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特集 悪性腫瘍の化学療法
特に手術との併用療法について
著者: 井槌進1 八木幹夫1 清永明格1
所属機関: 1九州大学医学部産婦人科学教室
ページ範囲:P.587 - P.596
文献購入ページに移動1946年Gilman,Philipsら1)によつてnitrogenmustardの抗腫瘍性が発表されて以来,悪性腫瘍の治療において,手術,放射線療法についで,化学療法が第三の武器として登場してきた。化学療法は悪性腫瘍のもつとも理想的な治療法であることは勿論であるが,そこにはなお多くの困難な問題が山積している。従つて今日,数多くの制癌剤の出現をみているが,いまだに化学療法のみによつて根治し得たという悪性腫瘍は皆無であり,腫瘍の一時的縮小,組織像の変性,自覚症状の改善など若干の効果を示しているにすぎず,細菌感染症における化学療法の段階には遥かに達していない。
化学療法とは,病原体となる微生物が寄生している動物に化学物質を投与することによつて,この病原性寄生体だけを消滅して疾患を治癒させる方法であり,従つてその化学物質は病源体だけに親和性があり,宿主には親和性のないことが理想である。細菌感染症における化学療法の輝かしい成功の原因は,細菌の代謝が生体細胞のそれと著るしく異なるために,この理想が実現できた点にある。したがつて悪性腫瘍においても,腫瘍細胞の代謝機構が正常細胞の代謝と著るしく異なるものであれば,その化学療法も可能と考えられる。
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