文献詳細
今月の臨床 妊娠と免疫
妊娠合併症と免疫—母児をどう扱うか
文献概要
特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Throm—bocytopenic Purpura,以下ITP)は,血小板に対する自己抗体が産生され,その自己抗体の結合した血小板が脾臓をはじめとする網内系で破壊されやすくなるため,血小板減少をきたして出血傾向を生じる疾患である。妊娠に合併すると,母体に出血傾向を来すばかりでなく,その抗体(IgG)が胎児へ移行するため,胎児の血小板減少をひきおこして児に出血傾向を来す危険があるといわれている。母体の出血に関しては,分娩時の出血が一番重大であるが,経腟分娩では胎盤剥離後の子宮収縮による生理的止血によって大出血となることは稀であり,むしろ,軟産道の裂傷や,会陰切開部の出血,帝王切開の手術創の出血が問題となる。一方,胎児に対しては,母体から移行した抗体による胎児血小板減少によって分娩時に胎児頭蓋内出血をきたす可能性があるため,胎児に圧迫などのストレスの少ない帝王切開が推奨されている。しかし,胎児に出血傾向を来す頻度は,本邦で10%程度であるため,全例に帝王切開を行うと90%の症例に不必要な産科手術を行い,いたずらに母体を危険な状態にさらしていることになる。妊娠および分娩時の母児管理としては,母体の血小板数を保ち,分娩時母体出血に備えること,および胎児血小板数の推定を行い,適切な分娩時期と様式を決定して,新生児出血傾向に対処することが必要である。
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