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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科39巻10号

1985年10月発行

雑誌目次

グラフ 胎児の機能診断

CST (OSST)と胎児胎盤系予備能

著者: 日高敦夫 ,   北中孝司 ,   駒谷美津男 ,   池田春樹

ページ範囲:P.760 - P.763

 CST (contraction stress test)やOSST (Oxytocinstep stress test)1)(図1)は,ある一定の子宮収縮による負荷を胎児胎盤系に与え,それに対応する胎児心拍の反応パターンから,それぞれの胎児胎盤系機能的予備能を把握する方法としで今日臨床応用されている。
 一般に分娩第I期の子宮収縮の強さはおよそ50mmHgであり,これがもたらす胎児胎盤系への影響として,動物実験の成績より子宮胎盤血流量は約30%の減少がもたらされ,しかも収縮の強さと血流減少率(最大60%まで)には負の相関性が認められる2)(図2,3)。この血流の減少はさらに絨毛間腔血液ガス値の一過性の変動を招き,つまり各子宮収縮毎に数torrのPO2減少とPCO2の増加がもたらされる。このような一過性のhy—poxemiaは機能的予備能の乏しい胎児においては徐脈発症がみられ易くなる。その機序として,hypoxiaによる胎児カテコーラミンの反応として一過性のhypertensionや,さらにbaroreceptorの作働により胎児徐脈がみられ易くなる。しかもCO2によるChemoreceptorの刺激によりvagal toneがたかまり,それによる徐脈化も関与してくる。さらに著しいhypoxiaでは,non-reflexbradycardia,つまりmyocardial depressionとしての徐脈にいたる。

ヒューマンバイオロジー--臨床への展開 体外受精

体外受精プログラムの実際

著者: 井上正人 ,   小林善宗 ,   本田育子 ,   金子みつ恵 ,   藤井明和

ページ範囲:P.764 - P.768

 体外受精(IVF-ET)はヒトの受精および初期発生を文字通りin vitroで行う高度の医療技術である。具体的には,成熟卵子の採取にはじまり,精子のcapacitation,媒精,受精卵の培養から,分割卵の子宮内移植に至る一連の過程をいう。
 IVF-ETのプログラムは各施設により若干の違いはあるが,大筋ではほとんど同じである。最近ではプログラムの効率化とともに簡素化も検討されている。

体外受精・胚移植をめぐる最近の問題点

著者: 鈴本秋悦

ページ範囲:P.769 - P.772

 体外受精—胚移植法(IVF-ET)は,不妊症の治療法の1つとして世界的にも広く定着し,アメリカ,イギリス,オーストラリア,フランス,東および西ドイツ,デンマーク,スウェーデン,フィンランド,イタリア,スイス,ベルギー,カナダ,ニュージーランド,イスラエル,コロンビア,チリー,シンガポール,中国そして日本と,約25カ国で臨床に応用されており,日本での成功例を含めて,1,000人以上の子供がIVF-ETによって生まれている。
 したがって,IVFに関する技術的な問題は,各実施機関が種々の工夫を加えつつ,ある程度解決してきているというのが現状である。また,操作生殖医学としての倫理的な問題についても,IVF-ETが不妊治療の一環として行われる限り,若干の議論が残るとしても,今日,社会的にもコンセンサスが得られてきているということができる。

卵胞発育刺激法,採卵時期の決定と採卵法

著者: 関守利 ,   矢崎千秋 ,   土屋清志 ,   浅野目和広 ,   宇津木利雄 ,   山田清彦 ,   鹿沼達哉 ,   新井昭利 ,   小野雅彦 ,   水沼英樹 ,   伊吹令人 ,   五十嵐正雄

ページ範囲:P.773 - P.780

 IVF-ETにょる成功はspontaneous cycleの採卵によってEdward and Steptoe1)により,初めて成し遂げられたが,卵胞刺激のためのclomidの使用および排卵誘発のためにhCGを使用することによりTrounson2)らが成功し,さらにJones3)らがhMG/hCGのprotocolに成功して以来,多くの施設では卵胞発育刺激法によるIVF-ETが行われている。現在用いられている主な卵胞発育刺激法は表1のとおりである。
 spontaneous cycleを用いた場合にはshort luteal phaseが起こりにくく,子宮内膜の状態も生理的であるという長所はあるが,最大限1個の成熟卵の回収しか望めず,またLH surgeが始まる時刻が不定のためIVFのスタッフが24時間拘束される等の短所があげられる。現在では個人差のある排卵日を大体一定にでき,多数の成熟卵を回収することが可能で,hCGの投与時間をコントロールすることにより採卵時間をある程度決定できる卵胞発育刺激法が主流になっている。

授精法と受精卵培養法

著者: 星和彦

ページ範囲:P.781 - P.785

 体外受精・胚移植(in vitro fertilization and embryotransfer:以下IVF-ETと略す)では,卵子は排卵直前の段階で採取され,直ちに用意された培養液に移される。その後,夫精子がこれに加えられて(授精)受精が起こる。受精卵はさらに一定時間培養が続けられ,2〜8細胞期に発育した時点で子宮内に移植されることになる。
 本節では主としてIVF-ETにおける授精方法と受精卵培養法の実際について説明するが,それらに付随する周辺の諸過程についても述べてみたい。

移植法と子宮内膜の条件

著者: 広井正彦 ,   斎藤英和

ページ範囲:P.787 - P.790

 不妊症は10組に約1組の夫婦の割合であるといわれており,女性側の原因が2/3を占めるといわれている。また女性因子のうちで,卵管性不妊症は約1/3を占める大きな原因の1つである。マイクロサージェリーは,卵管因子である卵管の閉果や癒着を手術的に取り除き,卵管機能を回復させ,卵管が精子と卵子を運搬し,受精の場を与え,受精卵を子宮まで運搬できるようにするが,マイクロサージェリーにも限度があり,この手術によっても卵管機能を回復できない症例が数多く残される。
 体外受精—胚移植は,このマイクロサージェリーによっても卵管機能を回復し得なかった卵管性不妊夫婦にとって,卵管での受精を体外の試験管または培養血で肩代わりするという画期的な方法である。

今後の社会的・倫理的諸問題

著者: 品川信良 ,   鍵谷昭文

ページ範囲:P.813 - P.816

 医学関係の問題で,体外受精ほどマスコミから騒がれた問題も,近年珍しい。他に類をさがすならば,札幌医大の心臓移植(事件)があるくらいのものである。
 それなら,マスコミはなぜ,体外受精に対してあれほどまでに大騒ぎをしたのか。見方はいろいろあろうが, 1)欧米でもかなりの話題をまいてきたこと,

今後の医学的問題

著者: 野田洋一 ,   矢野樹理 ,   森崇英

ページ範囲:P.817 - P.821

 不妊症に悩む患者は,夫婦全体の約10%に及ぶと考えられている。その中で排卵障害に基づく不妊症は,近年の生殖内分泌学の目ざましい発達により克服されつつあるが,不妊症の30%を占めるといわれる卵管性不妊症に対しては,従来は全く有効な治療法がなかった。ところが1978年,SteptoeおよびEdwardsによる世界初の体外受精児誕生1)の報告は,この卵管性不妊症に対する画期的治療法として注目を集め,現在では世界各国の医療機関で試みられ,すでに数百人の生児が得られている。日本でも1983年東北大学による最初の出産例が報告された後,徳島大学など多数の医療機関ですでに10数例の出産例が報告されており,その適応範囲も両側卵管通過障害のほか,精子異常症(乏精子症,精子無力症),免疫性不妊(抗精子抗体),原因不明不妊へと拡大されてきている。このように,体外受精は不妊症治療に欠くことのできない治療手段として定着しつつあるが,その妊娠率は決しで満足すべきものといえず,今後改善あるいは解決されるべき問題点はまだ多い。本稿では体外受精に関する現況と今後の医学的問題点について,体外受精の手順に従って解説を加えることとする。

体験を語る

培養液の水質条件

著者: 清水哲也 ,   石川睦男 ,   浅川竹仁 ,   千石一雄

ページ範囲:P.791 - P.791

 「体外受精」は不妊症の治療法の一つとして世界的に普及しつつあり,当科においても1980年より「体外受精」の臨床応用に備え種々の基礎的研究を展開してきた。すなわち,ミシガン州立大学内分泌研究所長W.R.Dukelow教授との共同研究下に,リスザルによる未成熟卵のin vitroでのtime sequence of maturityおよび体外受精卵に対する細胞遺伝学的検討を続け,さらに超音波断層法によるヒト卵胞の発育度と排卵時期の決定,着床機構におけるPGsの関与などの主要テーマに視点をおき研究を推進してきた。当科での第1例目は,両側卵管閉塞という,いわば絶対的適応で,昨年5月に施行した。
 それ以降,主に卵管不妊因子を適応の中心としてきたが,一部,乏精子症など男性因子に問題のある症例に対してもその適応を拡大した。

血中ホルモン動態による採卵時期決定法について

著者: 水口弘司 ,   五来逸雄

ページ範囲:P.792 - P.794

 体外受精・胚移植で最も重要なポイントはいかに多くの成熟卵を採取するかにある。採取された卵の数と成熟度がその後で操作,すなわち受精・分割・胚移植に大いに影響を及ぼすからである。採卵数増加の目的で種々の卵胞発育促進法があり,クロミッド—HMG法が最も繁用されている。採卵時期決定法には超音波による卵胞計測と血中・尿中ホルモン測定による内分泌学的検索とがある。われわれは自然排卵直前の成熟卵を採取する目的で排卵期前後で血中ホルモンを測定し,卵の成熟度・受精分割率を検討してみた。

多くの点で基礎的研究が必要

著者: 広井正彦 ,   斎藤英和 ,   佐藤文彦 ,   小川哲司 ,   金杉浩

ページ範囲:P.795 - P.795

 不妊症の治療として体外受精—胚移植が臨床に応用されるに至り,われわれも昭和58年より体外受精—胚移植法を卵管性不妊症でかつマイクロサージェリーによっても卵管機能を回復できなかった症例に対して臨床応用してきました。しかし,この方法は高度の技術と設備が必要のため,いくつかの問題点がありました。当初超音波断層装置における卵胞発育のモニタリングにおいても,セクタ型は当院にも2台ありますが,心臓の機能を検査するためにも用いられるため繁用されており,患者の尿が膀胱にたまり次第われわれが随時検査するという訳にはいきませんでした。よって患者に診療時間外に来院してもらうことによって,膀胱充満時に検査することができるようになりました。
 血中のエストラジオールの測定は,卵胞発育のモニターとして重要なモニターのひとつですが,これを測定するには迅速法を用いても数時間を要し,毎日1〜2本の検体のために数時間をかけるのは少人数のIVFスタッフでは無理があります。そこでわれわれは,尿中の総エストロジェンをハイエストロテックによって測定し,卵胞の発育をモニターすることにしました。これは2時間で測定結果を出すことができますし,時間補正しますと,卵胞の発育に伴って上昇し,測定方法が簡易の割によく卵胞の成熟を評価できる指標であります。

体外受精—胚移植の臨床応用にあたって

著者: 星合昊 ,   鈴本雅洲 ,   矢嶋聰

ページ範囲:P.796 - P.797

 私たちの教室では昭利57年12月より体外受精—胚移植の臨床応用を開始したが,実際の臨床応用を始めるにあたっては種々の準備を要した。技術的問題についてはその結果を数編の論文にして報告1〜4)してあるので,今回は臨床応用に当たっての周辺の問題についてまとめ,今後体外受精—胚移植の臨床を始めようとする施設の参考になるかと思いまとめてみる。

幾多の問題点を抱えつつ予想以上の成果

著者: 関守利

ページ範囲:P.798 - P.799

 昭和59年9月よりIVF-ETを開始しで毎月3〜4名の体外授精を実施している。clomid-hMG/hCGの刺激法を用いており,採卵率は腹腔鏡による採卵28回施行中,少なくとも1個以上の卵が得られたのは27例(96.4%)で,媒精後少なくとも1個以上の分割卵を得られたのは27例中23例(85.2%),clinical pregnancyは2例で,そのうち1例は双胎妊娠と,開始以来予想以上の成果をあげている。
 開始当初のギクシャクしていたIVF-ETチームも各自の技術向上に伴って,今ではスムーズなチームワークができるようになってきており,本来の成果を揚げるのはこれからであると考えている。IVF-ET program開始以来,当院における苦心談,また現在の問題点をあげてみる。

幾多の壁を乗り越えて

著者: 飯塚理八 ,   飯田悦郎 ,   杉山武

ページ範囲:P.800 - P.801

 1982年11月,飯塚理八を会長として日本受精着床学会が創立され,その後体外受精・胚移植(以下IVF-ER)の研究と臨床応用は,ヒト誕生のメカニズムを探究し,社会的,法的,倫理的コンセンサスから逸脱しないよう厳しい自主規制のもとに各研究機関が協力して急速の成果を挙げつつある1)
 慶応大学においてもそれまで進められていた基礎研究2,3)をもとに,1983年初頭より荻窪病院および東京歯科大学市川病院の2施設において臨床応用を始めました。当初は,新分野開拓には当然のことですが,手法はもちろん,器具施設も全く白紙に近い状況からスタートしたので,それこそ寝食を忘れたといっても過言でない暗中模索,試行錯誤の毎日が何カ月と続きました。本稿では手法確立のための苦心以前の問題で直面した難問,すなわちIVF-ERの知識が全くない環境において1つ1つ壁にあたりながらその体制造りをした苦心談を記します。

子宮内受精から体外受精,そしで配偶子卵管内移植へ

著者: 井上正人

ページ範囲:P.802 - P.803

 東海大学病院産婦人科では,御承知のように卵管性不妊に対して積極的にmicrosurgeryを行っている。microsurgeryの導入により卵管形成術の予後はたしかに改善されてきた。しかしわれわれが取り扱う卵管性不妊の多くは,microsurgeryでも妊娠しない,あるいは手術の適応とすらならない高度の卵管機能障害である。
 このような患者に対する画期的な治療法として体外受精が1979年,はなばなしく登場した。試験管ベビー"ルイーズ"の誕生である。以来,体外受精はまたたくまに世界中に広がり,不妊の治療法としての地位を確立していった。

わが教室における体外受精の実態

著者: 杉本修 ,   宮崎和典

ページ範囲:P.804 - P.805

1.準備期間
 IVFについてはSteptoe & Edwardsが第7回世界不妊会議(東京)京都セミナーで発表以来,強い関心を持っていたが,いろいろな事情から実際に準備にはいったのは昭和55年からである。京大畜産学科 入谷 明教授ご指導のもとに筆者の1人(宮崎)が家兎卵採取,培養を修得し引きつづき米国ペンシルバニア大学Wallach教授のご指導で,ヒトにおけるIVF・ETの技術を学んできた。

体外受精成功へ向けて

著者: 泉陸一 ,   長阪恒樹

ページ範囲:P.806 - P.807

 従来の不妊症治療に限界を感じていたわれわれにとって,また絶望の淵に立たされながらも諦めきれなかった患者にとっても,諸外国での体外受精成功のニュースは衝撃的であった。そこでわれわれは昭和57年4月からプロジェクトチームをつくり,ハムスター,マウス,家兎などを用いて培養系の安全性を確認しつつ,われわれなりの綱領を作製し,内外の理解と協力を得るよう努力を始めた。
 昭和58年5月に体外受精ならびに胚移植に関する基本方針(表1)および条件と適応(表2)が富山医科薬科大学附属病院運営会議において承認され,臨床応用が開始可能となった。しかしながら,同年3月に東北大学附属病院における本邦初成功例に対する過剰反応とも思える社会の反響を目の当たりにしたため,より閉鎖的地方と思われる当地での深い理解を得る必要があると感じ,不妊症および体外受精についての概略を地方紙に10回シリーズで掲載した。また9月の大学祭には「受精現象」がテーマに取り上げられた。当時はどこへ行っても,見知らぬ人達から不妊症や生命の神秘などについてよく話しかけられたものである。

本法に精通した専門カウンセラーをおいて

著者: 富永敏朗 ,   麻生武志 ,   小辻文和 ,   紙谷尚之 ,   堂庭信男 ,   山田良 ,   西修 ,   栃木一男 ,   斎藤友治 ,   宮崎好一 ,   佐々木太郎

ページ範囲:P.808 - P.809

 体外受精・胚移植を行うには,これに関わる基礎的・臨床的医学知識と経験が十分にそなわり,本法の医療としての有効性と安全性が確かめられ,かつ倫理的・法的・社会的な配慮が十分なされることが必要である。われわれはこうした見地から,本法の実施には十分慎重かつ厳正な考え方でのぞみ,従来からの知識・技術の蓄積に加え国内外の他施設での基礎的研究や実地臨床の視察・研修による経験を積んだ上で,日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する見解に則り,われわれ独自の方針を組み入れた要綱に基づいて,昭和58年11月から福井赤十字病院において実施している。
 実際の対象は卵管性不妊で,保存的ならびに外科的療法を行うも妊娠成立をみず本法によらねば患者の挙児希望が達せられない症例に限っている。系統的検査により他に不妊因子がないこと,腹腔鏡検査を行い卵巣の所見とくに採卵が可能なことなどを確認したのち,患者およびその配偶者に対して本法の実施方法,成功率,腹腔鏡実施に伴う危険,児の異常発生の危険などについで十分な熟慮期間をおいた上で患者およびその配偶者の依頼に基づき所定の手続きを経て実施している。医師のほかに本法ならびにこれに関わる諸問題に精通した専門のカウンセラーをおき,患者ならびにその配偶者のケースワーカー的業務を行わせている。

人工受精と体外受精とハイテク医療

著者: 大野虎之進 ,   吉村慎一

ページ範囲:P.810 - P.810

 近頃新聞紙上を賑わしているハイテクノロジーという言葉は医療の領域にも密着し,基礎となった分子生物学のジャンルが確立されて久しくなる。その間の研究開発は目ざましく,医療,工業,農業,畜産と,あらゆる技術が集約的発展を遂げ,互いに入り組んだ科学構造を形成した。バイオテクノロジーによる新薬の開発は激しさを増し,ファインセラミックのような新素材は医療の面にも特別の分野を開きつつある。免疫機構の解明は分子量的生体メカニズムと疾病との関連を治療化へと推進せしめた。コンピューターの導入はCTスキャンを生み,ヒト生体メカニズムや病態管理が進み,他方面のコンピュートピア化とともに人間社会そのものが膨大な情報処理による完全管理社会になるのもそう遠い将来のことではないであろう。今や物的,精神的構造が,世界的に極めて短時間のサイクルで変換されていく。価値感の変化はますますスピードをあげていくに違いない。
 35年前慶応病院でわが国最初のAID児が誕生してから,同大飯塚教授の管理下にあくまで学問的な配慮によって6,000人に及ぶAID児が生まれ,数知れぬ家庭に幸せと希望とをもたらした。この陰には種々の問題を乗り越え,また不足する提供精子の有効利用のために凍結保存が附発された。1970年後半には同大における凍結精子によるAID児は160名に達し,アイスベビーなどと騒がれた。

採卵時期決定に血中LH測定法を開発

著者: 山野修司

ページ範囲:P.811 - P.811

 体外受精・胚移植の臨床応用の開始までの苦労話を語ってみたいと思う。
 基礎実験をほぼ終え,実際にIVF・ETを不妊治療に応用することを決めた日以来,各スタッフは自分に振り当てられた技術を習得すべくそれぞれ苦心惨憺していた。特に超音波のスタッフは,実験台に自身の奥方を選び,奥方の下腹部にプローベをあて卵胞を描出する修練にいそしんだのである。当時,当科にはセクタスキャンはなくリニアスキャンを使っての卵胞計測であったため,スタッフの苦労は大変なものだったが,それにも増して,来る日も来る日も,多量の水を飲まされプローベの圧迫によりおこる尿意に耐えていただいた奥様方の内助の功に今も頭が下がるばかりである。

基礎トレーニングの積み重ねを重視

著者: 野田洋一 ,   矢野樹理 ,   森崇英

ページ範囲:P.812 - P.812

 当教室においては,既に1979年当時から森 崇英講師(当時)を中心としてヒトの妊孕現象の解析を進めてきており,とりわけヒト受精現象の解析を中心に基礎的な研究を行ってきている。最近,世界各国はもとより,わが国においてもヒト体外受精の臨床応用が各地で試みられるようになっているが,当教室主任の森は,徳島大学産婦人科在籍当時ヒト体外受精の臨床応用を既に行っており,成果を得ている。当教室においては,本年に入って医学部倫理委員会が発足し,生殖医学専門小委員会におけるヒト体外受精の臨床応用に関する実質審議も終了し,近く開催される予定の倫理委員会での審議の結果を待つばかりとなっており,本稿が出版される頃には臨床応用が開始されているものと考えている。
 さて,各地で行われているヒト体外受精の報告を見ると,臨床応用の立場からの技術開発に関しては時々刻々と新しい試みや方法が考案されているが,それに比較すると雄性あるいは雌性生殖細胞や,また初期胚の生物学的側面の理解は遅々としているように思われる。本法がもし臨床応用上極めて有用であるとして,今後も不妊治療上の重要な位置を占めるとすると,それは高い成功率に支えられることが必要で,このためには前提となる生殖細胞に対する理解が探まる必要があろう。

トピックス

月経により失われる血液と全液体量

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.768 - P.768

 多くの医師や患者も,月経の際に排出する液体は全血か少しの子宮内膜組織を含有している全血であると考えがちである。したがって月経時の出血量を客観的に測定するためには,この液体中のヘモグロビンを測定して推定する方法がとられている。しかし,以前の研究によれば,月経で失われる血液のヘモグロビン量は循環血のヘモグロビン量より低いことが知られており1),月経血を子宮または上部の腟より直接採取してヘモグロビン量を調べた報告によれば,4.0〜10.3g/100mlの範囲であるという2)
 婦人の月経量は,測定する時期が月経周期のどの時期に相当するかにより異なり,正確な量を測定するのは必ずしも容易ではない。そこでFraserら3)は24人の健康で月経の正順な婦人より,1つの月経時に毎日あらかじめ重量を測定しておいたパットかタンポンで月経量を採取し,測定までポリエチレンの袋にて保存し,正確な月経量を月経日ごとに観察した。まずパットまたはタンポンの月経血吸収後の重量を測定し,ついで自動抽出器を用いて抽出後にアルカリヘマチン法でヘモグロビン量を測定し,肘静脈より採取した血液のヘモグロビン量と比較した。

講座 実地医家のためのホルモン講座

プロゲステロン

著者: 蜷川映己

ページ範囲:P.822 - P.827

 1929年にW.AllenとG.Cornerが,卵巣の黄体からの抽出物が子宮内膜に特異な反応を起こすことを報告し,さらに1930年,1934年とその抽出物の純化を報告した。
 1930年にはButenandtがpregnanediolの構造を決定したが,1934年にはButenandtをはじめWertphal,Slotta, Allen等の多くの研究者が黄体ホルモンの結晶化に成功した。

薬の臨床

KPE錠(Prostaglandin E2錠)頸管内挿入による分娩誘発の試み

著者: 細井延行 ,   牧野一郎 ,   堀悟 ,   稲葉芳一

ページ範囲:P.829 - P.833

 プロスタグランジンE2錠(KPE錠)を分娩誘発の目的で頸管内に挿入し,その陣痛発来効果,分娩進行効果,分娩成功率および副作用について検討した。
陣痛発来効果は全症例が4時間以内に認められ,KPE錠挿入開始から陣痛発来までの時間は初産113±52分,経産106±64分で両者の間に差は認められなかった。
内診所見(Bishop Score)でみた分娩進行効果は,初産婦87.5%,経産婦100%で,頸管熟化作用にも極めて高い効果が認められた。
KPE錠挿入開始から24時問以内に分娩に至った症例を分娩成功例とすると初産,経産共に100%の成功率であった。KPE錠挿入開始から児娩出までの時間は初産婦440±192分、経産婦335±71分で経産婦の方が短い傾向がみられた。
副作用については16例中2例に嘔吐が認められたが,いずれも投与終了後の発現であり,本剤との因果関係は必ずしも明確ではなかった。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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