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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科14巻3号

1960年03月発行

雑誌目次

特集 故シュレーダー教授を悼む グラフ

故Schröder教授を悼む

ページ範囲:P.235 - P.235

謹んで前ドイツ・ライフチッヒ大学婦人科教室主任  Robert Schröder教授の逝去を悼む
  1959年11月13日 Leipzig, Lausicker  Strasse 28の自宅で逝去     亨年 76歳

1.第9回日本産科婦人科学会総会とSchröder教授

ページ範囲:P.236 - P.236

 昭和32年6月Schröder教授は札幌における第9回日本産科婦人科学会総会に出席のため来朝された.
写真上は千歳空港におけるスナップ.右からSchröder教授,同夫人,Kraatz夫人,Kraatz教授

2.東京に於けるSchröder教授

ページ範囲:P.237 - P.237

川添正道先生宅におけるスナップ.左より安藤先生,同夫人,Kraatz 教授, 川添先生,Schröder教授,川添夫人,Schröder夫人,Kraatz夫人,大野先生,中島先生
 山田康晴先生宅において日本舞踊のもてなしにすつかり大喜び.左より安藤先生,石川先生,Kraatz夫人, Schröder教授,同夫人,安藤夫人,Kraatz教授,大野先生,長谷川先生,小林先生.

3.大阪に於けるSchröder教授

ページ範囲:P.238 - P.238

Schröder教授は阪大における近畿産科婦人科学会にも出席され,講演された.左は阪大講堂において講演中の教授
ニューオーサカにおいて学会後のパーティー右より Schröder教授 (後向き)吉松先生,足立先生,藤森先生,広瀬先生,山田(一)先生,足高先生,沢崎先生,村上先生,横田先生,山田(文)先生

故シュレーダー教授へ捧ぐ

Nachruf auf Prof. Robert Schröder

著者: E.

ページ範囲:P.239 - P.241

Nachruf auf Prof. Robert Schröder

著者: H.

ページ範囲:P.242 - P.245

R. Schröder教授と私

著者: 小川玄一

ページ範囲:P.246 - P.248

 窓に少し早目の粉雪がサラサラと微かな音をたてて降りしきつている。ちようど此の頃だつたろうか。第9回日本産科婦人科学会総会の会長をお受けしてから,準備もどうやら目鼻がつき,最後の追い込みに拍車をかけ出していたのは……。
 年月の流れは早く,人の生命もまた長くも短かくもあるように思われてならない。降る雪と半ば出来上つた白い北大病院の建物,それを点綴する古い木造の棟々,.そして焼け跡の無惨さ。部屋の窓から見える一寸した風景にも何か人生の無常さを感じさせるものがあるようだ。

Schröder教授の追憶

著者: 藤森速水

ページ範囲:P.249 - P.250

 Schröder教授逝去の通知を受けて驚いた者は私のみではないだろう。然し私は今から22年前始めて先生に御会いしてからあの強い印象がいつ迄も私の脳裡から消え去らず,一昨年,御来日の折20年振りに再会し,更に深い印象が刻み付けられた故に,先先の訃報に接して只惜しい人を失くしたと言うよりも何とも言い知れぬ淋しさを感ぜずにはおられないのである。
 私が始めて先生に御会いしたのは1936年10月22日であつた。当時文部省留学生として滞独中の私は,ベルリンからライプチッヒに旅行し,ホテルの給仕に頼んでライプチッヒ大学産婦人科のSchrö—der教授に「日本の京都帝大の講師のフジモリという医師が先生を御訪ねしたいが何時に御伺いしたらよいか,先生の御都合を聞いてくれ」と私の代りに電話をかけて貰つた。所がその給仕が電話口から戻つて来て「本人に電話口に出よと申していますよ」との事,そこで私自身電話口にて御挨拶申し上げた処「Halb Zwölf」との御返事,そこで私は約束の11時半に教室を訪れた。この教室の建物は5階建で,丁度京大産婦人科教室位の大いさ,その2階の教授室に私はノックした。直ちに「Herein Bitte!」との声が中から聞えた。ドアを開けて中へ入ると長身の堂々たる体躯のSchrö—der教授が,日本から来た無名の若い医師に向つていとも丁重に初対面の挨拶をされたのには恐縮した。

Schröder博士を偲ぶ

著者: 八木日出雄

ページ範囲:P.251 - P.252

 私が初めてSchröder博士にお目にかかつたのは1937年で,ベルリンで開催された第25回ドイツ婦人科学会の際である。この学会はProf. Wagnerを会長としてベルリンのLangenbeck-VirchowHausで開かれ,10月20日から23日迄,S.博士と一緒に参加した次第であるが,その前日10月19日に所謂前夜祭BegrüssungsabendがHaus derDeutschen Presseで催され,ここで初めてS.博士に紹介された。紹介者は私の旧知Prof.G.Frommoltであつた。S.氏は体躯堂々として偉丈夫の感があり傍によると何だか威圧されるような感がしたことを記憶している。日本人としては私はどちらかといえば大い方であるしドイツ人の平均の身長にくらべて少しも小さいという感じのしない私がS.氏の傍で特に小さく思えたのはS.博士がズバ抜けて大きかつたからである。親切に私のことを色々尋ねて戴き,どれ位ドイツに滞在するか,何を主に勉強したいかなど聞いて戴いた。翌10月20日会長Wagner教授の招待でHotel Kaiserhofで昼食会があり,ドイツ人教授の主だつた方々と来賓外国人とが招かれたが,ハンガリーのFrigyesi,フィンランドのWichmann,アメリカのEngleなどと一緒に私も同席したが,これらの人の話相手にS.博士が坐られ,私とももうスッカリおなじみになつていた。

Prof. Schröderを偲ぶ

著者: 足高善雄

ページ範囲:P.253 - P.254

 ロバート・シュレーダー先生が去る10月13日76歳でライプチッヒに於いて急逝された事を10月の28日になつて知りました。
 この春訪独の節はからずもお元気な先生に北独トラウベミュンデでの第56回西北ドイツ産婦人科学会で2年ぶりにお目にかかる事が出来た私には,全く夢のような悲報でありました。御冥福を祈り想い出を棒げます。

Schröder先生の笑顔

著者: 一戸喜兵衛

ページ範囲:P.254 - P.255

 その日の観光予定はだいぶコンパクトで,おとしよりには可成り無理な強行軍でした。あかしやの札幌から紺碧に沈む支笏湖,湯けむり深い登別,そして夜には新火山の炎を映すという洞爺湖と一廻りし,その翌朝から,はや先生の特別講演が予定に組まれているというような次第で。
 先生は典型的ドイツ古武士風の紳士でその苦みばしつたクルト・ユーゲンスを思わせる顔には,お疲れのせいもあつてか仲々笑いがみられませんでした。先生には札幌医大学長の大野先生がつきつきりで案内をしておられたのですが,気むずかしそうな大男のSchröder先生と小づくりな好々爺の大野先生という対称的組合せは旅行く先きさきで人の目をほほえましくひいていました。

ドイツでの再会

著者: 植田安雄

ページ範囲:P.255 - P.256

 今年春キールでの第6回ドイツ内分泌シンポジウムに引続いて5月2日から2日間,Travemü—ndeで第56回西北ドイツ婦人科学会が開催されたので,われわれもKielから汽車で2時間南に下つて,この学会にも出席した。
 Travemündeと云う処はOstseeの入江に臨む小さな海辺の町で,夏の海水浴を中心としたリクリエーションセンターとして北ドイツで有名である。海浜の公園にはホテル式の大きなKurhausがあり,その大食堂が学会場であつた。

座談会

Schröder教授を語る

著者: 大野精七 ,   山田康晴 ,   安藤畫一 ,   安藤釉 ,   長谷川敏雄 ,   藤井久四郎 ,   小林隆

ページ範囲:P.258 - P.270

外国人としては最初の名誉会員となる
 小林 それでは私急に指名されまして,準備してないのですが,司会の役をさせていただきます。
 世界的にももちろんでありますが,日本の婦人科学会にとつてもあまりにも有名なSchröder教授が最近亡くなられましたことは,まことに惜しんでもあまりある次第でございますが,その有名な教授が丁度数年前に日本に来られましたことは御承知の通りであります。そうして本日御出席の大野先生をはじめ皆さんには特に個人的にも親しく同教授と日本で交渉を持たれた方々でありますので,ここに相集りまして故Schröder教授をしのぶ座談会を開くことが出来ますことは誠に感慨に堪えません。われわれに遺つている故教授の悌は懐かしく鮮で,実際のところ亡くなられたとは思えない程です。

臨床研究

未熟児呼吸に及ぼす高・低濃度酸素吸入の効果

著者: 青木大吉

ページ範囲:P.271 - P.283

I.緒 論
 成熟新生児は出生時には既に形態的にも生理的にも発達していて,完全な呼吸を営む事が出来る。未熟児に於いてはいろいろ未発達なところが残存して呼吸機能の障害を起し易い。呼吸系統は胎外生活が始まるや否や直ちに新しい作用を行わねばならぬ重要なものであるが,未熟児に於いては肺の成熟度は生死に対して大きな決定をなす要素であり,呼吸神経系統の不安定はしばしば低酸素症による生命の危険をまねき易い。1953年未熟児の問題がW.H.O.で大きく取上げられる様になつてから未熟児の研究調査が盛んに行われる様になつたが,現在未熟児の呼吸機能に関する実験的研究報告は本邦に於いては稀にみるのみである。呼吸生理に関しての研究は本邦に於いては甚だ少く,坂倉,木多,伊藤1)2)3)4等の新生児の呼吸型及び呼吸量に関する研究を初めとし,伊藤5)は分時呼吸量呼吸数に関して成熟児と未熟児の差異を述べ,更に安達6)は成熟児に対する混合ガス吸入に依る実験的研究を行い成熟児の呼吸中枢に関連性を求めた。これ等はいずれも成熟児を対照としたものであり未熟児に対しては報告は見られないといつて良い位である。

実験的研究

Estradiol−17 β—n-valerianate水溶液のDepot性について

著者: 小宮清一郎 ,   持田良吉 ,   山口清 ,   安藤政子

ページ範囲:P.284 - P.286

Ⅰ.緒 言
 Steroid hormoneが肝臓にて無効化され速かに排泄されることは周知の事実であるが,これと関連して,その投与方法及び剤型について効力に及ぼす影響が検討されている。特にJunkmann1)2)及びOtt&Robbinson3)によつて見出された性ホルモンの脂肪酸エステル(所謂デポ剤)が有する効力の持続性の機序については未だ明確な結論が得られていない。
 即ちJunkmannによれば局所よりの吸収が緩徐になるためか,あるいは代謝に於ける分解排泄の遅延か又は両者の相互作用に基づくかは不明であるとし,又Miescher4),5),6)及びDeansly7)は局所よりの吸収が徐々に行われることに基因するものと推察している。一方小林,中山8)は犬を使用した実験により,腸管循環によることがDepot性の重大な役割を演ずるものとしている。

Diethylstilbestrolのdipropionate及びtrimethylacetateの発情作用と子宮間質細胞核の変化について

著者: 小宮清一郎 ,   相沢登 ,   安藤政子

ページ範囲:P.287 - P.291

Ⅰ.緒 言
 DiethylstilbestrolはStilben系発情物質としてDodds1)等により見出され,その作用は天然の卵胞ホルモンより強力であるとされている。特に他の合成発情物質と異り乳腺2)及びマウス子宮間質細胞核に対し特異的な作用を有している3)4)。著者等はこのdiethylstilbestrolのエステルであるdiethylstilbestrol dipropionate及びtrimethylacetateを去勢雌マウスを用い,夫々の発情の持続と子宮間質細胞核の変化の関聯を検索した結果,子宮間質細胞核のprogestrone様反応は発情持続と並行しないことを知つたのでここに報告する。

bc系mouseのX-zone消長に関する知見

著者: 小宮清一郎 ,   安藤政子 ,   鈴木康男

ページ範囲:P.293 - P.297

Ⅰ.緒 言
 従来副腎皮質網状層は他の2層と異り無機能な層であると考えられていたが,その分泌機能を暗示する様な報告も見られる。即ち増井,田村1)はmouse網状層にfucksin可染物を認め該層の分泌機能を暗示し,Zinsser2)はこれ等をketoste—roidとprotein又はlipidの複合体であろうと,Selye3)はeosin, fucksin可染物質はhormoneの蓄積であろう,西田4)はandrogenの分泌と網状層は関係があるらしいと報じている。
 Mouse網状層の消長は他の哺乳類と異り,特異的であり,Haward-MillarはこれをX-zoneと呼称した。その消長に関しては増井,田村1),Haward,Millar5),Deanesly6),7)及びWhite—head8)等多くの報告があるが何れも約10日齢にて雌雄共に髄質(medulla)を囲んで狭いX-zoneを識別し,約30日齢までは雌雄何れも発達しつづける。雄は30日齢以後退消過程をとり,38〜40日齢にてmedullaを囲んで薄い層(capsule)を形成する。雌は雄と異り更に発達を続け,妊娠分娩を行わなければ3ヵ月頃までは顕著であり,その厚さは皮質全体の2/3を越えることがある。

薬剤の臨床

未熟児哺育について—(強力モリアミン—S使用経験)

著者: 一宮勝也 ,   橋口精範 ,   熊坂高弘 ,   吉村博光 ,   酒巻義人 ,   須賀田邦彦 ,   田中暎雄

ページ範囲:P.298 - P.300

Ⅰ.はしがき
 妊娠末期の8〜10ヵ月の始めに早産を起して未熟児が出産することは,瘻々,経験するところであるが,1000g以下のものでは,いかなる方法でも養育不可能と信じられており,著者の一人である橋口(1959)は1210gの未熟児の哺育に成功しているが,1500g程度のものでも生存可能は極めて少く,この未熟児の哺育は,われわれ産婦人科医にとつて困難な仕事の一つである。
 最近,未熟児哺育の重要性が認識され,未熟児の出産は保健所へ届出を行うこととなり,未熟児哺育の専門的なセンターが各所に生れ,また生れつつあることは生活力の脆弱な未熟児にとつて喜ばしいことと云わねばならない。

デリバリンの使用経験

著者: 中村正六 ,   浜田宏 ,   角田英昭

ページ範囲:P.301 - P.306

Ⅰ.緒 言
 産科医として最も望んでいることは,いかなる人にも楽に安全に丈夫な子供を産んでもらうことで,それに対して昔からいろいろ研究され,薬がつくられ,器具が発明され,手術がなされている。その中でお産をこちらの希望する時にすませるためにも,各種の薬や器具が考按され,使用されているが,未だに安全確実なものは発見されていない。そのため,時としては過熟児となり,正常分娩が困難となり,又は子宮内で胎児が死亡してしまい,切角の10ヵ月の苦心も水泡に帰すことがある。設備が完備し,人員も揃つている都会地ですら,かかることが間々あるのであるから,医師も居らず,産婆だけに頼る山村では更にこの危険に直面している。
 分娩誘発剤として昔から使われている塩酸キニーネを主成分とし,エルゴメトリン,パパベリンを含んだ薬剤を分娩誘発に使つて,非常な成功をあげたS.L.Pehrson1)は1954年に83.5%の成功率を報告している。即ち塩酸キニーネ25mg,マレイン酸エルゴメトリン0.02mg,塩酸パパベリン10mg宛を1時間毎に6回服用させると陣痛が発来し,分娩が開始する。これで無効のものは更に翌日同様に6回服用せしめ,更に無効のものは1日休んで次の日に又6回服用せしめれば,83.5%に有効であつたという。

手術・手技・麻酔

人工妊娠中絶術におけるエピロカインの応用

著者: 小石今朝光 ,   塩野谷能子 ,   天野孔昭

ページ範囲:P.307 - P.311

Ⅰ.緒 言
 戦前極めて厳重な適応の下に人工妊娠中絶術が実施されていた当時はその数も少くて,本術における麻酔はさして問題とされず,むしろ無麻酔の傾向が強かつた程であつたが,戦後優生保護法の施行により人工流産術は頓にその数を増し,一方麻酔学の進歩に伴い本術における麻酔が重要視されるに至り,種々の麻酔法が応用されている現状ではあるが,それぞれに一長一短を有し,未だ本術の麻酔として真に理想とするに足るものはないようである。
 そもそも麻酔に必要な条件は奏効が確実で迅速であり,手技が簡単でしかも無害且つ廉価なることであつて,これらの条件を満たすに足るものとしては優秀な局所麻酔薬が先ず考慮されるのである。局所麻酔薬としては1884年Karl Koller及びSigmund Freund氏等によつてCocainが使用し始められてより各種の薬剤の変遷を辿り,1905年Braun氏によつてその長所を認められてから専らProcainが使用されて今日に至つているが,尚別にLidocainその他数種のものがある。Lidocainは麻酔作用においてはProcainを凌駕するが,毒性が比較的強い欠点を有している。このLidocainの欠点を補うに足る麻酔薬として日本エーザイ株式会社で合成に成功したものに Epirocainがある。

臨床統計

新生児血圧について

著者: 伊藤敏 ,   菊池芳夫 ,   伊藤良彦

ページ範囲:P.312 - P.316

Ⅰ.はじめに
 小児の血圧に就いて初めて記載しているのはV.Basch1)であつて,特に正常新生児の血圧を最初に測定し報告したのはNeu2)である。その後現在まで多くの研究者が種々な方法を用いて新生児の血圧を測定し報告しているがその主なるものを集めれば第1表の如くなる。
 われわれは,母体の妊娠中毒症並びに,分娩時の臍帯結紮切断時期が児の血圧に及ぼす影響に重点をおいて新生児血圧をタイコス型血圧計を用いて聴診法によつて測定し,2〜3の興味ある知見を得たので報告する。

診療メモ

卵管妊娠の診断と治療に関するメモ

著者: 清水直太郎

ページ範囲:P.317 - P.322

 卵管妊娠の診断は中絶以前には極めて困難で,その疑をおくことさえ考え及ばない場合があり,また疑をおくにしても開腹術を奨める程の確信がないのが普通である。従つて卵管妊娠の診断法と云えば実地上は中絶後のものに就いてである。中絶前とは逆に中絶後のものは,特に無月経,突発性の下腹痛,ショック症状,内出血に伴う比較的少量の外出血,著明な貧血等が揃つた定型的なものは,内診するまでもなく推断出来るほど容易である。然し実際には,それほど定型的な所見を備えたものは少ない。全く無月経がなく,次の月経前に中絶するものが稀でなく,無月経はあれば診断に役立つが,あまりあてにしない方が誤診が少ない位である。著者は無月経はあつたが既往に不妊術をうけて1年以上経過しているので,卵管妊娠を除外して誤診したことがあるから,不妊術後と雖も本症を無視することは出来ない。下腹痛が軽くてショック症状もなく,内科的疾患として看過されてしまつた陳旧のものを,後日他の診断で開腹して発見することも少なくない。但し本症では下腹部に抵抗乃至腫瘤を触れないのに常に圧痛が著明であることが特異で,実地上非常に役立つ所見である。Kulenkampffは腹壁緊張と敏感度との間の不均衡を新鮮な腹腔内出血の1つの重要な所見とみている。

同人放談

分娩時の出血

著者: 松本清一

ページ範囲:P.323 - P.324

 分娩時に或る程度の出血を伴うのは止むを得ないことであり,従来正常の場合でも200乃至400cc,平均250cc程度の出血は当然とされている。所がメチルエルゴメトリンの出現で,私共はこれを胎児娩出直後に静注することにより,出血量を半量以下,平均100cc程度に減ずることが出来た。今日では大部分の産婦は出血量が150cc以下であり,50或いは60cc位のものも決して少なくない。
 このように分娩時の血液損失が少なくなることが産褥の経過に良い影響を与えるのは当然であつて,おそらく産褥の回復は早まり,褥婦はより早く通常の生活に戻れるようになるであろう。従つて分娩時にはたとえそれが正常範囲であつても,「この位の出血は当然だ」という態度を取ることなく,10ccでも20ccでも出血を少なくするように産科医は努めるべきである。それと共に産褥初期から充分な栄養を摂らせ,早期離床を行なわせるならば,褥婦の生活は従来成書に記載されているのとは全く異つたものになる。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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