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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科33巻12号

1979年12月発行

雑誌目次

指標

部分奇胎の性状

著者: 相馬広明 ,   又吉国雄 ,   向田利一 ,   菊池献 ,   三枝裕 ,   田渕保巳 ,   舟山達 ,   斎藤俊樹 ,   加田日出美 ,   清川尚 ,   高山雅臣 ,   吉田啓治

ページ範囲:P.897 - P.906

Ⅰ.部分奇胎の定義
 日産婦学会絨毛性腫瘍委員会での定義によれば,部分奇胎(partial mole)は絨毛の一部のみが嚢腫化したものをいい,嚢腫がただ1個しかみられぬような場合でも,この中に入れることとするとある。ただし胞状奇胎の診断は肉眼的レベルでの絨毛嚢胞形成によってなされるのであり,絨毛細胞の増殖は問わない。
 また組織学的にだけ嚢胞形成の認められる場合は,顕微鏡的奇胎(microscopic mole)とよび区別する。また肉眼的に絨毛がある程度腫大しているが,棍棒状や小嚢胞形成にすぎない場合には,類奇胎(transitional mole)とよび,区別する。この定義は前述したようにあくまでも肉眼的レベルでの判定であるが,全胞状奇胎との鑑別は容易であっても,部分奇胎と類奇胎との区別,あるいは水腫化流産(hydropic abortion)とよぶ場合との鑑別は,そのcriteriaははなはだあいまいであって,臨床上迷うものである。そのため絨毛嚢胞化を認めるものをすべて部分奇胎とすれば,奇胎の発生頻度もふえることが考えられる。そのため部分奇胎についてのいろいろの角度からの検討が必要であり,これが全奇胎のような将来絨腫化への進展の可能性を秘めるものなのか,それとも自然流産と同様の性状を示すものなのか,詳しいデーターがほしいと思う。

実地臨床手技のエッセンス 症状よりみた検査法の選択

性器出血

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.907 - P.909

 性器出血がみられた場合は,次のような点に留意し,検査を行ない,診断を下し,治療に当たることが必要である。

帯下

著者: 藤原篤 ,   井原俊彦 ,   日浦昌道

ページ範囲:P.913 - P.917

 産婦人科領域における3大主徴の一つとして,帯下を主訴として来院する患者はきわめて多い。しかも,帯下量や帯下感には個人差が著明で,帯下の原因や性状も複雑多岐にわたっている。
 帯下は生理的帯下と病的帯下に大別されるが,帯下の原因となる疾患は,帯下の発生部位や性状,随判症状などによって特徴的な所見からある程度の診断を推定できる場合もあるが,増量した帯下の発生部位も1カ所に限定されるとは限らず,性状や色調も時間が経つと変化するので,明確に区別し難い場合も多い。

下腹部痛

著者: 鈴木秋悦

ページ範囲:P.921 - P.925

 産婦人科における実地診療上で,下腹痛は性器出血とともに2大主症状として,日常遭遇する問題であり,従来から多くの成書あるいは論文などで,鑑別診断上のポイントを中心として論じられてきている。
 近来,各種抗生物質の開発応用によって感染症の病態経過も若干変化してきており,まず対症療法が行なわれることから,疼痛の表現も変化し,対処法も次第に難しくなってきているが,本稿では,下腹痛への臨床的対応について若干論じたいと思う。

腰痛

著者: 佐竹実 ,   明石英史 ,   佐藤卓廣

ページ範囲:P.929 - P.932

 腰痛を主訴もしくは愁訴とする婦人の診療にあたっては,その原因病態の多様性から,まず原因の探究と症状による検査法の採択が治療上重要と考えられる。婦人における腰痛発症は数%の頻度にみられるが,性器の局所解剖学的特異性(神経支配,血管分布,子宮支帯),生殖内分泌学的変動(妊娠,分娩,閉経),神経生理学的・精神心理学的・社会的要因の関与(精神的ストレス,就労の増加)などから男性と比較して多く,若年から中高年層にかけて広くみられる1〜6)
 腰痛は産婦人科疾患のみから起因するわけではなく,整形外科・外科・泌尿器科・内科・神経精神科疾患による腰痛発症に留意することが必要であり,これら素因のほかに外因としての労働による腰椎に対する力学的負荷を考慮する7)ことが大切である。このように腰痛の原因は複雑多岐にわたり,必ずしも鑑別診断は容易でないこともあるが,細密に多角的に診断的検査を進めることにより原因病態が明らかになると考えられ,以下に主として産婦人科診療での腰痛診断上留意すべき諸点について述べてみたい。

腫瘤

著者: 半藤保

ページ範囲:P.937 - P.940

 産婦人科領域で遭遇する腫瘤massは,通常腹部,とりわけ下腹部に限局する場合が多い。上腹部やその他の部位に達する腫瘤も決して少なくないが,進行症例や特殊例,たとえば消化管や乳癌に由来する卵巣Krukenberg腫瘍などを除き,大衆の衛生知識の発達した今日,むしろ珍しいといえよう。
 腫瘤は腫瘍tumorと異なるので,膀胱過充満や便秘などの機能性病変や,炎症性病変なども含まれるが,ここでは紙数の関係もあるので腫瘍,とくに悪性腫瘍に由来する腫瘤を中心に話題を進める。

排尿障害

著者: 山辺徹 ,   河村信吾

ページ範囲:P.942 - P.944

 排尿障害は広義には上部および下部尿路における尿排泄に関する障害を含むことになるが,一般には下部尿路における障害の際に用いられる語である。さらに臨床の実際としては,そのうちでも主として排尿不全(排尿困難および尿閉)に対して用いられ,頻尿,排尿痛,残尿感,尿失禁,排尿時の感覚異常,尿性状異常あるいは尿瘻などは別の概念として扱われがちである。
 しかしここでは下部尿路の排尿に関するすべての症状を取り上げ,産婦人科的観点から,それぞれの症状を訴えた際に考慮すべき疾患ないし状態と,施行される検査法について概説する。

不定愁訴

著者: 蜂屋祥一 ,   久志本建

ページ範囲:P.947 - P.950

 日常の実地診療において,いわゆる不定愁訴で外来を訪れる患者に接する機会は多いにもかかわらず,その取り扱いにはしばしば困惑していることは事実である。
 "不定愁訴の検査法の選択"について考えるとその語の示すごとく,その症状は不定,多彩であり,単一の検査法では決め手とはならず,心理,社会面の検査,自律神経機能検査,内分泌検査などを駆使した身心両面からの総合的な病態像の把握が必要である。したがって本稿では,まず,不定愁訴の全般的な事項にふれ,ついで診断ならびに検査の手順を私どもの行なっている方法を中心に述べることにする。

性器出血

性器出血への提言—産科より

著者: 品川信良

ページ範囲:P.909 - P.910

検査に求められる条件
 検査というものは,いくつかの条件を,具備することも要求されている。その第1は,適切な情報を提供することである。「ある検査が陽性であったら,百発百中,ある疾患に間違いない」というような,specificな結果を与えてくれることを,検査は理想とする。しかし,現実の問題としては,そのようなspecificな検査はほとんどない。したがって次善の策として,考えられる疾患の範囲を,できるだけ狭(せば)めてくれる検査が尊重されてくる。
 検査には,このほか,いくつかの付帯的な条件も要求されている。たとえば,

性器出血への提言—婦人科より

著者: 滝一郎

ページ範囲:P.911 - P.912

Ⅰ.検査の目的・必要性を十分説明する
 婦人科疾患では性器出血を起こさないものははなはだ少ない。他方,検査法は極めて多い。したがって,検査を有効に行なうには,性器出血を起こす疾患を出血の性状を始めとする問診,ついで診療の間にだいたい見当をつけ,的をしぼって行なう必要がある。解説者がくわしく述べられると考える。
 検査法にはいとも簡単にできるものから,大施設でないとできないものまであり,その難易,費用,患者に与える時間的,身体的負担もさまざまである。また,ひとつで間に合うようなものから,同時に総合してあるいはセットとして行なわねば意義のないもの,また時間をおいて繰り返さねば有効でないものなどさまざまである。

帯下

帯下への提言(その1)

著者: 古谷博 ,   久保田武美

ページ範囲:P.917 - P.918

 帯下は独立した疾患名ではなく,いろいろな原因にもとづく婦人科特有の症状である。その原因はきわめて多く,感染症,悪性腫瘍,ホルモン失調などのほか,妊娠性,心因性の帯下もある。帯下の発生部位にしても,外陰,腟,頸管,子宮,卵管というように婦人科で対象とするほとんどの臓器があげられる。また,病変の程度もさまざまで,たとえば腟トリコモナス症や外陰・腟カンジダ症,萎縮性腟炎などのように外来で治療できるような比較的軽症のものもあるし,帯下という症状の裏に悪性腫瘍,骨盤内感染症や糖尿病をはじめとする慢性消耗性疾患など重篤な病変がかくされていることもある。

帯下への提言(その2)

著者: 関場香 ,   中村淳一

ページ範囲:P.918 - P.919

 カンジダ腟炎が増加している 近年帯下を主訴とする患者ではカンジダ腟炎とトリコモナス腟炎の関係が逆転し,トリコモナス腟炎が減少し,カンジダ腟炎の頻度が増加してきている。
 その背景には,糖尿病増加,抗生物質・副腎皮質ホルモンの乱用,Pillなどのホルモン剤使用が考えられる。

下腹部痛

下腹部痛への提言—産科より

著者: 鈴村正勝

ページ範囲:P.925 - P.927

 下腹部痛は最も多い症状の一つであって,性器出血のような特殊性がない。したがってこれが産科的のものか婦人科的のものか外科か内科かとなると患者自身も判断がつかないことが多い。診察を求められたわれわれも産婦人科にきたからその方であろうと考える。したがってわれわれは産婦人科的な診察を完全に行なって決定しなければならない。産科的の下腹痛となると,検査法の選択にも時期的な相違がでてくる。

下腹部痛への提言—婦人科より

著者: 西村敏雄 ,   森崇英

ページ範囲:P.927 - P.928

痛みを客観的に分析する努力を
 下腹痛は,婦人科領域の急性腹症の主症状として重要である。本来痛みは,個体に加わった非生理的刺激を,個体がいち早く認知するための防衛機構の現われで,多少とも苦痛を伴う。この苦痛が患者自身にはもちろん診察者にも重大な警告を発しているのであるから,これを客観的に分析する努力を直ちに開始しなければならない。いうまでもなく,痛みに見合った他覚所見の発見と,必要な検査の選択である。
 下腹痛の症候診断には,問診が基本となるが i)痛みの性状と経過 ii)無月経,性器出血,腹膜刺激症状,発熱な   どの随伴症状の有無 iii)妊娠,月経,排尿,排便との関係を知ることがとくに大切である。

腰痛

腰痛への提言—産婦人科より

著者: 尾島信夫

ページ範囲:P.932 - P.933

妊婦の腰痛
 患者が妊婦である場合には,X線検査は末期を除くほか避けるべきであるし,妊娠に腰痛はつきものと考えられるので,「症状からみた検査法の選択」という命題にさからうようであるが,検査などとあまり騒がないで,お産までできるだけ苦痛少なく耐えさせるということを方針としている。妊婦腰痛の頻度を割合に低くみている報告もあるが,私のところで実際に調べた成績では,妊娠第6ヵ月までは初妊経妊とも第2ヵ月から5,8,12,21,26%と上昇し,第8ヵ月から先は初妊婦の方が余計高くなって46,53,66%の頻度を示す。いずれにしても妊娠末期には程度の差はあれ半数は腰痛を訴えている。
 その原因としては,妊娠子宮の自然の収縮が(下腹痛として感じられることが多いが)腰痛として感じられるもの,恥骨結合と同様に仙腸関節の組織が多量のエストロゲン・プロゲステロンの協力作用を受けて1種の妊娠性変化をおこして,軟化肥厚を生じて腰痛をおこすもの,子宮重量の増大から重心の移動を生じ,平衡を保つべく脊柱の前彎状態を続けるために腰背部の筋肉の疲労が原因となるものなどである。

腰痛への提言—整形外科より

著者: 加藤正

ページ範囲:P.934 - P.935

 今日一般的に,整形外科外来を訪れる患者の半数近くは腰痛を主訴としているといわれるほど腰痛症患者は多く,その原因疾患も多岐にわたっている。そのなかで婦人の腰痛症を診察するにあたっては,当然のことながら,まず年齢や妊娠,分娩,手術の有無などを正確に知ることが絶対に必要である。婦人の腰痛では,年代によってその主要原因疾患にも比較的明瞭な差異がみられるので,一応20歳代から高年齢へ四つの群に大別して,それぞれの年代に特徴的な腰痛からみた検査法の選択について述べる。

腫瘤

腫瘤への提言—婦人科より

著者: 栗原操寿

ページ範囲:P.940 - P.941

 婦人科で腫瘤を形成する疾患といえば,子宮では子宮筋腫,子宮内膜症,子宮体癌,子宮頸癌,絨毛性疾患,頸管ポリープとなり,卵管では,卵管炎,卵管妊娠,卵巣では卵巣腫瘍,さらに腟癌,外陰癌などがあげられる。
 これらの疾患が腫瘤となって発見された場合における症状からみた検査法の選択について述べると以下のようになる。

排尿障害

排尿障害への提言—泌尿器科より

著者: 河村信夫

ページ範囲:P.945 - P.945

 排尿障害の語は,いろいろな症状を総合したことばである。女性の場合には尿失禁,排尿困難,残尿さらに排尿痛などがあるが,下腹部痛と重複しない範囲で記してみる。
 尿閉は男子には前立腺肥大症,尿道狭窄などから,しばしばみられる症状であるが,女子にはまれであり,これが起こったときに考えられる疾患は,膀胱機能不全,膀胱結石および異物,腫瘍による尿道または膀胱頸部の圧迫,尿道狭窄,神経因性膀胱などである。

不定愁訴

不定愁訴への提言(その1)

著者: 九嶋勝司

ページ範囲:P.950 - P.951

1.定義
 不定愁訴についての理解はいまだ一様ではなく,そのため諸家の議論がしばしば食いちがいを見せている。筆者は「自覚症状のみで,他覚所見がないか,あっても愁訴と結びつかない場合を不定愁訴という」と定義することを提唱してきた。

不定愁訴への提言(その2)

著者: 森一郎

ページ範囲:P.951 - P.953

1.不定愁訴の概念
 不定愁訴とは
 阿部教授が,明らかに器質的疾患が見出されずに,全身性,筋神経系,循環器系,消化器系などの多彩多様な愁訴を示す一群の患者に対し不定愁訴症候群と命名し,その愁訴を不定愁訴と呼んだことからこのような言葉が用いられるようになったが,その内容としては,はじめは漠然とした自律神経系愁訴の概念が強かった。ところが本質的に自律神経失調と結びつかない症例もあるので,最近では,"漠然とした身体的愁訴で,しかもこれに見合うだけの器質的なうらづけのない愁訴"という概念がとられている。

FIGO TOPICS 私が感銘を受けた講演

LH-RHに関する最近の進歩/胎児性分化の比較考察

著者: 加藤順三

ページ範囲:P.955 - P.955

■Basic Aspects of the Hypathalomo-Pituitary Axis
 膨大な情報が提供された今回のFIGO大会や関連学会の一部だけしか,きいたりみたりできなかったが,印象の強かったものの1つとして,LH-RHに関する最近の進歩があった。
 Free Communication (FC 55 A)でのSchally教授ら最先端の研究発表がキャンセルされてしまったのは残念であったが,幸いにも教育講演で綜括的にうかがうことができた。LH-RHの作用基と結合基とが明瞭に分離され,また,アミノ酸を入れかえたり,組みかえたりしてLH-RH analogがまるで魔術のように続々と開発されてくる状況が紹介されたのは,感無量であった。というのは,小林隆先生の教室のいわゆる6研にいたときは,まさにLH-RFの実証をめぐって,McCann研などと激しく先陣争いが行なわれている真中におり,大きな歴史のうねりの目撃者の一人であったからだ。それにしても,ニューオリンズでのMatsuo,Babaの日本人グループによるLH-RHの構造決定が,ついこの間だと思えるのに,その進歩の早さは,今さらながら驚異であり,ある種の恐れを感じたのは小生だけであろうか。

ネパールの医療事情

著者: 相馬広明

ページ範囲:P.956 - P.956

 第9回国際産婦人科学会に参加のため,始めてネパールから唯一の代表が来日した。ネパール王国カトマンズにあるマタニティ病院のデビア・マラー院長である。彼女は,私どもの大学のナース達へと東京池袋ロータリークラブにおいて講演をしたが,その話の要旨を紹介したいと思う。ネパール国全体で15人しかいない産婦人科医はすべて女医であるが,そのうちの12人は彼女のマタニティ・ホスピタルで働いている。この病院は現在のビレンドラ国王の母君が資金を出し,社団法人がこれを設立したというが,カトマンズの南方を流れるパグマテイ河のほとりに立っている。病床170,昨年1年の分娩数5,500,ここに産婦人科医12人,小児科医1人,内科医1人,麻酔科医1人の15名,看護婦は助産婦を含めて43名が働いている。入院患者の60%は入院費を払えない現状であり,15%ぐらいが10ルピー(240円)ぐらいを払うという。多くはユニセフやその他の寄進による経営であるという。現在ネパールにはトウリブヴアン大学にようやく医進コースができたばかりであり,現在1年生で学生は40名という。そのためこれまで医師になるためには,まずネパールでいう出身階級が上位であり,資産があり,イギリスかインドへ留学するよりほかはなく,限られた特権階級の人々しかなれなかった。

フィルムによる手術発表の効果/周産期医学の進歩

著者: 西谷巌

ページ範囲:P.957 - P.957

■Surgery (Cancer)
 FIGO (産婦人科連合世界大会)は,内外から6,000名におよぶ参加をえて,世界最大級の学会となったが,7日間にわたって12会場で行なわれたため,この全貌を詳細に把握するのはとうてい困難であろう。比較的少数の参加者にとどまった会場もあったが,一方では満員盛況のセッションもあった。フィルムセッションは,ひときわ好評を博したものの一つで,400席の会場は,終始立錐の余地もなかった。なかでも,手術関係フィルムの発表と討論は,一段と盛況であったので,2,3の印象について述べたいと思う。国際学会では,多かれ少なかれ,ことばが障害となるので動く場面や刻々変わる操作を目でみることは,最も大きな理解となる。さらに,わが国のフィルムやビデオの技術は,世界でも高い水準に位置しているので,とくに大きな期待がよせられたのかも知れない。
 さて,手術に関するフィルムでは,人工造腟術3題,卵巣楔状切開術1題,腹式腟式子宮摘除術5題,および癌の手術に関しては,子宮拡大単純全摘術1題,準広汎全摘術2題,広汎全摘術6題などからなっていたが,放射線療法が目覚しく進歩した現在といえども,癌に対する手術療法の価値がいささかも低下していないという印象をうけた。

疾病観念や分類基準の相違/体外受精—驚異的な培養成績

著者: 杉森甫

ページ範囲:P.958 - P.958

■Gynecologic Malignancy
 第9回FIGO総会は10月25日の開会式で始まったが,前日に行なわれた教育講演会が事実上の幕開けであったように感じられる。これは4つの部屋で同時に進行が行なわれたため,全部を聴くのが不可能であったことがまことに残念であって,どれも聴いてみたい演題が目白押しであった。中でも午前中に行なわれたparade of pioneersのセツションではCaldeyro-Barcia,Bergstrom,Schally,Wiedといった第一人者が次々と登場して,その業績を平易に解説し,将来の展望を語った。その内容はあまりにも有名であるから新しい知見という訳ではないが,やはりその道の開拓者に直接肌を接して聴く講演は印象深いものがあった。座長の小林隆先生がいわれたように「Investigation Activity Releasing Hormoneを注入されたような感じがした」のである。
 大会第1日冒頭のRyan教授による卵巣機能に関する特別講演にも深い感銘を覚えた。内分泌学は私にとっては専門外であるので,卵巣機能というとすぐ卵巣全体として捉えがちであったが,教授の詳細な研究はさらに卵巣を構成する各細胞におけるHormone産生機能にまで及び,アイデアの豊かさとそれを支える研究技術に今さらながら驚嘆の念を禁じえない。

フリーマーチン現象とX-Y抗原説/体外受精の条件

著者: 平野睦男

ページ範囲:P.959 - P.959

■Comparative aspects of fetal differentiation
 FIGO東京大会3日目の10月29日(月),9時から1時間,性管分化の実験で有名なAlfred Jost教授の特別講演"Comparative aspects of fetal differentiation"をきくことができた。Jost教授は1947年から1953年にかけて,子宮内の家兎胎仔を用い,性管系が分化し始める前に去勢して性管系の分化発育にいかなる影響を与えるかを検討し,メス胎仔もオス胎仔も一様にメス型分化を示すところから,性の分化はもともとメス型に向かうもので卵巣はこのメス型分化に必須の器官ではなく,精巣が性管のメス型に向かうことを妨げると同時に,オス型への分化を促進させることを明らかにするなど,この方面で独創的な研究を続けられてきた方である。
 Jost教授は哺乳類・鳥類・両棲類の性分化に関する知見をわかりやすく説明され,鳥類は哺乳類とは異なって,もともとオス型分化を示すこと,両棲類にはオス型分化とメス型分化に向かうものがあることなどを解説されたのち,Ohno博士らの1975年以降のH-Y抗原と性分化の関連性についても言及された。H-Y抗原(Y連鎖組織適合性抗原)は哺乳類の性腺原基を精巣に,また鳥類およびメスが異型配偶子をもつ両棲類の性腺原基を卵巣に,それぞれ方向づける決定因子であると考えられてきた。

原著

Fetal Distressに対するβ2—stimulantの投与効果

著者: 千村哲朗 ,   三井盾夫

ページ範囲:P.961 - P.964

 分娩時の子宮収縮に対しβ2—stimulantsを投与し,その効果を期待する場合は,異常子宮収縮の抑制と胎児切迫仮死の治療時に分けられる。こうした目的にβ2—stimulantsを使用した報告は,10年以上前から数種類について検討されているが,最近ではorciprenaline,rito—drine,fenoterolよりterbutaline,hexoprenalineに関する報告がみられる。
 Fetal distressの治療対策としてのβ2—stimulantsに関する報告は,Caldeyro-Barcia (1969)以来試みられてきているが,その投与の治療対策としての有効性はいくつかの面から検討されている。その理由として,

トピックス

両側卵巣摘除後にみる卵巣腫瘍を伴う症候群

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.964 - P.964

 婦人科の手術の際に,一側の卵巣を残したり,明らかに健常組織と思われる卵巣の一部を残した場合に,だいたい5年以内に,下腹部腫瘤や疼痛などで再手術により,遺残した卵巣が多嚢胞性嚢腫や出血黄体,そ.の他の卵巣の病的状態になっていることにまれに遭遇することがある。このような場合,75%は慢性の下腹痛によるものであるが,残りは無症状で経過し,中には骨盤内に広範囲に癒着をしていても卵巣機能を十分保持しているものがある。こめ場合,残存卵巣症候群(residual ova—ries syndrome)としてすでによく知られている事実である1)
 しかし,婦人科の手術の際に,子宮摘出か否かは別として,明らかに両側卵巣を摘出したにもかかわらず,下腹部に触知する腫瘍があり,手術により摘出後に卵巣由来による腫瘍であることが確認される場合がある。この際には,残存卵巣症候群とは明らかに異なるもので,(ova—rian remnant syndrome)として区別される。

症例

Phocomeliaを呈したCornelia de Lange syndromeの1例

著者: 本多達雄 ,   高内則男 ,   竹内正七 ,   渡辺重雄 ,   渡辺順子

ページ範囲:P.965 - P.969

 Cornelia de Lange syndromeの報告は,1916年のBrachmannにまでさかのぼることができる。しかしながら,1933年のde Langeによる報告以来とくに注目されるようになり,以来,本症候群は,Cornelia de Lange Syndrome,de Lange Syndrome,Brachmann-de Lange Syndrome,Brachmann-Cornelia de Lange Syndromeなどとよぼれているようである。
 以後,本症候群に関する報告例の増加は着実であり,現時点における世界での報告が300例をこえていることは確実であろうし,本邦でも少なくとも50例程度の報告は認められているようである。

臨床メモ

合成LH-RHの卵巣機能抑制作用

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.970 - P.970

 合成LH-RHは,排卵誘発剤あるいは,視床下部—下垂体系の検査法の一つとして広く臨床に応用されるようになった。
 しかし排卵誘発剤として実際に臨床的に使用してみると,排卵誘発はそれほど容易ではなく,特に第1回目の投与で排卵誘発に成功した患者でも,次周期からは無効である例が大部分である。

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「臨床婦人科産科」 第33巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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