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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科44巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

特集 救急手技のポイント Ⅰ.基本手技

気道確保

著者: 川添太郎

ページ範囲:P.288 - P.290

 気道の確保は緊急時に最も大切なことである。気道の閉塞は,意識のない状態では常に発生していると考えねばならない。気道の確保の方法と技術は充分に習熟しておく必要がある。

気管切開

著者: 今野弘之 ,   阪口周吉

ページ範囲:P.291 - P.291

 外傷,腫瘍,炎症などによる気道の閉塞があり他の手段では気道の確保ができないときや,気管内挿管による呼吸管理が長期に及ぶときなどが気管切開の適応となる。気管内挿管に比べて患者の苦痛が少なく,食事摂取が可能であり,また吸引が容易でカニューレの交換も簡単にできることが利点である。

人工呼吸

著者: 川添太郎

ページ範囲:P.292 - P.293

 人工呼吸の目的は,患者(新生児)に酸素(O2)を供給し,炭酸ガス(CO2)を排泄させることにある。呼吸状態の低下した,または呼吸停止の患者(新生児)にO2を供給するためには,圧力をかけて肺の中へO2を送りこまなければならない(表)。

酸素吸入

著者: 川添太郎

ページ範囲:P.294 - P.295

 自発呼吸のある患者(新生児)に,空気中に含まれる濃度(20.9%)以上の酸素(O2)を吸入させ,組織,臓器へのO2供給を行うのがねらいである(表)。

中心静脈圧の測定

著者: 蛯原照男 ,   岩田嘉行

ページ範囲:P.296 - P.297

Ⅰ.中心静脈圧とは
 中心静脈圧とは,下大静脈と上大静脈が右房に流入しようとする部分の圧を指す。この部分の血圧は,種々の体位やある程度の循環血液量の増減および不均等な血液体内分布などによる変動はわずかである。

胸腔穿刺

著者: 今野弘之 ,   阪口周吉

ページ範囲:P.298 - P.299

 胸膜は肺表面を被う臓側胸膜と胸壁を被う壁側胸膜とに分かれており,これによって形成された間腔を胸腔という。ここには健常人でも少量の漿液が貯留しているが,病的状態では胸腔内に液体(血液,漿液,膿汁など)や気体が貯留し呼吸抑制をきたすことがある。これらの診断や治療(癌性胸膜炎に対する抗癌剤注入など)を目的として胸腔穿刺が行われ,さらに排液,排気のために胸腔ドレナージが行われる。これらの手技は臨床的に有益かつ重要な手段である。

静脈確保,動脈穿刺

著者: 今野弘之 ,   阪口周吉

ページ範囲:P.300 - P.301

A.静脈確保
 静脈確保は診療科を問わず医療の基本的手技の一つであるとともに,ショック患者などに対する救命処置として極めて重要な手段である。静脈確保の手段としては,静脈穿刺,静脈切開があるが,ここでは静脈穿刺について述べたい。ただし最近盛んに行われている鎖骨下静脈穿刺法は紙面の関係上本稿では割愛する。

腹腔穿刺

著者: 篠塚孝男 ,   村上優 ,   藤井明和

ページ範囲:P.302 - P.302

 超音波検査の進歩により少量の腹水でも確認できるようになったが,腹水の原因を知るための質的診断手技として腹腔穿刺はいまだ重要であり,またベッドサイドで簡単な器具で容易にできる基本手技でもある。腹腔穿刺の目的は診断的穿刺と治療的穿刺に大別され,診断的穿刺はその穿刺液の性状より原因疾患を確定しようとするものである。治療的穿刺は排液,ドレナージと,近年さかんに行われている抗癌剤などの薬物注入のために施行する。ここでは腹腔穿刺の適応,基本手技,注意事項,合併症について説明する。

吸引

著者: 川添太郎

ページ範囲:P.303 - P.303

 口腔,鼻咽頭,喉頭,気管内など,気道内の分泌物の貯留は,気道閉塞,声門痙攣の原因となるので,すみやかに取り除かねばならない。

導尿

著者: 畠亮

ページ範囲:P.304 - P.305

 通常,導尿というと,尿閉の患者に対して施行する尿道カテーテル法を意味するが,ここでは広く救急処置として必要な尿路閉塞性疾患に対する様々な尿の体外誘導法について解説する。

骨盤死腔持続低圧吸引法

著者: 竹田省 ,   木下勝之 ,   川添太郎

ページ範囲:P.306 - P.307

 広汎子宮全摘術では直腸側腔,膀胱側腔を開放するため,術後骨盤底に達する大きな死腔ができ,そこにリンパ液や血液等の浸出液が貯留し,放置すると感染巣となることが知られている。抗生剤の発達した今日でも,死抗炎の併発を予防する上で死腔の排液は重要である。
 以前は,骨盤死腔から,腟断端を介して体外へおいた経腟ドレーンが試みられたが,自然排液に委せたドレーンでは,浸出液の排液は不充分であった。

ドレーン

著者: 篠塚孝男 ,   村上優 ,   藤井明和

ページ範囲:P.308 - P.308

Ⅰ.ドレナージの目的
 ①術後創面からの血液や浸出液を体外に誘導することにより感染や縫合不全を防止し,創傷の治癒をはかる。②閉腹後後出血の発見。③膿の排除を目的とした治療的ドレナージ,などである。

腹膜透析(Peritoneal dialysis:PD)

著者: 滝川浩

ページ範囲:P.309 - P.309

 腹膜透析は血液浄化法のひとつであり,間欠的腹膜透析(intermittent PD,IPD)と持続的(外来)腹膜透析(continuous ambulatory PD,CAPD)とに分けられる。IPDは主として急性腎不全,慢性腎不全の導入などに応用され,CAPDは主に慢性腎不全の社会復帰を目的として使用される。腹膜透析は他の血液浄化法と比較し,特殊な機械を必要とせず,blood accessが確保できない例,血圧の維持が困難な例,出血傾向があり抗凝固剤が使用できない例,小児例などで適応となり,一方腹部に合併症をもつ例(腹部手術の既往,腹膜炎,ヘルニアなど)での適応には問題がある。

血栓治療

著者: 松尾汎

ページ範囲:P.310 - P.312

Ⅰ.産婦人科領域での血栓症
 周産期(妊娠・分娩・産褥)や婦人科手術後に血栓症が発生しやすいことが知られている1)。とりわけ下肢静脈血栓症(DVT→肺血栓・塞栓症)に注意が必要で,血栓発生の要因としてVirchowの3因(血流遅延,凝固亢進,静脈壁損傷。表1)が知られている。その他,経口避妊薬と動脈血栓の関連が指摘されている。

Ⅱ.産科・婦人科

頚管裂傷

著者: 大森茂

ページ範囲:P.313 - P.313

 頚管裂傷とは分娩の際に生ずる軟産道損傷の一つで,時には致命的な大出血を起こすことがあるので可及的迅速な診断と処置を必要とする。ただし,このような処置を必要とする程度のものは極く稀で,恐らく0.5%にも満たないものと思われる。何故なら,その原因と考えられる,例えば巨大児,CPD,頚管の強靱,遷延分娩等は,それ自身既に帝王切開の適応であり,予め経腟分娩を避ける場合が多いからである。子宮腟部辺縁の擦過創や挫滅創を頚管裂傷に入れるかどうかは意見の分かれるところであるが,時には小さな裂傷から意外な拍動性の出血を見ることがある。
 通常遭遇する頚管裂傷は,頚管の3時と9時にあたる部が縦方向に裂けるものをいう。

会陰裂傷

著者: 渡辺美佳 ,   永井宏

ページ範囲:P.314 - P.315

 分娩時,胎児の下降に伴う軟産道伸展と児頭圧迫との不均衡により会陰部に裂傷ができることがあり,これを会陰裂傷という。
 一般には初産婦に多く経産婦に少ないが,年齢や体質,そして運動の既往なども関係する。特にスキーやスケートの選手など極度に下半身の筋肉が発達した産婦には複雑な会陰裂傷をみることがある。

子宮破裂

著者: 古橋信晃

ページ範囲:P.316 - P.316

 子宮破裂の処置は,①失血性ショック(DIC)に対する処置と,②子宮破裂そのものに対する処置とがあるが,本稿では②についてのみ述べる。

子宮穿孔

著者: 竹村秀雄

ページ範囲:P.317 - P.317

 子宮穿孔はD & Cの0.1〜0.6%に発生するとされているが,全く抵抗を感じないまま穿孔することもあるのでD & C,IUD挿入,試験掻爬,体癌検診,子宮鏡検査等,子宮内操作に際しては常に子宮穿孔の危険があると考え手術操作と術後観察に慎重を期したい。

子宮内反症

著者: 猪俣吉広

ページ範囲:P.318 - P.319

 極めて稀な疾患であり,永年,産科医をしていても遭遇しないで終わることも多い。それだけに,万一,遭遇した場合に適切に対応できるよう,そのポイントを簡単に解説する。
 程度により,①子宮陥凹,②不全(部分)子宮内反症③全子宮内反症,⑤子宮内反脱に分類される(図)。

卵管破裂(子宮外妊娠)

著者: 河上征治

ページ範囲:P.320 - P.321

 分娩数の約1%に子宮外妊娠が発生するが,その97%前後は卵管妊娠である。
 卵管妊娠破裂は急性腹症(acute abdomen)として不良な一般状態の管理と緊急性をもつ症例が多く,保存手術よりはいかに完全にその卵管妊娠破裂部を完全に切除するかが大切である。

嚢腫破裂

著者: 根岸能之

ページ範囲:P.322 - P.323

 卵巣嚢腫の合併症には,茎捻転,癒着,破裂,出血,化膿,悪性変性などがあり,このうち急性腹症として突発的な腹部激痛,悪心,嘔吐などの腹膜刺激症状をきたすものには主として茎捻転と破裂がある。卵巣嚢腫の破裂は茎捻転に比較しその頻度は極めて少ないとされている。破裂は茎捻転,出血などによる嚢腫の急速増大,嚢腫壁の穿孔や外因による外傷性破裂によって起こる。破裂を起こしやすい卵巣腫瘍には類皮嚢胞腫,嚢胞腺癌,腹膜偽粘液腫がある。

卵巣出血

著者: 平川舜 ,   椎名一雄 ,   矢野ともね

ページ範囲:P.324 - P.325

 卵巣出血とは,成熟婦人の排卵期出血,茎捻転,腫瘍,出血性素因などの明確な出血原因が認められない卵巣からの出血が腹腔に貯留した状態をいう。卵胞出血(卵胞表層血管破綻)と黄体出血(黄体破綻,黄体嚢胞破裂)があり,一般に後者が多い。急性腹症として来院することが多く,とくに子宮外妊娠,茎捻転,急性虫垂炎などとの鑑別を要し,ショック症状を呈する場合は,救急処置が必要となる。

弛緩出血

著者: 本郷基弘

ページ範囲:P.326 - P.327

 弛緩出血とは分娩第3期またはその直後に,子宮筋の収縮不全によるいわゆる生物学的結紮の欠如のため,胎盤剥離面からの出血が500ml以上におよぶものをいう。本症の発生には誘因が認められるので,リスク因子をもった分娩にあたっては,本症に対する配慮が望まれるのみならず,進んで積極的な予防策を講じて発症例の減少に努力すべきであろう。

性交裂傷

著者: 笠井寛司

ページ範囲:P.328 - P.329

 現今の性行動様式は甚だ多様化し,その結果,性交裂傷は本来の性交器である外陰部あるいはまた腟に限定されるものではなくなっている。また一方,従来殆どが若年者や性交初経験の女性に限られていた性交裂傷は,女性層の特定が無くなりつつある。他方,裂傷は男性性器だけが惹起するものではない。このように考えると,性交裂傷の背景は多岐にわたるが,大別すると(1)男性側,(2)女性側,及び(3)性器外器物の3要因に区分することが出来る。(1)は暴力的性交,性器形態異常および男性のPsychosexual Disordersにもとづく異常性行動の3者が最も大きな要因である。(2)では本来の性交器(腟および外陰)の解剖学的形態異常(未成熟および男性性器との不均衡を含む)が主たる要因である。(3)は本来性交を意味するものではないが,自慰的にあるいは性交時に随時器物が介在することによって惹起されるものであり,ある種の暴力と解することもできる。
 本編は治療が目的であるが,性交裂傷に遭遇して最も注意を要する事柄は,それが性犯罪と関係がないかどうかを確かめることである。後日関係者からの事情聴取に十分対応できるように,治療前所見の記録を怠らないよう心掛けるべきであろう。

羊水栓塞

著者: 末原則幸

ページ範囲:P.330 - P.332

 羊水栓塞症(Amniotic fluid embolism)は1926年Me—yer1)によって初めて報告されたもので,突発的に発症し,ショック,呼吸障害など急激な経過をたどり,稀ではあるが,母体を最も危険にさらす疾患である。本症は羊水成分が母体血中に流入することによって生じるもので,発生頻度は20,000〜30,000分娩に1回といわれている。母年齢32歳以上,経産婦に多く,多くは分娩中に発症している。従来の報告では,母体の死亡率はきわめて高く80%以上であり2),その1/4は発症後1時間以内の死亡であり3),妊産婦死亡の4〜20%を占めるともいわれている。

癌性出血

著者: 荷見勝彦

ページ範囲:P.333 - P.333

Ⅰ.性器出血の鑑別診断(図1)
 まず,出血が癌によるものか否かを決定する。主訴,History(妊娠歴,分娩歴,月経歴を含む)を聞き,出血に関しては,出血量,出血期間,持続性か否か,月経との関連などを詳細に記録する。
 検査は,血算,血沈,出血凝固に関する検査をすると共に,細胞診(腟および子宮頸部)を施行する。

産科領域におけるDIC

著者: 松本隆史

ページ範囲:P.334 - P.337

 播種性血管内血液凝固症候群(disseminated intravas—cular coagulation;DIC)は,全身の微小循環系に血栓を形成する症候群である。様々の原因により凝固系の亢進が惹起され血栓が形成される。これに血栓を溶解する線溶現象が加わり凝固因子が消費され,出血傾向が出現する。DICは必ず基礎疾患を背景にして発症する特徴があり,産科疾患においても例外ではない(表1)。妊産婦死亡の中にはDICに関連した疾患が原因となっている場合も多い。本稿では産科の立場からDICの診断と治療について述べる。

分娩時異常出血

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.338 - P.340

 分娩現象に直接起因する多量出血は,周産期の妊産婦死亡および罹病の主因である。
 またその発症が児娩出前であれば,胎児にも致命的な打撃を与えることが多い。臨床の現場においては母体状況,出血量,出血原因,とくに分娩前には胎児状況までを可及的正確かつ迅速に把握することが肝要であり,母児の予後は診断の速さと正確さに大きく左右される。

妊娠初期の出血

著者: 鈴森薫

ページ範囲:P.341 - P.343

 妊娠初期に出血をみる場合,直接妊娠に関係のあるものと関係のないものに分けられる。診察に際しては,問診にて月経歴(前回の月経を含めて,最終月経の時期,期間,量など)を聴き,出血の状態(開始時期,誘因,色調,期間など),下腹部痛の有無も詳細に聴取する。問診の後,内診,腟鏡診を行うが,①子宮頸部の状態,②頸管の開大の有無,③子宮の大きさ,硬さ,疼痛の有無,④付属器の状態,腫瘤の有無,疼痛の有無,そして⑤ダグラス窩の圧痛,膨隆の有無などを診察し,腟鏡診により腟壁,子宮腟部を観察し,出血部位の確認をすることが診断・救急手技をすすめる上で重要なポイントになる。

発熱

著者: 金子實

ページ範囲:P.344 - P.345

Ⅰ.発熱とは
 視床下部にある体温調節中枢になんらかの異常がもたらされ,体温が正常より高い状態にある場合をいう。
 一般的に37.2〜37.3℃を常に越えると発熱の疑いがあり,37.0〜37.9℃を微熱(slight fever),39℃以上を高熱(high fever)という。

急性腹症

著者: 小池貞徳

ページ範囲:P.346 - P.348

 急激な下腹痛を主症状とし緊急開腹手術が必要とされる急性腹症の中で,産婦人科医の取り扱うものは,卵巣腫瘍の茎捻転や破裂,卵巣出血,子宮外妊娠などである。各疾患に対する救急手技のポイントは各項に譲り,本稿では婦人科急性腹症患者の診察手順について概説する。また,産婦人科医が知っていなければならない急性卵管炎,虫垂炎,尿管結石の鑑別のポイントについても言及する。

Ⅲ.胎児・新生児

骨折

著者: 谷口和彦

ページ範囲:P.349 - P.349

 分娩骨折は,頭位にせよ骨盤位にせよ,難産に合併する。難産は体重予測によりある程度予防できるので,分娩外傷は少なくなってゆくと思われる。分娩骨折の部位は鎖骨が最も多く(90%),次いで上腕骨,大腿骨にみられる。前腕骨や下腿骨には極めて稀である。

分娩麻痺

著者: 谷口和彦

ページ範囲:P.350 - P.350

 分娩骨折同様,難産により腕神経叢が牽引され麻痺を生じたものをいう。腕神経叢は形態上,扇形を成しているため牽引力は近位に強く働く。分娩麻痺をErb—Duchenne型(上位型)とKlumpke型(下位型)に分けるのが通例であったが,上位型と全型に分けるのが実用的である。両型の区別は手背節背屈筋が効いているか否かで決める(近藤)。従来,Klumpke型と呼ばれていたものは全型の麻痺が上方から回復し,下位の麻痺が残存したものをみていたと思われる。

頭蓋内出血

著者: 久保隆彦

ページ範囲:P.351 - P.353

 周産期医療の充実にともない,極小未熟児,超未熟児でさえも救命できるようになり,我々の医療の対象となってきたことは特筆すべきである。このような背景の中で,主要死因として注目されてきたのが頭蓋内出血である。なぜなら,その発生頻度は1,500g以下の児では20〜50%にものぼり,しかも,本疾患の短期ならびに長期予後が極めて不良であるためである。それゆえ,本疾患の予防ならびに迅速な診断・適切な管理が要求されている。

頭部血腫

著者: 武田佳彦

ページ範囲:P.354 - P.355

 新生児の頭部血腫は分娩損傷の1つであり,頭血腫と幅状腱膜下血腫がある。頭血腫は巨大血腫とならない限り後障害は少なく,経過を観察して良いが,幅状腱膜下血腫は腱膜下に浸潤する大量出血となり,出血性ショックに陥ることも少なくない。またこれらの血腫は正常分娩で出現する産瘤と区別されなければならない。

嘔吐・下痢

著者: 戸谷拓二

ページ範囲:P.356 - P.358

A.嘔吐
 新生児はもともと生理的に嘔吐しやすいが,頑固で持続性の嘔吐や異常な吐物をみるときは,その原因の検索が急務である。

筋性斜頚

著者: 谷口和彦

ページ範囲:P.359 - P.359

 本症は胸鎖乳突筋の分岐部に“肉芽腫”が生じ,それが吸収,線維化されて頸椎の可動域制限を来す。その原因はなお不明であるが,分娩時の外傷の関与が大きい。しかし,通常の外傷と異なる点は,腫瘤として気づかれる“肉芽腫”が受傷直後ではなく,生後1週以後であることである。このため,筋肉に対する圧迫による阻血説も有力である。

新生児仮死

著者: 室月淳 ,   岡村州博 ,   上原茂樹 ,   矢嶋聰

ページ範囲:P.360 - P.361

 成人も新生児も心肺蘇生の基本には変わりはないが,新生児の場合は成人とは異なりもともと基礎となる疾患や障害が少ないため,適切に行われた蘇生術にはよく反応しその予後も良い。しかし現実には,神経学的な後遺症を持った児の約4分の1は満期正常分娩から出生しているといわれており,出生直後の蘇生の重要性は再認識されるべきである。
 新生児仮死の蘇生については,近年アメリカと日本で相次いで新しいガイドライン1,2)が作成されている。具体的な手順等はそちらを参照していただき,この場では一般に見落とされていたり,誤解されていることなどいくつかのポイントのみを指摘したい。

新生児けいれん

著者: 本多聡 ,   柴田隆

ページ範囲:P.362 - P.363

 新生児疾患の中でもけいれんは,生命および神経学的予後に重大な影響をもたらすことが多いため,きわめて重要な疾患のひとつとされている。その発生頻度自体は0.5%前後1)であるが,ハイリスク児においては発生頻度が高く注意が必要である。また,その原因,臨床症状,予後等において年長児とは大きく異なる。新生児けいれんは一見生理的な動きとまぎらわしい場合も少なくないが,けいれんの反復,持続に対しての治療が遅れると,頭蓋内圧上昇,脳血流減少,ひいては脳の不可逆的変化をもたらすため,注意深い観察が必要であり,新生児けいれんはすべて救急処置の対象と考え診断と同時に治療をも開始することが大切がある。

Ⅳ.手術損傷

尿管損傷

著者: 平林光司

ページ範囲:P.364 - P.365

 産婦人科医にとって最も大切なことは尿管損傷の予防であり,そのコツは一言でいえば,尿管のありそうな場所から少しでも離れて手術を進めることである。そして,もし尿管損傷をおこしたら,泌尿器科専門医に任せるのが術後心安らかに過ごすコツである。

膀胱損傷

著者: 永田一郎

ページ範囲:P.366 - P.367

 膀胱損傷の歴史は古く,紀元前約2050年のエジプトのミイラにもみられ,医学史には分娩損傷による悲惨な例が数多くみられる。しかし,近年では,分娩関連のものは激減し,手術によるものが増加している。それは子宮全摘例,帝王切開の反復例の増加による。膀胱損傷は,既往手術,子宮内膜症,骨盤内炎症などによる強度の癒着が存在するときに生じ易い。ここでは手術(腹式子宮全摘術,腟式子宮全摘術,帝王切開術)による膀胱損傷について予防法,診断法そして対応手技についてそのポイントを述べる。

血管損傷

著者: 家村和千代 ,   園田隆彦

ページ範囲:P.368 - P.369

 産婦人科医の手がける手術は産科,婦人科の2つにまたがり,その対象疾患の範囲は広い。それらの術中副損傷の1つである血管損傷は骨盤内で生ずることが多く,骨盤内血管の解剖を熟知することは極めて大切である。
 しかし,血管損傷はその走行を頭に入れて手術に臨んだとしても必ずしも避けられる訳ではなく,メスを握る者であれば誰しもが一度は経験するものであろう。故に偶発的な血管損傷に対する処置についての知識と基礎的な技術も,産婦人科医として身につけておかなければならない。

腸管損傷(大腸・小腸)

著者: 薬師寺道明

ページ範囲:P.370 - P.372

 術中の腸管損傷は大部分が癒着剥離に伴うものである。初回開腹時においても炎症による癒着がみられるが,主に再開腹手術に伴う1)炎症性と,2)癌性癒着に大別できる。また腸管そのものの損傷のほか腸間膜の損傷もある。いずれにしても損傷しないことが最も大切であるが,ここでは主に損傷時の修復の手技とポイントについて言及する。

術後イレウス

著者: 植田国昭

ページ範囲:P.373 - P.375

Ⅰ.術後イレウスの分類
 1)癒着性イレウス
 術後2〜3週以後におこることが多い。炎症がなければ初期には体温は正常であるが,脱水が進むと次第に発熱してくる。鼓腸や腹痛は限局性のことが多い。
 2)絞扼性イレウス 癒着の他に腸間膜血管の血行停止を伴うもので,重篤な症状を呈してくる。腸壊死を発生する危険がある。

Ⅴ.救急常備薬・器具

緊急常備薬と器具

著者: 川真田美和子

ページ範囲:P.376 - P.381

 心停止のある場合,心マッサージのみでは脳や心臓に必要な血流を充分に保つことが出来ないので出来るだけ速やかに循環系を再開させ,回復させることが必要となる。このために,薬物・輸液投与,心電図診断による除細動などが開始される。以下に,薬物治療について,その投与法,注意点などを,アメリカにおける心肺蘇生と救急心処置のための基準と指針1)を参考に述べる。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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