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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科44巻1号

1990年01月発行

雑誌目次

特集 着床

[Overview]着床—その基礎と臨床

著者: 鈴木秋悦 ,   北井啓勝

ページ範囲:P.19 - P.22

 着床は胚と子宮内膜の接触に始まり,胎盤の完成により完了する。着床の結果,母体と胎児の血管系の間に機能的な結合が成立する。この現象には卵巣ホルモン,細胞表層の糖皮質,コラーゲン繊維などの細胞間物質,プロスタグランジンなどの炎症反応物質など多くの因子が関与する。着床過程の詳細な機構はなお不明であるが,着床の主導権は子宮内膜または胚のいずれか一方にあるのではなくて,両者の相互作用にあると考えられる1)
 子宮内膜と胚の間においてこの相互作用が成立するには,両者が一定の成熟段階に達していることが必要である。たとえば子宮内膜には胞胚を受け入れる時期があり,この変化は卵巣から分泌されるホルモンにより決定される。そして着床が成立するには,子宮内膜と胞胚の着床準備が同時に準備される必要がある。

着床前胚の形態と機能

著者: 北井啓勝

ページ範囲:P.23 - P.29

 卵管の膨大部で受精した卵は,透明層という糖蛋白でできた膜の中で,細胞分裂を繰り返しながら予宮腔へと運ばれる。分裂初期の胚には細胞間結合の形成がみられず,透明層がないと胚はバラバラになり正常な発生ができない。この着症前の胚は,卵管液または子宮液の中に浮かんだまま発育し,母体の血液循環より直接酸素および栄養の供給を受けることはなく,低い酸素分圧の中でおもに胚自身の物質を利用しながら成長する1)
 着床前の胚は一層の栄養芽細胞におおわれ内部が空洞の胞胚の形を取る。この胞胚の形態は下等な動物の発生時にも共通してみられる基本的な構造である。哺乳動物の胚は着床するために,胞胚の表層は栄養芽細胞に分化し,胞胚の中にできた内細胞塊の中にさらに外胚葉を含む3胚葉が形成される。この着床前胚は胚盤胞とも呼ばれる。

着床環境の生化学的・内分泌学的側面

著者: 武谷雄二 ,   石原智子 ,   宮内彰人 ,   水野正彦

ページ範囲:P.31 - P.36

 着床は妊娠の起点であり,受精卵と子宮壁との間に器質的な結合が成立した状態をさす。着床に際し遺伝的に異なる細胞(allogenic cell)が結合するため,着床の場では極めて例外的な生物現象が展開されている。
 着床が成立するためには卵と子宮内膜とが時間的・空間的に合致することが要求される。受精卵はある程度の自律性をもって初期胚の形成が進行するが,子宮内膜は主として卵巣に由来するホルモンによる調節を受けて,妊卵を受容するための環境を整備する。また,妊卵も種々の液性のsignalを直接的・間接的に子宮内膜に送信し,性ステロイドホルモンと相まって子宮内膜の妊卵の受容能を高めることになる。したがって,着床時には子宮内膜は形態学的変化とともに種々の刺激に反応して特有の生化学的・内分泌学的変化が進展している。

子宮内膜の脱落膜化現象について—Epidermal Growth Factorを中心として

著者: 山本稔彦

ページ範囲:P.37 - P.45

 細胞成長因子(growth factors)は,Gaspodaro—wiczにより“in vivo,in vitroにおいて動物細胞の成長を促進する因子であって,細胞内に取り込まれて代謝基質または補酵素として利用されない物質”と定義されている1)
 現在では40種以上の細胞成長因子の存在が知られているが2),これらは特異的膜受容体を介して高分子物質の生合成・核の遺伝子発現の調節や細胞増殖の制御を司り,多面的効果(plciotropic effects)を発揮しているものと考えられている。この効果発現の作用機序としては,特異的膜受容体に内在するtyrosine kinase活性に基づく一連の蛋白リン酸化反応,endocytosisによる細胞内processing,phosphatidylinositolの代謝回転とprotein kinase Cによる制御,さらにproto—oncogenesの発現などが密接に関与しているものと考えられている。

着床の免疫学的側面

著者: 富永敏朗 ,   佐々木博正 ,   長谷光洋 ,   根上晃

ページ範囲:P.47 - P.52

 ヒトでは受精卵は初期発生を経て胞胚となり,受精後6〜7日に準備態勢の整った子宮内膜上皮と接着が始まりトロホブラストの浸潤の進展に伴い約1週間で卵全体は脱落膜化した内膜間質内に埋没し着床が完了する。着床前から着床まで卵と母体卵管・子宮内膜の間には微妙な相互作用が存在し,着床は両者の円滑なdialogueによって成立するものと考えられる。しかし着床期前から着床期さらにその直後の時期には種々の原因によって卵の死滅が起こっているものと思われる。卵の異常をはじめ,卵管・子宮内膜など母体内性器の異常,母体内性器を調節する内分泌機能の異常,卵・母体内性器を調節する内分泌機能の異常,卵・母体間の免疫学的相関の異常などが原因としてあげられるが,着床周辺期の検索の困難性のために不明の点が多い。
 妊娠は移植免疫学的には半同種移植片とみなされる胎児胎盤が母体によって拒絶されることなく生着,増殖するという点で古くから注目されてきた。近年の免疫学の進歩によって免疫学的側面からみた母児相関の妊娠維持機構が明らかにされつつあり1),これらの知見が臨床応用されるに至った2)3)4)。妊娠の免疫学的維持機構については内外に多数の総説が発表されているが,本稿では特に着床周辺期に焦点をしぼって考察する。この時期の母児相関の免疫は胚の抗原性,胚を取りまく環境因子,胚と子宮内膜との免疫的情報交換,子宮内膜の免疫担当細胞などに特徴的な変化がみられ,着床の生理的な機構ならびに着床周辺期の卵の死滅,すなわち着床障害に密接な関係があると考えられる。

[Topics]IVF-ETの臨床よりみた妊卵のQuality評価

著者: 佐藤芳昭 ,   梶野徹 ,   荒川修 ,   三宅崇雄 ,   谷啓光 ,   七里和良

ページ範囲:P.53 - P.57

 1980年のEdwardsらによる体外受精・胚移植(IVF-ET)の成功以来,世界的にこのテクニックは広く用いられるようになってきた。
 多くの不妊症患者にとっては画期的な治療法であるのは確かではあるが,一方ではその着床率の低さや,流産率の高さなどが問題となっている。その大きな原因の一つとしては質の高い(すなわち受精・着床率の高い)卵を見きわめ,利用することがいかに困難であるかを物語っている。

[Topics]In vitro着床モデル

著者: 根上晃 ,   佐々木博正 ,   長谷光洋 ,   富永敏朗

ページ範囲:P.59 - P.64

 着床とは受精卵が分割をへて胚胞となり子宮内膜上皮に接着することにより始まり,原始子宮胎盤循環の形成を終了するまでの約1週間の一連のかつ複雑な過程の総称である。したがって,この母児の最初のきずなである着床の成否は,受精卵の発育の状態と卵巣黄体ホルモンに支配された子宮内膜の発育状態の合目的な同調と積極的な相互作用によることは明瞭である。
 ヒトの着床を詳細に研究・観察することは倫理面からかなりの制約がある。また,動物はそれぞれ種特有の着床機構を有するため,かならずしも動物実験の結果がヒトにすべて当てはまるとは言えない。しかし,着床初期の胞胚と子宮内膜との相互作用の最初の接点は種をこえた共通性があると思われるため,研究実績が多く,胞胚の扱いやすい家兎を着床実験の材料として選択した。

指標

卵胞破裂機構の基礎的検討

著者: 吉村泰典

ページ範囲:P.3 - P.17

 女性の生殖生理で最も重要な排卵とは単一現象ではなく,顆粒膜細胞・莢膜細胞など卵胞構成細胞の形態学的成熟に伴う生化学的変化,卵核および卵細胞質の成熟,卵丘の遊離,卵胞壁頂部結合織の融解菲薄化に伴う破裂,成熟卵の放出ならびに黄体化に至る一連の現象の複合体である1-5)。最近の生殖生理学の発展には目覚しいものがあり,その卵胞構成細胞の内分泌能の調節機構の観点より詳細な検討がなされている。しかしその排卵の最終過程,すなわち成熟卵胞壁頂部結合織の離開によって生じた組織間隙より,卵丘細胞にて包囲された成熟卵が放出される過程に関しては未だ不明の点が多い。本稿においては,排卵現象の一過程である卵胞破裂機序について筆者らの研究成績を紹介し,排卵機構の概説とともに報告する。

臨床研修セミナー 胎児仮死

[Overview]胎児仮死—最近の考え方

著者: 工藤尚文

ページ範囲:P.65 - P.67

 胎児仮死の原因として,胎児低酸素症がその根底に存在していることは広く認められている事実である。胎児は低酸素状態に反応して,生体のhomeostasisを保つべく,成人とは異なった様々な反応をする。産科学の歴史を振り返って見ると,多くの先達は胎児仮死によって引き起こされる特有な胎児の反応様式を生理学的にあるいは生化学的に捉えようとし,胎児の危険状態を察知しようとしてきた。
 最近の科学の進歩により,胎児仮死に関する情報の獲得手段は多様化し,やがてその判定基準も再編成されなければならない時期が到来するであろう。

胎児モニタリング―Biophysical point

著者: 辰村正人

ページ範囲:P.68 - P.72

 Biophysical(生物物理的)胎児モニタリングとしては,Manningら1)のbiophysical profile scoringがよく知られており,周産期死亡予知に正確な方法であると提唱した。胎児心拍数図,超音波画像診断の有用性を述べており,5個のパラメータにスコアを付け定量的診断を試みている。これらは全て非侵襲的な方法で,その他にレントゲン写真やMRIなどが考えられるが,今日,非侵襲的で有用性が高い胎児仮死診断法は胎児心拍数図,胎動心拍数図,超音波診断であろう。中でも胎児心拍数は重要な診断法である。胎児が低酸素症になれば,心臓調律中枢も障害され心拍数に微妙な変化を来すのである。それ故胎児心拍数は胎児低酸素症の診断の指標となる。胎児仮死の定義,病因については他誌2)にゆずる。

胎児モニタリング―Biochemical Point

著者: 金岡毅

ページ範囲:P.73 - P.79

 胎児仮死とは,日本産科婦人科学会の定義によると「原因のいかんによらず胎児胎盤系の呼吸循環不全を主徴とする症候群」をいう。一方米国などでは,「胎児の無(低)酸素症,高炭酸症およびアシドーシス」をいうか,あるいは「酸素欠乏によって胎児の生命の停止がさし迫っている状態か,実際に生命の停止が発生した状態」をいう。
 無酸素症が胎児・新生児に妊娠中,分娩中または出生直後に発生すると,脳中枢神経系を始めとする主要な臓器に無酸素性・虚血性病変が起こり,図1のような臨床症状が観察され,さらに脳死,脳性小児麻痺,水頭症,微小脳障害など脳中枢神経系の後遺症が続発する1)

成熟児の胎児仮死

著者: 佐藤章 ,   遠藤力

ページ範囲:P.80 - P.83

 胎児仮死の定義として,日本産科婦人科学会は,1972年「胎児胎盤系における呼吸,循環不全を主徴とする症候群」と定義している。また英語ではfetal distressという言葉が使用されているが,世界的に統一した定義はない。これは,すなわち胎児仮死の病態生理がまだ解明されていないことを示すものである。従って,胎児仮死の診断も確定的なものはないと言ってよい。しかし,臨床的に問題になっていることは,近年NICUの充実により未熟児のintact survivalはかなりの水準に達しているが,成熟児の脳性麻痺は依然として存在している事実があり,NICUを退院できず,NICUにかなりの時期,植物人間的に過ごさざるを得ない状態の子供がいるのが現状である。これらの成熟児の原因の大部分は,分娩前および分娩中の胎児仮死を見過ごしたため新生児仮死に陥り,その結果としてCPになっている子供達である。このことは産科医にとっては重要な問題であり,出生前の胎児仮死の診断は確定的なものはないといっても重要な問題である。ここでは成熟児の胎児仮死の診断法につき解説する。

IUGRと胎児仮死

著者: 荒木勤 ,   岩崎卓爾 ,   進純郎

ページ範囲:P.84 - P.90

 IUGR(intrauterine growth retardation,子宮内胎児発育遅延)は,1961年Warkanyら1)によってはじめて提唱された概念である。現在,日産婦学会用語委員会では「何らかの原因で子宮内の胎児の発育が遅延,あるいは停止するため,妊娠期間に相当しない児の発育状態が見られる場合」と定義されている。具体的には胎児発育曲線上の下限(Lubchencoの曲線では10パーセンタイル,船川や仁志田の曲線では−1.5SD)以下の児体重を示すものをいう。このようなIUGRの胎児では常に胎児予備能が低下している。また胎盤の絨毛間の血液流量も減少し,母児間の酸素運搬能や栄養素の母体よりの移行は慢性的に障害された状態におかれている。したがってIUGRでは妊娠中および分娩中に胎児仮死となる率は高い。

胎児仮死の治療

著者: 池ノ上克 ,   鮫島浩

ページ範囲:P.91 - P.94

 胎児仮死の概念には未だ多くの議論があるが,最も広く認められているものとして“低酸素血症によって引き起こされた胎児の呼吸循環不全の状態である”という捉え方がある。その観点から胎児仮死の治療を考えると,根本は低酸素血症の是正にあるといえる。その第一は子宮内において胎児低酸素血症を起こしている直接原因の検索と改善であり,第二には胎児低酸素血症を補正するための適切な対症療法であり,第三には子宮内治療の限界をみきわめ低酸素環境からの児の娩出のタイミングの決定である(表1)。

座談会 これからの産婦人科医療・Ⅰ

産婦人科医療の変貌この10年

著者: 坂元正一 ,   武久徹 ,   新家薫 ,   松峯寿美 ,   松井幸雄 ,   武田佳彦 ,   青野敏博 ,   竹内正七 ,   鈴木秋悦

ページ範囲:P.96 - P.103

・女性のすべてを対象とする時代に
・超音波と分姫監視装置

症例

子宮頚部CISに合併した頚部transitional cell inverted papilloma様ポリープの1例

著者: 楠山洋司 ,   射手矢巌 ,   細道太郎 ,   馬渕義也 ,   横田栄夫

ページ範囲:P.105 - P.107

 子宮頸部CISに合併した興味ある組織像を示した頸部ポリープの1例を報告する。
 66歳女性が不正出血のため受診,子宮頸部にほぼ全周性に通常のCIS病変と有茎性ポリープを認めた。後者はCISと連続性はなく,組織学的にtransitional cell inverted papi—lloma様変化を示した。
 本例は子宮摘出後3年経過するも再発はなく,組織像からも悪性度は極めて低い腫瘍と考えられる。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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