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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科45巻10号

1991年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 子宮筋腫—こんなときどうするか 発生部位と症状

1.疼痛

著者: 目崎登

ページ範囲:P.1132 - P.1133

 子宮筋腫は発生部位により,子宮体部筋腫,子宮頸部筋腫および子宮腟部筋腫に大別されるが,子宮体部への発生が大部分である。さらに,発育方向による分類では,子宮壁内(筋層内)筋腫,子宮漿膜下筋腫(特殊型として有茎性漿膜下筋腫と広間膜内筋腫),および粘膜下筋腫(特殊型として粘膜下有茎性筋腫)に分類される。

2.過多月経・不正出血

著者: 雨宮章

ページ範囲:P.1134 - P.1136

 子宮筋腫は日常の診療の中で最もしばしば遭遇する疾患のひとつであるが,筋腫に関する詳細な統計や報告は意外に少なく,不明の点が多い。品川ら1)によれば,本邦において子宮全摘術は年間14万件以上行われていると推測され,その約70%は子宮筋腫によると考えられている。しかし症状の少ない患者は受診しないことが多く,また筋腫が存在しても手術せずにfollow upしている症例も少なくないと考えられ,実際の筋腫患者数は極めて多数に存在すると想像される。
 子宮筋腫の発生にはestrogen,growth hormone,progesteroneなどの関連が考えられているが,その詳細については不明の点が多い。

3.不妊

著者: 石川睦男

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 生殖年齢の女性の20〜25%に子宮筋腫が発生するといわれている。この子宮筋腫と不妊との関連については多くの臨床医がその意義を認めているにもかかわらず,未だ明確な結論には達していない。その理由として,不妊の治療成績をいかに評価するかということについての問題点と,子宮筋腫と不妊に関して科学的に評価できる報告が少ないことが挙げられる。一般に不妊症の治療法の有効性を評価する際,その治療法で得られた妊娠率と,何も治療を施さなかった対照の妊娠率を比較すべきである。さらにchronologicalにLife tableで分析することが不妊症の治療成績を評価する上で不可欠である。子宮内膜症では外科的ならびに内科的治療に関して,このような観点での臨床報告はみられるが,子宮筋腫に関しては未だない。現在までの臨床報告と教室の臨床成績から筋腫と不妊の関連につき解説する。

診断手技—どこまでわかるか

4.双合診

著者: 岡田清

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 骨盤内腫瘤の診断には,双合診と同時に超音波断層法をはじめとする画像診断を用いるのがルーチンとなっていることから,双合診の価値は過去におけるよりも少なくなっている。しかし,双合診は画像所見を確実に判読するうえから,ゆるがせにできないものであり,とくに,手術の難易性の予測は双合診によるところが大きいので,双合診は依然として極めて重要な価値を有している。
 そこで本稿では,まず,子宮筋腫の双合診に関する基礎的な知識について述べ,続いて鑑別診断,手術の難易性に関する診断について述べることとする.

5.超音波

著者: 田中善章

ページ範囲:P.1142 - P.1144

 超音波による子宮筋腫診断の要点は“筋腫核の証明”であり,その精度は直径1cm位であれば可能である。ただ子宮筋腫核の存在部位によりその像は修飾を受けるので,部位診断も必要である。鑑別診断には子宮腺筋症があり,この場合は境界明瞭である筋腫核を証明せず,高輝度点状内部エコーを有するびまん性の子宮壁肥厚を示す特徴的な超音波所見によって鑑別可能である1,4)

6.CT,MRI

著者: 中村幸雄

ページ範囲:P.1146 - P.1149

 子宮筋腫(筋腫)は日常の診療で最も遭遇する頻度の高い婦人科腫瘍である。もちろん,内診と超音波だけで診断のつくことも多く,CTやMRIが筋腫の診断に必須のものであるとは言えないが,これらの検査を施行することによってなにがどこまでわかり,臨床にどのように役立つのかを中心に述べてみたい。

7.HSG

著者: 森下一

ページ範囲:P.1150 - P.1151

 近年医療機器が飛躍的に進歩し,とくに超音波断層法,内視鏡検査が子宮筋腫の診断に応用され,その正確性がさらに増してきた。子宮卵管造影法(hysterosalpingography:HSG)は古くから用いられている婦人科疾患診断法であるが,現在でも不妊症の診断,なかでも卵管因子の検索にはなくてはならない検査法であり,その際に不妊症,不育症の原因として子宮筋腫が発見される場合がある。

8.子宮鏡

著者: 林保良 ,   岩田嘉行

ページ範囲:P.1152 - P.1153

 子宮筋腫は発生部位によって粘膜下筋腫,筋層内筋腫および漿膜下筋腫の3種類に大別される。過多月経,不正性器出血,鉄欠乏性貧血などの症状が大きさに比較して強いのは粘膜下筋腫であり,また,不妊の原因にもなり得る。現在汎用されている超音波診断法では粘膜下筋腫と筋層内筋腫との鑑別診断はしばしば困難であり,正確な診断法は子宮鏡に頼らざるをえない1)。近年ある条件下の粘膜下筋腫は経頸管的に子宮鏡で切除することが可能となった2)。また過多月経や鉄欠乏性貧血があって挙児希望のない患者に子宮内膜を内視鏡下に全面的にまたは部分的に破壊し,月経量を極度に少なくすることも可能である2)。子宮鏡による手術は開腹による筋腫核出術や子宮全摘術に比し侵襲が少ない,術後の疼痛がほとんどない,回復も早く,手術の翌日から退院できるなどの利点がある。しかし,すべての粘膜下筋腫が子宮鏡的手術の対象になるわけではない。その手術適応の判断には子宮鏡検査が大きな役割を担っている。以下に子宮鏡検査のポイントについてふれてみたい。

鑑別診断のポイント

9.卵巣腫瘍

著者: 安田允 ,   窪谷健

ページ範囲:P.1154 - P.1156

 下腹部腫瘤の大部分を占める子宮筋腫と卵巣腫瘍の鑑別診断は産婦人科医にとって特に重要である。卵巣は腫瘍のHot bedといわれるように多種多様な腫瘍が発生し良悪性の鑑別は素より組織診断が問題となる。本稿では両者の鑑別診断のコツや要点について述べたい。

10.内膜癌

著者: 矢嶋聰

ページ範囲:P.1158 - P.1159

 子宮筋腫と内膜癌(以下,体癌)は,その発生に性ステロイドホルモンが関与しているという共通点をもっている。
 従来,子宮筋腫の治療あるいはフォローアップに際しては,必ず前もって内膜の細胞診あるいは組織診を行い,癌の存在を否定して置くべきであるといわれている。

11.腺筋症

著者: 小田隆晴

ページ範囲:P.1160 - P.1161

 産婦人科の日常診療において,子宮筋腫,子宮内膜症の占める頻度は高く,私どもの施設でも外来患者の15%内外を占める。このうち子宮筋腫と内性子宮内膜症である子宮腺筋症は,過多月経,月経困難症,貧血を主症状とし,共に子宮の腫大を生ずる。両者の典型例は内診,超音波Bスコープで容易に鑑別診断が可能であるが,両者とも外性子宮内膜症を合併することが多く,また腺筋症の40%程度に子宮筋腫が合併することから,複雑な病態像を示すことが多く,鑑別困難例がかなり出てくる。
 多くの場合,子宮が手挙大以上で,月経過多,月経痛などの症状を主訴とした場合,子宮筋腫の術前診断で開腹し,術後の組織検査の結果,はじめて腺筋症の診断が確定する。子宮全摘術ではこれでも事無きを得るが,若年婦人や挙児希望の婦人での子宮筋腫では筋腫核核出術が行われ,子宮腺筋症では保存的な療法であるDanazolによる偽閉経療法が注目されているので,何よりも術前の明確な鑑別診断が必要となってくる。

12.肉腫

著者: 田口孝爾

ページ範囲:P.1162 - P.1163

 子宮の平滑筋腫の鑑別診断として,常に念頭におかねばならない悪性腫瘍のうち,最も重要なものは平滑筋肉腫と子宮内膜間質肉腫である。これらの腫瘍の診断および筋腫との鑑別に,筆者が日常留意している肉眼所見および組織学的特徴や注意点を簡単に記載する。

筋腫の病態

13.子宮筋腫の疫学

著者: 藤井信吾

ページ範囲:P.1164 - P.1165

 子宮筋腫は婦人科腫瘍の中で最もよく遭遇する腫瘍であるとされているが,その正確な頻度,組織発生起源や発生要因は未だ十二分に解明されていない。したがって,現時点で子宮筋腫の疫学がどのように考えられているかを簡単に解説したい。

14.子宮内膜症との関わり

著者: 植木実

ページ範囲:P.1166 - P.1168

 子宮内膜症との関連性 子宮筋腫は古くから婦人科医にとってなじみ深い疾患で,成熟婦人に多発する。子宮の平滑筋細胞の増殖によって硬い腫瘤を形成し,周知のように主に月経過多,月経痛,貧血を訴える。一方よく似た症状をもつ子宮腺筋症(内性子宮内膜症)と子宮内膜症(外性子宮内膜症)は子宮筋腫とともに婦人科領域では頻度の高い疾患で,三疾患合せると施設により異なるが5〜20%を占めると言われる。
 これら三者の病態には共通点が多い。即ち成熟婦人に発生してエストロゲン依存性であり,閉経後は腫瘤の縮小がみられ,新発生もないこと,経時障害や子宮の腫大性などが挙げられる。また,これらには互いに合併する頻度がきわめて高い。通常,筋腫子宮には多かれ少なかれ腺筋症病巣が存在して,筋層を肥厚させていることが多く,さらに子宮周囲には子宮内膜症をも伴い易い。しかし通常の診察ではこれらの合併の診断は難しい。

15.更年期との関わり

著者: 浅井政房

ページ範囲:P.1169 - P.1171

 近年の高齢化社会への急速な移行に伴い,更年期における女性疾患の取り扱いが,注目されている。更年期といえば不定愁訴をめぐる更年期障害が注目されるが,婦人科疾患の頻度を加齢という点からみると,閉経期を境に良性腫瘍の率は減少し悪性腫瘍が急増することが知られている1)。すなわち加齢の影響は,内分泌系・自律神経の失調のみならず,婦人においては器質的疾患についても大きな転換期であると言えよう。最も頻度の高い子宮腫瘍としての子宮筋腫についてみれば,閉経以後は自然縮小することが知られているが,このような観点から子宮筋腫と更年期とのかかわりについて述べる。

16.妊娠との関わり

著者: 友田昭二 ,   荻田幸雄

ページ範囲:P.1172 - P.1174

 子宮筋腫は中高年婦人によくみられる良性腫瘍であるが,妊娠に合併する頻度は1960年代では0.5%前後といわれていた。しかし,近年初経の早期化に伴い筋腫発症が若年化し,一方では晩婚,そして高齢出産化に伴う妊婦年齢高齢化,さらには超音波診断の普及に伴い子宮筋腫の診断が的確に行われるようになったことも併せて,妊娠に子宮筋腫が合併する頻度が増加することになった。1970年から10年間では0.7〜1.3%となり(浮田,1983),当教室の最近2〜3年間でも1.7〜1.9%と増加してきている。
 子宮筋腫の妊娠・分娩・産褥に及ぼす影響ならびに妊娠の子宮筋腫に及ぼす影響を表1にまとめた。妊娠に合併した子宮筋腫を発見した場合,その治療法は積極的手術療法か保存的待機療法のいずれかを選択しなければならない。ところで,子宮筋腫はその部位により漿膜下筋腫,筋層内筋腫,粘膜下筋腫に分類され,それぞれの妊娠に対する影響,児の予後も異なっている。当科では原則として待機療法を行っているが,妊娠に合併した子宮筋腫の治療方針の再検討にあたり,筋腫発生部位による妊娠への影響につき検討を行ってみた。

17.続発性変化と悪性変化

著者: 利部輝雄

ページ範囲:P.1176 - P.1178

 子宮筋腫は,子宮に発生する平滑筋細胞からなる良性腫瘍であり,その発育は緩慢,膨張的,圧排性で,限局性の腫瘤を形成する。そのため,子宮筋腫の多くは無症状であり,たとえ症状が出現しても,その変化は緩慢である。しかし,続発性変化のあるものや合併症をみるときは,症状は激しく急性で,早急に対策が必要となる。そこで続発性変化の病態を中心に述べる。

治療をめぐるコントラバシー

18.子宮筋腫の手術にふみきるタイミング

著者: 半藤保

ページ範囲:P.1180 - P.1181

 いかなる疾患にせよ,手術を行う以上適応を十分吟味しなければならない。適応には絶対的適応と,相対的適応とがあり,子宮筋腫の多くは相対的適応によって手術療法が選択される。わずかに有茎漿膜下筋腫の茎捻転など急性腹症のカテゴリーに入るものや,粘膜下筋腫に伴う大出血が,保存的治療法で処置できないことが明らかな時に絶対的適応となるに過ぎない。そのため,一般的に子宮筋腫の手術は適応の判断が必ずしも容易でなく,手術による患者の利益が手術に伴う患者の不利益を上回ると判断されたとき,初めて選択されることになる。近年子宮筋腫に対し,ダナゾールやLH・RHアナログなどによる薬物療法が積極的に試みられているが,これらはまだ一時的な症状軽減療法に過ぎない。将来さらにすぐれた薬物療法が登場すれば,子宮筋腫の手術を大幅に削減できるかも知れない。
 子宮筋腫の手術にふみきるタイミングとしては,絶対的適応がある場合は問題ないが,以下に述べる手術の適応基準を十分吟味し,他の保存療法で満足しうる治療ができないと判断された時,患者の年齢,希望,術式(腹式か腟式か,核出術にとどめるか)などを総合的に勘案して行うことになる。

19.保存手術—筋腫摘出術,筋腫分娩の処置

著者: 井町正士 ,   塚本直樹

ページ範囲:P.1182 - P.1183

 子宮筋腫に対する保存的手術である筋腫摘出術(myomectomy)の対象となるのは,妊孕性を温存し,または妊孕能を増加させる必要がある婦人が対象となる1)

20.全摘出術

著者: 井町正士 ,   塚本直樹

ページ範囲:P.1184 - P.1185

 子宮筋腫の多くは30歳代,40歳代の性成熟期婦人に生じ,臨床症状を訴えて手術の適応となる場合には,既に何人かの子供を有していることが多い。そのため子宮筋腫の手術方法としては,妊孕性の温存を目的とした筋腫摘出術ではなくて,ほとんどの症例では子宮摘出術が選ばれる。

21.分娩様式—経腟か帝切か

著者: 越野立夫 ,   西島重光

ページ範囲:P.1186 - P.1187

 子宮筋腫は性成熟期の女性に最も多く発生する良性腫瘍であり,30歳以上の女性の20%に見られる。妊娠に合併する頻度は0.3〜2.5%といわれている1)。超音波断層法の普及,職業婦人の増加に伴う晩婚化,高齢出産の増加,子宮筋腫発生の若年化などにより子宮筋腫合併妊娠に遭遇する機会が増えてきた。本稿では,分娩様式に影響する子宮筋腫の妊娠中の変化と経腟分娩か帝切分娩かの分娩様式決定方法について述べることにする。

保存療法の効果と限界

22.GnRHアゴニスト

著者: 堂地勉 ,   古謝将一郎

ページ範囲:P.1188 - P.1189

 子宮筋腫は婦人科疾患の中では最もポピュラーな疾患である。子宮筋腫の治療として子宮全摘術が従来よく行われてきたが,挙児希望の婦人や高齢未婚婦人の増加などから,最近は保存療法が必要な症例にしばしば遭遇する。
 子宮筋腫はエストロゲン依存性の疾患であることから,抗エストロゲン効果を持つ子宮内膜症治療薬であるダナゾール,GnRHアゴニストなどを子宮筋腫患者に投与する方法が試みられている。ここではGnRHアゴニスト療法に的を絞り,われわれの考えを述べる。

23.内分泌療法

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.1190 - P.1191

子宮筋腫に対する保存療法の概念
 子宮筋腫は平滑筋細胞からなる良性腫瘍であり,組織学的には不活動型を呈し細胞分裂像を認めることはまれである。しかし生化学的には筋腫組織は全く不活性というわけではなく,エストロゲンやプロゲステロンのレセプターを始め,プロスタグランディンE・F系,オキシトシン,EGFなどの生体活性物質のレセプターの存在が確認されている。また代謝機構としても炭水化物,蛋白,ステロイドの代謝酵素系を保有する。ところが,これらの応答機構,代謝機構の存在と筋腫の発生や発育との関係については全く不明といって良い。わずかに高エストロゲン環境下でのみ子宮筋腫が発育することが,臨床的に経験的事実として周知されているのみである。
 それゆえ,筋腫のみをターゲットとした薬物的治療は現時点では存在しない。現在,一般に筋腫に対する保存的内分泌療法とされているのは,偽閉経,偽妊娠療法に代表される低エストロゲン環境作成法と,月経異常など一定の内分泌異常が基礎となる症状に対する対症療法のいずれかと理解して良いだろう。

24.漢方は効くか

著者: 相羽早百合

ページ範囲:P.1192 - P.1193

 子宮筋腫に対する治療法としては,従来より手術療法があげられているが,最近ではその随伴症状の改善を目的とした薬物療法として,17α-ethynyltestosteroneの誘導体であるダナゾールや,LH・RHアゴニストであるブセレリンを使用した薬物療法の有効性が報告されている。しかしこれらの薬剤には副作用も認められている。
 今回当科を受診した患者で,原則として鵞卵大以上,手拳大以下の子宮筋腫を有する患者で,なおかつ随伴症状を伴うものに漢方の代表的な駆瘀血剤である桂枝茯苓丸を投与した63例について,臨床的に治療効果を検討した。

25.フォローアップ外来

著者: 野嶽幸正

ページ範囲:P.1194 - P.1195

 子宮筋腫は婦人科手術の対象となる代表的疾患であり,全開腹術の33〜46%(昭和大学病院及び21関連病院)を占めている。
 子宮筋腫のフォローアップ外来の役目は 1.子宮筋腫の診断(他疾患との鑑別) 2.手術適応の有無の判定 3.手術適応あれば術前検査へ 4.手術適応なければ定期的検診へ,となる。

カラーグラフ 産婦人科領域におけるレーザー療法・4

尖圭コンジローマに対するレーザー療法

著者: 蔵本博行 ,   脇田邦夫 ,   佐々木紀充 ,   泉貴文

ページ範囲:P.1128 - P.1129

 尖圭コンジローマは外陰,腟壁,子宮腟部などに見られる疣状に腫瘍性増殖を示す疾患である.しかし,真の腫瘍ではなく,STD(性行為感染症)として知られる疾患のひとつをなしており,これを発症させる病原体はHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)であることが指摘されている.このHPVは子宮頸部の異形成や癌の発症にも関与していることが濃厚となり,注目を浴びていることは周知の通りである.
 尖圭コンジローマそのものは良性であるが,治療に関しては苦労する疾患であることを誰もが経験しているところであろう.5Fuなどの抗癌剤,PodophyllinやIdoxuridineを用いた薬物療法,電気焼灼,高周波療法,凍結療法あるいは外科的切除など色々な方法が試みられてきたが,いずれも一長一短であった.

メルボルン便り

オーストラリアの学校制度と医学部事情

著者: 堀口文

ページ範囲:P.1196 - P.1197

 オーストラリアの学生は日本とは少し違っています。まず南半球にあって季節が日本とは異なるため初秋の2月に新学期が始まり,11月,12月,1月の3ヵ月間は学年末の夏休みです。
 子供達は日本より1年早く,満5歳になると小学校Primary schoolに入学できますが,まだほんの子供ですから勉強のためというより学校や社会生活に馴れるための入学といった感じです。その後小学校6年の課程を終えると日本の中学3年と高校3年を一緒にしたようなSecondary schoolに通い合計12年間で義務教育が終ります。またグランマースクールGrammer schoolというのがあって多くはカトリック系の私立学校ですが,小学校からの12年間の義務教育期間を一貫してここで過します。ここでは日本のように受験,受験で悩まされることもなく充実した学校生活を送ることができます。しかし大学まで授業料が無料の公立学校とは違って授業料の高い点は日本と同様です。しかし私立の学校では教師が生徒に密着してよく指導してくれるので日本の様に帰宅後も塾へ勉強に通うといったことはみられません。

原著

新生児における聴覚誘発脳電位(Auditory Brainstem Response)の出生直後の変化

著者: 山崎実好 ,   庄野秀明 ,   大神正幸 ,   下村恭子 ,   伊藤雄二 ,   杉森甫

ページ範囲:P.1199 - P.1204

 ヒト新生児の聴覚伝導路の出生直後の機能変化を,ABRを測定し,胎外環境への適応過程と分娩時のストレスの影響の両面から検討した。対象は58満期産正常新生児(予定帝王切開:5名)とした。測定時期は出生後30分以内,2,4,8,24時間後,さらに2日,4日,1ヵ月後の計8回とした。音刺激には20Hz,80 dBのクリック音を使用した。その結果,Ⅰ波潜時は出生後30分以内の1.82±0.23msec(mean土SD)から2時間後の1.69土0.26msecへと最も急速に短縮した(p<0.05)。Ⅲ—Ⅴ波間潜時は出生後30分以内の2.63土0.27msecから24時間後の2.47±0.23 msecへと有意に短縮した(p<0.01)が,Ⅰ—Ⅲ波間潜時には有意差を認めなかった。また,経腟分娩の群と予定帝王切開群の間には全ての潜時に差を認めなかった。以上により,経腟分娩によるストレスの聴覚伝導路への影響は否定され,出生直後の聴覚系の機能変化は,末梢側の急速な胎外環境への適応過程と中枢側上位の緩徐な発達(適応)過程からなることが示唆された。

症例

子宮頸部Clear cell adenocarcinomaの一例

著者: 林博章 ,   森泰宏 ,   岡崎隆哉 ,   藤井美穂 ,   大野光春 ,   瀬戸俊之 ,   森和郷 ,   野呂崇 ,   斉藤学

ページ範囲:P.1205 - P.1210

 Clear cell adenocarcinomaは,卵巣,子宮体部,子宮頸部,腟などに発生することが知られている。しかし,卵巣を除いてその発生は極めて稀である。特に子宮頸部に原発する症例は未だ16症例の報告にとどまる。今回,術前診断において卵巣癌を疑われた子宮頸癌Clear cell adenocarcinomaの一例(第17症例目)を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

きわめて稀な血液型(Para-Bombay Ah型)の妊婦の妊娠・出産の2症例

著者: 伊藤久仁子 ,   宮田禮輔 ,   梅津昭典

ページ範囲:P.1211 - P.1214

 Bombay型,Para-Bombay型は血球表面に一般にH抗原を持たず,血清中に自然抗体としてIgM型抗H抗体を持つきわめて稀な血液型である。安易な血液型判定では見逃され易い。我々はPara-Bombay型の2人の妊婦の妊娠・出産を経験した。この2症例を通じて①正しい血液型判定検査や不規則抗体スクリーニングの必要性,②異常出血時の輸血の問題,③新生児溶血性疾患の可能性につき報告する。

前期破水による羊水過少症を伴った新生児肺低形成の2症例

著者: 宮裕子 ,   樋口誠一 ,   早川正明 ,   真木正博

ページ範囲:P.1215 - P.1220

 妊娠中期に破水後,羊水過少となり,児は肺低形成をきたし,新生児死亡にいたった2症例を報告する。破水期間は2週間以上の長期にわたった。2症例とも超音波により,羊水腔・胎児の胸囲の計測,腎・尿路系,四肢の奇形の有無をみて待機的に経過観察していたが,子宮収縮が抑制できなくなり妊娠26週で自然分娩となった。
 症例1:妊娠18週に破水し,55日目に妊娠26週1日で916gの女児を自然分娩。児は人工呼吸管理したが,生後4日目にDICにより死亡した。剖検では肺のDNA量29.1mg,全肺DNA/体重比30.6mg/kgであり,低値を示した。
 症例2:妊娠23〜24週で破水し,妊娠26週5日に1,091gの女児を自然分娩。サーファクタント120mg気管内注入したが効果なく,8時間30分後に呼吸不全で死亡した。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

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今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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