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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科14巻1号

1960年01月発行

雑誌目次

特集 産婦人科診療の今昔 婦人科学

頸癌手術の合併症に関する今昔—往時に頻発した合併症を顧みて

著者: 安藤畫一

ページ範囲:P.5 - P.6

 最近となつて術中は勿論・術前術後の処置法が驚くほどに進歩したために,頚癌の根治手術にも合併症は著しく稀有となつた。術中前後の処置に甚しい不備があつたために起つた往時の合併症を回顧することは,その当時を知らぬ新人諸君の参考となることが大と信じて,特に重大で現在には稀有な直接死・術後感染症・尿瘻の3者に就いて,特にその成立に関して叙述する。

帯下療法

著者: 笠森周護

ページ範囲:P.7 - P.18

Ⅰ.帯下の原因療法
 帯下は各種産婦人科疾患の共有する一症候であるから,帯下療法は即ちこれら基礎疾患の療法に一致し,極めて広汎な問題である。更に帯下を診断するには,性器各部の生理的機能と正常内容に関し,或いは帯下に関する広範囲な検査法に就いての知識を必要とするが,こゝではこれらの諸項に関しては総て省略し,主として現今の帯下療法に就いて,実地に必須な事項の概要を述べうるに過ぎない。本誌の標題に従えば,帯下療法の今昔に就いて述べるべきであろうが,刻々に前進する治療法を一瞥するだけでも,紙面が許さないので,過去の療法を顧慮するの暇が殆んどなかつたことを遺憾とする。

機能性子宮出血の原因と治療に対する沿革

著者: 小川玄一

ページ範囲:P.19 - P.23

 今日われわれは器質的疾患なくして起る不正子宮出血を一応機能性子宮出血と呼びならして来ているが,本症は現在にいたるも,なお,その本態が解明されず,それかあらぬか古くより時代時代により特発性子宮出血,子宮内膜増殖症,出血を伴う子宮疾患,真性子宮出血,卵巣性子宮出血,機能失調性子宮出血などと各種の名称が附されてきている。なお,近年はしばしば若年期出血,更年期出血の診断名の用いられることがあるが,それらは当然本症に加えられるべきものである。またここ数年来一般的傾向として,明らかな病的原因を欠く過多月経,過長月経,頻発月経などの一部のものが本症に含められようとしているが,人為的機能出血とも見做される通電を以てする出血,あるいは estrogen,progesterone またpro—stigminを用いて消退出血を臨床的に起しうるにいたつたことをも併せ考えると,本症の本態探究の上にも甚だ示唆に富むべきものがあるように思われる。

性ホルモン

著者: 白木正博 ,   赤須文男

ページ範囲:P.24 - P.28

 過去数十年の間の性ホルモン(以下ホと略記)の研究進歩はまことに顕著なものがあり,これらの詳細を記述することは紙数の関係上,許されぬことであるから,主要な項目について略記することとする。

卵巣機能殊に排卵期推定

著者: 松本清一

ページ範囲:P.29 - P.37

Ⅰ.はしがき
 卵巣の機能状態を知ること,殊に排卵期の推定に関しては,過去の多くの文献を概観してみると,凡そ1940年頃を境として時代を分けることが出来るように思う。
 昔,すなわち1940年以前は,月経と卵巣機能との関係,月経周期中における卵巣機能の変化,あるいは排卵の起る時期などに関して,もつぱらそれらの事実の探究に努力が払われ,主として開腹時の卵巣所見や剖検所見などから基礎的な論争が行われていた時代である。これに反し1940年以後は,種々の卵巣機能検査法が発展し,それによつて臨床的に卵巣機能の変化を把握出来るようになり,排卵期の推定に就いても簡便な臨床的判定法が色々と発表されて,既に単なる,学理上の問題としてではなく,疾病の診断や治療に応用される実地上の問題となつてきた時代である。

不妊症診療

著者: 篠田糺

ページ範囲:P.39 - P.43

 私が大学を卒業したのは大正6年12月で,医局に入つたのが7年1月であるから,今から満42年の昔となつた。その頃の話をしても今の方々にはピントが合わないだろうが,ふり返つて見れば医学は長足の進歩をしたものだ。医学に限らず,すべての科学と文化の発展は全く驚ろくばかりである。その当時には夢物語と考えられていたことが,現在沢山に実現し,実施され,むしろ普通になつている今日だから,昔話は今から見れば滑稽にさえ見えるだろう。
 不妊症の診療に限らず,医学全般についても,その当時は油浸の顕微鏡とレントゲン発生装置(器械整流ですぞ)が主要な設備であり,膀胱鏡も大切な器具の1つであつて,化学研究室には孵卵器と天秤とピペット,ビューレットと化学薬品等がある位で,定量,定性分析は主として点滴法によつたもの。細菌検査も数種の培養基と色素とで,組織検査も数種の染色法に過ぎなかつた。従つて細菌の分離培養は困難であり,細菌の大凡の分類ができれば上等の方であり,組織では病変の程度,腫瘍の種類を決定すれば満足し,機能上の変化などほとんど不可能であつた。

麻酔

著者: 中島精 ,   竹村敏朗

ページ範囲:P.44 - P.48

 麻酔法の今昔というも,私が麻酔を知るようになつたのは,大正の末期のことであつて,それ以前のことはあまり知らない。1842年米国の外科医Crawford William Longがエーテル麻酔法を発見せし時に始まるという。エーテルが発見せられたのはその以前なりという。1844年には米国のHardfordの歯科医Horace Wellsは亜酸化窒素麻酔法を発見した。1846年にはBostonのMas—sachusetts General HospitalにてMortonとJacksonが麻酔手術を公開し大成功をなしたが,両者は優先権論争し,両人ともその末路はあわれなものであり,歯科医Wellsの末路は悲しむべき自殺となつたことは麻酔史の悲劇である。何れにせよBostonにおける公開麻酔より,エーテルは英独仏の欧州に拡がつたことは事実である。多くの医学が欧州に勃興したのに対して,麻酔法が米国に始まつたということは興味あることで,近代手術が米国に急速な進歩を遂げたことは,この麻酔法の進歩に与ること大なるを思わしめる。エーテル麻酔法の発達と共に他方英独仏三国においてそれぞれ別々にクロロホルムが発見せられて麻酔作用がありとし,1847年仏のSédillot が始めて麻酔に応用したという。

化学療法

著者: 赤須文男

ページ範囲:P.49 - P.56

 今日われわれが最も大きは恩恵を蒙つているのは化学療法である。もつともこの中には抗癌療法も編入されているが,これはまだ今後に期待しなければならない。しかしいわゆる抗菌療法に関する限りは,恐るべき産褥熱,肺炎,手術後の炎症疾患など殆んどおそれる必要がなくなり,肺手術も抗結核剤の発見により,その適応症は著しく狭められた。
 化学療法はその主体をなすものは抗微生物療法であるから,先ずこれを述べ終りに,他の項目についてちよつと触れるに止めたい。

子宮癌早期診断法

著者: 石川正臣

ページ範囲:P.57 - P.62

Ⅰ.はじめに
 子宮癌はその診断の時期が遅れ,治療の時期を逸すると,まことに悲惨な経過をとる疾患であり,患者に堪えがたい苦痛を与え,その生命を奪うものであることは今日これを知らぬものはない。昔は癌は不治の疾病とせられ治療は単に対症療法に過ぎなかつたから診断を早くつけなければならないということはなかつたであろう。
 佐藤1)によれば子宮癌の治療には最初薬剤が用いられ,例えばR.Chrobak (1887)は発煙硝酸を,G.Leopold (1898)は濃厚石炭酸を,またThierschは硝酸銀を,J.Schramm (1888)は昇汞塩化ナトリウムを,A.Mosetig-Moorhof (1892)はメチレン青を,H.Schultz (1892)及びVulliet (1894)は純アルコールを用いている。これらのものは全く対症的の療法である。次に手術的療法に関しては,古くから考えられていたようではあるが,子宮腟部癌を腟の方から切除する方法は18世紀の終りにはひとびとによつて考えられたことである。子宮癌の手術はドイツにおいて最も早くそして熱心に研究せられて発達した。1801年にF.B.Osiander は子宮腟部癌の切断を初めて行つた。その後もこれはいろいろの人によつて行われたが結果はすべて不良で,出血と伝染とのために直接死亡するばかりでなく再発のために死の転帰をとつたということである。

レ線治療法

著者: 白木正博 ,   清水直太郎

ページ範囲:P.63 - P.68

 臨床婦人科産科誌が昭和21年7月創刊以来,第150号発行の記念に,産婦人科診療の今昔と題して特集されることは温古知新の意味で真に有意義なことなので,祝意と賛意を表してレ線治療の今昔を著者等の経験を中心にして述べることにした。レ線は発見された翌年1896年には既にベルリンにおける医学会でその医学価値が認められ,1900年パリでの医学会では診断に極めて枢要なものであるとされ,治療面でも表在性疾患に実用されると云うように,数年の間に真に急速に診療上の寵児となり,今日の輝かしいレ医学の基礎を築いた。それから60年後の今日も尚止まる処を知らないように前進が続いており,その間の変遷は全く目まぐるしいものである。わが国に於けるレ医学は著者等の知る限りでは1904年芳賀氏が欧洲から持ち帰つた装置で診療したのが始まりで,同氏は北清事変,日露戦役の際に戦地で活用している。わが国産婦人科領域に於けるレの治療では大正初期に著者(白木)が多くの基礎実験の結果に基いて,子宮の癌腫,筋腫,その他に用いて有効なことを詳報したのが始まりで,それ以後急速に広く採り上げられるようになり,今日の盛況の発端となつた。著者(清水)が入門した昭和6年には九大産婦人科で白木教授の下に極めて活溌にレ診療の研究が進行されていた。

半陰陽についての知見

著者: 落合京一郎

ページ範囲:P.69 - P.77

 半陰陽に関する知見は,こゝ数年のあいだに著しく豊富なものになつた。しかしそれとともに,解釈の難かしい問題とか,再検討を要する課題も新しく提起されるに至つている。
 すでに筆者は自家経験の半陰陽例をもとに,文献をも参照して半陰陽の分類私案を発表した(第1図)。以下にも述べるように,この分類私案は不完全なものではあるが,便宜上これを中心にして,半陰陽について最近明らかにされたことや今後の検索を必要とする問題点などを記述することとする。

受胎調節及び家族計画

著者: 森山豊

ページ範囲:P.79 - P.85

Ⅰ.妊娠調節の今昔
 人間がいつ頃から妊娠調節の知識をもつようになつたかはつきりしない。しかし妊娠という現象があるかぎり,何らかの方法で,人口制限が行われていたにちがいなで。
 しかし,妊娠成立機序が不明であつた昔は,合理的避任などは行われず,妊娠や出産後に胎児や生児に処置したもので,わが国では,マビキ(間引)と云われた。

産科学

子宮後屈症及び子宮内膜炎

著者: 岩田正道

ページ範囲:P.86 - P.90

はしがき
 自分が大学を卒業してすぐに東大産婦人科教室に入れていたゞいた頃には毎日の婦人科外来診察では子宮内膜炎又は子宮実質内膜炎という診断がかなりに多く,これに対して毎日腟洗滌を行いイヒチオール・グリセリンを浸したタンポンを挿入しておつた。またその頃には子宮後転症に対して手術療法を適切と認めた症例が現在に比べると実に桁違いというてよい程に多く,その当時東大教室では主任教授の磐瀬先生と助教授とが隔日に執刀されていたが,毎週少くとも1〜2例の子宮矯正位手術があつたと記憶している。
 かような状況はおそらく大正末期まで続いておつたと想像されるが,各領域における研究によって従来の誤解,偏見が逐次是正さるるに到つた今日,子宮内膜炎という臨床診断名や,所謂子宮後屈の手術等は共に著しく少くなつたので,往時,といつても略3〜40年前の頃を追想すると真に隔世の感がある。

新生児溶血性疾患

著者: 小川猛洋

ページ範囲:P.91 - P.95

Ⅰ.まえがき
 本症は胎児赤芽細胞症,新生児重症黄疸,先天汎胎児水腫等の名称で呼ばれて来た疾患で,家族性重症黄疸ともいわれ,赤血球の破壊,有核赤血球の増加,貧血,肝臓および脾臓の強度腫大等を特徴とし,17世紀に初めて記載された。その本体に就いては以前は1.単に生理的黄疸の増悪したもの。2.母体の新陳代謝産物に依る胎児の中毒。3.(先天)梅毒性肝炎。4.敗血症,Winckel病,Buhl病。5.網状内上皮細胞組織の機能失調。 等とされ,生後急速に黄疸が発生増強し,無気力,昏睡,痙攣等を伴い,予後が著しく不良,多くは生後数日で死亡し,その治療法も不明であつた。然るにLandsteiner1)及びWiener (1940)に依るRh-Hr式血液型の発見,Levine2),Stetson (1939)の臨床実験以来,その病因が明らかに説明される様になつた。即ち母体が所謂Rh (—),胎児がRh (+)の場合,換言すれば母児がRh-Hr式血液型に就き不適合の場合に,母体が胎児のRh (+)血球に依り同種免疫されてその血行内に抗Rh抗体が生じ,之が妊娠中,又は分娩時,胎盤循環を通じ胎児に移行して,その血球を凝集乃至溶解する結果,こゝに一連の溶血性疾患が惹起される。之が即ち本症である。爾来その治療に対する研究も益々発展するとともに,原因となる抗体にも多数の種類がある事が明らかになつた。

産褥熱診療

著者: 水野重光

ページ範囲:P.97 - P.102

Ⅰ.まえがき
 戦後医学は急速に進歩した。ペニシリン(PC)に始まつた幾多の抗生物質の発見は微生物による感染症の予防並びに治療に大きな貢献をもたらした。わが領域における産褥熱もその恩恵を蒙つた疾患の一つで,妊娠中毒症,出血と共に妊産婦死亡の三大原因の一つとされていた本症も最近は死亡率が低下して,その占めていた第3位を子宮外妊娠に譲つたほどであり,重篤例に遭遇することは甚だ稀となつた。もちろん産褥熱による死亡率の低下は抗生物質の臨床応用後に始まつたものではなく,サルフア剤の使用普及により既に著しく促進されたものである。従つてサルファ剤や抗生物質の進歩に伴い,重篤状態に陥つたものが総て救われるわけにはいかないにしても,産褥熱の治療が容易となつたことは確かであり,起因菌の検索が早期に施行され,これに対応して化学療法が適切に行われるならば重症に陥らずに済む場合が非常に多くなつた。さらに感染予防措置にも自信が深められ,帝王切開なども,少なくとも感染という点に関しては適応が拡大された。
 しかし一方において化学療法剤の濫用というべきほどの使用の影響として,感染症起因菌側の状況が変化し,薬剤耐性菌の漸増傾向が現われ,治療薬剤の選択に慎重を要すると共に,病院などでは院内に温存されている耐性菌によるいわゆる院内感染という新しい事態にも注目しなければならなくなつた。

未熟児の哺育

著者: 久慈直太郎

ページ範囲:P.103 - P.108

 わが国で未熟児哺育の問題がとりあげられるようになつたのは,最近10年許り前からである。其頃小児科方面の人で此問題について纏つた研究をしたのが見当らない。只産科方面の雑誌に之についての研究が散見する程度である。然しながら欧米では以前から小児科方面の文献に時々その報告が見られていたが,その研究も今日から見ればまだ幼稚なものであつて,小児科の医師が小児疾病の治療を行う余暇にやつた位のものに過ぎない。
 わが国で此問題が世人の注目するところとなつたのは,戦後 WHO からわが国の政府に向て此問題について指示があり,わが国からその要請によつて医師,看護婦,助産婦を此事の研究の為に海外に派遣したのが始まりであつて,其後WHOからの温育器の寄贈もあり,此等のものを中核として都立世田谷産院と日赤産院との2ヶ所が未熟児哺育センターとして出発することとなつた。

産科薬剤

著者: 安井修平

ページ範囲:P.109 - P.114

 産科薬剤の今昔の題下に私に課せられた問題は子宮収縮薬,利尿降圧剤,間脳遮断剤等である。医学の進歩が著しいと共に産科に於ける之等薬剤の進歩も亦驚くべきものがある。
 従つてその発達過程を詳述するときは到底与えられた紙面では出来ないことであり,簡単に記述する結果或る程度物足りぬ処があることは免れぬ。此の点予め読者の御了解を得ておきたい。

妊娠兼心臓疾患の場合の産科学的治療方針 殊に腹式帝王切開術の要否について

著者: 長谷川敏雄

ページ範囲:P.115 - P.116

 此処に云う心臓疾患とは,各種の器質的疾患を指すもので,軽微な収縮期雑音,頻脈,呼吸困難,心悸亢進等を示すに過ぎない所謂心臓神経症は臨床上妊娠合併症としての意義を持つものではないから,含まれていないことを予め断つておく。
 そこで妊娠兼心臓疾患の場合の産科学的治療方針としては,嘗ては殊に妊娠の本症に及ぼす悪影響,就中心臓に加わる負担の増大から延いて代償機能不全の発来を主とするその重篤化を過大視するのあまり,直ちに人工妊娠中絶が必要とされた時代があり,他方幸に順調に経過して妊娠末期迄持続したとしても,異常な精神的興奮乃至努責等から,分娩時にはその突発が不可避であるとして,分娩は自然分娩ではなく腹式帝王切開術に依るべきであるとの説が支配的であつたこともあるが,今日ではそのような見解は大分変つて来た。以下その概要を述べて見たいと思う(詳細は本誌第10巻13号参照)。

性別判定法の今昔

著者: 安藤畫一

ページ範囲:P.117 - P.118

 性別判定法の今昔を,生後と生前とに分けて概要を紹介する。

帝王切開術

著者: 岩津俊衛

ページ範囲:P.119 - P.123

 古代 Roma では715〜673v.C 時代に於いて既に母体死に際して帝切を行つたとの記載が残つて居る。これはその根底に宗教的のものがあり,妊婦の死に当つて,胎児を除去する規定があつたためである。
 妊婦に治療的の意味で帝切を行つたのは21/IV1610,Wittenberg の外科医 J.Trautmannが独乙での鎬矢とされている。然し乍ら,帝切が治療法として一般に行われる様になつたのは第18世紀の中頃Simon,Levret,Stein etc によるものである。

妊婦結核

著者: 藤森速水

ページ範囲:P.125 - P.129

Ⅰ.緒 言
 今回「産婦人科診療の今昔」という特集号が刊行されるに当り,「妊婦結核」の項目の執筆を依頼された。筆者が10数年来この方面に就き関心を有し研究を続けて来た経験から言うならば,妊婦結核の診療は昔と今と比較して非常な進歩が見られ,特に最近に於ける妊婦結核は,戦前の状態からは想像も出来なかつた程の一大飛躍を呈していると称しても過言ではあるまい。
 結核という疾患は1万年位前から人類を蝕んでいた事実は明らかであるが,「妊娠と結核」に関して医学界に論議されるようになつたのは19世紀の中頃からである。その後,医学の進歩のみならず,人口政策,宗教上の観念等と関連して,妊婦結核の対策は特にこの時代的推移を示して来た。これに関して叙述することは,医学史の一側面から見ても大変興味あることであるが,紙面の都合上,詳述する事は差控えて,要点のみを紹介して見よう。

妊婦梅毒

著者: 澤崎千秋 ,   中谷昭文

ページ範囲:P.131 - P.138

Ⅰ.はじめに
 梅毒の診断法と治療法の進歩発展は近時目覚しいものがあり,妊婦梅毒もこれに伴つて新しい分野を展開しつつある。妊婦梅毒が他の一般梅毒とちがう重要性としては,(1)胎児への影響即ち流早死産を防止し先天梅毒児の出生の危険を除くことに主目的をおき,(2)妊娠という限られた時期に有効な治療を必要とするが,(3)妊婦の特異性として使用薬剤の副作用が出現し易く,(4)最近の梅毒の一般傾向に伴つて陳旧性の所謂抗療性梅毒が増加していることが治療を困難にし,他方,(5)診断面では潜伏性無自覚の所謂不識梅毒の多い事と,(6)妊娠時の梅毒血清反応が非特異陽性を示す事があるために,診断をむずかしくしていることがあげられる。(6)に関しては,梅毒血清反応は,その鋭敏特異化を目的として現在,カルジオライピン系,梅毒トレポネーマ系の2つの反応系が創案研究されており,特に後者に属するT.P.I.Test 等により非特異反応の問題も解決への糸口を見出したと云えよう。
 治療の動向としても駆梅剤は砒素剤,蒼鉛剤から更にすすんでペニシリン製剤が一応妊婦梅毒の治療の理念を満足するものとして汎用され,近来では広抗菌性の抗生剤の使用報告も増し,抗療性梅毒の治療にみるべき成果をおさめている。一方疫学的にも妊婦の検血による陽性率の年次的変化は終戦後の昭和25年頃をピークとして漸減傾向を示している。

妊娠の早期診断

著者: 佐伯誠一

ページ範囲:P.139 - P.143

 今昔とはいうが,現在を知つている方々に重に昔語りをする事になる。妊娠の早期診断というと始終使われている言葉にもかかわらず,妊娠何ヵ月あるいは妊娠第何週から以前の診断を早期診断というか明らかでない。妊娠3ヵ月の初め又は妊娠2カ月の後半(最結月経より6週以後)でも,内診によつて容易に診断しうる場合もあるが,容易でない場合もしばしばあるものである。妊娠3ヵ月の初めならその診断ははなはだ容易だ等というのは医師としての油断である。それ位であるから,妊娠2カ月に至つてはその診断ははなはだ困難な事が多い。
 そこで古くから妊娠3ヵ月初期以前の診断には,内診の法のみでなく実験室で行う方法を以て診断の困離を補う事が考案せられていた。私共は妊娠の補助診断法という名称で講義を聴いたと記憶している。私の学生時代(1916〜1920)及びその後の数年はアブデルハルデン及び木内の反応(木内幹博士)がもつとも有力視せられていた。

狭骨盤の臨牀

著者: 橋爪一男

ページ範囲:P.144 - P.146

Ⅰ.狭骨盤の臨床的意義
 今昔物語と言う見方であるが,僅か40〜50年の間に日本人の体格がそう変る訳もないから,狭骨盤の定義並びにその存在に就いては変化は無い訳である。変つて来たのは狭骨盤に対する解釈特にその取扱い方に対する見解であろう。
 先ず狭骨盤の定義を検討して見よう。小骨盤入口に於ける径線の一つ又は以上が,平均値より短かく,従つて多くの場合にはその形状も変化し,普通の大さの胎児を娩出せしめるに当り,器械的障害を与えるものを狭骨盤と言うとされている。此の定義を表現する言葉には色々あると思うが,精神は大体こんな所であろう。骨盤は分娩通過管の一部であるから,此の骨盤入口丈を規定するのは多少異議があるが,入口が狭ければ内部,出口も小さいと割り切れば大体納得する。而も広く見渡して見ると,狭骨盤と言つても殆んどが厚みの足りない扁平性の骨盤で,之が臨牀上の問題を起している。真結合線の平均値11cmとすれば9cm以下のものが日常問題となり易い。

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再び研究書の出版について

著者: 金原一郎

ページ範囲:P.147 - P.147

 待望の所安夫博士の「脳腫瘍」がいよいよ出版されることになつた。A4判974頁・挿図874個・図表157個・18,000円の大冊である。一冊18,000円と云うと日本では最高価の書籍であり,医学書として勿論前例のない豪華版である。もつとも外国の医学書では一冊30,000円や50,000円のものは,そんなに珍らしいことではない。Schmolka:Cy—todiagnostik B5判161頁で 12,000円に較べれば,まだ安い方である。最近入荷したものではMoellen—dorff:Mikroskop.AnatomieBd.4 Tei14. 31,800円 Lubarsch:Handbuch Bd.13 Teil 3. 29,800円の如きがある。
 それでも研究者にとつては必読書なので,高い本だとこぼしながら買い求めざるを得ないのである。この4月医学書院で開催した外国医書展示会でLubarsch:Handbuch (既刊分だけ562,660円) Bergmann:Handbuch (既刊分だけ248,680円)など陳列まもなく売切れてしまつた。私が毎度申し上げる言葉であるが(良いものは必ず売れる,必要は高価のものを買わしめる)と云う学術書の鉄則がここでも如実に示されている。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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