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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科14巻12号

1960年12月発行

雑誌目次

追悼文

故白木正博先生

著者: 長谷川敏雄

ページ範囲:P.1053 - P.1055

白木正博先生御略歴
本 籍 長野県南安曇郡三郷村大字明盛1609番地
現 住 所 右に同じ

山元教授の急逝に想う

著者: 樋口一成

ページ範囲:P.1137 - P.1137

 名古屋大学医学部産婦人科教室,山元清一博士が11月8日脳卒中で急逝された。行年60歳,教授は明治33年1月15日,大阪府南河内郡長野町に生れ,富田林中学を経て,大正15年名古屋大学の前身愛知医科大学を卒業,昭和8年講師学位受領,10年助教授,30年以来教室を主宰されて今日に至つた。その間昭和16年学会に於いて子宮外妊娠の宿題を担当,23年より3期前後6年間に亘つて分院長を務められ,一方前々期及び今期の学会理事であり,尚次々回総会は開催地名古屋市,会長は教授と決定,既にその準備を始められた処であつた。私が初めてお目にかかつたのは,昭和7,8年の頃であつたと思うがはつきりしない。併し慈恵の教室で卵巣充実性腫瘍を集めているのに対して,初めから極めて親切に扱つて頂いた事はよく憶えている。第二次大戦中,当時の国策生めよ殖やせよの線に沿つてこれを推進する為,全国医学部産科関係の若い教授,助教授を集めて一つの研究班が作られた事があつた。その時我々もこれに加わり,以後はきさらぎ会の名のもとに総会の時,夏休みに又折にふれて寄合い,それにつれてお互の親密度が余りに厚くなつた為,老大家連の一部から青年将校グループという名前を頂戴したこともあつた。この親しさから皆本名を呼ぶ者はなく故人は名古屋の清ちやんで通つていた。今月4日私は対癌協会の仕事で名古屋に出向いた。

故大橋敏郎京大助教授

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.1138 - P.1138

 ドイツのキール大学に客員教授として出張中急病を得て彼の地に客死した京大産婦人科助教授大橋敏郎博士の教室葬は10月19日午後2時から,故助教授に最もゆかりの深い同大学医学部産婦人科講堂でしめやかにとり行われた。現在教室を主宰している三林隆吉教授の明年停年をひかえ,衆目の見るところ当然教授に昇任が予定され,そのような準備が進められており,むしろ今回の出張がそのはくつけのための感を与えていた際の突然の死であるだけに,教室ならびに関係者の驚愕と哀惜の念はきわめて大きいものがあつた。
 告別式当日は参列者多数のため講堂を第1会場として教室関係者に限り,別に第2会場を設ける盛大なものであつた。キール大学出張中の急病発現は,十二指腸潰瘍穿孔および輸尿管結石であつたが,頑固な坐骨神経痛治療のために用いた大量のプレドニゾロンが結果を悪くしたものと思われる。手術後一時経過はよく,数次の国際電話によつて病状の経過を見守り快癒を祈つていた教室員の望みもむなしく10月14日に逝去されたもので,急報によつて夫人の渡航も手続中であつたが,遂に間に合わなかつたという。異境の地にあつて発病しながら最後までキール大学関係者をして,最もすぐれた紳士であると感激させた態度は,渡航後の真摯な研鑚の成果と共に参会者の心を打つた点であつた。遺骨は,急を聞いてロンドンからかけつけた京大稲本教授の手によつて故国にもたらされたので,稲本教授からはその経過の報告があつた。

グラフ

カンジダの簡易迅速検査法(速報)

著者: 佐々木寿男 ,   金英根

ページ範囲:P.1057 - P.1058

 外陰・腟カンジダ症の診断決定には,検体の分離培養を行うことが最も確実であるが,培養と云うことになると,多忙な一般臨床家にとつては必ずしも気楽に実施し得ない憾みがある。しかるにM.M.Cohenが皮膚糸状菌症の診断時に実施した,万年筆用インクを利用する直接検鏡法は,甚だ簡易でわが領域でも応用可能である。
 方法は先ずParker 51 superchromc blueblack inkの10ccに20%KOH液20ccを混和した液を調製しておく。本液は調製後直ちに使用出来,しかも保存が可能である。次に生理的食塩水を盛つた載物グラスに腟分泌の少量を採り,これに上記液1〜2滴を滴下混和して5分間以上放置後,カバーグラス(大型,32×24mm)を置いて検鏡する。するとカンジダ陽性の場合は,青白色の視野に擬菌糸体及び分芽胞子の形が無染色のまま透明状になつて認められる。(写真図)之に対し陰性の場合は視野全面がインク色を呈するのみで,これらの特有の形態が認められない。更に自然乾燥後の標本を見ると,色調は逆になり,透明な視野の中にカンジダがインク色に濃染して認められる。本法では他の細胞成分や腟トリコモナス併存時のトリコモナスまでも溶解消失がしてしまうので,検鏡時の所見が甚だ単純化される特徴である。

臨床研究

外妊の補助診断に関する一考察

著者: 久保木元

ページ範囲:P.1059 - P.1066

 外妊は戦後増加し,特にわが国の場合,その死亡率は高いと云われている。外妊増加の原因として抗生物質の進歩,特にわが国では人工中絶の増加が指摘されている。即ち各種卵管感染の機会の増加した反面,その治癒も亦容易とはなつたが,同時に卵管の不完全閉鎖の状態で放置されるものが多く,外妊増加の原因となつている。外妊の診断は問診により推定される場合が多いが,ダグラス穿刺は之に確診を与える。
 外妊とは思わないが,念の為と思つて施行したダ穿刺により,矢張り外妊であつたかと云う事は時折経験する処である。之は特に疼痛の著るしく軽い,時には本人が全く自覚しない様な場合に認められる。ダ穿刺陽性率は三宅の調査に依れば,85〜97%,約92%である。ダ窩に血液が存し,穿刺針が之に到達する限り,100%陽性となる筈であるから,斯る要因を阻げるものとして,ダ窩が癒着により閉鎖されているが,子宮後屈等でダ窩への針の刺入困難,或いは,ダ窩の血腫内に針を刺入して,血液が殆んど吸引されぬ等が考えられる。清水は附属器,腸管の癒着でダ窩が閉鎖されている1例を上げているが,ダ穿刺陰性の場合一般には針の誤入が多いのではないかと思う。

文献抄録

Oxygen tension in maternal and fetal blood, amniotic fluid, and cerebrospinal fluid of the mother and the baby,他

著者: 山下徹

ページ範囲:P.1066 - P.1066

 酸素電極を用いて母動脈血,絨毛間腔血,臍帯血及び母児の脊髄液の酸素分圧を測定した。この際,空気呼吸と100%酸素5分間吸入の2群にわけて測つたところ100%酸素呼吸群の場合に酸素分圧の上昇を認めた。

実験的研究

Gonadotropinの電気泳動について

著者: 宮本璋 ,   尾崎崇 ,   鈴木弘子 ,   藤井久四郎 ,   助川幡夫 ,   矢後謙次 ,   熊坂高弘 ,   田中寿一

ページ範囲:P.1067 - P.1071

Ⅰ.緒論
 性腺刺激Hormone (Gonadotropin.Gona—dotrophic hormone,G.)がProteohormonであることから濾紙電気泳動法が此の研究に応用できるであろうことは前から考えられていた。
 Stran & Seegar (1953,1954)等はGを含む物質を濾紙電気泳法を用いて泳動して妊娠診断の可能性を報じており,またSchneider & Frahm(1955,1957)は濾紙電気泳動法により絨毛性Gが5つの分画に分れることを述べており,其の生物学的活性度は第3と第4の分画に現われていると報告し,更に妊馬血清性Gを同様に泳動してそれらの生物学的反応をみたところ,FSH (Fol—licle Stimulating Hormone)作用の他にICSH(Interstitial Cell Stimulating Hormone)作用も認められたと報じている。

尿中Gonadotropinの研究(予報)—殊に尿中蛋白の濃縮並びに其の電気泳動に就いて

著者: 藤井久四郎 ,   助川幡夫 ,   矢後謙次 ,   熊坂高弘 ,   田中寿一 ,   宮本璋 ,   尾崎崇 ,   鈴木弘子

ページ範囲:P.1071 - P.1072

 著者等は先にGonadotropin (G)製剤であるHypohorin (下垂体性G)(帝蔵)とSynahorin(混合性G)(帝蔵)及び初期並びに末期の胎盤性G精製末について電気泳動を行い,更に生物学的反応を検索し,Gの成分が同時平行泳動を行つた人血清のほぼβ位に近く現われることを認めたが,更に人尿中のGについても電気泳動を行い,併せて生物学的反応により其の性格の検討を加えたので報告する。
 尿中Gの測定には種々の方法があるが原尿そのままではGの含有量が少なく,又毒性が強いのでそのままで生物学的検定に応用することができず,其の為尿中Gの収量を上げる為にはこれを如何に濃縮するかが問題となつていた。即ち一般に尿中物質を濃縮しようとする時にはその濃縮操作に随伴して当然他の物質,例えば塩類,尿素其の他が同時に濃縮されるので,所期の成分例えば蛋白等はその為に変性を起すことも十分考えられ,これらの理由から尿中の少量物質就中蛋白の分離濃縮は吸着法の他に適当な方法がなかつた。

卵巣Cholesterol代謝に及ぼすGonadotropin及びAscorbin酸の影響について

著者: 安藤晴弘 ,   堀口啓雄 ,   山本満 ,   内藤正之 ,   吉田富佐男

ページ範囲:P.1073 - P.1077

 Gonadotropin (以下G)作用がAscorbic acid(以下AA)の投与により増強されることは従来より知られており,松島1)もこの事実を認め,また河原,大谷,竹内2)も絨毛性Gが卵巣AAを減少せしめることを報告している。私共もラット,家兎,モルモットを使用しG作用とAA及びCholesterol (以下C)代謝との関係につき実験したので報告する。

薬剤の臨床

静注用Pyrrolidinomethyl-tetracyclineの血中濃度並びに臨床試用成績

著者: 青河寛次 ,   別役英志郎

ページ範囲:P.1079 - P.1082

Ⅰ.はじめに
 Tetracycline (TC)は現在最も汎用されているBroad Spectrumを持つAntibioticsであり,その製剤も種々改善されて今日に至つている。しかし,本剤の静脈内投与が殆んど行われなかつたのは,TC又はTC-HClの溶解度が0.5mg/cc,125mg/ccで難溶性であり,時に,血管痛・静脈炎・血栓症などの副作用を来すことがあつたためである。
 1958年Siedel W.,Söde A.,& Linder F.が報告したTCのアミノメチル化誘導体たるPyr—rolidinomethyl-tetracyclineは,1)中性附近のpHで1250mg/ccの溶解度をもち,2)静注により24時間になお抗菌力がのこつていること,3)一般的副作用がないこと,等々の点が優れているという。

子宮収縮剤内服錠「パルタン」の使用経験

著者: 中村正六 ,   針谷成夫 ,   浜田宏 ,   鈴木孝 ,   田中清 ,   松井一郎

ページ範囲:P.1083 - P.1085

Ⅰ.緒言
 妊娠中,極めて大きく伸展せる子宮筋線維は,分娩開始と共に急激に収縮し,胎児を圧出し,更に胎盤を圧出して,再びもとの大きさまで復古し,次の妊娠の時期を待つ。この胎児圧出から胎盤圧出までは短時間に行われ,その間は常に医師又は助産婦の監視の下にあるため,事故に対しては直ちにそれに対する処置がとられるが,それ以後に対しては,医師,助産婦も,褥婦も家族も,分娩終了の安心感から気をゆるめ,兎角障害が起りがちである。その例として,弛緩出血,子宮内感染等があげられる。弛緩出血は分娩終了後比較的早い時期に起るため,まだ敏速な処置をとることが出来るが,子宮内感染は,子宮内にたまつた血液が,細菌に対する最良の培地となり,又体温が細菌培養に最適な温度であるため,非常に早く繁殖するが,それでも尚症状として出現するまでに数日を要するため,症状が出てから治療したのではむしろ遅すぎるの感がある。それだからといつて,分娩後に全例に抗生物質を使用するのは無駄であるので,これの予防の最もよいものは分娩終了後なるべく早く子宮内出血を止め,子宮を収縮せしめて子宮内に血液のたまるのを防ぐことである。

褥婦の貧血に対する「ヘマトン」の使用経験

著者: 稲垣豊 ,   朝野幸郎 ,   小岩宏

ページ範囲:P.1087 - P.1089

Ⅰ.まえがき
 妊娠中の鉄欠乏状態が重要な意義をもつていることが明らかとされ(Albersら),またHeilmeyerの内科学教科書にも鉄欠乏を惹起する因子と,妊婦においては鉄の必要量が増加していることが明記されている。妊娠のために起こる鉄の必要量増加はFullertonによると約500mgといわれ,このような鉄必要量増加に応ずるために,母体の貯蔵鉄が動員され血清鉄が一過性に上昇する。また,分娩は通常100〜200mgの鉄を失うことに相当するから,分娩直後における血清鉄の量は平均96γ%に低下している。さらに出血の多かつた場合には50γ%にまで低下し,正常の授乳では200mgの鉄を必要としている。母乳の鉄含量が産褥8日目に最高となるとNeuweilerは報告しているが,何れにせよ妊婦あるいは褥婦は400〜500mgの余分な鉄を必要としていながら,しばしば栄養分として吸収し補うことが出来ないし,その上妊娠中は胃液が無酸〜低酸症になつていることが多いので,鉄吸収も悪くなつて居り,また妊婦における蛋白欠乏も鉄欠乏による貧血に関係があつて,多くの統計は,諸般の事情から妊褥婦がしばしば鉄欠乏状態となり易いことを示唆している。
 かように,鉄欠乏性貧血あるいはその準備状態にあつて早晩何らかの治療を行なわなければ強度の貧血を起こしうる妊婦あるいは褥婦に対しての治療措置は,ともすれば従来等閑に附され,忘れられていたかに思われる。

Erythromycinの新誘導体Erythromycin Propinonateの臨床経験

著者: 佐藤彰一 ,   守谷勢裕 ,   高倉清 ,   湯沢一晃 ,   吉沢宏夫 ,   多々良真

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 抗生物質の発展は目覚しく,その止まる処を知らぬ有様である。アイロタイシンはフイリッピンで採取された土壌より分離したStreptomyces erythreusより産生される抗生物質である。これはアイロタイシンと名附けられ,臨床に提供せられ,その高い抗菌性の為に種々なる感染症に使用せられ,高い治療効果を得つつある事はよく知られた事である。そして更に臨床的に価値高き形のアイロタイシンを求めて種々なる化学的操作が行われ,或る種の誘導体の血中抗菌性を高める事がわかつた。その中でプロピオンエステルがその抗菌性最も高い事を知つた。そしてエリスロマイシンプロピオンエステルの製剤化に成功し臨床に提供せられるに到つた。依つてその大略を紹介すると共に臨床使用例を報告し参考に供する次第である。

子宮収縮止血剤(「パルタン 錠)の使用知見

著者: 稲葉芳一 ,   三尾衛 ,   米光洋 ,   水野金一郎 ,   竹内敦敏 ,   山田幸生

ページ範囲:P.1097 - P.1100

Ⅰ.緒言
 分娩,並びに産褥時の出血量の多寡が産褥婦の予後を大きく左右する因子であることは言を待たないところであり,従つて子宮の収縮を促し出血量を出来るだけ軽減せんとする企ては古くより試みられて来たところである。而して従来本目的のために使用されて来た麦角剤,下垂体後葉製剤,硫酸「スパルテイン」等の子宮収縮剤,及び各種止血剤には各々その使用法並びに効果の点で一長一短があり満足し得るものでなかつた。
 然るに,今回持田製薬より発売された「パルタン」錠には収縮剤としてマレイン酸エルゴメトリン及び硫酸スパルテインを,止血剤としてメナジオン(ビタミンK3)及びアドレノクロームを,又子宮収縮時の疼痛除去剤としてピラビタールを含有する経口錠であり合目的の良剤と考えられたので其の試供をうけ産褥初期及び人工妊娠中絶後に使用し,従来前記目的のため投与していた麦角浸剤と対比して臨床観察を行つた結果,良成績を得たのでここに報告する。

後期妊娠中毒症に対するHydroflumethiazide (Rontyl)の使用経験

著者: 吉川栄 ,   上野雅清 ,   水野慶一郎

ページ範囲:P.1101 - P.1106

はしがき
 後期妊娠中毒症の治療には,従来安静,食餌療法の下に種々の降圧並びに利尿剤が使用され,その治療成績も漸次向上を示しているが,利尿,降圧の両者に有効な薬剤は未だ少数である。
 しかるに1957年Novello & Sprague等により合成されたChlorothiazideは,利尿並びに降圧作用が著るしく且つ副作用の少ない薬剤として注目されたが,次いでその誘導体であるHydrofl—umethiazideが登場し,更に強力で副作用が少ないとされている。本剤は第1図に示すようにChlorothiazideとはCl基がCF3に置換されていることと,サイアダイジン環に2個の水素が入り二重結合がなくなつている点で異なつている。

症例報告

卵巣嚢腫と誤診せる曠置された腸管における膜様包裏症

著者: 赤見良成 ,   赤見純子

ページ範囲:P.1107 - P.1109

Ⅰ.緒言
 腸管の膜様包裏なる名称は日本医科大学の塩田教授の命名によるもので昭和2年最初の症例が報告されて以来約80例が記載報告されているに過ぎない稀な疾患である。特に産婦人科方面に於いては2〜3の文献を見るのみである。

妊娠に合併せる子宮頸癌について

著者: 石原実 ,   山尾登美子

ページ範囲:P.1111 - P.1116

Ⅰ.緒言
 妊娠と子宮頚癌との合併は妊娠可能期と子宮頚癌の好発年齢とのずれから少ないものであるが,尚比較的遭遇するものである。一般に妊娠に合併した頚癌は手術可能のものが多いとされているが,その理由として妊婦であることから出血に対して特に敏感で,早期に医師を訪れるものが多く,又癌の進行初期のものでなければ妊娠する可能性が少いこと等があげられる。しかし永久治癒率からみれば妊娠頚癌は非妊頚癌に比し必ずしも良好とは言えない。即ち妊娠の癌進行への影響に対しては促進説,抑制説,中間説の3説があり定説をみていないが,早期発見,早期手術の鉄則は妊娠時も非妊時も変りない。
 最近ホルモンと腫瘍の関係が論じられ,妊娠と頚癌との合併は興味深い問題であるけれどもこの分野に関しては今後の研究にまたなければならない。

シンポジウム

日本産科婦人科学会東京地方部会第88回例会—習慣性流早産に対する外科的療法

著者: 斉藤幹 ,   飯塚理八 ,   官川統 ,   小林隆

ページ範囲:P.1117 - P.1134

 司会 只今から"習慣性流早産に対する外科的療法"に関してシンポジウムを開催いたしたいと存じます。果してこういう題名が適切であるかどうかわかりませんが,もう少し具体的に云うと最近関心をひいている頚管無力症に対する外科的治療法の意味であります。頚管無力症によると考えられる流早産の問題は臨床的に重要で日常かなりよく遭遇しますが,それの治療をいかにすべきか,どんな方法がよいか,その成功率はどの程度であり,適応の診断は如何に行うか等々われわれ臨床家にとつて,大変重要でもあり興味のある問題だと思うのです。先般東京地方部会でやるシンポジウムの題目としてどんなものがよいかというアンケートが求められましたが,本問題に対する希望はかなり高いように見受けられました。本症の治療法に関しては,御承知のように未だ結論が得られておりませんし,外科的な療法の導入は内外共に日なお浅いことでもありますので,充分検討する余地のある問題だと思います。
 従いまして本日だけでこの問題の結論が出るとは考えられませんが,講師の方々はじめ皆様に充分討議して頂くことが出来れば今までよりもかなりはつきりしたものになり,また将来検討さるべき問題や方法が示唆されるという意義も生ずると思うのであります。一つの方向なり傾向が見出せるだけでもプラスになるわけです。

Shirodkar氏の来遊を迎えて感あり

著者: 安藤畫一

ページ範囲:P.1135 - P.1135

 先達東大の小林教授からの電話で,東大病院の集会場で催されたインド・ボンベイのShirodkar氏の講演を聴くことができた。同氏の名は昨年あたりから知られており,私の病院では白塚の日本名で通つている。その人に直接会いその考案した手術の講演を聴き映画を見ることのできたのは非常に嬉しかつた。現に大学を引退した教授と云うのに,小柄ではあるが元気活溌で,えらそうに気どらぬ感じのよい人物であるのに好感が持たれた。その考案した手術式は,現に周知でかく云う筆者もよく真似ているので,講演そのものに特別の感興はわかなかつたが,考案者自らが説明すると云う点が嬉しいのであつた。但し縫合材料としての患者の大腿筋膜線条を,小切開から採取する手技は「よい思いつき」と感じたと同時に,筋膜の代用となり得る縫合材料がありそうなものだと思つた。また縫合糸を結紮する時に頚管内にHegar氏桿の如きものを挿置していなかつたのはドウカと思つた。
 いずれにするも,アメリカ・シカゴのLasch氏による峡部縫合法(isthmorrhaphy)と,Shirodkarの巾着紐手術(Pursstring operation)との出現は,それまで等閑視していた子宮峡の機能,殊に妊娠時機能に,頂聞の一針を打ちこんだもので,峡部無力症(isthmic incom—petency),峡部開口症(isthmic gaping)などの術語が産んだのである。

同人放談

全体と部分

著者: 田淵昭

ページ範囲:P.1139 - P.1139

 科学が進歩するにつれて,研究範囲も広汎となり,多岐に亘り,数多くの分科に分けられ,学徒はそれぞれの専門を深く掘りさげて研究する様になつた。学問の進歩は恐らく,この方法による外に仕方がないであろう。しかし,分科内の専門があまりにも進みすぎた為,同一分科に属する学徒も,他の学徒の研究は理解し難く,又関心さえももたない傾向が現われて来た。果してこれでよいのであろうか。
 太陽系に地球が発生し,何億年かの年月の間に生物が地球上に現われ,やがて人間にまで進化して来たが,これが理解は物理学,化学,生物学等の分科的知識のみでは不可能であり,現代は人工衛星により生物が宇宙旅行をなし得る時代であるが,此の画期的な成功も科学のあらゆる分科の綜合協力によつて初めて可能となつたのであろう。

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「臨床婦人科産科」第14巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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