文献詳細
私の座右書
文献概要
本柵に飾つたきりでなく,絶えず机の上にあつたり,カバンの中にある本が座右書というのだろう。その定義に従えば,私が病院でも自宅でも机の上にある頻度のもつとも高いものは小畑惟清著「産科の実地経験」ということになる。この本については特に若い方でなければ大方の産科医の方はすでにご存知と思う。私の亡父が永年の臨床経験と膨大な統計成績を基にして,あらゆる角度から産科学に対する自分の考えを述べたものであり,昭和9年に初版が発行されたが,その後昭和27年に内容をすつかり改訂して再び出版されたものである。改訂版の時には私もその統計成績を集積するのを手伝つたりしたので思い出も多い。各項目毎に書かれた父の意見や治療方針については,父が生前,機会ある毎に,あるいは茶呑み話に絶えず話していた事柄で,私も耳にたこのできるほど何回となく聞いたことばかりであるので,内容については読むまでもなく良く承知している事柄が大部分であるが,それだけに私にとつては父の遺訓のような気がして,机の上に置いておくだけで何となく懐しい気持になる。
医学は日進月歩であるので,現在私の産科における治療方針もこの本に書いてあることと異なつていることはむしろ当然ではあるが,その本質において産科学に対する根本的な考え方は私の血の中に流るれているような気がする。
医学は日進月歩であるので,現在私の産科における治療方針もこの本に書いてあることと異なつていることはむしろ当然ではあるが,その本質において産科学に対する根本的な考え方は私の血の中に流るれているような気がする。
掲載誌情報