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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科12巻10号

1958年10月発行

雑誌目次

グラフ

双角子宮

著者: 東京大学医学部産婦人科教室

ページ範囲:P.757 - P.758

 29才,原発不妊3年,初経15才,26日型,持続5日間で量はやや少いが,経時障碍は殆んどない。内診時,子宮は前傾屈,かなり小さく,両側附属器部分に索状の抵抗を触れる。月経第13日目にエンドグラフィン5cc注入,やや抵抗があつたが,指圧を去つても造影剤の逆流は殆んどない。レ線写真では高度の双角子宮て,頚管カニューレの入つた部分から左右に蛇行する管状の子宮腔が認められ,その先に疎通性のある卵管が続いている。

臨床研究

各種抗癌剤のHeLa細胞に及ぼす実験的研究

著者: 斎藤博

ページ範囲:P.759 - P.770

緒言
 抗腫瘍性物質のすべては何等かの基礎的Scre-ening testによる細胞学的,生物学的指標において根拠づけられているが, Investigation of Diverse Systems for Cancer chemotherapie Screening edited by A.Gellhorn and E.Hirschberg. (Cancer Resarch Suplement No.3,1955)には28種の物質につぎ,15種の実験腫瘍系列と59種の非腫瘍系列を対象とするScreening testの綜合結果が示めされており,腫瘍系にはすべての動物遊離癌乃至固型癌が対象とされている。本邦製抗癌剤Nitromin1)も吉田肉腫を,Sarkomycin2)3)Mitomycin4)はErlich癌を,Carzino-philin5)はErlich癌及び吉田肉腫を対象として抗腫瘍性が検討された。人体腫瘍を対象とするScreening testの研究は現在の癌化学療法上の重要課題で,特殊な方法としてCAP法6)7),また最近は西岡等による癌組織片インドフェノール還元法(INK法8))等の報告がある。ここに人子宮頚癌由来のHeLa細胞の存在は種々の意味で重要な実験対象とされるわけである。

胎児腟細胞像と母体腟細胞像及び尿中卵胞ホルモン量との比較

著者: 斎藤淳一 ,   中村弘道 ,   福富洋

ページ範囲:P.773 - P.776

序言
 胎児が母体内分泌の影響を受けて出生時に乳房腫脹,外陰部腫脹,帯下増加,或いは時に性器出血を起す事は古くから知られ,腟細胞の増殖についても幾多の報告があり,出生後急速に角化層の脱落消失がみられる。
 一方母児血液,臍帯動静脈,子宮動静脈血液等の卵胞及び黄体ホルモン含有量の比較により,胎盤よりの本ホルモンの分泌及び母児問の移行が知られている。

妊娠に於ける鉱質代謝の基礎的研究,殊に妊娠月令に沿うての血清,尿,唾液中Na及びKイオン濃度の消長に就いて—第2報 妊娠月令より見たる妊婦尿中のNa,K濃度の消長に就いて

著者: 藤巻幹夫

ページ範囲:P.777 - P.784

緒論
 著者は第1報に於いて妊婦血清中のNa及びKの逐月的変動について,先ずそれぞれの濃度実数にっいて妊娠各月令群に於ける平均値の変動について観察し,ついでそれらより分散変動百分率を計算したる後に妊娠各月令別に見られた分散収斂について推計的に観察し,更に直交十字軸法によつて,血清中のNa,Kの変動を妊娠月令別により観察し,妊婦血清Na濃度はその分散の平均値より見れば妊娠全期間を通じ,健常値より極めて僅かながら低値を示すがしかしその水準に於いて比較的に恒常であつたが,分散の幅の見地よりこれを見れば妊娠2〜8ヵ月及び10ヵ月の二期には推計的にも認め得べき分散を示し,妊娠9ヵ月にはこれ又推計的に認め得る収斂を示すことを知り,一方妊婦血清K濃度は各実測値の平均値の見地より見れば妊娠前半期に激増し,以後漸次復帰を示し,妊娠8ヵ月にて最低値を示すが妊娠9ヵ月より又増加を示して行く傾向があり,又分散の幅の見地より見れば推計的には妊娠8ヵ月を除いて全ての月令に於いては正常分散に比して広い分散を示し,唯妊娠8ヵ月に於いてのみ収斂を示すことを見た。

妊娠に於ける鉱質代謝の基礎的研究,殊に妊娠月令に沿うての血清,尿,唾液中Na及びKイオン濃度の消長に就いて—第3報 妊娠月令より見たる妊婦唾液中のNa,K濃度の消長に就いて

著者: 藤巻幹夫

ページ範囲:P.787 - P.793

緒論
 著者は第1報1)及び第2報2)に於いて報告せる如く,常に同時に採取した妊婦血清中及び妊婦尿中のNa,K濃度を測定し,それら各値の妊娠月令に対する消長及び分散の推移に就いて推計検定を加えて観察した後,更に尿中Na,K濃度を同一人より同時に採血したる血清中のNa,K濃度と比較するため,それぞれの比をそれぞれ求めて,その比値についての妊娠月令に対する消長をも併せて検討した。その結果妊娠に際しては血清中及び尿中Na濃度は共に妊娠2ヵ月にて減少を来たし,以後その状態を継続するが,その減少の度合は率としては尿中の方が大である事を認め,叉血清中及び尿中K濃度は共に妊娠3ヵ月にて増加を来たすがそれ以後に於いては健常値と大差なき事を認め,従つて尿中Na/血清中Naは妊娠初期より明らかに減少を示すのに対し,尿中K/血清中Kは健常値と大差ない事等を知り,それらより妊娠に際しては体内殊に組織内にNaの潴溜が起り易い状態にあることを指摘し,これは恐らくDOCAの影響によるものであろう事を想定した。
 一方当教室に於いて宮本他3)-4)は健常人唾液のNa,K濃度に及ぼす脳下垂体—副腎皮質の各ホルモンの影響についての研究に際して,就中DOCA注射によつては唾液中Naは著明に減少を来たし,又唾液中Kはほとんど変化なしと言える程度の減少を示すにすぎない事を報告した。

内分泌疾患Ⅶ.性早熟と侏儒症

著者: 唐沢陽介 ,   木下国昭

ページ範囲:P.795 - P.799

I.緒言
 侏儒症はその成り立ちが極めて複雑であり,日常臨床上われわれが行つている各種検査成績をもつてしてはその成因を明確にし得ない場合が多い。従つてその治療の困難さと相俟つて本症は現代内分泌学の進歩から置き去りにされた感があるのである。(勿論侏儒症のすべてが内分泌障害によるわけではないが,本論文では内分泌障害に起因するものゝみについて論ずることゝする。)特におが国においては,本症に対する本格的研究は漸くその緒についたに過ぎないといつても過言ではなかろう。
 従つて業績の発表も少く,欧米文献に拠らねばならない面が極めて多い。著者等の研究室における知見も乏しいのであるが,最近性早熟に起因すると考えられる本症の1例を経験したのでこゝに報告する。性早熟が本症の成因の一つであることは既知の事実であるが臨床上かゝる症例に遭遇することは決して多くなく,興味あるものだと思う。

文献抄録

内膜癌と卵巣実質の過剰増殖との関係/子宮内死亡診断上重要な胎児体内・ガスのレ線影像

著者: A.J.0.G. ,   J.W.Radick

ページ範囲:P.784 - P.784

 更年期に於けるstromal hyperp-lasiaと呼ばれる卵巣の変化と内膜癌の病因に関する文献の要約を記した。そして提唱者は331例の手術的剔除を行つた内膜癌と307例の剖検で得られた対照の卵巣を調査して,内膜癌では非内膜癌患者よりも卵巣に於けるstromal hyperplasiaが著明に多いことを発見した。
 著者等は42例の他の疾病で手術的に得られた卵巣を対照として40例の手術された内膜癌患者の卵巣を調査して,内膜癌群と非内膜癌群との間に顕著な差はなく,従来の報告を確認できなかつた。そしてこの少数例の所見から内膜癌を有する婦人の卵巣について,今まで報告されていた非特異的な変化は内膜癌のない人でも同じ程度に発見されることを記している。これに対しJ.I.Brewerが賛意を表しstromal hyperplasiaということの意義は疑問で,これがエストロゲンを発生するという明記は何もない。そしてBrewerは以前にも過量のエストロゲンか活性のエスロトゲンが内膜癌を起すという説には反対し,内膜癌でも癌になつていない内膜の部分は正常の卵巣周期に一致しており,特にエストロゲンの作用を強く現わしていないと述べている。そしてこの問題は大局的に冷静に所見を判断せねばならぬ問題で慎重を要すといい,stromal hy-perplasiaは臓器の癌とも関係はなく,発癌に原因的な意味を見出せないと述べた。

薬剤の臨床

Androstanoloneによる体重増強作用について

著者: 郡延夫 ,   渡辺英子

ページ範囲:P.801 - P.805

 食物の同化は各個人によって差異があるばかりでなく,同一人においてもその年令または身体状態によつてかなりの変動がある。たとえば栄養食の不足によらないるい痩もあれば,また種々の疾病その他に起因する栄養物の不均衡による痩せ細りもある。
 従来,これらに対しては同化のそこなわれている栄養素を人為的に添加することをもつてその治療となすにとどまつていたが,1935年Kochakiana.Murlin1)が男子尿エキスを去勢犬に投与したさい,このエキスが男化作用のみならず,同時に窒素蓄積の能力のあることを発見して以来,更にその後Testosterone,あるいはTestosteronepropionateが同様に窒素蓄積作用のあることが報告され2),臨床上においてもKenyon3)らによつてTestosterone propionateが類定官症患者や正常人に対しても尿中窒素排泄を減少させることが明らかにされるに到つた。近時,Eisenberga.Gordon4)によつて動物の挙肛筋測定が蛋白同化作用の指標として採用され,応用されるに到つて,この方面の研究は著しく進歩した。蛋白同化を促進させることが末熟児や重症の消耗性疾患の治療に当つて甚だ重要なことであり,この場合,体重増加そのものよりも,むしろ増加を来すことによつて体力に活を入れ,これを出発点として活溌な生体活動の展開が行われることにも期待してよいと思う。

副交感神経遮断剤の産科的応用

著者: 吹田清純 ,   江口幸雄

ページ範囲:P.805 - P.808

緒言
 分娩経過は仮令異常分娩でなくても分娩時間が遷延する事はわれわれ産科医にとっては気がかりになり産婦自身の苦痛をも長びかせて好ましい事ではない。分娩を促進させるためには子宮収縮作用と共に産道下部の弛緩も考慮されなければならない。最近副交感神経遮断作用を持つ薬剤が腸管,胆管,尿路,女子生殖器に作用し痙攣を緩解する点から内科的治療,レントゲン撮影等に応用されてきた。此の副交感神経遮断作用はアトロピン等と異り,神経節に特異に作用し眼,涙腺,唾液腺,心臓等には極めて弱くその副作用は殆どないと云う利点を持つと云われている。産科的にも此の作用から子宮口の痙攣を緩和し子宮口の開大促進,分娩時間の短縮をはかる上に応用出来るわけである。私達はドイツC.H.ベーリンガーゾーン社から発売されているヒヨスチンNーブチルブロマイドを合成したブスコパンを使用した50例,又同様副交感神経遮断剤として消化性潰瘍に用いられているトロピンはD.L.トロピルトロペートNメチルブロマイドでその作用も前者と類似するものと考え,トロピンを用いた50例,計100例について実験を行つたのでその結果を報告する。

妊娠中絶後に起る乳房腫脹,乳汁分泌等に対するジオール錠の効果

著者: 増田源三郎

ページ範囲:P.809 - P.810

 妊娠後半期に於いて自然に,または人工的に妊娠が中絶された場合や,分娩は正常に経過したにもかゝわらず不幸にも新産児が死亡した場合に,当然引ぎ続き分泌される母乳が欝積されるために,時には甚しい乳房腫張,疼痛を訴え,更に発熱を伴い肉体的には勿論精神的にも苦痛となる場合も多く従来は種々の対症療法が講じられ,薬剤としてはスチルベン系製剤を用いたりして来たが,特に有効な療法はなく,逆に次回の分娩に際しては乳汁分泌不全を招く結果となることもあつた。
 われわれは,本院に於いて妊娠5ヵ月以後の人工中絶を行つた者,及び流産,早産のため入院した者,及び正常分娩ではあつたが,新産児が分娩後間もなく死亡したため,母乳の分泌を抑制する必要の生じた入院患者の内から随意に例を選び,ジナール錠(田辺製薬)を投与し次の如き結果を得た。

カルチノフィリンの臨床経験例

著者: 石原恒二

ページ範囲:P.810 - P.811

 悪性腫瘍(子宮癌)に対し早期の手術的除去が最善の治療法であることに今日依然変りはないが,之が施行出来ない症例や術後療法には従来の放射線療法に加えて薬剤投与による化学療法が真剣に検討されるに至つた。近年抗癌性物質の研究の進歩に従つて色々な抗生物質が生産されたが,中でもカルチノフィリンなるものが最も脚光を浴び各所で追試され好結果が報告されている。特に末期癌に於ける自覚症状殊に愁訴の改善は注目に値する,私も最近若干例に使用する機会を得たので茲にその2例に就いて報告する。
 カルチノフィリンの溶解は1%重曹液2.0ccとし静脈内には更に20%ブドー糖20ccを混じ,局所には1%重曹液溶解のまゝ使用した。

コルポスコピー並びに子宮腟部試切時におけるトロンビンの利用

著者: 滝一郎 ,   田中哲夫 ,   川端健造

ページ範囲:P.813 - P.814

 近年癌の早期診断法に多くの改良,進歩が見られ,婦人科領域においても,子宮腟部癌の早期診断に種々の方法が併用実施されている。当教室では,腟内脱落細胞の塗抹染色及びAyre氏擦過法による細胞学的診断を行うと共に,Schiller氏ヨード反応,2%醋酸塗布法を併用したコルポスコピーにより腟部の撰択的試切を行い,その切除材料によつて必ず組織学的診断を行つて居る。
 コルポスコピーによる腟部の所見は極めて複雑で,悪性変化を示す癌巣を発見するためには詳細な観察を必要とする場合が多い。しかしわれわれの対象となる例の多くは,腟部に慢性糜爛を有しているので,コルポスコピーの実施中に糜爛粘膜より容易に出血し,観察を妨げ,簡単な清拭のみでは止血せず困惑することが屡々である。

子宮腟部糜爛のMetallo-chlorophyllinによる治療経験(第I報)

著者: 一宮勝也 ,   藤沢博 ,   岡俊勝 ,   稲田裕 ,   寺門運雄 ,   池沢新一 ,   畑中貢 ,   酒巻義人

ページ範囲:P.815 - P.819

1.まえがき
 日常,外来で多く遭遇する婦人科疾患の一つに子宮腟部糜爛があるが,その治療に対する抵抗の強さは,われわれ臨床家をしばしば悩している。これまでは,1)これに対して薬物による腐蝕療法 2)レ線紫外線等の照射療法 3)電気的焼灼療法,観血的切除法の如き方法が行われているが,根治的に病巣を除くのでなければ再発が起り,保存療法のみるべきものがない。
 最近,chlorophyllinの生物学的作用が注目され,その強い新生肉芽作用が外科領域,歯科領域で応用されているが,われわれはこれを子宮腟部糜爛の治療に試み,注目すべき結果を得たので,こゝに報告する。

急性外陰潰瘍に対する銅及び鉄—chlorophyllinの使用経験

著者: 一宮勝也 ,   黒坂浜郎 ,   岡本良平 ,   平野俊雄 ,   酒井和之

ページ範囲:P.819 - P.821

1.はしがき
 婦人科領域に於いて急性外陰潰瘍症は厚因不明であり,時に原因菌が云々されていながら治療が困難でもつぱら対症療法によつて自然治療を待つばかりであつた。近年,本症をMucocutaneus-ocular Syndromeの一部分症であるとの考えから新しい体質改善を目的とした全身療法が試みられ,石井等(1957)は,これによつて良好なる成績をえたと報告しているし,Cortisonがわずかに効果があつたとの報告もある。
 われわれはchlorophyllinが各領域に於いて目覚しい応用をみていることに注目し,最近,当科を訪れた4例の本症に使用してみた。即ち銅一chlorophyllinを局所に用いると共に全身療法として鉄-chlorophyllinを静脈内注射を行い,見るべき効果をえたので,こゝに報告する。

手術・手技・麻酔

婦人科疾患に対するCotte氏手術の効果について

著者: 小山茂男 ,   山田喜三太 ,   板垣昭一 ,   吉村震太郎

ページ範囲:P.823 - P.827

1.はしがき
 G.Cotteの所謂上部下腹神経叢切除による効果について現在迄幾多の報告があり,最近では自律神経症に対する報告もみられるに至つた。しかし之等の報告は殆んど総て直接効果についてであり,遠隔成績についての報告は少い。われわれは比較的多数の遠隔成績を通じて,これらの効果について検討し,併せてその奏効機転について若干の考察を試みた。

和痛分娩及び人工妊娠中絶に於けるエピロカインの使用例

著者: 安達将介 ,   中川嘉雄 ,   青木大吉 ,   大塚勝章 ,   多々良真 ,   佐々木達

ページ範囲:P.827 - P.829

 従来使用された局麻剤フロカインの欠点を除いたリドカイン,更に此の毒性を除去した新剤エピロカイン(エピと略)がエーザイより出された。最近私達は本剤の提供をエーザイより受けたのでこれを和痛分娩並びに人工妊娠中絶に使用していささかの結果を得たので之を報告致します。

症例研究

Chondrodystrophia foetalisの1例

著者: 石川矩子

ページ範囲:P.831 - P.836

緒言
 Chondrodystrophia foetalisのうち,侏儒として生存したものについては内科,外科,整形外科等に報告があるが,胎内死亡または出産時死亡する様な高度な例については,本邦では三谷(安太郎)(1934)1)の報告以来17例2)−15)を認めるだけである。私は最近Chondrodystrophia foetalisに遭遇したのでここに報告する。

双胎無腦児の症例

著者: 茅根竜平 ,   長瀬克慶

ページ範囲:P.837 - P.838

症例
 患者 ○島○子 36才 女中 家族歴:父は61才で脳出血にて死亡,母は63才で健在,本人は同胞4人中の末子で,うち3人の姉はいずれも早世している。家系には奇形を認めないし,本人夫婦は血族結婚ではなく,夫は41才で健康である。なお性病は否定している。
 月経歴:初潮13才,周期不順,持続3日間,経時障害として下腹部緊満感がある。終経昭和32年9月3日より3日間。

先天性水頭症の1例

著者: 後藤義雄 ,   竹村幸子

ページ範囲:P.839 - P.841

症例
 母:福○輝○30才,初産婦 母の既往歴:生来健康著患なし。初潮15才5ヵ月,以来順調,周期27〜28日,持続4〜5日間,経血量中等度,月経障害はない。27才1ヵ月にて30才健康男子と結婚す。
 妊娠の経過:最終月経昭和32年1月27日〜5日間にして以後無月経となり,3月10日頃より悪阻症状が現われたので,3月25日本院産婦人科外来を訪れた。当時内診所見は子宮前傾屈,やや大やや軟にて左右附属器触知せず,腟鏡診にて子宮腟部にリビド色呈するを認め妊娠2カ月末と診断す。梅毒血清反応陰性,胸部打聴診及びX線透視上異常を認めず,他に合併症なし。5月下旬(妊娠5ヵ月初)胎動自覚,6月20日(妊娠6ヵ月初)児心音聴取可能爾来定期診察にて浮腫も認めず,尿蛋白陰性,血圧も正常で妊娠の経過は順調であつた。しかし,外診上児頭及び臀部の鑑別困難にして8月30日(妊娠8ヵ月末)に至り初めて恥骨上に浮球感移動性を有する児頭を触知し得た。児背部は母体右側,小部分は左側に存し,児心音は右側に明瞭に聴取したので第二頭位として観察し,9月20日(妊娠9ヵ月中)の定期診察時も外診上同様第二頭位であつた。しかるに10月9日(妊娠10ヵ月初)の外診所見に於いて,下腹部緊満のため下向部確認困難なるも,上方に移動性ある球形胎児部分を触れ,これを児頭として観察し,児背部及び児心音聴取部は前同様母体右側なるにより,外診上第二骨盤位と診断した。

診断困難なりし妊娠子宮筋腫の1例診断

著者: 野口正 ,   斎藤金三郎 ,   西村正

ページ範囲:P.843 - P.845

 子宮筋腫が妊娠分娩に対し種々の障害を来すことは論をまたないが,その程度は筋腫の種類,発生部位,大きさなどで極めて種々である。子宮筋層内筋腫の場合には粘膜下筋腫と異り妊娠,分娩に対する影響は少いとされているが,これが大なる場合には妊娠の持続,分娩経過を困難ならしめ流産,分娩異常を招来するであろうことは容易に推測し得る。
 われわれは妊娠10ヵ月に合併した子宮下部の大なる筋層内筋腫で,子宮体を卵巣嚢腫と誤診し帝王切開を行い,筋腫を核出した1例を経験したので報告する。

日常診療メモ・Ⅱ

開腹術後の癒着障碍に関するメモ

著者: 清水直太郎

ページ範囲:P.846 - P.849

 開腹術後に腹腔内の異常癒着が起ることは相当に多いと思われる。その中には他の疾患のために再開腹した際に偶々認められる迄,全く自覚症状のないものがあるが,仮面癒着性イレウスの重篤症状を来して,そのために再手術をしなければならぬものがある。また術後の癒着で卵管が再び不通になり,卵管開口術の目的が達せられなかつたり,術前よりも却つて苦痛が増して困惑することもある。一般に既往に開腹術をうけている患者の診断に当つては,術後の癒着によるものでないかを常に考慮しておかねばならぬ。術後癒着は再手術で剥離しても再び癒着することが非常に多く,不幸な場合には再三手術を反復しなければならないし,また手術を反復するにつれて癒着が高度になり易いから,癒着障碍は苦痛,病状の許す限り姑息的,対症的に加療するのが原則である。従つて開腹術時には癒着の起る可能性を少なくするように,手術操作に細心の注意を払うのは勿論,更にたとえ今日のところ確実な方法はないが,多少でも価値が認められる種々の癒着防止処置を行うべきである。それには次のようなものがある。
 A.先ず癒着を抑制する薬剤としては従来多数のものが試用された。例えばパパイン,ペプシン,バリダーゼ,ビアルロニーダーゼ,トリプシン(線維素溶解による癒着防止),尿素,ヘパリン,ナイトロミン,ACTH,コーチゾン(線維素析出阻止による癒着防止)等が主として局所的に使用された。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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