,茲にその成績を報告する。

Chlorpromazine Sulphoxideの使用例

著者: 松岡広次 ,   高橋堅太郎 ,   越知基

ページ範囲:P.871 - P.873

1.緒言
 フランスのH.Laborit及びP.Huguenard1)等によりPhenothiazine系薬剤を使用して,その特異な自律神経遮断作用により,所謂人工冬眠療法を発表して以来,同様の研究が各国に於いて広く行われる様になつた。
 われわれは産婦人科領域に於ける強化麻酔法研究の一端としてChlorpromazineより副作用が少いとされるChlorpromazine Sulphoxide(pz−5と略)を用いて以下の臨床的経過を観察した。

新生児重症黄疸予防としてのPolyvinylpyrrolidon投与に就いて

著者: 新井大作 ,   一宮勝也 ,   稲田裕 ,   寺門運雄 ,   片山初雄 ,   八木文夫 ,   尾崎純弘 ,   村越惇七

ページ範囲:P.875 - P.880

緒言
 Rh式血液型の発見以後,新生児赤芽球症の治療と新生児重症黄疸の予防は交換輸血の施行に依つて飛躍的に発展し,この分野に於ける新生児の死亡率を急速に低下せしめた。そして従来,予後不良で原因不明であつた重症黄疸の大半が血液型不適合妊娠に由来する血清学的なものであることが判明したが,尚,新生児に黄疸を発生する機構には,梅毒を除いて不明な点が多い。又,核黄疸発生の頻度として血液型不適合に由来するものを除いてその75%は未熟児に発生する(Zuelzer1950)と報告されて居る。交換輸血を受けた赤茅球症児に於いても核黄疸の発生をみて死の転機をとるものも少なくはない。新生児の黄疸が生理的な範囲を越えて強度となり遂には核黄疸となる事は臨床医の最も恐れる処であり,一度,核黄疽を発生すると約65%(Victor 1950)は死亡し,幸いに死を免かれた児も軽度の運動失調から白痴を伴う重症な種々の神経障碍を残すのが常である。われわれは現在迄に11例の血液型不適合児の交換輸血を行い,その内の3例を核黄疸で死亡せしめて居る経験から核黄疸の予防及び,これが治療に少からぬ興味を抱いて居た。
 一方,代用血漿剤として登場したPolyvinyl—pyrrolidon (Pereston-N—バイエル,以下P.V.P叉はP-Nと略す)は其の後の研究に依り各方面で応用され,血液組織洗瀞作用,色素排泄作用,毒素吸着作用等が解明されて来た。

エストロゲン・カルバルソン併用による帯下の治療効果

著者: 池羽新一 ,   小口圭太郎

ページ範囲:P.880 - P.885

緒言
 従来帯下の治療法としては洗滌療法,乾燥療法,各種薬剤の塗布並びにタンポン療法,理学的療法等があり,また卵巣機能の低下による腟壁の抵抗性減弱を予防,或いは改善する目的からホルモン剤も使用されてきた。近時各種抗生物質の相次ぐ出現により帯下の治療面にも一大転機をもたらし,その報告は枚挙にいとまのない程であるが,原因の異なる帯下を同一方法で治療しても必ずしも同一効果をあげるとは限らない。正常婦人においてエストロゲンの消長に伴う腟の各種性状の変化はすでに明らかであり,概ね次の通りである。即ち卵胞期には腟内容中に腟上皮の比較的表層の細胞が多く,排卵後期を境として比較的深層の細胞が多く出現して表層の角化細胞は消失する,腔上皮表層上部の細胞はグリコゲン及び脂肪を多く含有するが,中層以下の細胞には殆んど証明出来ない。卵胞機能の旺盛な時期には腟上皮は分化し,剥脱し,角化に近い変化を現わし,また白血球は著しく減少し,腟内容の酸度も高く,従つて細菌も少ない。卵胞機能衰退の時期には上皮の分化,剥脱は減じて白血球が増加する。エストロゲンの腟粘膜への作用を応用して,これを臨床上帯下の治療に応用することは,適応を選択すれば使用価値が大きいへ一方カルバルソンの抗トリコモナス作用はすでに証明され臨床上使用されている。

手術・手技・麻醉

妊娠中期に於ける人工中絶及び腟式卵管不妊術に就いて

著者: 藤原敏郎

ページ範囲:P.887 - P.889

 人工妊娠中絶と同時に卵管結紮術を実施する場合,現在では事情の許す限りは腟式で行うのが常道と考える。そしてこの際一様に苦心するのは開腹そのものよりも開腹後卵管を見付け出す操作に就いてであり,殊に妊娠が4ヵ月以上所謂中期に進んだときには尚更である。屋上屋を重ねることになるかも知れないが,次に私が妊娠中期人工中絶及び卵管結紮に際して不断実施している方法を述べて諸賢の御批判を仰ぎたい。
 私は癒着其の他特別な事情の無い限りは先ず腟式子宮下部横切開術を行い,次いで腟式卵管結紮術を行つている。

ステロイド静脈麻酔剤による腹式帝王切開術の経験—その娩出児についての観察

著者: 小林敏政 ,   白石水内 ,   西沢正昭

ページ範囲:P.891 - P.895

緒言並びに文献概要
 1941年Selyeは諸種のステロイドが麻酔作用を起さしめることを見出し,その後この作用の強いのはプレグネンジオンでデスオキシコルチコステロン,プロゲステロン等が之につぐものであることを知つたが1955年Laubachは遂に21—hydro-xypregnanedione sodium succinate(Hydro-xydione)が麻酔剤として有望なものであることを発見し静脈麻酔剤Viadril(バイアドリル)として製品化されるに至った。Viadrilは図の如き構造式で水に可溶の白色粉末で水溶液はpH 8.5〜9.8でアルカリ性を示すとされ500mgが1バァイル中に封入してある。この臨床報告はMurPhy1によつて125例の外科領域の手術に応用され,我が国では山村氏12)及び沢崎氏2)細井氏3)の紹介があり,その後外科領域では基礎麻酔としての山村氏13)の60例,産婦人科領域では坂倉氏14)の5例(開腹術は2例)及び沢崎氏5)の本麻酔剤のみによる17例の開腹術の臨床経験が報告された。又長内氏6)は之を無痛分娩に応用して学会で報告して居る。

子宮内容除去術における静脈麻酔剤Thiobalの使用経験

著者: 寿田鳳輔 ,   一宮勝也 ,   黒坂浜郎 ,   寺門運雄 ,   片山初雄 ,   平野俊雄 ,   稲田裕 ,   神山善三 ,   村越淳七 ,   山口裕

ページ範囲:P.897 - P.901

まえがき
 近年静脈麻酔剤が多種多岐にわたり,改良或いは創製せられ,各領域の手術に応用されている。産婦人科領域においては殊に妊娠初期の子宮内容除去術に際して短時間麻酔に多く利用され,われわれの教室でも早くから麻酔の研究の一端として各種手術に種々なる適応した麻酔剤を用い,その効果及び安全性等について検討報告してきた。従来,静脈麻酔としてWeise(1932)のEvipan-Naに始まり,国産品としてHexobarbital系 (Evipan, Bonodrin, Auropan, Cyclopan,Ortopan)が一時賞用されたが,既知の如く,しばしば全身痙攣,筋播搦,覚醒時の興奮等の随伴症状を示すことがあり,わが領域では,これらの使用は少くなつてきた。それに反して注目されることは,近時barbital誘導体の合成が盛んになり,特にLundy (1934)のPenthotal-Sodiumに始まり,国産品としてはThiopental系(Rabonal,Thiobal)及びSurital系(Amipan)等がある。これらは前記の如き,不快な随伴症状もなく,体内における吸収分解が迅速であるため,麻酔調節が容易であり不安興奮が少く安全域が広い点が推奨せられている。われわれの教室においても既に静脈麻酔剤としてAuropan-Na(1949),Rabonal(1954),Amipan(1954)について報告した。

症例報告

比較的早期に発見された子宮癌の肺転移例

著者: 岡江秀周

ページ範囲:P.903 - P.905

緒言
 子宮癌の遠隔臓器への転移に臨床上遭遇することは比較的少なく,殊に肺転移に就いては病理解剖学的に安藤は5〜7%,石川は7.3%,WilliamF,Finnの統計によれば子宮内膜癌に於いて10%と報告されているが,臨床的には殆んど注意されず臨床的に之を比較的早期に発見した報告は極めて少ない。私は比較的早期に臨床上肺転移と思われる子宮癌の1例に遭遇したので之を報告する。

興味ある子宮肉腫の1例

著者: 岡江秀周

ページ範囲:P.905 - P.906

緒言
 興味ある経過を辿つた子宮肉腫の1例に遭遇したので報告する。

卵管結紮後に卵管茎捻転を起した1例

著者: 小坂清石 ,   平健一 ,   吉村喜久緒

ページ範囲:P.906 - P.908

緒言
 最近受胎調節,家族計画が叫ばれ種々の方法が普及されつつあり,卵管結紮による不妊手術も普遍化されて来たが,これに伴う種々の障碍も又問題となってきている。われわれは最近卵管結紮後に卵管茎捻転を起した1例を経験したのでここに報告する。

満8歳の女児に経験せる顆粒膜細胞腫の1例

著者: 安部雄策

ページ範囲:P.909 - P.911

I.緒言
 卵巣充実性腫瘍の中で,比較的稀有と思われる顆粒膜細胞腫の1例を満8才の女児に経験し,其の著明な女性化微候の消長を術前術後にわたり観察し,且つ組織診により顆粒膜細胞極と確かめ得たので,ここに報告する。

羊水過多を伴う先天性幽門閉鎖症の1例

著者: 門脇正 ,   菊池芳夫

ページ範囲:P.912 - P.914

 先天性幽門閉鎖は消化管に於ける他の部位の閉鎖に比して,極めて稀である。
 われわれは昭和29年10月,当科に於いて羊水過多を伴なえる先天性幽門閉鎖症の1例を経験したので,その臨床的及び病理所見を報告する。

先天性膣横隔膜(篠田)妊娠1例

著者: 乗杉基

ページ範囲:P.915 - P.915

緒言
 先天性腟横隔膜とはは,P.A.Herbutの定義によれば,transverse vaginal septum又はva-ginal horizontal septumのことで,先天的に産道の長軸に直角に腟粘膜の中隔があり,子宮腟部を遮蔽している状態にあるものをいう。
 本邦に於ける報告としては菊田2),柳3),馬渕4)の報告を見るに過ぎない。

妊娠9カ月に合併せるCryptococcosisの1例

著者: 堀内真 ,   水野貫一 ,   富本章造

ページ範囲:P.916 - P.919

I.緒言
 1894年Busse1)及びBuschke2)により人体に於けるCryptococcosis (Cryptococcus感染症)の症例が初めて報告されてからFitchett andWeidmann3),Cox and Tolhurst4), Evans andHarrell5),Gendel, Ende and Norman6),Lassand Geiger7),Heinsius8),Cawley, Grekin andCurtis9),Collin10),Zelman11),Jackson andParker12),Freeman and Weidman13), L.E.Zimmerman and H.Rappaport14)其の他等により既に数百例の報告がなされて来たが,我が国では極めて稀な疾患で1912年渡辺15)及び1916年五斗16)等により報告されてより高島他17),緒方他18)美甘19),三宅20)等未だ10例に満たない。特に妊娠に合併したCryptococcosisはその例を見ない.最近当科に於いて妊娠9ヵ月末に激しい頭痛を併い突発的に強直性痙攣,昏睡を来した患者で,既往歴,レ線撮影所見,髄液所見より臨床的に結核性随膜炎と診断し,治療を試みたるも分娩後急激に死の転帰をとり,病理解剖の結果Cry-ptococcosisと判明した貴重なる1例を経験したので此処に報告し大方諸賢の御参考に供せんとす。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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