文献詳細
特集 麻酔の進歩
麻酔法進歩の手術範囲に及ぼした影響—(特に吸入麻醉の進歩により従来困難又は不可能とされた体域の手術が可能となつた点に就いて)
著者: 古川哲二1
所属機関: 1九州大学医学部第一外科教室
ページ範囲:P.927 - P.933
文献概要
ここ数年の外科の発達を見ると,以前には殆んど考えられなかった手術,殊に直接生命の維持に大切な器官への侵襲が普通に行われているのに驚く。之は,医学の進歩に伴い,数々の隘路が次々に克服された結果で,麻酔法の進歩も,その重要な一部を占めるものである。その上更に,麻酔法殊に吸入麻酔の進歩が,手術侵襲を拡大し,且容易ならしめている事実は現在何人も疑はない。
然し,之等の特定の手術は,未だ二,三の特殊の領域,及び,特定の病院に限定されていて,一般には之迄不可能であった手術が,麻酔の発達によって可能となつたという例は意外に少ないのではないかと思う。事実外科以外の人々に,新しい麻酔の恩恵を尋ねても,手術が安心して,ゆつくり出来る様になつたというだけで特殊の例を除いては,従来と異つた手術が可能となったという答に接することは少ない。独乙流の教育を受けて来たわが国の外科医(この場合は広くMesserseiteの人を意味する)は極めて不利な条件下で,殆んどすべての手術を行うべく教育されて来たので,一般にはそれ程ひどく痛痒を感じなかったのであろう。之まで一かどの外科医になるためには,長年の殆んど徒弟修業ともいうべき訓練が必要であったし,所謂名人芸が尊ばれたのもそう古いことではない。
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