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綜説
妊娠後期仰臥位低血圧症候群(1)
著者: 加藤順三1 渡辺卓1 田中敏晴23
所属機関: 1東京大学医学部産科婦人科学教室 2東京警察病院産婦人科 3東大産婦人科
ページ範囲:P.277 - P.283
文献購入ページに移動多くの疾患において正しい診断をまつて,始めて正しい治療が行なわれる。しかし治療を行なつてみて始めて診断が下される場合も少なくない。Diagnosis ex juvantibus—治療による診断—がそれであり,その最も典型的なものの一つがここに述べる仰臥位低血圧症候群である。すなわち妊娠後期の妊婦に仰臥位時に血圧のかなり急速な下降がみられ,あるものではショックにまで至る重症型もあるが,それに伴なつて悪心や生欠伸などの自覚症状が見られるような場合,子宮内容の空虚化や側臥位への体位変換によつて,それらの症状が完全に消失してしまう一つの症候群である。最近,本症候群がとくに注目を浴びるに至つた直接の動機といえば,産科麻酔,なかんづく帝切時の腰麻ショックとの関連であり,麻酔学の発達に伴なつてその重要性が指摘されるに至つたのである。その後,一般正常妊婦さらに産婦にもかなりの頻度でこれが出現することが判明し,もし重症ショック型の本症候群が,分娩時に出現した場合は,本症候群に関する認識さえ充分であれば,直ちに時宜を得た体位変換という簡単な処置によつて難なく急場を切り抜けられよう。
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