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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科20巻12号

1966年12月発行

雑誌目次

特集 胎盤 その基礎と臨床

胎盤の構造—胎盤機能への形態的アプローチ

著者: 渡辺行正 ,   北原敬市 ,   西井治子

ページ範囲:P.955 - P.958

はじめに
 昨今,胎盤に関する興味とその重要度が識者間に著しく高まりつつあることは,胎盤に関心をもつものの一員として真に喜ばしく感ぜられることの一つである。
 胎盤はいうまでもなく胎生発育のコントローラーとして重大な役目を果していることは誰しも十分認めているところであり,従つて古来産科学の重要課題として胎盤の研究が常々行なわれてきたことも周知のことである。しかし胎盤がいかなるメカニズムでその複雑な機能を遂行するのか,代謝器官としてあるいはまた内分泌器官として,いかなる部位でいかなる細胞がこれら複雑多岐な機能を営むのか,これら胎盤の行なう微妙なふるまいについてはその本質は今なお十分解明されていない。この点が,今日胎盤に対する興味と重要度を齎したものと考えられ,なおまたこの点の解明いかんが産科学の前進を握る鍵ともいえるものである。

胎盤の物質通過性

著者: 鈴木雅洲 ,   半藤保

ページ範囲:P.959 - P.966

総論
 1.胎盤の物質通過作用
 母児間の物質移行路として,胎盤そのものを介する径路と,羊膜,羊水を経て胎児に達する径路,あるいはその逆の径路とがあげられている。羊膜,羊水を通る径路は水と電解質について(Plentlら),またある種の抗体について(Brambell)は重要な移行径路と考えられる。しかしながら多くの物質にとつて,羊水を介しての輸送径路は比較的意義がうすいというのが現段階での考え方である。
 従来胎盤は単純な,受動的,半透過膜と考えられ,物質は主に拡散型式で通過するとされていたが,胎盤に対するこの単純な,篩様の役割という概念はより複雑な,しかしながら今日なお十分理解されていないメカニズムによることがわかつてきた。しかも胎盤はいろいろの物質の移行率を選択的にコントロールするという(Page,Dancis,Moyaら)。また胎盤の細胞は活発な代謝作用を営み,生物学的に有用なエネルギーを胎盤の輸送システムに供給している。すなわち物質輸送に対して隔壁の厚さに変化を有するほか(Amoroso),細胞の代謝活性によつて物質通過を規制している(Villee)。哺乳動物の胎盤は,動物種が異なれば胎盤に存在する細胞型,細胞の厚さ,細胞の種類,またその数に違いがある。細胞が異なればその細胞の代謝のPotentialityが変つてくるし,全体としての胎盤の機能も発達の経過とともに変つてくる。

胎盤のホルモン代謝

著者: 東條伸平

ページ範囲:P.967 - P.975

はじめに
 内分泌臓器としての胎盤の意義は妊娠に関係するあらゆる生命現象と直結して重視され,Philipp(1932)1)がこれをホルモン産生臓器とみなして以来この分野では実に枚挙にいとまのない程多くの研究が行なわれ内分泌の特殊性もしだいに判明しつつある。
 ところで,従来よりの研究では胎盤の分泌するホルモンが母体にどのような作用を及ぼすか,母体側からみた妊娠維持の機構にどのような役割りをもつかということに主力がそそがれ,各ホルモンのいわゆる標的臓器の変化や,尿,血液中のホルモンの動態からその作用を類推するといつた方法がとられてきた。

胎盤の組織培養

著者: 野嶽幸雄

ページ範囲:P.991 - P.996

はじめに
 ひとたび妊娠が成立して母体および胎児に驚異的な諸変動が展開されるとき,その複雑微妙な調整を掌握するのが胎盤である。機能的には内分泌器官としての存在であるばかりでなく胎児の肺・肝・腎等の役割をも担い,しかも10カ月という限定された期間内に整然とダイナミックな任務を果し終える巧妙な機序は他の臓器に比較をみず,きわめて魅力的で,いわゆるplacentologistsの輩出するゆえんでもある。研究の焦点と着眼とは歴史とともに変遷し成書の記載も改訂されてきている。周知のGreenhill12)の産科書でもPhysiologyand Biochemistry of the Placentaの項で知名のplacentologistのE.W. Pageは1965年,13版には新たにImmunology of the Trophoblastの項を冒頭に飾り,胎盤がいわば同種移植物としての存在でありながらなぜに母体から廃棄されないかに対する諸説を引用している。まことに胎盤は個体生成の起源につらなる神秘の謎を秘めた存在というべく,なかんずくその主役を演ずるtro—phoblastをめぐつて解明を要する問題は多い。組織培養は有力な実験手段として古くから期待が持たれ,最近はまた術式の進歩に伴つて新たな着想の下に多方面の研究が行なわれるようになつた。

胎盤の病理

著者: 相馬廣明

ページ範囲:P.997 - P.1003

はじめに
 胎盤の病理学的な変化は生理的な退行過程として生ずる場合もあるので,どのあたりで病的状態としての一線を劃したらよいかはなかなかむずかしい。しかしあくまでも胎盤は胎児にとつての栄養摂取などの重要な器官であり,母体と児とを連結する器官であるので,両者の影響を受けることも大きく,また逆にこの胎盤の機能障害や病的変化が直ちに児に与える影響も大きいことは当然であるので,胎盤の病理を論ずるには児に対して障害を与えるような病的変化が主眼でなければならない。したがつて,胎盤の病理を知るためには,まず分娩後のていねいな胎盤検査が絶対に必要であり,これによつて肉眼上,あるいは形態上からその異常をつかまねばならない。このための胎盤検査法については,すでに本誌(17巻9号昭38)に掲載してあるのでそれを参照されたい。ここでは要点だけをのべる。

予定日超過と胎盤機能

著者: 塚田一郎

ページ範囲:P.1005 - P.1008

はじめに
 古くから,胎盤には一定の寿命があつて,分娩予定日を過ぎると胎盤に老化現象が起こり,その機能が低下するという素朴な考え方がある。
 特に,1954年Clifford1)がplacental dysfunc—tion syndromeと予定日超過との密接な関係を主張して以来,"placental dysfunction"が予定日超過の病態を特色づけるものとしてクローズアップされてきた。Cliffordのいうplacental dysfun—ction syndromeとは,生理的限度を超えて妊娠が持続すると,1)胎脂が減少してきて皮膚が羊水で浸軟され,生後しばらくすると皮膚が乾燥して落屑をみるようになる,2)胎盤の老化によつて母体からの栄養の供給が減少し,胎児が栄養失調になつて瘠せた細長い体になる,3)胎盤における酸素交換が悪くなるために,胎児に低酸素症ないし無酸素症が起こり,胎糞が漏出して羊水が汚染し,胎児の皮膚,卵膜,臍帯などが黄色または緑色に着色されるというもので,この説明によつて予定日超過と結びつけられた。

グラフ

人胎盤の電子顕微鏡による微細構造

著者: 足高善雄 ,   奥平美奈子 ,   早川謙一 ,   橋本隆史 ,   奥平吉雄

ページ範囲:P.951 - P.954

胎盤の免疫・1

絨毛細胞の抗原性

著者: 竹内正七

ページ範囲:P.977 - P.980

はじめに
 胎児は父親から半分の遺伝因子を受けついでいるのであるから,母体とは遺伝学的に明らかに組織不適合性であるにもかかわらず,妊娠が成立しうることは移植免疫の立場から見て驚くべきことである。すなわち,妊娠は同種移植片(Allogeneicgraft,Homograft)の巧まざる成立と見なすことができるからである。
 胎児組織が母体にたいして移植抗原を有していることは種々な実験的事実によつても疑いえないところであり,この点については現在一致した見解に達していると見てよい。しかるになぜ同種移植免疫が起こらないのかという問題になると現在十分納得のゆく説明はできないようである。胎児と母体とが直接しているのは,胎児側の絨毛細胞ことにSyncytiotrophoblastであり,母体側は脱落膜あるいは血液である。したがつて,絨毛細胞の母体にたいする抗原性が問題になるわけであるが移植の成立という事実と,母体における明らかな免疫反応の認めがたいという事実とからは,絨毛細胞の抗原性は乏しいか,欠除しているのではないかと考えるのが一応自然であろう。事実,現段階における一般的な見解は「胎児組織は移植抗原を有しているが,絨毛細胞は移植抗原を欠除している」ということである。かくして免疫的に無反応性の絨毛細胞が,母—児間の免疫的相抗のbarrierになつて,妊娠が成立しうるのであると理解されている。

胎盤の免疫・2

胎盤の螢光抗体

著者: 山口光哉

ページ範囲:P.981 - P.985

はじめに
 免疫学は近来医学の分野で最もすみやかに発展しているもののひとつで,そのつながりは多くの領域に網の目のように延びている。螢光抗体法は組織あるいは細胞内の抗原・抗体反応を対象とする免疫組織学的手法で,本法の創始者Albert H・Coons20)によれば,"螢光抗体法の真の価値は組織・細胞内で展開される生命現象の真の姿を捕え得るところにある"といわれるように,従来の方法では顕微鏡下で観察できなかつた組織または細胞の微生物・菌体成分・virus・蛋白・酵素・ホルモンなどの存在部位を明らかになし得るのであつて,基礎,臨床を問わず最近益々応用の範囲が拡大されてきている。本稿では内分泌学的,免疫学的に特異の位置を占める胎盤の螢光抗体法応用の研究につき展望してみよう。

胎盤の免疫・3

妊娠中毒症との関係

著者: 加来道隆

ページ範囲:P.987 - P.989

Ⅰ.序論
 胎盤成分が母血中に進入することは,すでに1893年Schmorlが子癇患者の剖検で肺に絨毛細胞を認めて以来知られ,これが妊娠中毒症のアレルギー説の発端をなしたともいえる。その後妊婦血清中に胎盤抗原・なかんずく胎盤蛋白を存在することは,内外多数の研究者により血清学的に証明されているが,胎盤成分は母体に対してはたして抗原性をもつのであろうか。周知のごとく胎盤は母体性成分と胎児性成分とからなつており,胎児性成分の中にはその成分も含有されているはずであるから,胎盤や胎児は母体に対しては異物であるはずである。
 生体内においても変性組織に対し自己抗体が産生され,自己免疫疾患が起こりうることは,橋本氏病のみでなく最近は臨床各科に漸次認められつつある今日,母体に対する胎盤の抗原性の有無は産科領域でも学問的にもきわめて重要であり,また興味ある問題でもある。胎盤の免疫原性を云々する場合には,その成分である蛋白・類脂体および多糖体のそれぞれについて論ずることが必要であろう。古典血清学では臓器蛋白は特殊なものを除いては自己抗原性がないといわれていたが,最近の研究では,ある条件下では抗原性を発揮して,自己免疫疾患をおこしうることがしられている。胎盤蛋白についてのこの種の研究成績はほとんど陰性であるが,高岡は家兎胎盤蛋白を家兎に注射して同種抗体の産生に成功している。

外国文献

Paget病を呈した頸癌/Y染色体の長さ

ページ範囲:P.958 - P.958

 Milne, J.A.,Mair, J.&Phi—llips, D.L.:Carcinoma of the cervix uteri presenting as Paget's disease of the vulva, with a note on the pathogenesis of the latter, J.Obst.Gyn.Brit.Cwth.73(2);285-263, April 1966.
 Paget病はapocrine汗腺の癌という意見が多く,陰門部Paget病のinvasive ca.はほとんどすべてglandular typeである。しかるに,Paget病の部位とは離れた内臓に扁平上皮癌があつて,この癌に続発する皮膚病変としてPaget病が出現するということがある。Eversole(South.MJ.45;28,1952)は膀胱乳嘴腫で陰門にPaget病発現の1例を,Huber (Am.J.Obst.Gyn.62;778,1951)は頸部扁平上皮癌発見より3ヵ月先に陰門Paget病発現の例を報じた。著者の今回の報告は55才閉経婦入,nullipara,6ヵ月来陰門痒感あり,一般医の治療を受けたが無効。来院時は,小陰唇から一部大陰唇にかけ白つぽいやや隆起した斑あり,周辺発赤す。lichensclerosusかと考え生検を行なう。癌とは考えなかつたから急がなかつた。
 しかるに組織像は明らかなPaget細胞をもつPaget病と判明した。そこで精査するに,分泌物は多いが,頸部は正常に見える。内膜掻爬。内膜から血塊に混じつてanap—lastic ca.の細胞塊が見つかつた。この細胞は扁平上皮由来と考えられた。頸部の生検で同様の癌みつかる。膣には異常なし。膀胱にも異常なし。

私の座右書

Martiusの教科書など

著者: 山本晧一

ページ範囲:P.1003 - P.1003

 専門領域における座右書とは,事ある毎にひもといて参照する常備の書物のことであろうが,産科学,婦人科学,手術学のそれぞれにそういう書物があり,その一冊だけを選ぶことはむずかしい。
 しいてあげれば,Martiusの著書が私にとつてはそういつた類の書物である。Martiusの一連の著書は内容が教科書的で,詳しい事項や最新の知見などを調べるのには必ずしも適切ではない。それにはそれに応じたモノグラフィーなり叢書なり,あるいは雑誌なりを参照しなければならない。したがつてごく概念的な大要や定義などを念のために確認したり,手術手技の大要を復習する時などに使うが,それよりもむしろ,折にふれて何を調べるということもなく拾い読みすることが多い。簡潔にして要を得た,この著者の書物独特の挿図を眺めるのは楽しいし,格式ばらない流麗な文章を拾い読みすることも楽しい。

特別レポート

Dr.James F.Hollandの印象

著者: 野末源一

ページ範囲:P.1009 - P.1009

 今度東京における第9回国際癌会議(10月23〜29日)をかねて千葉市における日産婦学会絨毛性腫瘍シンポジウム(11月2日)に出席のため来日したDr.Holland(1925〜 )(写真)は,まだ若いエネルギーにあふれた,長身の典型的なアメリカ人である。New YorkのColumbia大学を卒業,現在New York州BuffaloのRoswell Park Memorial Instituteの内科主任教授として,絨毛性腫瘍の最も有効な化学療法発見のため,非常な努力を払いつつある。彼が国際癌会議および絨毛性腫瘍シンポジウムで行なつた講演の内容から,その印象の一端をのべれば次の通りである。

臨床瑣談

初期妊娠確定法の進展推移と私の常用法とする簡易即決法—CMC法

著者: 安藤畫一

ページ範囲:P.1010 - P.1011

I.妊娠確定法の検診対象
 妊娠の正しい確定法は,妊娠のみに独徴的(monospe—cific)の現象を対象とせねばならぬ。この妊娠のみに独徴的の現象としては,「胎児の存在」と「胎盤の発生」との2種のみであつて,そのいずれも妊娠似外には認識されないものである。

MY THERAPY in Series・49【最終回】

腟トリコモナス症の3者併用療法

著者: 高瀬善次郎

ページ範囲:P.1012 - P.1013

 腟トリコモナス症とは,腟トリコモナスすなわちTrichomonas va—ginalisが婦人性器および尿路に感染するものをいうのである。本虫が婦人性器に発見される頻度は発表者によつて異なり,7〜26%とされているが,教室の成績では外来患者4691例中484例すなわち10.31%に陽性である。
 腟トリコモナスは,腟内のみでなく,その附近の分泌腺および尿路内にも同時に寄生するものであつて,Chappazによれば,腟内に腟トリコモナスが陽性である婦人の87.8%がその尿路内にも本虫が陽性であるといつている。またBertrandは腟トリコモナス症患者の配偶者では,その精液中に本虫が90%陽性であるといつている。これらのことは治療に当つて大いに考慮しなければならないところである。

新生児仮死の治療—アシドージスの是正

著者: 金岡毅

ページ範囲:P.1013 - P.1014

 新生児が出生直後肺呼吸を開始しなかつたり,またたとえ呼吸が開始しても呼吸不全症候がみられたりする場合,私達は呼吸生理学の知識に基づいて治療すべきであると考える。近年人工心肺を始め成人の呼吸生理学の進歩は著しいが,新生児の領域においてもやつとその応用が行なわれ始めた。
 新生児仮死にしても単に娩出児の呼吸現象がみられぬというだけでなく,子宮内の胎盤呼吸から出生後の肺呼吸への適応の障害とそのための代謝異常と考えた方がよりよく理解できる。分娩は程度に差があれ胎児に一時的の酸素供給不全をもたらすが,その程度が軽い場合は出生後の肺呼吸の確立と共に分娩中に胎児が経験した酸素欠乏による代謝異常は急激に改善される。しかしながら酸素供給不全が高度かつ長期にわたる場合は,新生児体内の代謝異常中でも呼吸性および代謝性アシドージスが著明となり,そのため新生児の呼吸中枢は抑圧されてさらに重篤な代謝障害を呈してくる。

日常診療メモ・32【最終回】

子宮頸癌手術手技のあれこれ(その4)

著者: 清水直太郎

ページ範囲:P.1015 - P.1018

XVI.膀胱子宮靱帯の処理
 このいわゆる前方操作も小林法にならつて大体次のようにしている。なおこの操作は術者の立つ側でのみ行なうように術者はその位置を交換する。
 まず子宮を反対側で上方に牽引し,子宮動脈の子宮側断端の長い結紮糸に鉗子をかけて内側上方に引きあげ,剥離した尿管には尿管鈎をかけて外側に索引させ,かくして尿管と子宮動脈との間の結合織を強く緊張させる。この状態で先を閉じた剪刀で子宮動脈をしごき,あるいは細かく剪刀の先を動脈に接して動かし,子宮動脈を裸にするようにして(尿管外套を損傷しないために必要である)尿管から分離し遠ざける。子宮動脈を子宮側に牽引し,尿管を外側で膀胱の方向に鈎をかけてひき,尿管が入りこむ膀胱子宮靱帯部を明らかにする。先細の軽彎曲鉗子の先を尿管の靱帯入口部上縁から子宮頸〜腟部に向け(膀胱の方に向けない),先をもちあげつつ開閉運動によつて靱帯内にトンネルを掘り進め,腟前壁上に鉗子の先をつき出し,先をひろげて分離した組織(靱帯前層の一部)に鉗子をかけ切断結紮する。膀胱は先に中央部で少し腟から剥離してあるが,さらに深く剥離をすすめ,側方にも剪刀背面で静かに圧排剥離して膀胱子宮靱帯を明瞭にする。

薬の臨床

切迫流産患者に対するChlormadinone acetateの使用経験

著者: 小川次男 ,   土橋睦夫 ,   秦喜八郎

ページ範囲:P.1023 - P.1025

はじめに
 Hydroxyprogesterone誘導体として,Ringoldら(1959)1)により合成された6α—chloro—Δ6−17αhydroxyprogesterone acetate (chlormadinoneacetate)(図1)は,動物実験において,強力な黄体ホルモン作用,妊娠維持作用を示しながら,胎仔男性化作用の認められないすぐれた経口gestagen剤であることが報告され,その臨床効果についても多くの知見があるが,私達も,1錠中にchlor—madinone acetate 2mgを含有するLutoral (塩野義製薬)の提供を受け,切迫流産患者に使用し,かなりの効果を認めたので報告する。

人工妊娠中絶術におけるMethoxyfluraneの使用経験—特に子宮収縮剤併用例の心電図所見,血液ガスの消長について

著者: 山田文夫 ,   日高敦夫 ,   播磨昌幸 ,   藤森貢 ,   加藤道也

ページ範囲:P.1027 - P.1030

はじめに
 1958年VanpoznakおよびArtusio1)によつて左右非相様の弗化エーテル2.2—dichloro−1,1—difluoro ethyl methyl ether (methoxyflurane)が紹介され,数多くの臨床的検討がなされ外科領域2,3)はいうにおよばず,産科領域4)においても広く普及するにいたつた。われわれは,今回,人工妊娠中絶の麻酔にmethoxyfluraneを使用し,その際に子宮収縮剤すなわち麦角アルカロイド剤,硫酸スパルテイン剤を併用し,心機能を簡便に推定できる指標として心電図を記録し,またガスクロマトグラフによりmethoxyflurane血中濃度,I.L-meterにより血液ガスの測定をおこない,若干の知見を得たのでその成績について報告する。

妊婦の神経痛様疼痛(腰痛)に対するV.EおよびV.B1,V.B6,V.B12合剤の併用効果

著者: 舘野政也 ,   金城国弘 ,   矢吹朗彦 ,   丸山裕史

ページ範囲:P.1031 - P.1033

はじめに
 V.E (Tocopherol)の生理作用として甲状腺機能亢進作用,したがつて全身代謝の促進が認められており,また,赤須,舘野1)は甲状腺機能をcontrolする作用があることを認めており,妊婦へのV.Eの使用は合理的であると考えた。一方,Vitamedinは神経系に必要なエネルギー産生と神経組織の保護に密接な関連をもつことが知られてをり,これらの作用の面から,我々は両剤の併用が何より大きな効果を産むのではないかと考えて実験をすすめた。
 妊娠が進むにつれて,種々の身体的,精神的異和感が増強することは周知のごとくである。なかでも,悪阻は妊娠初期に終るが,他の症状,たとえば腰痛,下肢の坐骨神経痛様疼痛,四肢のシビレ感,静脈瘤などは妊娠月数が進むにつれて激しくなり,これの治療には困難さを感じさせられる。特に妊婦の薬剤の使用に当つてはその胎児に及ぼす影響を考えた場合は自ら制限される。しかし,Juvela, Vitamedinの併用では,このような心配はないものと思われる。このさい,従来から使用されているThiamine系薬剤は必ずしもその効果を十分期待することはできなかつたようである。今回,我々は妊婦の各種疼痛に対して,Vita—medin (V.B1,V.B6,V.B12の合剤)とJuvela (V.E)を併用することによつて従来の治療法に比し,一段と満足すべき成績を得たと信ずるので以下その大要を記述する。

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「臨床婦人科産科」第20巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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