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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科36巻10号

1982年10月発行

雑誌目次

指標

子宮内避妊器具(IUD)と子宮外妊娠

著者: 我妻堯 ,   花岡収一

ページ範囲:P.727 - P.732

 避妊法の一つである子宮内避妊器具(IUD)の使用が昭和49年,厚生省から正式に許可されて以来,外国製2種類,国産3種類のIUDが現在販売使用されており,使用者数も漸増の傾向にある。IUDの副作用としては,不正出血,月経過多,骨盤内感染症(Pelvic Inflamatory Disease:PIDと略す),などがあり,また失敗妊娠の原因としては自然脱出,挿入医師の技術不良による穿孔などがある。近年は,IUD装着者が妊娠したさいに子宮外妊娠の可能性が高いという事実が判明し,諸外国で問題になっている。わが国では,未だ両者の関係について注目した文献はみあたらないので,ここでは外国文献を参照して綜説を述べ,経験した自験例についても述べたいと思う。

臨床医のプライマリ・ケア 産婦人科プライマリ・ケアの背景

妊産婦・周産期死亡の動向

著者: 前田一雄 ,   中嶌一彦

ページ範囲:P.733 - P.738

Ⅰ.妊産婦死亡の動向
 妊産婦死亡率は妊産婦の保健水準の指標の一つで,妊産婦死亡は,「妊娠期間及び部位に関係なく,妊娠またはその管理に関連した,あるいはそれらによって悪化したすべての原因による妊娠中または分娩後42日以内における女性の死亡をいう。ただし,不慮のまたは予期せぬ偶然の原因による死亡は除く」と定義されている。さらに昭和54年からはこの妊産婦死亡を直接産科的死亡と間接産科的死亡とに分類するようになった1)(表1)。昭和53年までの妊産婦死亡は昭和54年以降の直接産科的死亡にほぼ該当する。間接産科的死亡とは「妊娠前から存在した疾患または妊娠中に発展した疾患による死亡をいう。これら疾患は直接産科的原因によらないが妊娠の生理的作用によって悪化したと考えられる」ものである1)
 妊産婦死亡率は,一般的には,妊産婦死亡率=妊産婦死亡数/出生数(または出産数)×100,000として表わされている。ただし比率については,このほかに,出生10,000対,1,000対の比率も使用されるので注意が必要である。また「疾病,傷害および死因統計分類提要」昭和54年版1)には出生1,000に対する率として示すことと勧告されている。

性周期(内分泌異常の背景にあるもの)

著者: 岡村均 ,   東條伸平

ページ範囲:P.739 - P.743

 婦人を診療の対象とする際には,単に婦人科学領域においてのみならず,他科を受診するケースについても,絶えずその特異な内分泌環境すなわち卵巣機能を中心としてこれを調節あるいは修飾する多様な生殖に関与する因子ないし現象を考慮することが大切である。その最も良い例が古来からいわれている「女性を診たら妊娠と思え」であり,さらに最近ではこれに「肥満女性を診れば内膜癌を疑え」といったような表現も加わろう。このように特定の内分泌環境は各種の婦人科的器質性疾患の基礎条件を形成しているといえるし,他疾患の病像は,常に性周期の時期,あるいは妊娠の時期の如何によってさまざまな修飾をうけている。個の疾患であっても,それは必ず基底にある生殖生理あるいは病理の如何によって,同一疾患であっても,病像はかなり異なってくるものである。本稿ではまず,排卵周期すなわち視床下部—下垂体—卵巣系の生理とこれらに異常をもたらす原因についてのべ,さらに思春期と閉経期にみられるこの系の特性についてのべるとともに,性周期が他領域の疾患の病像にどのような修飾をあたえるかについて考えてみる。

妊娠の異常とその背景

著者: 品川信良

ページ範囲:P.745 - P.748

 いわゆる「正常」と「異常」との間は,必ずしも,明確でないことが多い。また,相互に移行しあっていることも珍しくない。殊に,妊娠というような,非常に長い経過にわたる現象においては,最初から最後まで,妊婦が一貫して正常の経過をとることは,むしろ珍しい。しかし,今,この種の議論はあとまわしにして,妊娠の正常や異常の背景にあるものを,すこしく考えてみたい。

遺伝的背景

著者: 竹内正七 ,   本多達雄

ページ範囲:P.749 - P.752

 女性でのプライマリ・ケアを考えるにあたり,女性における遺伝的特徴を知識として把握しておくことが大切である。

環境因子(感染)—ヘルペスウイルスと発癌

著者: 川名尚

ページ範囲:P.753 - P.756

 ヘルペスウイルス感染と発癌とくに子宮頸癌の問題を,プライマリ・ケアの立場から論ぜよというのが編集委員会の御要望と思うが,現在のところ,御要望に十分答えられるデータはまだないといってよい。確かにヒトに感染するヘルペスウイルス群のウイルスには,癌との関連性が示唆されている。その最も有名なものが,EBウイルスとバーキットリンパ腫である。その他,本稿の主題であるヘルペスウイルスと子宮頸癌,サイトメガロウイルスと大腸癌や前立腺癌などである。ヘルペスウイルス群の特長の一つは,初感染後,潜伏感染に移行することである。潜伏感染しているウイルスが,何らかの契機に再活性化し,生体に影響を与えるが,発癌という変化に具体的にどのような形で関連しているかは,不明のことが多い。そこで,本稿では,最初にヘルペスウイルス感染について,産婦人科的な立場からのべ,子宮頸癌との関連性について触れて,責を果たしたい。

環境因子(感染)—性病

著者: 淵勲

ページ範囲:P.757 - P.761

 これまで用いられていた性病(venereal diseases)という用語は,近年あまり用いられていない。1975年,WHO常任理事会でSTD (sexally trans—mitted diseases)なる用語が採決されて以来,この用語が広く用いられている。これは性行為,あるいはその類似行為によって伝染する疾患をいい,梅毒(Syphilis),淋病(Gonorrhoea),軟性下疳(Chancroid),第4性病(Granuloma ingui—nale,Lymphogranuloma venereum)の4つの性病の他,非淋菌性尿道炎(Non-specific genital infec—tion),Candidiasis,Trichomoniasis,尖圭コンジローム(Condylomata acuminata),Herpes simplex,恥部虱症(Pediculosis pubis),疥癬(Scabies),伝染性軟腫(Molluscum contaginosum)などがあり,またB型肝炎をもなり得る疾患と考えられている。
 本稿では,世界と日本の性病の現況について述べ,4つの性病について,主として梅毒と淋病を中心に産婦人科医師のプライマリ・ケアについて述べてみたい。

環境因子—絨毛性腫瘍

著者: 原孝子 ,   広川清二 ,   西川良樹 ,   石塚隆夫 ,   後藤節子 ,   可世木成明 ,   友田豊

ページ範囲:P.763 - P.766

 絨毛性腫瘍(絨腫瘍)は,日本を含む東南アジアで頻度が高く,約350回の分娩に1回と欧米に比較して2〜3倍の発症をみている1)。その上,他の悪性腫瘍と異なって比較的若い20〜30代の婦人に多い疾患であり,挙児を希望するものも多い。しかし現在では化学療法の発達により予後は向上し,胞状奇胎(奇胎)はもとより,破壊性奇胎(破奇),絨毛癌(絨癌)の症例でも,発症時に適切なプライマリ・ケアが施行されれば,その後の妊娠・分娩を期待できるようになってきている。
 名古屋大学産科婦人科学教室では,昭和37年より愛知県の絨毛性腫瘍の登録管理を行なうことにより,奇胎後の管理,破奇・絨癌の早期発見・早期治療を積極的に行ない,治療後の妊娠・分娩,奇胎娩出後の妊娠分娩についても一定期間を過ぎたら特に制限しないよう指導してきた。その結果,奇胎・破奇・絨癌の治療施行時に子宮全摘術を施行せざるを得なかった症例を除いて多くの症例に児を得ている。

胎児の医療被曝とその影響—臨床医のための基礎知識として

著者: 吉澤康雄

ページ範囲:P.767 - P.770

Ⅰ.医療行為に伴う放射線被曝は医療被曝  のみではない
 医療領域における放射線利用に際しては,放射線防護の観点から,次の3つの種類の放射線被曝に注目する必要がある。この3種類は,被曝の対象となる人間の立場によって区分されたものである。
 ①医療被曝 ②職業被曝 ③公衆被曝

トピックス

合剤型経口避妊薬服用は上皮性卵巣癌発生の予防になる?

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.744 - P.744

 近年,子宮頸癌の早期発見に伴い,子宮内膜癌や卵巣癌の早期発見のための検討のあり方が問題視されて来ている。
 従来より未産婦や出産回数の少ない婦人ほど卵巣癌のリスクが増加するとの報告も多い1,2)。一方婦人の老化を防止するためや更年期障害の治療のために,抱合型エストロゲンが長期間用いられるようになり,このエストロゲン利用者に卵巣癌が多いとの報告も出るようになった3)。そこで最近用いられている経口避妊薬でもエストロゲンが含有されており,これらの経口避妊薬(ピル)利用者が増加して来ているためこれとの関係が興味をもたれているが,子宮内膜癌はピル利用者にはむしろ少く,ピル以外のエストロゲン利用者では増加するとの報告がすでにある4,5)。しかし,この合剤ピルと卵巣癌との相関は興味ある点である。

ダウン症候群患者の生殖機能

著者: 田部井徹

ページ範囲:P.777 - P.777

 ダウン症候群は,G21トリソミーあるいはD/G,G/G転座による常染色体異常に起因し,出生児の0.17%に出現する。本症は満40歳以上の高齢母親から出生する頻度が高く,とくに転座によるダウン症は,転座保有の親から出生しやすいという。主な臨床症状は,蒙古人様顔貌,四指の奇形および精神知能障害などであるが,出生後早期から適切な治療を開始すれば知能低下や精神障害の程度は軽減させることが可能であるといわれている。
 現在迄,ダウン症患者の遺伝学的な検討は数多くあるが,生殖機能に関する報告は少ない。男性の患者は,性器の発育不良による性交不能あるいは精子形成障害がみられ受精能力が欠除することが多く,従って本症の男性が父親になったという報告は見当らない1,2)。通常,女性の患者は,初潮が発来し,月経を有することが多いが,妊娠し分娩する頻度は極めて低い3,4)。本症患者は早死する率が高く,結婚する機会が少なく,さらに重症の精神障害や知能低下のため性交が不可能であることが多いためといわれている。

臨床遺伝学講座

Ⅴ.遺伝相談のすすめ方(2)

著者: 又吉國雄 ,   相馬広明

ページ範囲:P.771 - P.774

 前回に続き「遺伝相談のすすめ方」を,日常遭遇する症例を中心に述べてみたい。
 産婦人科領域の遺伝相談では,1)出生児に先天奇形あるいは遺伝性(と思われる)疾患が認められた場合に,実際に遺伝するかどうか,また次の子供に発現するかどうかといった先天奇形に関する事項。2)習慣性流産,高齢出産,さらに妊娠中の薬剤服用,感染,放射線被爆等を含めた妊娠に関する諸問題。3) Turner症候群等の性異常の問題。4)出生前診断に関する事項等が多くを占めている。

教室だより

心身医学の臨床的研究

著者: 郷久鉞二 ,   蠣崎和彦 ,   坂野慶男 ,   浅井冬彦 ,   佐野敬夫 ,   橋本正淑

ページ範囲:P.775 - P.777

 心理学的な配慮が自律神経や内分泌を介して一つの疾患に対して影響を与えることは産婦人科の疾患や分娩に関しても他科と同様である。"心理的配慮"という観念的な概念が研究の発展を防げていることは確かであるが,そのアプローチの手段として中核をなす面接法も最近は心身医学の発展に伴って客観性や科学性を増してきている。加えて内分泌検査の発展,MEによる自律神経機能検査法の発展も心身医学のアプローチを医学的実証性や説得性の面でもその価値を高めてきている。
 私ども研究グループが行なっている心理的アプローチの手段を列挙すると面接による心因の追求,各種心理質問紙法,鏡映描写法,簡易精神分析,交流分析,自律訓練法,絶食療法,筋弛緩法,内観法,脱感作やバイォフィードバックの行動療法などである。以下に心身医学診療の実際について一部を述べる。

学会印象記

第5回プロスタグランディン国際会議に出席して

著者: 木下勝之

ページ範囲:P.778 - P.781

 第5回プロスタグランディン(PG)国際会議は,イタリア,フロレンスにて5月18日より4日間にわたり開催された。
 1962年BergströmによるPGE,Fの構造決定以来,本格的研究の展開は,1971年Vaneによるアスピリンの作用機序がPG合成抑制によるという発見,第3回国際会議フロレンス(1975年)でのSamuelssonによるトロンボキセン(TX)の発見,それに続く,Vaneによるプロスタサイクリン(PGI2)の発見,さらに第4回ワシントン(1979年)でのSamuelssonによるロイコトリエン(LT)の発見というように,アラキドン酸を前駆体とする異なった生理活性を有するPGと,その関連物質の発見によって特長づけられてきた。その結果,多種類のPGと多岐にわたるその生理薬理作用は,基礎及び臨床各科の研究者の関心をあつめ,その研究人口は,増加の一途をたどっている。

原著

母体血中,胎児血中および羊水中prolactin値とgrowth hormone値の同時測定による検討

著者: 古橋信晃 ,   深谷孝夫 ,   河野秀昭 ,   新川尹 ,   立花義史 ,   高橋徹

ページ範囲:P.783 - P.785

 Growth hormone (GH)とprolactin (PRL)は構造も,その機能も類似しているが,種特異性の強い下垂体ホルモンである。人間の胎児・母体をめぐるこれらGHとPRLの動態について種々の報告があるが,特に胎児に対するこれらホルモンの役割については未だ不明の点も多い。人間の胎児に対してGHおよびPRLがlacto—genic hormoneとしてよりもsomatogenicな働きに関与している可能性については既に報告1,2)した。一方,これら構造も機能も類似しているGHあるいはPRLについて,各々のホルモンの母体血中,胎児血中,羊水中濃度を測定した報告はあるが,GHとPRLを同時に測定し,その相関について検討した報告はほとんどみあたらない。われわれは今回,同時に採血・採取できた正常妊娠・分娩の20例について,その母体血中・胎児血中・羊水中のGHおよびPRLをRIAにて同時に測定し,このGHとPRLの母体—羊水—胎児での動態および相関について検討した。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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