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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科30巻11号

1976年11月発行

雑誌目次

特集 産婦人科内分泌異常症候群

Ⅰ.内分泌異常症候群に関する最近の考え方

著者: 東條伸平 ,   福西秀信

ページ範囲:P.846 - P.850

 古く多くの先人達はいくつかの特異な症候を共通にもつ特殊な病態があることに気付き原因が不明なままに「症候群」としてその臨床像を詳しく観察し,記録に止めた。
 たとえば100年以上も前にChiari (1852),Frommel (1882)らは分娩後の持続的な乳汁分泌と無月経を主徴とする症例を報告したが,今日では彼らの名前だけでその症候群の疾病概念が構想できるまでにポピュラーなものとなったし,1930年も後半になると臨床内分泌学の分野ではStein—Leventhal (1935),Sheehan (1937),Turner (1938),Albright (1937)らがあいついで月経異常を伴う特殊症候群を報告し,この時期は臨床内分泌学の一つのエポックとなった。

Ⅲ.General Adaptation Syndrome (汎適応症候群)

著者: 行木康夫 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.930 - P.934

 汎適応症候群を理解しその意義を知るためには,まずある視点を容認することが必要である。この概念は病気に対する一つの考え方を示したことからはじまっている。特異的な器質疾患から派生する非特異的症候群や反応性症候群を重視することである。分析方法は医学進歩の重要な要因であり,現代では化学機器や技術の進歩により微量定量が可能となって診断と治療に利している。しかし,一方で臨床医はなお病因的にも治療的にも不明の病態に出合うことが多い。例として適切な診断の下に手術が行なわれたにもかかわらず,ショック,血管内凝固症候群,無尿等の術後症候群をきたす事実を指摘できよう。
 汎適応症候群は疾患を総括的に把握せんとする一つの学説としてその存在理由があり,機能異常からひき起こされる器質疾患群,さらに精神身体医学等へと連なる医学の思潮でもある1)。感染症において,感染菌とともに生体の感染成立のための条件が問題となることと軌を一にしている。

Ⅱ.臓器別にみた症候群 A.性腺機能異常に関するもの

原発性性腺機能低下症候群

著者: 橋口精範 ,   堀口文

ページ範囲:P.852 - P.856

 原発性の性腺機能低下は単純性の機能不全によるものもあるが,大部分は性腺の発育異常によるものである。発生原因はまだ完全に解明されてはおらず,卵巣の分化,発育過程の各時期において,またその程度によっても種々の臨床像を示す。家族内発生も多く遺伝学的,細胞学的に興味深い。
 最近染色体および染色質などの細胞学的並びに内分泌学的検査法の向上により多彩な病像が解明されつつある。性腺が形態的にも組織学的にもはっきりしない場合は半陰陽として取扱われるものもあり,これら病像の発生学的理論的方向を決めるものとしていくつかの研究発表者の名が付せられている症候群がある。そのうちでもターナー症候群は代表的である。

Stein-Leventhal症候群

著者: 青野敏博 ,   倉智敬一

ページ範囲:P.857 - P.859

定義
 1935年にStein & Leventhal1)が両側卵巣の被膜の肥厚を伴う嚢胞性変化が臨床的には不妊,無月経または稀発月経,男性型多毛,肥満などの原因となることをはじめて報告した。彼らは組織学的検査の目的で卵巣を楔状切除したところ約90%の症例に排卵性周期が回復することに驚き併せて報告し,それ以後Stein-Leventhal症候群が独立した疾患として取り扱われるようになった。
 卵巣の形態的変化は時に鵞卵大に至る種々の大きさの腫大を示し,粗大な隆起を示すやや固い光沢のある白膜に被われ,割面には大小多数の嚢胞が見られ,その中には漿液性黄色の透明液を入れている。組織学的には正常卵巣における白膜の厚さの平均約100μに対し本症では333μ(144-594μ)と肥厚しており,嚢胞が大きいほど内腔の表層をなす顆粒膜層は萎縮し,かつ内莢膜層の肥厚が著明であり,しばしば間質のルテイン化が認められる。

黄体機能不全症候群

著者: 木川源則

ページ範囲:P.860 - P.862

定義
 排卵後に形成される黄体の生理的意義は,progesteroneを産生し,子宮内膜に作用して妊卵着床の態勢を準備することである。黄体が活発にprogesteroneを産生する期間は,2週間であるが,その機能に欠陥があってprogesterone産生の量や期間が不十分の場合黄体機能不全と呼ばれる。黄体機能不全では子宮内膜に十分な分泌像変化が起らず,着床が障害される。したがって黄体機能不全は不妊の原因として重要視される。また黄体期の短縮による月経の周期異常やprogesterone産生低下による機能性子宮出血の原因ともなる。

Hepato-ovarian症候群

著者: 福西秀信

ページ範囲:P.863 - P.865

定義
 肝・胆嚢機能障害があり,このために月経前乳腺症や月経障害,不妊,流産などの卵胞ホルモン過剰状態からくると思われる諸症状を呈するものをHuet (1932年)は,肝・卵巣症候群syndromehépato-ovarienと呼んだ。

医療後にみられるもの(卵巣欠落症候群,過剰刺激症候群,過剰抑制症候群)

著者: 東山秀聲

ページ範囲:P.866 - P.872

Ⅰ.卵巣欠落症候群
(Castration syndrome)
 〔定義〕卵巣欠落症候群は,両側卵巣が摘除されるか,または放射線照射あるいは全身障害により卵巣の機能喪失をきたし,その結果卵巣ホルモンの欠落に生体が適応できないときに出現する症候群である。
 〔症状〕局所症状として無月経,性器の萎縮,全身症状として自律神経症状が主体となり,頭重,のぼせ,肩こり,冷え症,血管運動神経症状 (顔面発赤,熱感),精神神経症状,代謝障害などが現われる。この欠落症状は卵巣機能が盛んな年代であればあるほど,愁訴が強くなる。

B.視床下部下垂体性異常に関するもの

Fröhlich症候群とLaurence-Moon-Biedle症候群

著者: 楠田雅彦 ,   片桐英彦

ページ範囲:P.873 - P.877

Ⅰ.Fröhlich症候群(肥胖性性器発育不全症)
 〔定義〕女性型の肥胖と性器発育不全の2症状を示す1症型として,Frohlichが1901年に報告して以来,この症状を有するものをFrohlich症候群というが,またはBabinski-Frohlich症候群と呼ばれることもある。
 〔病因〕多くは,腫瘍まれに結核などの炎症や外傷などによる間脳下垂体系の器質的あるいは機能的障害により起こるものであり,視床下部原発病変の場合には,まず,視床下部前部の障害により飽食感覚が低下して肥胖が起こり,次に視床下部中後部の性中枢の機能低下により,Gn-RF分泌が障害され二次的に下垂体からのGonadotropin分泌が低下し,三次的に性腺機能の低下が起こるものと考えられている。下垂体に病変が原発する時は性腺機能は早期に侵されるが,病変が視床下部におよんで後に肥胖が出現するものと考えられる。

Chiari-Frommel症候群

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.878 - P.883

定義
 本症は1852年Chiari,Braum,Speath1)が初めて報告し,その後1852,1855年にFrommel2)が強調したもので,産褥後の授乳が長期間持続し,無月経を伴うもので,他の器質的な疾患を合併しないものをChiari-Frommel症候群という。

Argonz-del Castillo症候群

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.884 - P.887

定義
 産褥後の授乳と関係なく,1942年Schachter1)は乳汁分泌と無月経を訴えた症例を報告,その後,1946年Mendelら2)によりその詳細が報告された。1951年Forbesl,Albrightら3,4)は,乳汁分泌と無月経を訴える症例のうち,トルコ鞍の拡大とprolactin分泌の亢進,gonadotropin機能の低下と性器の萎縮を報告し,本症の原因に中枢の障害があることを指摘した。その後1953年Argonz,Del Castillo5)はhyperestrinism,乳汁分泌,hypo—gonadotropinuriaをもつ4例の症例を報告し,トルコ鞍の拡大が常にみられるものではないことを報告した。したがって今日では主として産褥でない時期の乳汁分泌無月経症候群(galactorrhea—amenorrhea syndrome)中,下垂体腫瘍などの中枢障害を伴うものをForbes-Albright症候,中枢障害を伴わないものをArgonz-Del Castillo症候群と区別している。
 乳汁分泌を伴う症候群を大別すると表1,2のごとくである。しばしぼ乳汁分泌無月経症候群中,末梢肥大症や尿崩症を合併することがある。

Forbes-Albright症候群

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.888 - P.890

定義
 1951年Forbes,Albrightら1,2)が乳汁分泌と無月経を訴える症例のうち,トルコ鞍の拡大のあることを報告して以来,無月経乳汁分泌症候群のうち下垂体腫瘍に由来するものをForbes-Albright症候群として区分することになった。近年,腫瘍のみでなく,下垂体に異常を認めたものを総括して本症候群とよんでいる。

視床下部性無月経症候群

著者: 仲野良介

ページ範囲:P.891 - P.894

概念
 女子の性機能が中枢神経系の統禦を受けていることは古くからよく知られた事実であった。つまり,いろいろな精神的要因が,大脳皮質—視床下部—下垂体—卵巣—子宮という一つの系を主軸とする女子性機能の発現に大きな影響を及ぼすことは周知の事実であり,そのもっとも顕著な例を想像妊娠pseudocyesisや戦争無月経Kriegsamenor—rhoeにみることができる。中枢神経系のうちでも,内分泌の中枢が局在する視床下部が特に性機能の発現に大きな影響を及ぼすわけで,視床下部障害に起因する無月経を視床下部性無月経hypo—thalamic amenorrheaとし,病因が複雑多岐にわたるためこれを視床下部性無月経症候群として一括している。ただし,無月経というのはあくまでも症候論上の概念であり,内分泌学的病因論の進歩した今日のレベルからいうとむしろ視床下部性無排卵症hypothalamic anovulation,あるいは三次性性腺機能低下症tertiary hypogonadismといった病因論上の概念を明確に打ち出すことがより望ましいと思われる。
 先にも述べたように,心因性の要因が中枢神経系,特に視床下部をへて無月経の原因となるという意味から視床下部性無月経と心因性無月経psychogenic amenorrheaはしばしば同義語として用いられている。

月経前緊張症候群

著者: 森一郎

ページ範囲:P.895 - P.897

定義
 月経前緊張症とはFrank (1931)1)によってはじめて用いられたpremenstrual tensionの訳語とされているが,彼は月経前の種々の障害のうちで,精神・神経症状を主徴とし,月経開始とともに症状が消散するものをとくにとりあげ,この範疇にいれている。ところが尾島2)は,Frankがあげているような精神・神経症状はもちろん,その他の月経前障害も,程度は異なるがほとんどが月経中やそのあとにも認められることがあるから,月経前・中の諸障害は,一連の,本態を等しくする異常で,月経前緊張症はそのうち精神・神経症状の著しい特殊な型とみなしたがよいとしている。
 一方五十嵐3)は,以上では,月経の発来に伴う性器に起因する障害も含まれるので,これを除く意味でか,月経前数日に出現し,月経終了後は消失する性器外の症候群で,精神緊張を主徴とする症候群と定義している。なおこのほか,症状の発現の時期について,月経前3日以上前から出現するとか,10〜14日頃からはじまるとか,かなり限定して考えているものもある。

更年期障害症候群

著者: 森一郎

ページ範囲:P.898 - P.900

定義
 成熟婦人の性機能は,大脳皮質(環境刺激→心因)—視床下部(情動・自律神経・内分泌中枢)—下垂体—末梢内分泌臓器—標的臓器相互間の密接な関係で調和が保たれているが(図1),更年期(著者は一応37〜55歳頃と考えている)になると,これらの諸臓器の機能には加齢に伴う変化が起こり性腺機能を中心に内分泌環境は一変してくる。
 すなわち,今日までのわれわれの検索の結果では,更年期になるにつれ,卵巣ではgonadotropin(G)のとりこみがしだいに悪くなり,C-AMPは低下し,estradiol (E2)産生の低下,testosterone(T)産生の亢進,progesterone (P)産生の低下へと変わるが,steroid hormone (SH)のこのような傾向は,更年期障害(更障)不定愁訴群の血中所見ではさらに著明になっている。一方,視床下部—下垂体系のGの産生分泌能は,上述の卵巣の変化を反映してか急激に亢進し,閉経からこの傾向が著明になり(更障不定愁訴群ではとくに著明),70歳位までこれが続く。LHとFSHの増加率は,はじめは前者,あとからは後者が高率となっている。

Albright症候群

著者: 福西秀信

ページ範囲:P.901 - P.902

定義
 ① disseminated osteitis fibrosa ② cutaneous pigmentation ③ sexual and somatic precocityの3主徴を示す症例が,Albrightら(1937,1938)McCuneら(1937)により発表されたことからAlbright症候群もしくはMcCunc-Albright症候群とよばれる。

Sheehan症候群

著者: 高橋克幸

ページ範囲:P.903 - P.905

定義
 分娩後に下垂体前葉の壊死によっておこる下垂体機能障害および二次的にこれらの標的内分泌腺の機能が障害されておこる病的状態をSheehan症候群あるいはSimmonds-Sheehan症候群と呼んでいる。Sheehanは下垂体の中等度以上の壊死をおこす原因疾患として,分娩後出血と稽留胎盤などが多いとしているが,その他分娩前出血群,ショック,帝切などもSheehan症候群の原因となることがしばしばあると報告している1)
 下垂体よりgonadotropinを放出させるLH-RHが合成され,実地臨床面で下垂体疾患の診断や治療に用いられるようになったので,既往歴や症状などから比較的容易に診断できるSheehan症候群も,科学的に疾患の軽重度や時には潜在時に早期診断することも可能になった。下垂体壊死は組織の再生が不可能なので,今後は潜在時に発見する方向で本疾患が検討され,早期に治療されることが期待される。

Lorain-Levi症候群

著者: 福西秀信

ページ範囲:P.906 - P.907

定義
 下垂体機能異常に基づく侏儒(pituitary dwar—fism)と性器が小児様で未発育(sexual infantilism)を示すものをいう。Lorainが1871年このような症例を報告し,Levi (1908)はinfantilismを示す症例の中のトルコ鞍の拡大・変形したものを記載したことからこの名がある。

嗅(覚)・性器症候群

著者: 福西秀信

ページ範囲:P.908 - P.909

定義
 嗅覚障害(anosmiaもしくはhyposmia)とhypogonadotropic hypogonadismによる排卵障害を合併した珍しい症候群(Olfacto-genital syn—drome)で,すでに100年以上前にMAESTRE DESAN JUANによって記載されているが,最近になってKallmann (1944)の家族系図に基づく遺伝関係の追求以来,Kallmann症候群ともいわれている。本症候群は女性のみならず男性にもみられる。

C.副腎機能異常に関するもの

副腎性器症候群

著者: 鈴木秋悦

ページ範囲:P.910 - P.913

定義
 副腎性器症候群(Adrenogenital Syndrome)とは,副腎皮質から男性ホルモンが過剰に分泌される結果,性早熟とか男性化などの特徴的な病像を示す症候群で,副腎でのステロイドホルモン生合成に不可欠の酵素系の欠損による先天性副腎性器症候群と,副腎皮質の腫瘍(腺腫,癌)が原因である後天性副腎性器症候群に分ける。

Cushing症候群とAchard-Thiers症候群

著者: 加藤広英

ページ範囲:P.914 - P.919

Ⅰ.Cushing症候群
1.定義
 本症は,副腎皮質性glucocorticoidsの分泌過剰を伴い,原因の如何にかかわらずHarvey Cushing(1932)1)の記載した臨床像,すなわちBuffalo型肥胖(central obesity),高血圧,皮膚線条,多血性満月様顔貌,多毛症,月経異常などを呈する症例を総称してCushing症候群と呼ぶ。このうち特に下垂体性ACTH過剰分泌による両側副腎皮質過形成に基づいたhypercorticolismのあるものをCushing病と呼んでいる。

D.甲状腺機能異常に関するもの

甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症

著者: 水野正彦

ページ範囲:P.920 - P.924

 甲状腺疾患には様々なものがあるが,それを甲状腺機能の面から整理すると,甲状腺機能異常をおこさないもの,機能亢進をおこすもの(甲状腺機能亢進症)ならびに機能低下をおこすもの(甲状腺機能低下症)の3群に大別出来る。
 しかし,このうち産婦人科臨床にも関係のある甲状腺疾患というと,それは後の2群であり,発生頻度を考慮すると,甲状腺機能亢進症の比重がとりわけ大きい。そこで,本稿では,まず甲状腺機能亢進症を,次いで甲状腺機能低下症を取上げ,それらを内科的側面と産婦人科的側面の両面から眺めて見たいと思う。

E.胎盤機能異常に関するもの

胎盤機能不全症候群

著者: 中山徹也 ,   矢内原巧

ページ範囲:P.925 - P.929

 胎盤は胎児と母体との間にあり発生学的には胎児の付属物ではあるが,胎児は呼吸作用,物質代謝等生命保持や発育に必要な総ての機能を胎盤に依存している。したがって胎盤の機能不全は胎児の発育,生命をも脅かすこととなる。母体内の胎児の状態を知りこれを管理することは産科臨床上きわめて大切であるがその意味においてもこの胎児の生命線ともいえる胎盤機能を正確にかつ迅速に知り得ることは重要となる。しかし胎盤機能は多岐にわたりその生理機能の総てが明らかとされていない現在,「胎盤機能不全」の定義は,明確でなく臨床的には広く「何らかの原因によって胎児をとりまく環境が障害され,そのために胎児が発育障害をうけ,また生命の危険にさらされる状態」をいい,さらには「これらをもたらす胎盤の機能的器質的異常」をさしている。最近の内分泌学や代謝学の進歩,medical electronicsの導入によってこの胎児および胎盤の生理ならびに病理の解明に新生面を開きつつある。なかでもステロイドホルモン特にエストロゲン分泌に関しては単に胎盤だけではなくその生成には胎児が重要な役割を果している。したがってエストロゲン(estriol)を測定することは胎盤機能のみではなく胎児—胎盤系を一つのunit1,2)としその機能をとらえることとなる。

Ⅳ.症候群鑑別診断法

多毛を伴う症候群

著者: 佐藤恒治

ページ範囲:P.940 - P.945

 Androgenは陰茎,前立腺,精嚢などの発育や男女両性の第一次性徴,libidoを刺激することができるステロイドであり睾丸,副腎皮質,卵巣それに恐らく他の器官からも分泌される。正常女性のandrogenは,その大部分が副腎皮質性のものであるが,卵巣からも分泌されており性毛の発生と維持ならびにlibidoに関与している。しかし副腎性器症候群,Cushing症候群あるいはある種の卵巣腫瘍のように過度のandrogen産生を伴う内分泌疾患では,部分的な脱女性化や体型の男性化,性機能の異常が現われてくる。
 多毛症の原因として考えられているものは表1のようである。男性化症状が著明であり,そのひとつの症状として多毛が認められる副腎性器症候群あるいは卵巣男化胚細胞腫などとは異なって男性化徴候の全くあるいはほとんど認められない。すなわち体毛のみが著明に増加する多毛症(特発性多毛症idiopathic hirsutism)がある。これには民族的,遺伝的因子,体質的因子が関与しているものがあり,たとえば地中海域諸国の白人種には多毛の傾向がみられ,またHamiltonらは白人と日本人に明らかな毛の量の差をみている。

身長の異常を伴う症候群(思春期まで)

著者: 中島博徳 ,   石黒和正

ページ範囲:P.946 - P.951

 内分泌異常症候群およびその周辺の疾患を身長の異常から眺めた鑑別診断法について概説したい。身長の異常は小人症,巨人症に大別される。

肥満あるいはるいそうを伴う症候群

著者: 森憲正 ,   岩佐隆史

ページ範囲:P.952 - P.957

 肥満やるいそうを一症状とする疾患は数多くある。ちなみに田坂・木本・大渕監修「症候学事典」を通覧しても肥満では33疾患,るいそうでは38症候群を数えることができる。このような原疾患の一症状としての肥満症あるいはるいそうは症候性肥満症,症候性るいそう症と呼ばれており,原因とみなされる疾患が見出されない単純性肥満症,単純性るいそうと区別されている。
 肥満症の大部分は単純性肥満症であり,症候性肥満症の占める割合は少なく,原因疾患の特徴が明瞭に現われると鑑別は比較的容易であるが,単純性肥満症でも肥満症の合併症のため症候性肥満症との鑑別が問題となる場合がある。

卵巣腫大を伴う症候群

著者: 田中良憲

ページ範囲:P.958 - P.962

 内分泌異常と関連のある卵巣腫大は,非腫瘍性腫大とホルモン分泌性腫瘍の2群に大別される。ここでは本特集の目的に従って主として前者について分類,診断などを中心に解説したい。

全身倦怠感を伴う症候群

著者: 布川修

ページ範囲:P.963 - P.968

 全身倦怠感を伴う症候群というものが定義上からまだ確立されておらず,さらに内分泌異常を伴う症候群となると非常に広範囲になってくる。ヒトの生体環境はhomeostasisを保つべくhormone,酵素あるいはビタミンなど相互に作用しあっているものである。
 近年,生体のbiorhythmusの研究の進歩はめざましく,それにはたす内分泌の役割は大きく,その分泌異常は何らかの生体balanceのみだれとなり,日常生活を障害するものといえる。

乳汁漏を主徴とする症候群

著者: 平野睦男

ページ範囲:P.969 - P.971

正常の乳汁分泌機序
 estrogen,glucocorticoidおよび成長ホルモンにより,原始乳管が増殖し乳房は発育するが,妊娠初期にはさらにprogesteroneやprolactinも乳房発育を促進する。分娩後,乳汁分泌は主としてprolactinおよびglucocorticoidの関与により開始するものと考えられており,また成長ホルモンやoxytocinもまたこれに関与する。さらに吸引(suckling)刺激は知覚神経から脊髄に伝達され,視床下部に達し,下垂体からの上記ホルモン分泌を促進する。

産褥期における症候群

著者: 平野睦男

ページ範囲:P.972 - P.974

Chiari-Frommel症候群とSheehan症候群
 産褥に合併する内分泌異常症候群としては,Chiari-Frommel症候群とSheehan症候群がある。前者は乳汁漏と無月経を主要症状とし,分娩後の視床下部機能障害によって発症すると考えられている。後者は分娩時の出血またはショックにより下垂体前葉に虚血性壊死を生じ,これにもとづく下垂体前葉機能低下症である。両者とも分娩後に発症するが,その臨床像は全くことなり,この間の鑑別は困難ではない(表1)。

性機能分化の異常を伴う症候群

著者: 水口弘司

ページ範囲:P.975 - P.981

 性機能分化の異常を伴う症候群には多数の疾患があり,その臨床症状も多岐であるため,これらの疾患を系統的に分類することは難しい。細胞遺伝学,臨床内分泌学などの進歩によりこれら疾患の原因について多くの新知見が得られているが,同一の臨床症状が異なった原因からおこり,またその逆に,一つの原因から程度の異なる種々の性分化異常をおこすことなどで,さらに疾患の分類を複雑にしている。臨床的な便宜上,表1のごとく分類する。性腺分化の異常では多くの場合に染色体の異常を伴い,この中には卵巣,睾丸の両組織を共有する真性半陰陽(true hermaphrodite)も含まれる。一方,男性半陰陽(male pseudohe—rmaphrodite)では性腺は睾丸であるが,外性器または内性器に女性化が認められ,また女性半陰陽(female pseudohermaphrodite)では性腺は卵巣であるが,性器発育に男性化が認められ,多くは性染色体は正常であり,ホルモン作用の異常によるものが大部分である。性分化の異常を伴う症候群の主なものについてこの分類に従い,その臨床症状,診断について述べる。

臨床メモ

産褥乳腺炎と授乳

著者: 竹内久彌

ページ範囲:P.859 - P.859

 授乳中に起こった乳腺炎に対する処置として,授乳を中止させるべきか否かの判断はそれほど簡単ではない。一般に成書には局所の安静と抗生物質の投与が膿瘍形成の予防になると記されているが,必ずしも授乳を中止させなくても良いとする意見もある。
 Marshallら(J.A.M.A.,233,1975)は,CaliforniaのKaiser—Permanente Medical Centerで1973年8月までの2年2ヵ月間に取りあつかわれた産褥乳腺炎についての調査から次のような結果を得ている。すなわち,総分娩数5,155のうち母乳哺育を確立した者は2,534名であったが,それらのうちから65例の急性産褥乳腺炎が散発的に起こっていた。ここでの乳腺炎とは乳腺部の局所的発赤・疼痛と発熱(口内温で38℃以上)を伴ったものをいう。その原因として9例が哺乳停止による乳汁欝滞からであり,8例に乳頭亀裂があった以外は不明である。

トピックス

子宮内膜診のためのMilanのEndometril spiral

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.974 - P.974

 最近,子宮内膜癌が増加しているが,この早期発見に細胞診がよく用いられてきている。このためにわが国でもルーチンに用いられて来ている方法として,腟頸管スメアがあるが,必ずしも検出率がよくなく,常に一定した成績をえにくかった。そこで子宮内膜の掻爬による組織診が行なわれるようになったが,一かき診による他の部位の癌の発見の出来にくいこと,数ヵ所掻爬することによる内膜の障害や出血,感染などの障害もあり,日常の診療に必ずしも広く用いられない傾向にあった。
 このためにらGravleeら1)は噴出式注入器(Jet washer)を考案し,水を子宮腔内に噴出させて表在にある剥離しやすい細胞を集め,これを鏡検することにより診断した。彼は53例の子宮癌患者にこの方法を用いて全てに癌を認めることが出来たと報告した。その後この方式の優秀さが報告され,広く応用されるようになった。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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