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特集 不妊症の診断
配偶者間人工授精適応の基準
著者: 飯塚理八1 小林俊文1 李明智1
所属機関: 1慶応義塾大学医学部産婦人科学教室
ページ範囲:P.519 - P.525
文献購入ページに移動最近十数年間における排卵,受精,着床現象の三つを骨子とする生殖生物学(Reproductive Bio-logy)の発展は日進月歩,めざましいものがあるが,一方,日常臨床面では,不妊症患者のわれわれ産婦人科医を訪れる数も,年々,増加の一途をたどつているのが現状である。
不妊治療の一環として人工授精(Artificial in-semination)がわが国で脚光を浴びてきたのは戦後のことであるが,歴史的には,イギリスのJohnHunterが強度の尿道下裂のため,精液を腟内に射出し得ず,流出してしまう患者に,性交直後の精液を容器にとり,これで行なつたのが最初である。人工授精にはその精液の提供者が,夫であるか否かにより配偶者間人工授精(Artificial insemi-nation with husband's semen,AIH)と非配偶者間人工授精(Artificial insemination with donor'ssemen,AID)の二つに大別され,両者とも,その実施操作等の技術面では差異はない。AIDでは宗教的,心理的あるいはdonorの選別,確保等医学面以外の点での制約を受けることがあるのは否めない。これに対し,AIHではこの種の考慮を払うことはほとんど必要なく,その実施はより一般的であり,容易である。しかしAIDに比し,AIHの妊娠率はかなり低いことも周知の事実である。だが図1に示すように私共の家族計画相談所での妊娠成立例の中でAIHの占める率は最近でも,またほぼ10年前においても10〜15%で,けつして無視し得ないもので,不妊に悩む夫婦に対して,妊孕の道を展く手段として,AIHはその手技の簡易なる点からも不妊診療の重要な位置を有する。本稿では私共の家族計画相談所における成績をもまじえて,AIHの適応について概説したいと思う。
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