新しい麻酔剤Pentazocineの無痛分娩への応用—胎盤通過性よりみた使用量について
著者:
木村隆
ページ範囲:P.259 - P.263
はじめに
遠くバビロニアおよびエジプト時代にすでにopiumの記録があるごとく,鎮痛(pain relief)の手段として麻薬即ちopium, morphineおよび近くは合成鎮痛剤(pethidine等)が使用されて来ているが,その強い鎮痛作用に拘らず耽溺性および呼吸抑制などの副作用のために理想的な鎮痛剤の出現が望まれてきたが,相変らずmorphineが主流を占めているのが現状である。即ちM.Gatesはいみじくも次のようにいつている。"For severepain the most widely used drug is still morphine.Other useful drugs have been found, however, inthe course of the search for substances with mor-phine's qualities but not its bad ones."
morphine拮抗剤であり,morphineのN-me-thyl基(-CH3)をallyl基(CH2CH=CH2)で置換したnalorphine塩酸塩が強力な鎮痛作用を有し(Lasagna&Beecher,1954,Keats&Telford(1956),かつ耽溺性のない(Isbell,1956),ことが知られて以来10年以上になる。即ち薬剤の鎮痛作用と耽溺性はかならずしも不可分の関係ではないことが発見されたわけである。しかしnalor-phineはその精神変容性(psychomimetic effect)という副作用のために今日では有用な鎮痛剤ではなく,次のbenzomorphine誘導体の研究へと進むのである。その結果,最近Sterling Winthrop Re-search InstituteのDr.S.Archer (1962)らによつて見出されたpentazocine (以下Ⓟと略す)が,morphineと比較して鎮痛作用が強力で,耽溺性がなく(low abuse potential),精神変容性もなく,呼吸抑制も少ないという利点が臨床的にも実証されたため脚光を浴びて来たのである。Keats&Telford (1962)によつてⓅの30mgがmorphine10mg, pethidine 50-100mgの鎮痛効果に匹敵すると臨床薬理学的に評価されている。