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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科40巻11号

1986年11月発行

雑誌目次

先進医療—日常診療へのアドバイス 特集 婦人科癌の化学療法

抗癌剤選択のポイント

著者: 和田裕一 ,   阿部祐也 ,   矢嶋聰

ページ範囲:P.799 - P.801

 癌化学療法をおこなう上で,いかなる抗癌剤を使用するかは,患者の予後に関わる最も重要な問題の一つである。抗癌剤の効果は,抗癌剤自体の薬効だけでなく,宿主や腫瘍との相関関係の中で決定される。そこで,個々の症例について,宿主の生体防御機構や腫瘍の特異性・抗癌剤感受性など,様々な要素を考慮した上で,より合理的な抗癌剤の選択がなされるのが理想であるが,現状ではそのような十分な配慮がなされているとは言い難く,なお改善されねばならない問題も多い。しかし,近年たとえば抗癌剤に対する感受性試験が臨床レベルにおいても導入されるなど,抗癌剤の選択にも個別的な要素が加味されつつある。

婦人科癌化学療法効果判定基準の要点

著者: 加藤俊 ,   西村治夫

ページ範囲:P.803 - P.806

 相次ぐ制癌剤の開発により,最近では化学療法が癌治療体系において重要な地位を占めるようになってきた。しかしながら,制癌剤の評価とくに固形癌に対する臨床効果判定については,これまで多くの方法が提案,実施されてきたにもかかわらず統一した尺度の下に的確な評価をなし離い状況であった。そこで,これらの問題を解決すべく,昭和52年より小山善之,斎藤達雄両博士を中心に各臓器の癌に共通の統一された判定基準の作成作業が開始され,昭和55年に完了立案,同年日本癌治療学会の効果判定基準として承認された。さらに,この基準に沿って各臓器毎の各論作成が行われることになり,婦人科癌の責任者として筆者が任命され昭和57年に「婦人科がん化学療法の直接効果判定基準」を決定した。本稿ではこの判定」基準の概略を紹介するとともに今後の問題点についても触れてみたい。

Adverse effectに対する対策

著者: 湯沢秀夫 ,   鈴木孝明 ,   竹内正七

ページ範囲:P.807 - P.809

 近年の抗癌剤療法は著しく進歩しており,癌患者の集学的治療の一環として重要な位置を占めている。現代の抗癌剤療法は,より理論的に,より効果的なものとなっており,強力な抗癌作用を有している反面,重篤な副作用も出現している。抗癌剤療法では,いかにうまく計画通り抗癌剤を投与出来るかが一番大切なことであり,副作用のため中止または延期するようでは中途半端な治療となってしまう。中途半端な抗癌剤療法はかえって患者の体力を消耗し,抵抗力を減弱させ,癌増殖を助けることになる。
 ここでは,抗癌剤の副作用に対する全身支持療法を述べる。

Current concept

婦人科癌の化学療法をめぐって

著者: 竹内正七 ,   金沢浩二 ,   湯沢秀夫

ページ範囲:P.793 - P.797

 ここ25年ほどの間に,抗癌化学療法の登場にともなって,婦人科癌の治療法も大きく様変わりしたといえよう。実際の臨床においては,むしろ局所を越えて拡大した癌に遭遇することが多いこと,たとえ局所に限局されていると判断されても結果的には細胞レベルの拡大があったと推測せざるを得ない,すなわち,局所再発よりも遠隔部位の再発に遭遇することが少なくないこと,などの観察によって,局所的治療法(local therapy)としての手術療法と照射療法,および,全身的治療法(systemictherapy)としての化学療法の意義と役割が,次第に明確にされてきた。化学療法は,歴史的には,前立腺癌に対するEstrogen投与,リンパ腺腫や白血病に対するNitrogenmustard投与などに始まり,最近では多数の抗癌剤が開発され,臨床的にもそれぞれの有効性が客観的に評価されてきた。婦人科的にも,例えば絨毛癌の治療においてはもちろん,卵巣癌の治療においても,今後化学療法の役割がますます重大になっていくものと考えられる。
 本稿においては,最近の知見を中心に,婦人科癌の抗癌化学療法について概説したいと考える。

疾患別プログラミングとプラクティス

絨毛性疾患—各抗癌剤の有効率と副作用

著者: 川島吉良 ,   前田真 ,   朝比奈俊彦 ,   平嶋泰之

ページ範囲:P.811 - P.817

 絨毛性疾患,就中,侵入奇胎と絨毛癌の治療成績は近年著しく向上し,最近の治癒率は日本産科婦人科学会絨毛性疾患登録委員会によれば侵入奇胎が98%,絨毛癌が75%,また絨毛癌のうち転移を有しないものは97%,転移を有するものは60%と報ぜられている(図1,2)。
 これらは優れた化学療法剤の開発と胞状奇胎後管理体制の確立によるところが大きい。

卵巣腫瘍

著者: 金沢浩二 ,   湯沢秀夫 ,   本間滋 ,   鈴木孝明 ,   吉谷徳夫 ,   安達茂実 ,   高桑好一 ,   竹内正七

ページ範囲:P.819 - P.821

 現在,婦人科癌の中で最も予後の悪いものは卵巣癌であるといえる。cisplatinの臨床応用にともなって,従来では寛解の期待できなかった進行期癌,再発癌においても一時的にでも寛解状態が得られ,長期延命が期待できるようになった。さらに,抗癌化学療法の有効な症例においては,適正な時期に手術療法を組み合わせることによりほぼ治癒に近い状態を得ることも可能となってきている。
 当教室においては,関連施設の参加を得て新潟婦人科癌研究会を設置し,卵巣癌治療指針を作成し,同一プロトコールによるmass studyを開始した。それはSecondlook operation,SLOを含む手術療法に化学療法を組み合わせた卵巣癌集学的治療であり,現在までに非常に良好な臨床成績を得ている。本稿では,卵巣癌に対する抗癌化学療法について,この研究会の臨床経験を中心にして解説する。

子宮頸癌・体癌

著者: 山本嘉一郎 ,   池田正典 ,   野田起一郎

ページ範囲:P.823 - P.827

 本邦における婦人科悪性腫瘍のうち約90%は子宮癌で占められている。このうち子宮頸癌と子宮体癌の比率は9:1となっている。両者ともその治療のfirst choiceは手術療法あるいは放射線療法であるが,最近これらに化学療法,免疫療法及びホルモン療法を組み合わせた集学的治療が注目されつつある。特に再発癌など全身疾患の状態となった癌に対する治療法として化学療法の果たす役割は大いに期待されている。
 本稿では子宮頸癌及び体癌の治療において化学療法の持つ役割について考察し,実際に化学療法を行うにあたってのprogrammingとpracticeについて現在教室で施行している化学療法に沿って若干の解説を試みる。また,化学療法を施行するに際して必要な基本的事項についての解説もつけ加えた。

外陰癌

著者: 梅咲直彦 ,   須川佶

ページ範囲:P.829 - P.831

 外陰癌の治療の中心は手術療法であることに異論はないが,近年扁平上皮癌に有効なブレオマイシン(BLM)の開発と普及にともない化学療法が,外陰癌の治療体系の中に積極的に組み込まれるようになってきた。
 そこで,本邦における外陰癌の化学療法の統計をもとに,最近の外陰癌治療における化学療法の位置づけにつき考察を加えた。特に一次治療における単独化学療法の評価,補助療法としての価値,またはそれに引き続く維持化学療法の必要性や有効性につき解説を加え,さらに,免疫療法の現況についても簡単に言及することにした。

小児婦人科がん

著者: 中島久良 ,   山辺徹

ページ範囲:P.833 - P.836

 わが国における小児がんの発生頻度は小児人口のおよそ1万人に1例の割とみなされ4,5),年間発生数は約2,500例と推定されている6)。一方,小児がんのうち女児性器がんの割合は約3%と考えられており2,3),しかもその大部分が卵巣においてみられるので,小児における子宮,腟あるいは外陰の悪性腫瘍はかなりまれといえる。なお小児に発生する卵巣がんの70〜90%は胚細胞起源の腫瘍である3,14,20)。米国ではとくにdiethyl-stilbe—strol投与を受けた妊婦から出生した女児の腟や子宮頸部に明細胞腺瘤の好発することが指摘されているが,わが国では妊婦へのestrogcn剤投与がほとんど行われていなかったこともあり,そのような発生の報告例はみられない。
 そこで本稿では,小児期および思春期の女児に特異的にみられるブドウ状肉腫と胚細胞起源の充実性卵巣腫瘍について,それぞれの治療法を概説し,さらに化学療法の指針に関して触れることにする。

作用機序の面からみた制癌剤コンビネーション

著者: 高見沢裕吉 ,   松井英雄

ページ範囲:P.837 - P.840

 癌化学療法は従来,手術施行不能症例や放射線療法に感受性の悪い疾患に対し,補助的延命効果を目的として行われてきたにすぎなかったが,抗癌剤の進歩や多剤併用療法の施行により,特に絨毛癌,最近では卵巣癌においてもfirst choiceとして用いられるようになってきた1,2)。しかし,抗癌剤は癌組織にのみ特異的に作用するものではなく,正常組織にも作用し,時には致命的となる副作用が出現する3)こともあり,耐性問題も含めその限界がみられる。
 今回,婦人科領域で頻用されている抗癌剤の作用機序や副作用について述べ,多剤併用療法を行う際に考慮しなければならない細胞動態についても若干触れることとする。

グラフ 目でみる胎盤の診断学・11

周産期感染症と胎盤所見

著者: 中山雅弘

ページ範囲:P.790 - P.791

 胎盤の病理で最も重要な疾患は感染症である。胎内における感染の経路として血行性にくるタイプと上行性にくるタイプがある。血行性感染で最もよくみられるタイプはウイルスによるものであるが,細菌群では梅毒,リステリア等が知られている。血行性感染は絨毛に炎症がみられる。
 典型的な絨毛炎では,リンパ球様の小円形細胞の浸潤が認められる。絨毛炎が非常に高度のときには,どの標本上にもみられるが局所的のことも多く,従って絨毛炎即ち胎内での血行性多感染症が予測されるときはできるだけ胎盤実質より多くの標本を作ることが必要になる。

トピックス

胎盤におけるGn RH受容体

著者: 赤心堂病院

ページ範囲:P.806 - P.806

ヒト胎盤で生成されるGonado—tropin releasing hormone (GnRH)は,胎盤におけるHCG分泌を促進し,ステロイド代謝を調節しているが,下垂体のGnRHと極めて類似した性質を有する1,2)。最近,Gn—RHあるいはGnRHアナローグと特異的に結合する受容体がラット,サルあるいはヒトなどの下垂体以外,とくに卵巣,睾丸などの性腺に存在することが証明され,性腺におけるGnRHの下垂体を介さない直接作用が注目された。(臨婦産,40巻5号トピックス)
 1981年,英国のCurrieら4)は,LHRHと特異的に結合する蛋白が,妊娠初期あるいは満期産から得られたヒト胎盤に存在することを証明し,ヒト下垂体以外におけるGnRH受容体の存在を初めて報告した。さらにヒト胎盤におけるGnRH受容体の結合親和性(Ka=6.2×107M−1)は,ヒト下垂体より低い性質を示した。

Nonstress test (NST)における一過性徐脈の臨床的意義

著者: 田部井徹

ページ範囲:P.818 - P.818

 Nonstress test (NST)は,胎動あるいは自然の子宮収縮に伴う胎児心拍の一過性変動を分析して妊娠中における胎児予備能を判定する検査法である1)。一過性変動は,胎児心拍が一時的に増加する一過性頻脈accelerationと逆に減少する一過性徐脈dccelerationがある。reactiveなNSTは振幅15 bpm以上15秒間以上持続する,一過性頻脈が20分間に2回以上出現し,さらに正常な微細変動variabilityを示し,胎児の状態は健康であると判定する。一方,子宮収縮に伴う遅発性あるいは変動一過性徐脈の出現は,潜在性胎児仮死が疑われ,nonreactiveと判定し,Contraction stress tests (CST)の適応となる。
 従来から,NSTにおける一過性徐脈の臨床的意義に関しては,種々の検討が加えられてきたが,子宮収縮に伴う遅発性あるいは変動一過性徐脈に関してが多い。NSTにおける変動一過性徐脈の出現は,臍帯異常,羊水過少,あるいは子宮内胎児発育不全などに起因することが多い。一般に,一過性徐脈の出現頻度は,1.6%2)〜56.8%3)と著しい差があるが,一過性徐脈の定義が報告者により相異するためと思われる。然るに,一過性徐脈の定義を明確に記載した報告は3論文2,4,5)に過ぎない。

妊娠中の胎位

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.822 - P.822

 妊娠末期になっても,外来で骨盤位として入院を予約し,数日後に外廻転をしようとするともう頭位になっていることに直面することがある。このように,妊娠中の胎児の位置はよく動いているものであるが,妊娠の時期における胎児の位置が正常妊娠ではどのように変わるものか,その位置と関連性などについて興味はつきない所である。
 そこでHughey1)は1978年10月より1982年12月31日まで11,593例の分娩があり,このうち,1,687例は他の機関で検診をうけていた。67例の双胎と記載不充分の7例は統計より除外した。妊娠29週以前の早産例では超音波での児頭の位置と分娩データとは必ずしも充分でなかったので,29週以後は妊娠中の胎位と分娩時の胎位を比較したが,大きな変化はみられなかった。

産科における意志決定—とくに帝王切開について

著者: 広井正彦

ページ範囲:P.859 - P.859

 今日では特別な事情がない限り,治療法の選択と決定には医師と患者またはその家族との了解がなされていることが多い。エホバの証人のごとく輸血を拒否することにより,本人の生命に危険があったとしても,倫理上も法律上もその治療法が保護されてきている。しかし,こと妊娠中になると,母親が医師の推める治療法を拒否する権利があったとしても,胎児の生命についてどう考えたらよいか複雑な場合も少なくない。
 最近10年間にアメリカの産婦人科医の間では,多くの婦人の希望により,今まで行って来たルーチンの治療法を変更しなければならない場面に遭遇することが多くなって来ているという。そこでJohnsonら1)は簡単に19の産科的状態を想定し,患者が帝王切開分娩を希望した時の分娩の方法について,大学病院のスタッフと開業医にアンケート調査した。この質問には明らかに医学的適応により帝王切開とすべき症例を3つ,医学的適応で経腟とすべきもの2つ,その他は問題となるケースであった。

臨床メモ

臍帯の長さと胎動

著者: 貝原学

ページ範囲:P.817 - P.817

 臍帯の長さは個人差が大きく,3mに達する非常に長いものから,数cmと極めて短いものまで広い範囲にわたって分布している。このように臍帯の長さには他の臓器にはみられないような大きな個体差が存在するが,どうしてこのような差が生じるのであろうか。
 臍帯の長さは,胎児の運動の大小と密接な関係があることが動物実験によって明らかにされている。Mo—essingerら1)は,ラットを用いて,羊水過少症を実験的に作成して胎動を抑制したり,胎児にクラーレを直接投与して胎動を消失させたりして胎動が臍帯の長さに及ぼす影響を観察した。その結果,このような動物では臍帯の長さは明らかに短くなることが観察された。また逆に,胎児を子宮腔内から取り出して腹腔内に移すと,臍帯の長さは明らかに延長することが認められた。これらの事実は,臍帯は胎動などの臍帯に加わる力によって,その長さの発育が促進されることを物語っている。

図解 救急基本手技

酸・塩基平衡

著者: 稲生由紀子 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.841 - P.845

I.酸・塩基平衡とは
 正常人の動脈血pHは酸と塩基の濃度により調節されている。生体の代謝機能は酵素活性を規制する細胞環境で調節されるが,その最大の要因は水素イオン濃度(pH)である。そのため至適pH 7.34〜7.46(図1)(塩基/酸:20/1)に保つ機構(緩衝作用と代謝作用)が存在している。これらが正常に作動し酸・塩基のバランスのとれた状態を酸・塩基平衡という。

思い出の写真

私に影響した師友

著者: 森山豊

ページ範囲:P.846 - P.847

 私の人生,人間形成に影響したのは,もちろん両親であるが,そのことは省略しよう。私は今まで多くの師友に恵まれてきたのは,この上ない幸であった。村の小学校で3年間担任の稲童丸先生,中学の担任浅山先生,高校時代(八高)の柔道師範岡野先生,東大産婦人科教室の安井先生,大学時代から卒業後の長い間ご指導いただいた平生先生のほか,友人としては,札幌中学時代の谷口君,東大医局以来の友人沢崎君などで,これら多くの師友によって,少年時代から現在まで,いろいろの影響を受けてきたもので,改めて感謝にたえないものがある。

講座 実地医家のためのホルモン講座 ホルモン療法の実際・11

男性不妊

著者: 守殿貞夫

ページ範囲:P.848 - P.851

 不妊夫婦の原因を男女別にみると,男性側,女性側および男女両側因子の占める割合はそれぞれ約1/3とされる1)。この男性不妊の大部分は精子形成機能障害によるもので,その原因として精索静脈瘤,内分必学的異常,精巣の血流障害,免疫因子および熱性疾患の関与などがあげられる。しかし,実際の臨床の場ではこれら原因が明らかにされ,特異的な原因療法が行われることは少ない。精索静脈瘤に対する内精静脈の高位結紮術2),低ゴナドトロピン性性腺不全症および甲状腺機能低下例に対するホルモン療法などがその代表であるが,男性不妊症例は未だ経験的に治療されることが多い。本症に対する治療成績は必ずしも良好とは言えないが,不妊夫婦にとって子宝に恵まれたいという願いは極めて強いことから,これら男性不妊に対して積極的な治療が行われている。
 一般に,正常の精子形成機能を賦活・調整するものとして,最近ブラディキニンなどの組織性ホルモンやcha—loneなどの関与が示唆されているが3),依然として性ホルモン以外に明らかなものは知られていない3)

原著

子宮肉腫の臨床的・病理学的検討

著者: 関晴夫 ,   斉藤良治 ,   田口圭樹 ,   佐藤康美 ,   真木正博

ページ範囲:P.853 - P.859

 子宮肉腫は更年期,閉経期に多く発生する稀な腫瘍である。また,術前に正しく診断されないことも多い。摘出標本の肉眼所見でみると,子宮肉腫の多くは平滑筋肉腫の筋層内発生例を除いて,子宮内腔に向かってポリープ状の発育を示すことが多い。ヒステロスコープはこのポリープ状腫瘤の確認上極めて有用である。ポリープ状の悪性腫瘍が必ずしも肉腫とは限らないが,少なくとも肉腫を疑診することは可能である。
 当教室にて経験した6例の子宮肉腫のうち5例は1期であり,全例8カ月から7年6カ月(平均4年4カ月)生存しており再発の微候はない。しかしIII期例の1例は6カ月で全身転移により死亡した。組織型は子宮内膜間質肉腫3例,平滑筋肉腫1例,中胚葉性混合腫瘍2例であった。子宮肉腫の予後は治療開始時の病巣の広がりに左右されると考えられる。

症例

産褥期にみられたtoxic shock syndrome

著者: 山下隆則 ,   中村恒一 ,   石丸忠之 ,   山辺徹

ページ範囲:P.861 - P.865

 Toxic shock syndrome (TSS)はブドウ球菌の産生する外毒素が原因となって起こる症候群であり,月経時のタンポン使用のほか,外科的手術や分娩後などにおける発症例の報告がある。今回経験したTSSは妊娠末期に発症したものである。妊娠40週1日,破水感にて某医院に入院し,水様性下痢,悪心および嘔吐が出現。さらに突然39°Cの発熱がみられ,分娩後2時間にて,四肢冷感および呼吸困難が出現し,血圧測定不能となり,当科へ入院した。入院後多発性筋肉痛,耳下腺腫脹,口腔咽頭粘膜の発赤および皮膚紅斑が出現し,Tofteらの診断基準と照合し,TSSと診断した。入院中,急性腎不全状態となり,さらにDICを併発したが,適切な処置により無事退院した。かかるTSSの報告は本邦では極めて少なく,なかでも妊娠・分娩時発症例の報告はいまだみられない。そこで,TSSの経過ならびに診断と治療について文献的考察を加えて報告する。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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