明日の展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 卵巣
Ⅱ腫瘍を中心に
卵巣類皮嚢胞腫の発生と細胞遺伝学
著者:
藤原篤1
野村一志1
大浜紘三1
所属機関:
1広島大学医学部産科婦人科学教室
ページ範囲:P.163 - P.167
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卵巣類皮嚢胞腫は分化した3胚葉成分から成る良性の嚢胞性奇形腫で,胚細胞を起源とする腫瘍germ celltumorのひとつとされている。周知のごとく胚細胞は第1および第2減数分裂を経て原始胚細胞から卵子へと分化する。すなわち卵巣では,体細胞分裂によって増殖した原始胚細胞は卵原細胞,策1次卵母細胞へと進み,第1減数分裂によって第1極体を放出して第2次卵母細胞となり,さらに第2減数分裂によって第2極体を放出して最終的には染色体数が半減した卵子になる。このように胚細胞は他の体細胞とは異なって減数分裂を経て分化していくが,この減数分裂の過程において相同染色体間に交叉crossing overが生じて染色体の部分交換が行われたり,あるいは染色体の組み合わせに再編成が生じる。それゆえ胚細胞性腫瘍の発生起源や発生機序を解明する方法として細胞遺伝学的な検討や遺伝子マーカーの分析を行うことは極めて興味ある問題である。
そこで本稿では,卵巣類皮嚢胞腫に関する細胞遺伝学的立場からの検討成績を紹介するとともに,最近の染色体異形性分析によって明らかにされた卵巣類皮嚢胞腫の発生機序について解説し,最後にこれに関連したいくつかの問題点について触れてみたいと思う。