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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科39巻6号

1985年06月発行

雑誌目次

特集 図でみる病態産婦人科学--適正治療のために 生殖・内分泌

性分化異常

著者: 木川源則

ページ範囲:P.363 - P.368

 性分化異常はこれまで,どちらかというと理解しにくい疾患であったように思われる。その理由は,この異常の分類がどちらかというと臨床的見地から表現型に基づいてなされたものが多く,そのために成因の異なる異常でも表現型が似ていると同じカテゴリーに分類されていたからである。ところが,最近の研究の進歩により生殖腺や生殖器の分化を誘導するH-Y抗原やミュラー管抑制物質(MIS)の存在が明らかにされ,さらに生殖器の雄性化を誘導するアンドロゲンの作用機構が明らかにされるにいたり,漸く性分化の過程を機構面から理論的に説明することがかなりできるようになってきた。これにより性分化異常を成因論的に分類することがかなり可能となり,以前に比べるとより理解しやすくなっている(表1)。
 ここでは,性分化の機構とその異常について概説する。

多嚢胞卵巣症候群

著者: 平川舜 ,   小島栄吉 ,   椎名一雄 ,   油田啓一 ,   武井成夫

ページ範囲:P.369 - P.378

 多嚢胞卵巣症候群(PCOS)の病態生理のうち内分泌学的特徴は,中枢からのLHの過剰分泌と卵巣でのアンドロゲン(Aと略)過剰産生・分泌,エストロゲン(Eと略)産生異常に代表される。しかし,本邦婦人に分布するPCOSは,A過剰産生・分泌に起因する男性化徴候を伴わないのが特徴といわれ,多彩な臨床像をもつPCOSを一層複雑にしている。
 今回は,PCOSの概念と定義をできるだけ明確にし,病態生理からみた診断基準と,それに基づく診断の手順を提示する。また,最近の本症に対する治療法の主体はクロミフェン,グルココルチコイド,ゴナドトロピン(Gと略)などによる薬物療法に変わりつつあり,外科療法である楔状切除術(楔切術と略)の適応は次第に限定される傾向にある。

排卵障害

著者: 福島峰子

ページ範囲:P.379 - P.383

I.排卵機序と排卵の意義
 内分泌学の進歩と共に排卵の起こる機序もかなり解明され,間脳とくに視床下部からLH-RHの放出があると下垂体は刺激を受けFSHまたLHを分泌する。それは卵巣で卵胞の成熟とステロイド生成・分泌を行い,中枢への逆調節機序によりLHのsurgeがあれば成熟卵胞とくに主卵胞からの排卵が起こる。同時に発育していた数個の卵胞は閉鎖過程をたどるが,排卵した卵胞は黄体化し,エストロゲン,プロゲステロン生成,分泌を行う。このように中枢からの刺激,末梢からの逆調節で内分泌学的に閉鎖環を形成して調和を保持している(図1)。
 しかしこのような間脳—下垂体—卵巣系ではagingの問題が重要で,思春期または更年期前期では月経を認めても排卵を伴わない状態は生理的に存在する。女性では原始卵胞の数は胎児期に最も多く,加齢と共に減少の一途をたどることは,Blockの報告1)からも明らかである。成熟期では1回の排卵毎に5〜6個同時に発育し,1個のみ排卵して他は閉鎖卵胞となるが排卵した卵とて精子との受精現象が起こらない限り消失していく。したがって排卵の最大の意義は妊娠が成立することである。このことは無排卵で排卵誘発法を考える対象は原則として排卵により妊娠する可能性のあるもの,そしてそれを希望するものである。

体重減少性無月経—神経性食欲不振症

著者: 中村幸雄 ,   小田高久

ページ範囲:P.385 - P.391

 近年,肥満,太りすぎは心臓病,糖尿病,動脈硬化その他の成人病と密接な関係のあることが証明され,やせることに対する関心が急に高まり,スマートさは,一つのstatus symbolとさえなりつつある。
 また若い女性にあっては,美容上,肥満は大敵であり,スマートさに強いあこがれをいだいている。この結果,たいして肥満でもない人が,美容上の理由から無理をして減食して,体重減少し,初期の「スマートさ」への目的を達しても,その裏面には長期にわたる無月経に人知れず悩んでいる場合も少なくない。

高プロラクチン血症

著者: 青野敏博

ページ範囲:P.393 - P.397

I.疾患の概念
 1.高プロラクチン血症とは
 血中プロラクチン値が高値を示す場合を高プロラクチン血症(hyperprolactinemia)とよんでいる。血中プロラクチンの成人男女における平均値(±SE)はそれぞれ9.9±0.9ng/mlおよび6.5±0.7ng/mlであり,5〜30ng/mlの範囲に分布しているので,30ng/mlを超えるものを高プロラクチン血症と診断している。
 高プロラクチン血症は臨床症状として,乳汁漏出症をもたらすほか,排卵障害を惹起するので,無月経や不妊を招来する点が問題となるわけである。

機能性不妊

著者: 鈴木秋悦 ,   北井啓勝 ,   倉沢滋明

ページ範囲:P.399 - P.403

 不妊症の診療は,最近の体外受精の応用によって新しい時代に入ったということができるが,その体外受精の成功率も未だ5%前後といわれ,難治性の不妊症の治療は,日常臨床上でも依然として重要な課題である。
 とくに最近,ルチン検査で全く異常を認めない,いわゆる原因不明の不妊症といわれる症例の治療が問題となっている。

更年期障害

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.405 - P.409

I.疾患の概念
 1.更年期とは
 更年期とは「生殖期から生殖不能期への移行期」と定義されているが,具体的に何歳から何歳までをさすかは必ずしも明確にされていない。これは卵巣機能が人種や環境などにも影響され,生殖能力に個人差が大きいからに他ならない。
 外国では40〜60歳,45〜55歳を更年期と定義するものもあるが,森は40〜56歳ごろを更年期としている。この年齢の時期についても,思春期の早発化傾向と関連して,閉経期の遅発化が指摘されており1),それぞれの時点での更年期の年齢わくを考えていかなければならない(図1)。

産科

妊娠中毒症

著者: 中山道男

ページ範囲:P.411 - P.417

 妊娠中毒症はその本態が未解決のまま,1970年頃からいろいろの変遷を経てきている。
 すなわち,国際交流の学会が頻繁になるに伴い,これまで各国独自に使用されていた中毒症の名称や分類,定義を世界的に統一しようとする動向が活発となってきた。これを受けてわが国の日本産科婦人科学会でも妊娠中毒症問題委員会を設置してわが国の従来の分類を見直し,新しい世界の趨勢に沿った分類を樹立すべく検討が重ねられている。

早産

著者: 武田佳彦 ,   岡谷裕二

ページ範囲:P.418 - P.422

I.早産への産科的対応
 早産は,妊娠24週以後から37週未満の分娩であり,その原因は多岐にわたるが,結果として,早産未熟児分娩に至るため,周産期医療における重要な課題であるとともに,その防止は児の長期予後を左右するため重視される。
 早産の管理上特に問題となるのは,極小未熟児,超未熟児の出生対象となる妊娠24週から32週の妊娠中期である。さらに,骨盤位や胎児仮死など,児の長期予後を左右する合併症の発現頻度も高く,その管理の実際では,1)産科的原因疾患への対応,2)胎児の発育・成熟度の評価,3)分娩管理と出生児管理に対して適切な配慮がなされなければならない。

多胎妊娠・分娩

著者: 池ノ上克 ,   村上直樹

ページ範囲:P.423 - P.430

I.多胎妊娠・分娩の概念
 1.多胎の頻度と疫学
 a.多胎の頻度 多胎の発生頻度はHellinの法則によるといわれ,"もし双胎の頻度が1:Nであれば,3胎は1:N2,4胎は1:N3,5胎は1:N4"となる。この法則によれば,3胎は1:6,400,4胎は1:約50万,5胎は1:4,000万のはずである。日本人の最近の統計では,双胎のNは150〜170といわれ白人に比して少ない。表1に当センターでの多胎妊娠の総計を示しているが,双胎のNは44.2〜86.5と頻度は著しく高くなっているが,これは多胎を主訴とした母体救急搬送を差し引いてもかなり高いようである1)
 b.排卵誘発と多胎妊娠 排卵誘発剤Clo—miphene (clomidR)による多胎妊娠発生率は2.2〜8.3%と自然排卵に比して高率である。HMGによるそれはわが国の全国統計2)では20.5%と高率で2)あり,その内訳は双胎が7.3〜35.3%,3胎は0〜7.6%(全体でみると4.00%),4胎は0〜2.6%(全体で1.41%),5胎は0〜1.1%(全体で0.47%),6胎は0〜0.5%(全体で0.24%)と報告されている。

骨盤位

著者: 石塚文平 ,   平田浩一 ,   本間寿彦 ,   大塚博光 ,   浜田宏

ページ範囲:P.431 - P.438

 周産期管理の向上をめざす上で,骨盤位の取り扱いに関する問題は,近年とくに重要視されている。1970年以降は未熟児—骨盤位分娩の問題が焦点となっており,分娩様式の選択についての考え方も変わりつつある。本稿では神奈川県産科婦人科医会のアンケート調査でこれまでに得られたデータの一部をまじえ,骨盤位の成因,病態生理,取り扱いに関する考え方の国内外の動向を文献的に考察する。

前置胎盤

著者: 清水哲也

ページ範囲:P.439 - P.443

 妊娠中期以降における性器出血の主原因の一つとしての前置胎盤の臨床的重要性は周知のところで,したがってその早期発見のため,本症に対する診断法として従来より種々の方法が考案されてきたが,いずれも満足できるものではなかった。しかし最近の超音波断層法の進歩により胎盤の映像化が安全かつ容易となり,妊娠早期より無症状前置胎盤の診断が可能で母児双方に対する予後の改善が期待できるようになってきている。しかしながら前置胎盤の治療および管理の面では出血による母体のリスクと早期娩出による児のリスクのバランスの上に立った最適な娩出時期,分娩様式の選択に苦慮することが多く未だ種々の問題が残されている現状である。ここでは超音波断層法を中心とした診断法と病態に基づいた母児相互の管理,治療方針について概説する。

前期破水

著者: 荻田幸雄 ,   今中基晴

ページ範囲:P.444 - P.450

I.疾患の概念
 規則正しい陣痛が発来する以前に卵膜の破綻をきたし羊水が流出する場合を一般的に前期破水(prematurerupture of the membranes; PROM)と定義する。PROMは発症の時期を問わなければ全分娩の約10%に起こり,児がすでに成熟している妊娠37週以後では臨床的にほとんど問題はないが,それ以前で児が未成熟な時期に発症するPROM (preterm PROM)は低出生体重児を娩出するに至る早産の最大の原因として臨床的に重要で,その頻度は約33〜43%に達すると報告されている1,2)
 PROMを放置すれば早晩,陣痛が発来し,諸臓器機能の未熟な児を娩出する。肺機能の未熟な児は呼吸促迫症候群(respiratory distress syndrome; RDS),あるいは脳室内出血(intraventricular hemorrhage; IVH)をきたす一方,娩出までの過程で破膜部位からの上行感染によって羊膜炎,あるいは胎内感染を招来して,母体においては産褥性内膜炎,児においては肺炎,髄膜炎,あるいは敗血症など重篤な感染症に罹患する危険性がある。特に,早産,PROMの原因として子宮内感染の意義が明らかにされている今日,顕性,不顕性にかかわらずPROMと感染は臨床上重要視されている。

陣痛異常

著者: 菊池三郎 ,   井上嗣彦 ,   荒木良二

ページ範囲:P.451 - P.456

 陣痛1)とは,妊娠・分娩・産褥時に認められる子宮収縮をさす。したがって,その発生する時期別に妊娠陣痛・分娩陣痛・後産期陣痛・後陣痛と分類される。現在のところ,妊娠陣痛の意義については,われわれは頸管の熟化に有意義という結論を得ているが,未だ広く認められているとはいえない。残りの3種の陣痛は共通して妊娠性産物の排出という目的を有している。
 陣痛を研究する時に問題となるのは,通常,妊娠・分娩・産褥の全期間を通して同一の測定法はなく,また,確立された表現法と評価法を欠くことである。

糖尿病合併妊娠

著者: 杉山陽一 ,   村田和平 ,   山本稔彦

ページ範囲:P.457 - P.464

 近年わが国においても妊娠糖尿病あるいは糖尿病を合併する妊婦の漸増傾向がみられており,これらの妊婦における診断と管理は臨床上きわめて重視されるところとなっている。本稿では妊娠糖尿病および糖尿病合併妊娠について,その病態生理,診断および治療について,図表を用いて述べることとする。

腫瘍

子宮内膜症

著者: 杉本修

ページ範囲:P.465 - P.475

 子宮内膜症はRokitansky (1860)によって初めて記載され,かなり古くから知られていた婦人科疾患である。最近とみに注目されるようになったのは,①診断技術が向上したばかりでなく発生頻度が非常に高くなってきた,②不妊との関連が追求されるようになった,③ホルモン療法の開発や,保存手術療法の工夫によって保存治療成績が向上してきた,などの理由によるものである。しかし本症がenigmatic diseaseとかbenign cancerとか得体のはっきりない名称がつけられているように,その発生機序や不妊との関連などについてまだまだ不明な点が多く,なお幾多の問題を残している疾患であるといえる。
 本稿では最近とりあげられているいろいろな疑問点,とくに病態生理からみた本症の特性をとりあげ,さらに新しい治療法の動向を探ってみようと思う。

子宮頸部前癌〜早期癌

著者: 井上芳樹 ,   野田起一郎

ページ範囲:P.476 - P.481

 前癌病変あるいは前癌状態という言葉には種々の意味合いのものを含んでおり,従来,厳密な手続きなしに癌になりやすい状態という程度に用いられることが多かったが,現時点における前癌病変の概念を整理してみると,癌化の中間段階にある細胞の構成する組織という意味での癌化中間病変と,単に癌化の起こりやすい状態という意味での癌化好発病変の2つに分けることができる。発癌機構と直接かかわりをもつと考えられるのは前者の癌化中間病変であり,この病変の認識は臨床家にとって重要な意味をもつこととなる。
 子宮頸部において癌化中間病変というものがどういうものであるかについては,これまでのfollow up study,病理組織学的検討,疫学的調査成績,地域における集団検診による各病変のincidenceの検討,および実験的に発生せしめたマウス頸の上皮病変についての成績などより,異形成上皮(dysplasia)であるとされている。

卵巣癌

著者: 寺島芳輝

ページ範囲:P.482 - P.489

I.卵巣腫瘍の概念
 卵巣には腫瘍のhot bedといわれるくらい,原発,転移性を問わず,多種多様の腫瘍が発生することは周知の通りである(図1,2)。これはわずか母指頭大ぐらいの大きさの臓器にもかかわらず,腫瘍化する発生母地がそれぞれ異なるためと考えられる。しかしながら,腫瘍発生については発癌遺伝子,モノクローナル抗体などその進歩には驚くべきものがあるが,今後解決すべき問題も多く,なお,speculationの域を出ていない。一般に,発癌剤などを使用し,実験的に腫瘍を発生させ,母組織を追求したり,すでに発生している腫瘍の形態と機能から,その起源を類推するという方法などが行われているが,腫瘍の発生過程や,母組織を直接知りうる手懸りに乏しく,実験モデルはそのままヒト腫瘍の発生に適用できるか否かの問題が残されている。

絨毛性疾患

著者: 竹内正七 ,   小幡憲郎 ,   上田昌博

ページ範囲:P.490 - P.496

I.絨毛性疾患の病態生理
 1.絨毛性疾患の病態観
 絨毛性疾患の病態観は表1に示すように3つに分類される。
 a)非連続説4,5)胞状奇胎(以下奇胎と略す)はmissed abortionの特殊型であり(したがって腫瘍neo—plasiaではない),侵入奇胎(破壊胞状奇胎,以下侵奇と略す)ならびに絨毛癌(以下絨癌と略す)は奇胎に続発する悪性病変であるとする病態観である。

乳腺症

著者: 弥生恵司

ページ範囲:P.497 - P.504

 乳腺症は,外来を訪れる女性の乳腺疾患のなかでは最も多く,乳腺疾患患者の30〜50%を占め,線維腺腫,乳癌とともに乳腺の3大疾患といわれており(図1),また,乳癌との鑑別診断の上からも重要な疾患である。

術後感染症

著者: 高田道夫 ,   久保田武美

ページ範囲:P.505 - P.513

 産婦人科術後感染症には,術創感染,子宮内感染,骨盤内感染,骨盤腹膜外感染,尿路感染などがある。
 最近の術後感染症の特徴としては,生体の感染に対する抵抗力が減弱した際に発症するoportunistic infectionの型をとる複数菌感染症が多く,また治療中に2相性感染の経過を示すといった傾向がある。

胎児・新胎児

IUGR

著者: 森山郁子

ページ範囲:P.514 - P.519

I.概念
 1.用語と定義
 IUGRに関する用語が多数あるので表1に総括してみた。IUGRの概念が,年代順にdysmaturity, PDS,IUGR, fetal malnutrition, SFD, SGA, FGR, fetalhypoplasiaと,次第に病態をもとにした用語が使われてきている。
 現在ではIUGRとSFDは,ほぼ同意語として用いられている。また,IUGRは,広義の子宮内胎児発育障害を意味するが,病態像より体型,成因,発症時期を考慮した概念からfetal malnutritionとfetal hypopla—siaに分けて考えるのが適当である。

胎児・新生児

潜在胎児仮死

著者: 東舘紀子 ,   武田佳彦 ,   中林正雄 ,   諸橋侃 ,   坂元正一

ページ範囲:P.520 - P.524

I.潜在胎児仮死の概念
 潜在胎児仮死(latent fetal distress)とは胎児・胎盤系における呼吸・循環不全が予測できる状態をさすと定義されている(日産婦産科婦人科用語問題委員会)。すなわち,自然に放置された状態では胎児仮死の症候を現わしていないが,もし何らかの負荷が加えられたとき顕性となるか,またはその可能性を強くもっている状態をいう。
 胎児仮死(fetal distress)とは胎児・胎盤系における呼吸・循環不全を主徴とする症候群と定義されているが,このような状態が今後発生することを予測できるような状態,または試験的に負荷をかけたときに胎児仮死の症状が現われる状態を潜在胎児仮死というのである。潜在胎児仮死が分娩にさいして必ずしも胎児仮死に進行するとは限らず,潜在胎児仮死の状態において,これを妊娠中の諸検査によって早期に診断し,いろいろな治療によって胎児仮死への進行を阻止することができれば周産期管理として重要な意義をもつこととなる。近年とくに潜在胎児仮死の病態生理,診断,治療が注目される理由はそこにある。

羊水吸引症候群

著者: 佐藤章 ,   佐藤真澄

ページ範囲:P.525 - P.528

 羊水吸引症候群(以下MAS: Meconium AspirationSyndrome)は,胎内,あるいは出生時に,児が胎便を混入した羊水を肺内に吸引するために呼吸困難をひき起こす疾患である。また大量の羊水を吸引することが本症の原因であるとの考え方から,Schafferらは,MassiveAspiration Syndrome大量吸引症候群と呼称した1)
 MASは,呼吸窮迫症候群・一過性多呼吸と並び,新生児三大呼吸疾患のひとつとされ,とりわけ満期産あるいは過期産の出生体重児に生直後よりみられる呼吸困難の場合には本症を考える。症状は軽い呼吸障害程度のものから胎児循環遺残症(Persistent Fetal Circulation:PFCと略す)に至るものまであるが,PFCを合併したものは予後不良である。

新生児の頭蓋内出血

著者: 竹内豊

ページ範囲:P.529 - P.533

I.概念
 新生児とくに未熟児は脳血管系の発達が未熟であり,しかも仮死や肺疾患などで容易に低酸素血症に陥りやすく,この結果脳血流増加,脳うっ血を来しやすく脆弱な血管が破綻する。さらには分娩時の頭蓋変形に伴って脳膜や天幕の過伸展が生じた結果,血管の断裂破綻を来すこともある。このような因子で頭蓋骨内部に出血した状態を頭蓋内出血と総称している。頭蓋内へ出血が起こった場合には出血による脳細胞の壊死,圧迫による機能障害,さらに後障害として水頭症への移行などが生ずるので早期診断,早期治療は最重要なことである。新生児期の頭蓋内出血では出血部位による特異的症状に乏しいので神経症状で出血部位を診断することはなかなか困難である。近年,CTスキャンや超音波診断法の進歩によって出血と部位診断が極めて容易に行えるようになった。

新生児感染症

著者: 北島博之 ,   竹内徹

ページ範囲:P.534 - P.539

 周産期医療の進歩と共に新生児感染症に対する医療内容も抗生物質を初めとして著しく進歩した。本稿では主に周産期特に分娩前後における感染症に関する診断的な情報収集の方法について述べる。この時期は胎児・新生児に感染症が発生すると全身感染症の形で重篤な敗血症や髄膜炎に発展しやすく,しかも症状が出現した時には病勢が進行していることが多い。周産期因子を考慮した危険因子の確認と予防対策が最も重要と考えられる。最近,たとえばGBS感染症に対して母体へのワクチン投与まで考えられているが現状では厳密な意味での予防方法はない。したがって新生児が発症してから周産期因子を見直すのでなく,発症前にこれら諸因子を評価し"疑い"をもって診断・治療を開始し病状を最小限に止める努力をしなければならない。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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