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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科18巻5号

1964年05月発行

雑誌目次

特集 先天奇形 綜説

先天奇形の疫学

著者: 渡辺厳一 ,   遠藤晃

ページ範囲:P.339 - P.354

緒言
 「疫学」とは,地域社会における疾病のおこり方,分布の状態を精査することにより,未知の疾病原因に限りなく接近し,もつて,有効な予防の方途をみつけるための学問である。ペンシルバニヤ大学の疫学教授Ingalls先生は,疫学を極めて明解に"Origins and Distribution of Mass Disease"と定義した。
 そもそも,先天奇形の原因と分布の研究が,サリドマイド事件を契機として振興したと考えるのは,誤まりである。疾病統計,死亡統計のより正確な国では,先天奇形を含めた先天性の異常に起因するか,あるいはそれに関連する死が,全死亡の1%程度あるのである1)

統計

教室における新生児奇形の臨床統計

著者: 自見昭司 ,   下村節 ,   奥田倫子

ページ範囲:P.355 - P.358

緒言
 最近の医学の目覚しい進歩にもかかわらず,先天異常という問題は依然とり残されている。
 先天異常の成因として,受精後の環境の影響が大きいことが明らかになつたし,各種薬剤の登場はまたこれに拍車をかけているように考えられる。今後その成因の究明あるいは,予防という点についての研究が必要となつてきている。私どもは昭和22年4月より昭和37年12月までに当教室において認められた新生児単体奇形61例につき統計的観察を行なつたのでここに報告する。

症例

脳ならびに内臓脱出のほかに数種の異常を合併した新生児奇形の1例

著者: 近藤勝彦 ,   尾崎康晴 ,   山田幸生

ページ範囲:P.359 - P.363

緒言
 新生児奇形の報告は多数に見られるも,脳脱出と内臓脱出の合併例の報告は極めて稀である。我々は最近,頭頂骨欠損による脳脱出および内臓脱出のほかに,さらに数種の異常を合併した新生児奇形の1例の分娩を介助し,これに剖検ならびに病理組織学的検索をなし得る機会をえたので,症例ならびにその所見について報告する。

新生児四肢奇形の1例

著者: 小野泰策 ,   古田孝文

ページ範囲:P.364 - P.366

緒言
 奇形児に関しては最近急速に各方面よりの関心が高まり,とくに発生原因などについて興味ある報告が多くなされている。しかし現在もなお原因不明のものが相当数を占め,症例ごとのよりいつそう詳細なる分析検討が必要と考えられる。
 われわれは今回,四肢奇形の1例を経験したので以下その大要につき報告する。

アザラシ肢症の1剖検例

著者: 加藤典二 ,   太田五六 ,   佐々木博也 ,   土井下健治

ページ範囲:P.367 - P.369

 いわゆる海豹肢症(Phocomelia)と耳介奇形(Microtia)は従来非常に稀な奇形であつたが,1960年以来西独を中心として1)急速に増発してきた。しかも妊婦がサリドマイド系薬物を服用したためであろうとLentz (1961)が発表して以来同様な報告が英国をはじめとしてあい次いでなされたが,同時にサリドマイドに由来するかどうかの疑問も提出された2),3)。わが国においても同様の症例が最近かなり報告されて妊婦に恐怖を与えるとともに重大な社会的関心事となつたことは周知のとおりである。われわれもサリドマイド系薬剤投与に起因したと思われるアザラシ肢症の7ヵ月胎児を剖検したのでここに報告する。

先天性外耳道閉塞症の1例

著者: 吉野英明 ,   太田哲夫

ページ範囲:P.370 - P.372

緒言
 最近新生児の奇形に関する諸問題が注目を集めつつあるが,各種奇形の中でも先天性外耳道閉塞症はきわめて稀な疾患である。われわれは最近本症の例を経験したのでその大要について報告する。

Toxoplasma Gondiiによる無脳児出産に次ぐ健康児出産

著者: 三谷茂 ,   中嶋唯夫 ,   北村益 ,   金子豊 ,   畑山道子 ,   湯原仮二

ページ範囲:P.373 - P.378

緒言
 Toxoplasma Gondiiによる感染が成人において発見され,証明されることはむずかしく,おそらく妊娠中の婦人が本感染症に罹患しやすいと考えられているが,本虫体の発見以外に確実な診断法も見当らず,そのほとんどは胎児,出産児についての検索によつて本虫体の証明告が大多数である。一方本症が発見された場合,当然次回妊娠時にふたたび胎児感染が起こるかという点は、関心を呼ぶ点であるが,大多数の症例では健康児娩出を報告しているにもかかわらず少数ながらつづいて本感染症合併児の報告も見られ,注目を集めている。
 しかし本邦においてのToxoplasma Gondii証明の報告例は少く,次回分娩についての報告も少い。そこでわれわれは今回第1回健康児を娩出,第2回目Toxoplasma Gondiiを検出した無脳児を分娩,今回さらに健康女児を娩出した1症例の観察を行なつたので報告し,以下のごとき考察を行なつてみたいと考える。

妊娠診断と免疫 薬剤

絨毛性ゴナドトロピンに関する免疫学的研究—特に人O型血球凝集阻止反応による定性と定量について

著者: 八神喜昭 ,   伊藤祐正

ページ範囲:P.395 - P.401

はじめに
 Human Chorionic Gonadotrophin (以下HCGと略記)に関する研究は産婦人科領域における重要課題のひとつであり,古くよりいろいろ研究され,とくにその定性は妊娠反応として研究改良されてきたが,そのほとんどは生物学的測定法であり,判定時間,実施の繁雑さ,使用動物による条件の制約などの関係から,よりかんたんで時間を要しない方法が望まれていたところである。しかるに最近の化学の進歩にともなうHCGの純化により,古くより推定されていたHCGに対するAnti—hormonの証明が免疫学的に可能となるにおよび免疫学的血清反応による妊娠反応が創案され,この種の研究が盛んとなつた。
 われわれも数年来HCGに関する免疫学的研究に従事しており,その血球凝集阻止反応を応用した独自の方法により,尿中HCGの定性,定量を行ないうる方法を案出し得たので,同法とこれによる測定成績について報告する。

免疫学的妊娠診断におけるPregnosticonの検討

著者: 赤須文男 ,   桑原惣隆 ,   早稲田健一

ページ範囲:P.402 - P.406

緒言
 従来,人絨毛性ゴナドトロピン(以下HCGと略)の免疫学的証明法は各方面より検討され改良されてきたが,満足すべき成果をうるにいたらなかつた。その原因は,(1)特異的な抗体をうるための純粋なHCGがなかつたこと,(2) End pointsの不明であつたこと,さらに(3) HCGで感作した赤血球が一定の期間後には感度が低下したことなどにあつた。
 臨床的に赤血球凝集阻止反応を用いる場合の主問題は感作赤血球をできるだけ長時間安定させることであり,最近FormalinとTannic acidで赤血球を処理した場合非常に安定したParticlesとなり,また,抗原の吸着もよく,かつ抗体ともよく親和性があり,Ling (1960)1)らの研究によりHCG感作赤血球を5℃に保存すれば非常に長期間使用が可能ということが解明され実用化への道が開かれたのである。

免疫学的妊娠反応試薬Pregnosticonの実地医家における実用性について

著者: 松浦鉄也 ,   石居秀朗

ページ範囲:P.407 - P.410

緒論
 1960年,Wide&Gemzellが血球凝集反応を利用して尿中の人絨毛性ゴナドトロピンの測定に成功して以来,生物学的妊娠反応に代る新らしい方法として,免疫学的妊娠反応に関する多くの研究が発表された。
 とくにわが国では,Pregnancy test, PrepuerintestおよびPregnosticon testについて最近各方面からその成績が紹介され,生物学的方法に劣らないものであることが実証されている。

赤血球凝集抑制反応を応用せる妊娠診断法(Pregno-test)の検討

著者: 長峰敏治 ,   新家薫

ページ範囲:P.411 - P.420

 Aschheim-Zondek1)以来,各種動物を用いて絨毛性ゴナドトロピン(以下HCGと略す)を証明する生物学的妊娠診断法は,現在一般に行なおれ,確立された方法となつている。しかし,動物を用いるにはいろいろの欠陥を伴なうこともあり,in vitroでの妊娠診断法が望まれ,いろいろの試みもあるが,従来考案された方法には必らずしも妊娠に特異的なものとはいえないものがある。
 これらに対し,HCGのin vitroでの証明の一つとして血清学的方法は,妊娠に比較的特異であると同時に,検査操作も容易な方法と考えられる。HCGの純化の成功とともに,血清学的証明はいろいろの方法で試みられ,妊娠診断にも応用され,好成績が得られている4)5)8)14)。ただ,これら血清学的方法には抗血清,その他の調製,その安定性,保存に困難さがあるが,これを臨床診断として,安定性のある比較的長期間保存可能のものに開発されつつあるのが現況と思われる。

グラフ

HSG上誤診のもとになる影像(2)

著者: 山口龍二 ,   山田章雄

ページ範囲:P.333 - P.334

 前回は他の目的の撮影に用いた造影剤が混在した例を示したが,今回は偶発的にまた不注意により出現した影像を示す。

Proposal

未熟児哺育の根本的対策は何か

著者: 河辺昌伍

ページ範囲:P.335 - P.336

 いとぐち 昭和38年10月東京で第4回日本衛生学会が開かれ,未熟児保育についての発表があったので,私は,未熟児が死亡した場合,解剖してみると,その大部分に無気肺を証明し,生前ほとんど呼吸していないことが証明されるが,この肺機能を賦活することこそ大切な対策であると思うが,なにかよい方法はないかと質問したが,それに対してなんらの示唆も与えられなかった。
 さて,今までに幾例かの,体重1000gm以下の未熟児の哺育成功の1例報告がなされているが,これと同様な方法で他の未熟児を哺育しても成功するとはかぎらない。いわば上記1例報告は例外的症例かあるいは私をしていわしむれば,体重は小さかつたが,肺臓機能が保持されていたから生存できたものであろうといつたらいい過ぎであろうか。

日本産科婦人科学会史の編纂について

著者: 石原力

ページ範囲:P.336 - P.338

 経過 昭和36年5月の日本産科婦 人科学会理事会で,森山理事から日本産科婦人科学会の歴史,また産婦人科学の今日にいたった諸資料など,学会雑誌に載せられているものはほんのごく一部であり,長い年月の間にはあまり人に知られていない貴重な資料も散逸するおそれがあるので,この際,学会としてこのような資料を調査整理保存し,できれば学会史というようなものを編集してはどうかとの要望があった。
 この要望に多数の理事が賛意を表わされ,37年総会時に各種委員会のなかの一委員会として,評議員会の承認を得て,設置発足せしめることが議決された。

医学雑誌の昨日・今日

著者:

ページ範囲:P.338 - P.338

 本誌「あとがき」は,よほどの事情がない限り,安藤畫一,長谷川敏雄,藤井久四郎,小林隆の各先生が編集委員として執筆されている。
 一般に「あとがき」というものには非常に事務的に編集後記,埋草ふうに書かれたものが多い。そういう類の「あとがき」は概して出版社の編集担当者が当座の間に合せに慌てて書きとばすものらしく,味気なく目次内容を羅列して話の辻褄を合せる程度である。やはり,判然と署名が入つて,編集責任者の感慨や意嚮が平淡な口調で語られている「あとがき」の方が床しく,何よりも読むに価する。
 「あとがき」には概して「巻頭言」よりも隠れた読者ないしフアンがいるものらしく,雑誌はうしろから読みはじめると言う人が案外多い。編集上の楽屋ばなしに興味をもつというのではあるまい,やはり署名筆者の文章に魅かれ,啓発されることに不可説の快を覚えるのであろう。「あとがき」と称するからには,何らかの形でその雑誌のその号の持味と関わる所はある。しかし場合によつては,もつと話題が拡がり,ある時は全然別趣の感想に亘ることも少なくない。また,その方により深く親しみを覚えるということもある。その点,本誌「あとがき」などは読者がまず開く好箇の読物頁であろうと思う。

文献紹介

妊娠貧血,他

ページ範囲:P.358 - P.358

 妊娠には多少の貧血が必ず伴い造血剤で回復するが,造血療法に反対が少くない。Witts (J.Obst.Gyn. Brit.69:714,1962)は妊娠では血漿量・血球量ともにふえるが,PVの方がRCVより余計ふえ,従つて全Hb量は妊娠初期550gのものが7個月には725gになるが,Hb濃度は初め13.4g%が7個月には11.6g%へ下つてくる。従って造血治療を行なう必要はないというわけである。しかし妊娠中にFe欠乏のおこることは疑の余地がなく,Hb12g%でもFe欠乏は十分に存する。もひとつ問題になるのは巨赤芽球性貧血で,少くとも2.8%の頻度に妊娠に合併し,英国に関する限りこの貧血は葉酸欠乏にもとづくというべく,妊娠12週でそれが著明である(chanarin, I. :Lancet 2:634,1959)。葉酸は母体にも胎児にも欠乏し,正常人の必要量の1000倍(1日20mg)を与えなければこの種の貧血は回復しない(Witts上記)。しかし,妊娠30週以前にこの種の貧血が見出されることは残念ながらきわめて少い。Paintin (J.Obst Gyn Brit 69:719,1962)によると12〜37週までにPVは30%ほど増加するが,RCVは少なからず減少する婦人がある(増加するものは勿論多いが)。

帰朝談

脚下照顧の旅—安藤畫一先生(慶応義塾大学名誉教授)に聴く/ソ連産婦人科学会からアメリカまで

著者: 安藤畫一

ページ範囲:P.382 - P.384

■ソ連産婦人科学会の招待で
 --昨年,ソ連産婦人科学会へ先生が,日本を代表するようなかたちで,初めて参加されたわけですが,いかがでしたか。この機会にソ連の学会のことについても,お伺いしたいと思います。
 安藤 在日ソ連大使館からの正式招待状を受け取り10月14日から19日まで,モスコーで開催されるソ連産婦人科学会総会への旅に出たわけです。ソ連行きはわたしとしても,長年の希望でもありましたが,自発的の出張はなかなか困難でしたのに,幸い招待を受けたので喜んで出かけたわけです。

連載講座 胎盤から学ぶ・7

胎盤割面の病理

著者: 相馬広明

ページ範囲:P.385 - P.387

 胎盤母体面を全層にわたつて,順序よく1〜2cmずつ切り刻んで割面を観察してゆくと,注目しなければならないのは梗塞(Infarcts)や絨毛間血栓(Intervillous throm—boses)である。これが母体の疾患と関係があるか,または児に影響を及ぼすかというところに論議の的があつた。

MY THERAPY in series・21

浣腸のすすめ

著者: 本仙一郎

ページ範囲:P.388 - P.388

 われわれ臨床医は日常浣腸を患者に施しているが浣腸剤やその使用法については案外無関心であるし,医者自身が不潔なものとしてプレまかせであるのが現状ではあるまいか。浣腸は排便を促すものであるが,これが診断の助けともなり,治療に役立つものであればこれほどありがたいものはない。浣腸剤としてグリセリン,薬用石ケン,オレーフ油,重曹,食塩などが用いられている。私は主として食塩を用い,他にはグリセリンを使用するのみである。500cc入りのイルリガートルに2mのゴム管と先にエボナイト製肛門挿入管(約5〜6cm)を連結する。42℃,2%食塩水500ccをこのガートルに充たす。患者を側臥位にして下肢を軽く屈曲せしめ肛門にワセリンを塗布,ガートルを1.5m高さに保持して肛門挿入管を静かに肛門内に3〜4cm挿入,食塩水を注入する。温度が下らないように速やかに注入する。急激に行なうと失禁することもあるので注入時ゴム管を片手でおさえて速度を加減する。患者は300cc入るとだれもが軽い排便感が起こるが,そのまま注入をつづけ便意促追がつよく患者が我慢しえないというまで注入する。その後,ただちに排便させる。成人であればこの食塩水の直腸許容注入量(私は仮に直腸収容量と名づく)は男女ともに平均420ccである。

産褥乳腺炎の治療

著者: 松田静治

ページ範囲:P.389 - P.389

 乳腺の炎症で産婦人科外来を訪れる患者は決して少なくなく,従来授乳婦人におこる産褥乳腺炎は治癒し難い疾患の一つとされている。本症は細菌感染によるものであるが,その発生には細菌の侵入を助長するようないろいろの先行条件が存在し,たとえば授乳時乳頭部に外傷が加わりやすいこと,乳汁が細菌繁殖に適した良き培地となる点,さらに乳汁の欝滞などが挙げられる。発病も産褥第3週から4週にかけて起こるものが多い(私の経験でも産褥1ヵ月以内のもの70〜80%)ので,退院後暫くして再び来院してくるものが多い。本症の診断は通常容易であるが,化膿しはじめると熱型は弛張し悪寒をくりかえす。さらに発赤腫脹が増張し中心部が軟化してくる。
 ここで私どもが行なっている治療法を紹介すると,基本的な方針として炎症が速やかに消散する場合ほど哺乳能力はよく維持されるから,第一に罹患乳房の哺乳,マッサージを禁じ,湿布,提乳帯を施こし,可及的早期に強力な化学療法を開始している。乳腺炎でも発病初期であれば,化学療法(抗生物質の内服,筋注)に合成オキシトシン鼻腔内噴霧あるいはα—キモトリプシン(抗炎症酵素)の注射を併用している。オキシトシンを用いる時は2〜5単位(シントシノン)を1日1回患者の鼻腔内に噴霧することにより,乳汁分泌が促進され,3〜4日後には炎症々状の軽快と乳汁滞貿の改善がみられるようになる。

QUESTIONNAIRES・21

子宮癌診療—その3

著者: 佐々木寿男 ,   真田幸一 ,   遠藤幸三 ,   小泉博 ,   橘高祥次 ,   田中敏晴 ,   佐久間浩 ,   小山鉄男 ,   植村一郎

ページ範囲:P.390 - P.393

 ①子宮癌の治療方針として,全然手をつけず疑わしいものも専門医に送るか。或いは,軽いものだけ手をつけるか。或いは,どんなものにも手をつけるか。何故か。
 ②どういう診断法(組織診,細胞診,シルラーの沃度診,腔鏡診など)を用いるか。何故か。

DESK・メモ

第16回日本産婦人科学会総会開かる

著者:

ページ範囲:P.401 - P.401

  今年で16回目の日産婦学会総会(会長・日本医大真柄正直教授)が,3月25,26,27日の3日間にわたつて,東京大手町サンケイホールで開催された。本会場が,使用されるのは,今回が三度目である。第8回総会には前長谷川東大教授が,第13回総会は,慈恵大樋口教授が,会長で開催されたゆかりの場所である。第8回総会開催時には,新築そうそうであつた同館であつたが,8年の歳月は,静かな落着きをみせてくれる。又その間の学問の推移はいかばかりであろうか。ふだんの多くは,軽音楽にラテンに,演劇に,使用される,このサンケイホールも,この3日間は,厳粛にならざるを得なかつたろう。
  今度の総会の特徴としては,真柄会長の言葉にもあつたように,実地臨床に即した学会内の各種委員会による,絨毛性腫瘍,新生児,子宮癌,妊娠栄養,内分泌のシンポジウムと主題特別講演,さらに臨床特別講演があつたことである。深く問題をしぼつて研究した演題は,それに直接従事した者か,その方面に特別興味があるごく限られた者に限られてしまい,同じ産婦人科医でありながら,大多数の者は門外漢にならざるをえない。これは,学問の総合化,専門化による発展とは,うらはらにすぎる,ジレンマである。このジレンマからの脱却,つまり各専門分野間の断層をなくし,産婦人科医としての共通の広場で学問の進歩を享受する所は,なんといつても学会総会である。

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Kranke (13)

著者:

ページ範囲:P.420 - P.420

 桜の花も咲きそろおうという4月はじめの動物園,日曜日のせいもあつてか,園内はかなりの混雑ぶり,肩車をした男の子,母親の手をちぎれんばかりに引張つている小学生,疲れ果てて父親の腕の中で夢路を辿るおかっぱさん,猪突猛進のよちよち歩き,それを追いかける若い夫婦,さすがに子供の楽園らしい賑やかさを伴なっていた。
 助産婦Aさんも,孫にせがまれ.春風にさそわれて,10何年ぶりかで訪れてはみたものの,あと半年もすれば60才に手の届こうというAさんにとつては,いささか気づかれする雰囲気でもあつた。そんなAさんが弁当も食べ終り,はしやぎまわる孫を押さえ,帰り仕度を始めた時であった。ユニホームらしきものを着た,中年の婦人がつかっかとAさんめがけて寄って来るのをみつけた。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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