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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科14巻12号

1960年12月発行

文献概要

薬剤の臨床

褥婦の貧血に対する「ヘマトン」の使用経験

著者: 稲垣豊1 朝野幸郎1 小岩宏1

所属機関: 1北海道大学医学部産婦人科学教室

ページ範囲:P.1087 - P.1089

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Ⅰ.まえがき
 妊娠中の鉄欠乏状態が重要な意義をもつていることが明らかとされ(Albersら),またHeilmeyerの内科学教科書にも鉄欠乏を惹起する因子と,妊婦においては鉄の必要量が増加していることが明記されている。妊娠のために起こる鉄の必要量増加はFullertonによると約500mgといわれ,このような鉄必要量増加に応ずるために,母体の貯蔵鉄が動員され血清鉄が一過性に上昇する。また,分娩は通常100〜200mgの鉄を失うことに相当するから,分娩直後における血清鉄の量は平均96γ%に低下している。さらに出血の多かつた場合には50γ%にまで低下し,正常の授乳では200mgの鉄を必要としている。母乳の鉄含量が産褥8日目に最高となるとNeuweilerは報告しているが,何れにせよ妊婦あるいは褥婦は400〜500mgの余分な鉄を必要としていながら,しばしば栄養分として吸収し補うことが出来ないし,その上妊娠中は胃液が無酸〜低酸症になつていることが多いので,鉄吸収も悪くなつて居り,また妊婦における蛋白欠乏も鉄欠乏による貧血に関係があつて,多くの統計は,諸般の事情から妊褥婦がしばしば鉄欠乏状態となり易いことを示唆している。
 かように,鉄欠乏性貧血あるいはその準備状態にあつて早晩何らかの治療を行なわなければ強度の貧血を起こしうる妊婦あるいは褥婦に対しての治療措置は,ともすれば従来等閑に附され,忘れられていたかに思われる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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