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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科22巻1号

1968年01月発行

文献概要

今月の臨床 早期子宮頸癌--今日の焦点

早期子宮頸癌の問題点をめぐつて

著者: 太田邦夫1

所属機関: 1東京大学医学部病理学教室

ページ範囲:P.9 - P.12

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 Memorial Cancer HospitalのPathologistFred W.Stewartが,すべての癌腫は上皮内に始まることが予期されるから,上皮内癌(carcino-ma in situ)は必ず存在するといつているが,癌腫発生の最早期には上皮内時相があつて当然である。人体のすべての臓器癌の中で子宮頸部癌において早期癌の研究が,最も高度の発達を遂げたものといえる。なかんずく,早期癌を細胞学的に診断する方法を実践にうつし,早期治療を実現させ,それによつて子宮頸癌による死亡率を実際に低下せしめているという厳然たる事実は,単に婦人科医のみならず医学の近代における最も輝かしい勝利の一つと考えられる。
 Carcinoma in situの概念は,1910年Rubinが,子宮頸部の進行癌の辺縁部において上皮内に存在しながら,進行癌とその細胞構築が近似している増殖形態を指摘したのに始まり,同じくRubinが1918年,深部増殖像を伴わぬ同様の異型増殖をIntra-epitheliales Carcinomaと命名したときにほぼ確立されたが,のち1932年Brodersが皮膚のBowen's Diseaseをcarcinoma insituと呼んだことによつて一般化された。 この概念が重畳上皮内の異型上皮増殖について注目されたことは特筆に値する。この考え方はBorstを中心とし,間葉侵襲性を悪性腫瘍の基本的な所見と考える古典病理学者の伝統に抵触するものであつて,保守的な一般病理学者がこれに抵抗を示したことは理解に難くない。しかしその後の学問の発展につれて,子宮頸早期癌の病理学を中心としてcarcinoma in situの概念が一般にうけいれられ,他の臓器たとえば乳腺,胃,肺,口腔粘膜,食道,膀胱等においても確認されるようになつてきたのである。著者は1954年,子宮頸部のcarcinoma in situの病理学的所見を日本病理学会に特別報告したが,同年ドイツのKaufmann,OberおよびHamperlの3人が産婦人科と病理学との両面から主として,妊婦におけるcarcin-oma in situの詳細な解析を発表した。その後Hertigを初めとし,米国に主流をおいたこの問題の検索結果の発表は枚挙にいとまない程である。ことにWHOがStage Oなる臨床病期を提唱するに及んで,carcinoma in situの子宮頸部における位置は確立されたように見えるが,なおこれを癌として確認していない感がある。それはまだ子宮頸部のいわゆる carcinoma in situなるものが,その内容を解析すると,きわめて多様のものを含んでいるからであり,一見解決されたように見えるこの問題も全面的に問題を残していることを強く感じざるを得ない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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