明日への展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 胎児--その自立と依存
胎児発育と母児相関
著者:
荒木勤1
高橋英彦1
畑俊夫2
所属機関:
1日本医科大学第1産婦人科教室
2埼玉医科大学産婦人科教室
ページ範囲:P.889 - P.894
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受精から出生に至る約265日間,妊娠週数でいうと40週の期間に,わずか100〜170μたらずの受精卵が細胞分裂を繰り返しながら,やがて体重3,000g強,身長50cm弱,胸囲33cm,頭囲34cm,児頭大横径9.2cmの成熟児へと成長してゆく1)。しかし,この期間における胎児の発育は必ずしも直線的に進むものではない。また,胎児の成長は自立したものではなく,母体と胎児の密接な共同作用のもとに営まれていることに関しては言うに及ばない。このことは母体の健康状態や胎児への栄養補給の良否が胎児の発育に大きく影響してくることを意味している。また,子宮内生活環境のいかんによっては,胎児の発育状態は正常から異常へと移行してくる。ただ,子宮内生活環境と一口に言っても,これには子宮筋の収縮や弛緩からはじまって,絨毛間腔の血流量,絨毛細胞の生物活性,胎盤絨毛や臍帯の血流などの総合的役割分担の成果として,児の発育に反映してくるものであろう。
胎児の発育,とくにIUGRの発生を胎児白身から産生される発育促進因子や遺伝的素因などを無視して通ることはできないが,ここでは主に子宮内生活環境や母体環境因子の胎児発育に対する意義について述べてみることにする。