icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科41巻6号

1987年06月発行

境界領域の再評価とその展開 特集

婦人と代謝 婦人の代謝異常

先天代謝異常

著者: 和田義郎1 戸苅創1

所属機関: 1名古屋市立大学医学部小児科学教室

ページ範囲:P.405 - P.411

文献概要

 先天代謝異常の研究方向は大別して以下の2つとなる。1つは実際に患者を診断し治療する上でいかに救命し発育上のハンディキャップを最小限のものと出来るかという臨床的研究で,この面での成果として先天代謝異常に関する新生児マススクリーニングテストの普及や胎児診断技術の進歩,各種の補充療法や臓器移植,更には遺伝子工学を応用した発症前の診断法の開発などを挙げることが出来るだろう。Bickel (1953)以前は患者にとって生まれつきの疾患は,それを運命として甘受するしかないことであったが,フェニルケトン尿症の患者のためにカゼインを加水分解しカラム操作によってフェニルアラニンだけを除外した特殊食事療法を行って病状を改善させ得たBickelらの業績は「ヒトの遺伝形質を初めて人為的に変化せしめ得ることを示した」最初のチャレンジとして今でも高く評価されている。
 一方,臨床的研究に対して疾患の生化学的・病理学的異常を追究せんとする立場がある。先天代謝異常についてこの方面の研究を行うことによって,各々の物質や代謝の1つ1つの過程がどのような生理的役割を荷っているかを明らかにすることが出来る。事実,先天代謝異常の症例の研究によって初めてその物質の代謝の生理的意義が証明された事例は決して少ないものではない。具体的な例として,先天性プリン代謝異常症の1つLesch—Nyhan症候群の生化学的障害がプリン体のサルベージ回路(図1)に在り,HGPRT活性が欠損した場合に殆んど例外なく患児の重篤な知能障害や特徴ある自傷行為(self-biting--発作的に自分の口唇や指先を噛みちぎる)を示すことが明らかになるまでは,プリンサルベージ回路は用済みで排泄寸前のプリン塩基をもう一度くみ上げて再利用するためだけにある経路としてしか認識されていなかった。プリンサルベージ回路の意義を明らかにするためには正常な個体ではなく,先天的にサルベージ回路の欠損した症例を研究する方が効果的であったといえよう。このような理由で研究者たちは「神の成し給える実験(Experiment by nature)」をフォローしていることになる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら